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ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは部屋割りをした
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ヴィヴィアンは、テーブルの上に手をかざし、短く詠唱した。
「我は願う、我が家の立体模型図、転移機能付きでよろしく」
紫の湯気を吹く錬金釜の前に、地上十階、地下五階、別棟つきの大邸宅が聳え立った。
「なんか、外から見たときよりデカすぎないか」
「城のようだべ…」
「たぶん、みんなが来たから、張り切ってるんだと思う」
「屋敷がか?」
「うん」
「生きてる家か。すげえな」
「しゃべらないんだけどね。で、住む場所なんだけど、好きに選んでくれていい」
親父虫チームは、地下の部屋が気になるようだった。
「わしらは土の中が落ち着きそうじゃな」
「そうだの。番が孵化するまでは、底のほうに置かせてもらえんじゃろか」
「じゃ、地下の部屋だね」
ヴィヴィアンは、
「おれは、あるじのそばがいい」
「分かった。ノラゴは私の部屋の隣」
タバサも希望を述べた。
「オラは、玄関近くの部屋に置かせてもらうべ。外回りの見張りもしやすいし、厨房にも近いから便利だべ」
「うん。じゃ決まりだね……我は願う、我が家族の望む部屋に名札と、心地よき家具一式と、今夜、各々に必要なすべてを」
ヴィヴィアンの詠唱が終わると、模型の中のいつくかの部屋が輝いて、みんなの名前が浮き上がった。
「自分の部屋に触れば、部屋に飛べるようにしておいた。埋葬虫のみんなは、今日は先に休んでほしい。あ、オヤツ、持っていってね」
「姫様、お心遣いに痛み入りまする」
「あるじ、おやすみ! 明日からよろしくな」
「おやすみ、みんな」
埋葬虫たちが、年長の者から順に模型に触れて自分の部屋に飛んでいくと、部屋に「在室」の表示がついた。
「ほほー、こりゃ便利だべ」
感嘆の声をあげながら模型を眺めているタバサに、ヴィヴィアンは声をかけた。
「そろそろスカーレットが来るころだと思う。たぶん少し長い話になるだろうけど、大丈夫かな」
「大丈夫ですだ。あのクソったれな壺の話を、お聞きになるんだべ?」
「うん」
「まんだ、すっかりどは思い出せねーども、腹にあるなんもかんも、刮げででも、お話しますだ……話して、オラも、終わらせてえだ…」
「分かった。全部聞くよ」
ヴィヴィアン、冷めた謎茶を温かいものに入れ替え、天然魔鮭の燻製をタバサに勧めた。
「オラの名は、タバサ・ガゼル。ガゼル家の三女…だったど思うんだけども、親や兄姉の名前も顔も、思い出せねえ…」
「ガゼル家は、何をするおうちだったの?」
「農業貴族でしただ。公国の……国の名も思い出せねえけども、年中あったかい土地で、実りも多くて、暮らしものどかなもんでした」
「タバサも、農業してたの?」
「畑仕事や領地の仕事は、両親と兄夫婦がやって、オラはもっぱら、畑を荒らす魔物どもを狩ってただ。あとは料理だな」
「お姉さんは?」
「姉はみな近隣の貴族さ嫁に出て、オラも年頃だったもんで、そろそろって、話もあって……」
そこで、タバサの言葉が途切れた。
ヴィヴィアンは立ち上がり、皿を三枚出してきて、錬金鍋の前に置いた。
「謎肉パイと、チーズたっぷりスフレ、公国の森の魔物肉ソーセージ」
どさっどさどさっ。
「スカーレットの夜食だけど、よかったらタバサも味見して」
ヴィヴィアンに渡されたフォークで、タバサはソーセージを一本、口に運んだ。
「家で食べてたのと、おんなじだ…」
「古代ポリグリッド公国の古文書にあったレシピで作ったソーセージだよ」
「ポリグリッド……聞き覚えがある気がしますだ…」
タバサが考え込みながらソーセージを咀嚼していると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「我は願う、我が家の立体模型図、転移機能付きでよろしく」
紫の湯気を吹く錬金釜の前に、地上十階、地下五階、別棟つきの大邸宅が聳え立った。
「なんか、外から見たときよりデカすぎないか」
「城のようだべ…」
「たぶん、みんなが来たから、張り切ってるんだと思う」
「屋敷がか?」
「うん」
「生きてる家か。すげえな」
「しゃべらないんだけどね。で、住む場所なんだけど、好きに選んでくれていい」
親父虫チームは、地下の部屋が気になるようだった。
「わしらは土の中が落ち着きそうじゃな」
「そうだの。番が孵化するまでは、底のほうに置かせてもらえんじゃろか」
「じゃ、地下の部屋だね」
ヴィヴィアンは、
「おれは、あるじのそばがいい」
「分かった。ノラゴは私の部屋の隣」
タバサも希望を述べた。
「オラは、玄関近くの部屋に置かせてもらうべ。外回りの見張りもしやすいし、厨房にも近いから便利だべ」
「うん。じゃ決まりだね……我は願う、我が家族の望む部屋に名札と、心地よき家具一式と、今夜、各々に必要なすべてを」
ヴィヴィアンの詠唱が終わると、模型の中のいつくかの部屋が輝いて、みんなの名前が浮き上がった。
「自分の部屋に触れば、部屋に飛べるようにしておいた。埋葬虫のみんなは、今日は先に休んでほしい。あ、オヤツ、持っていってね」
「姫様、お心遣いに痛み入りまする」
「あるじ、おやすみ! 明日からよろしくな」
「おやすみ、みんな」
埋葬虫たちが、年長の者から順に模型に触れて自分の部屋に飛んでいくと、部屋に「在室」の表示がついた。
「ほほー、こりゃ便利だべ」
感嘆の声をあげながら模型を眺めているタバサに、ヴィヴィアンは声をかけた。
「そろそろスカーレットが来るころだと思う。たぶん少し長い話になるだろうけど、大丈夫かな」
「大丈夫ですだ。あのクソったれな壺の話を、お聞きになるんだべ?」
「うん」
「まんだ、すっかりどは思い出せねーども、腹にあるなんもかんも、刮げででも、お話しますだ……話して、オラも、終わらせてえだ…」
「分かった。全部聞くよ」
ヴィヴィアン、冷めた謎茶を温かいものに入れ替え、天然魔鮭の燻製をタバサに勧めた。
「オラの名は、タバサ・ガゼル。ガゼル家の三女…だったど思うんだけども、親や兄姉の名前も顔も、思い出せねえ…」
「ガゼル家は、何をするおうちだったの?」
「農業貴族でしただ。公国の……国の名も思い出せねえけども、年中あったかい土地で、実りも多くて、暮らしものどかなもんでした」
「タバサも、農業してたの?」
「畑仕事や領地の仕事は、両親と兄夫婦がやって、オラはもっぱら、畑を荒らす魔物どもを狩ってただ。あとは料理だな」
「お姉さんは?」
「姉はみな近隣の貴族さ嫁に出て、オラも年頃だったもんで、そろそろって、話もあって……」
そこで、タバサの言葉が途切れた。
ヴィヴィアンは立ち上がり、皿を三枚出してきて、錬金鍋の前に置いた。
「謎肉パイと、チーズたっぷりスフレ、公国の森の魔物肉ソーセージ」
どさっどさどさっ。
「スカーレットの夜食だけど、よかったらタバサも味見して」
ヴィヴィアンに渡されたフォークで、タバサはソーセージを一本、口に運んだ。
「家で食べてたのと、おんなじだ…」
「古代ポリグリッド公国の古文書にあったレシピで作ったソーセージだよ」
「ポリグリッド……聞き覚えがある気がしますだ…」
タバサが考え込みながらソーセージを咀嚼していると、玄関の呼び鈴が鳴った。
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