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ヴィヴィアンの婚約

ヴィヴィアンたちは出陣した

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──というような有様でしてな。

 親虫たちの中の一匹が、階段前に戻ってきて、待っていたスカーレットとヴィヴィアンに、執務室内の様子を詳しく伝えた。

「その男、確かに『傀儡くぐつ』と言っていたのね。サポゲニン病院長を傀儡にすると。で、今日これから、ヴィヴィアンとグリッド父子を殺すと」

──我らが姫様を弑するなどと、たわけたことを抜かすので、その場で肉団子にしてやってもよかったのじゃが、どうも得体の知れぬ、おぞましい術を弄しておるようでな。ひとまず姫様と姐様にご報告致しに戻った次第ですじゃ。

 スカーレットの目に、剣呑な光が宿った。

「薬壺に、傀儡。ヴィヴィアンへの殺意……間違いなく、そいつはセイモア・グリッドだわね」

 ヴィヴィアンは、不思議そうにスカーレットを見上げた。

「私、その人を知らないよ」

「あんな変態男、未来永劫知らなくて構わないわ」

「何でその人は、私を殺したいんだろう」

「さあね。どうせ、ろくでもない理由でしょうよ」

 ヴィヴィアンは覚えていないが、セイモア・グリッドは、かつてヴィヴィアンに執拗に絡んでいた人間の一人だった。

「また、ぶっとばす?」

「ええ。たぶんもうすぐイルザお姉様もいらっしゃるだろうけど、その前に仕掛けてとっとと無力化する。入院患者の魔力や生命力を奪ってるみたいだから、急がないと、最悪死人が出るわ」

「それは、ダメだね」

 ヴィヴィアンは、怒りで触覚を震わせ続けている親虫を見た。

「みんなの奥さんたちも、助けよう。そして、家に帰ったら、大ご馳走パーティしよう」

──有難き幸せにございますじゃ。姫様方の怨敵、かならずや討ち果たしてご覧にいれまする!

「うん、頑張ろう。スカーレット、どんな感じでぶっとばせばいい?」

 敵の待つ場所に無策で飛び込むべきではないと、ヴィヴィアンはこれまでの経験から学んでいる。

 そして、ヴィヴィアンが巻き込まれる荒事に、ほとんどいつも付き合って策を授けてくれるのは、スカーレットだった。

「そうね。先に埋葬虫たちに陽動をお願いしたいの。攻撃の手段は問わないわ。とにかくあいつをとことんイラつかせて欲しいのだけど、どうかしら」

──お安い御用ですじゃ。力余ってうっかり彼奴を肉にしてしまうかもしれんが、構いませんかの。

「喋れる程度に生かしておいてくれれば問題ないわ。あいつの顔からニヤつきが消えたら、ヴィヴィアンに合図して、部屋に呼んであげて」

──御意ですじゃ。

「ヴィヴィアン、あんたは埋葬虫からの合図があったら、部屋に入って、セイモア・グリッドと対話しなさい」

「対話するだけ? ぶっとばさないの?」

「対話してからぶっとばしたほうが、たぶん効くわ」

「よく分からないけど、分かった。スカーレットは、どうするの?」

「私はセイモア・グリッドが病院に仕掛けた呪術を破壊する。たぶんイアン・グリッドがあんたに仕掛けたのと同じ種類だろうけど、技量がだいぶ上みたいで、呪具の気配がとても薄いの。でも近づけば分かるはず。重症患者の病室を回るわ」

 ヴィヴィアンは、元婚約者から貰った髪飾りのことを思いだした。

「魔力とかを患者さんたちから吸い取ってるなら、患者さん側の呪具と、吸い取ってる人が持ってる呪具があるはずだよね。メアリーが私と同じ髪飾りをつけてたみたいに」

「そうよ。たぶん、セイモア・グリッドが持ってる薬壺が、それだと思う」

──彼奴が母様と呼びかけていた壺じゃな。

「壺が、お母さんなの?」

──そうだとしても、彼奴の母親だけではないで御座ござろう。壺の中には我らの愛しき番も封じられておりますでな。

「お母さんが、大好きな人なんだね…」

 スカーレットは、上着のポケットから黒い革紐を取り出して、腰まである真っ赤な髪を後ろに束ねた。

「本気モードだね、スカーレット」
「ええ。きっちりシメてやるわ」

 スカーレットは戦闘開始を宣言した。

「さあ、気色の悪い変態野郎を倒すわよ!」




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