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ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは従業員を公募した
しおりを挟む代案がないとはいえ、イルザ・サポゲニンとスカーレットは納得しないようだった。
「ねえヴィヴィアンちゃん、ほんとに大丈夫なの?」
「まあ、たぶん」
「引き取るっていっても、彼女、ヴィヴィアンのところで穏便に暮らせるのかしら…」
「イルザ様、スカーレット。私の固有魔法は、捨てられたものを生かす力だから」
「…そうね、そうだったわね」
イルザ・サポゲニンは、不承不承ではあるものの、ヴィヴィアンの決定に従うことにしたようだった。
「だけどヴィヴィアン、分かってるわよね」
「分かってるよ、スカーレット。捨てられて、かわいそうだから、優しくしたいんじゃない。不相応な施しをしたいわけでもない。今、うちには、この人にぴったりのお仕事がある」
ヴィヴィアンは、帆布カバンから、ゴソゴソと大きな紙を取り出した。
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ずっと前に、家で仕事を手伝ってくれる人が欲しくなったヴィヴィアンが、こっそり作って、あちこちに貼っていたポスターだった。
(貼ってもなぜかすぐ剥がされちゃってて、結局一人も応募して来なかったんだよね)
「ギル・グリッド、頼みたいことがある」
「僕にできることなら、何なりと」
「青い髪の女の人が起きたら、問答無用でこのポスターを手渡してほしい」
「渡すだけでいいの?」
「受け取っただけで、たぶん万事解決するから大丈夫」
「分かった。引き受けよう」
ヴィヴィアンは、薬壺を帆布カバンに入れてから、メアリーに声をかけた。
「いまから重症の患者さんの治療器を作って回ってくるけど、メアリーは、いろいろあって疲れたでしょ。終わったら呼びに来るから、休んで待っててほしい」
「はい。『しばく』をしながら、お待ちしています、ヴィヴィアン様」
「ヴィヴィアン、私も手伝うわ。患者の経過も見たいし、治療記録も取りたいから」
「ありがとう。行こう」
「病院長、イルザお姉様、後のことはお任せしますわ」
「うむ」
「任されたわ。ヴィヴィアンちゃん、無理のないようにね」
「はい。全力で無理しません」
ヴィヴィアンとスカーレットが連れ立って病室を出た頃、下のほうの病棟で、一人の患者がトラブルを起こしていた。
「おい! 寝ている間に何が起きた!」
「シャルマンさん、落ち着いて。なにも問題ありませんよ」
「問題ないはずがないだろう! 同室の全員が禿げ上がってるじゃないか!」
「病院ですから、そういうこともあるんです」
「看護師じゃ話にならん! 医師を呼んできてくれ!」
「隊長の髪は無事だったんだから、いいじゃないっすか」
「良くない! いきなり毛が全部抜けるとか、どう考えても異常だろうが!」
「あーひょっとして隊長、髪以外の毛がなくなっちゃってます? 脇とか胸とか、その下とか」
「ばっ場所などどうでもよかろう! とにかく早急に原因を究明すべきだろう!」
騒ぎを聞きつけて、やけにガタイのいい看護師が病室に入ってきた。
「あーら、シャルマンちゃん、元気が有り余ってるみたいねえ。アスレチックなリハビリコース、行ってみる? アタシが特製メニュー組んであげるわよ」
「なっ」
「毛なんて生えてないほうが、蒸れなくってサワヤカよ。さ、行きましょーね。よいしょっと」
「おいアーサー、助けろ!」
看護師にお姫様抱っこされたシャルマン隊長は、部下に泣きつこうとしたが、あっさり見捨てられた。
「安心して逝ってください隊長。骨は拾いに行きますんで」
「はいはい、元気だからって廊下で騒いじゃダメヨ」
それもこれも惑乱の黒魔女が元凶に違いないと確信するシャルマンだったが、抱き上げられた状態では、どうすることもできないのだった。
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