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紳士さん
5話 〜その名もパルトさん〜
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木の影でひとりの少年が3ニンを覗く。
「とうとう来ましたネ!」
いつからあるのか、誰が何の為に建てたのか不明で、雲も貫く程高く聳える白雷の塔。そこに雷の王雷御は住んでいる。
その塔を囲むように街ができており、建物は然ることながら沢山のヒトでごった返していた。
ローランは物珍しさからウロウロしつつ観察、ゼティフォールは魔力切れでみのたうろすに抱えられるため、自由に動くことはできないが落ち着きなく辺りを見回している。
「見た事も無い道具が沢山ありますね~!」
「あ、ああ。ヒトが持っているアクセサリーや四角い箱のようなものから映像が飛び出しているぞ……!」
「パルトだな。おれももってるぞ」
「ああ、パルト! 貰った資料に有りましたね、確か」
「やるな、みのたうろす」
「へへっ」
ローランは斜め掛けの皮のバッグから、本のように綴じられた紙の資料を取り出し、パラパラと読み進める。
「どうなのだ。何か判ったか?」
「待って下さいね。え~っと……」
「じょうほうがみれるんだ。あと、まほうをたすけることもできる。おれはこまかいまほうにがて。だからよくたすけてくれるんだ。ほら、おれのパルトさん」
「む? 魔法を助けるとはどういう事だ? 魔法のスクロールとは違うのか」
「有りました! えっとですね、別売り? の、魔方陣をダウンロード? して、パルトネル……。ああ、携帯万能機が機械の名前で、パルトネルが商品名みたいですね。通称がパルトと言うみたいです」
「それで、魔法の補助は?」
「あ、すみません。その、ダウンロードはわかりませんが、とりあえず手に入れた魔方陣を画面に出して、魔法発動段階に移行したら、魔紋を読み取って? ああ、…………魔力の波紋の事で、魔紋は個人で違うのでそれで個人を特定しているみたいですね。それで、魔紋を読み取って本人確認して、パルトから許可が出たら必要な魔力を流す。発動場所や方向を指定したら魔法がでるみたいです」
「ややこしいな……」
「それで……」
「まだあるのか!?」
「はい、有ります。まだ補助について言ってないですし」
「ああ、確かに」
「それで、適正が無くても発動できるのはスクロールと同じなんですけど、使用者が元々使える魔法の威力や範囲等も調整できるとか。勿論、限界もあるみたいですが。あと、ここがいいですね! 使っても無くならないっていうところ」
「ほう。よく判らぬが、便利なのだな。しかし、時間や手間が掛かりすぎないか?」
「みてみろ、ぜたさま、ローラン」
みのたうろすは道の端に移動し、懐から取り出したパルトを操作してふたりに近づけた。
「何ですか?」
「はやいヒトの動画だ。おれはおそいけど、このヒトはすごい」
パルトから立体の映像が飛び出し、その映像に映るニンゲンが素早く操作するコツを説明し、それをふたりは夢中で見入る。
「素晴らしい! このような過去の事象を映し出す高度な魔法が使えるというのか!? 作った賢者は誰だ! 話を聞きたい」
「ああ、静かにしてくれないと聞こえないですよー。ゼティフォール様」
「そろそろだぞ」
すると映像のニンゲンがズボンの横ポケットから薄い箱型のパルトを取り出し、片手で画面を3回程操作したかと思うと、反対の手から火の魔法が飛び出した。
「おお、2秒もかかってないですね。凄い!」
「待てローラン。まだ映像は続いているぞ!」
「ほんとだ」
ニンゲンはショートカットについてを軽く説明し、次に手だけでなく声や流す魔力によっても操作できる等とも語った。
「ほう、同じ魔法であれば連続発動もできるのか!」
「初めの魔法も早かったですけど、連続発動は次が出るまでの間隔が殆どなかったのは、度肝を抜かれました」
「おれも、さいしょはおどろいた」
パルトネルの話で盛り上がる3ニンだが、気付けばヒトに囲まれていた。
「みのさん久しぶりー」「そのヒトが魔王様か? 目覚めたのは本当だったんだな」「さっき爆発があったけど、怪我してない?」「みのさんはいつ見てもでかいな!」「スケルトンだ、やっつけろ!」「やー!」
皆思い思いに話していて、あまり聞き取れない。
「何事だ!?」
「おれ、たまにこのまちにくるんだ。ほとんどは、ともだちだ」
「好かれているのだな」
「ああ。……みんな、はなすのはひとりずつにしてくれ」
好き勝手に話していたヒト達はそれを聞いてひとまず落ち着いた。
「さっきの爆発みた? 被害こそないけど、爆風がこの辺までここまで来たよ。みのさん大丈夫だった?」
若い女性がみのたうろすを気遣う。
「ああ、モンスターがだしたまほうだ。ぜたさまがたたかってたけど、もういない」
「騒がせて済まないな。周りに気を使える程余裕もなかったのだ。ま、街が有ることも知らなかったが……」
「あなたが魔王様なの? あんな魔法を使うモンスターを倒すなんて、すごいですね!」
「倒せたかどうかは判らぬ。爆発が収まった時にはもう姿が無くてな。しかし、あれを受けてタダではすまぬとは思うが」
「じゃ、まだこの辺りにいるかもしれないですね。一応役場のヒトに知らせないと」
「ああ、そうだな。頼めるか?」
「はい。特徴をうかがってもいいですか?」
「黒いプルプルだが、体内で血のように紅い炎のようなものが揺らめいていてな。その炎は体外で刃や盾の様にして扱う事もでき、魔法もその炎を操って出していた様に窺えたな。あとは、感覚のものでしかなく不確かだが、相対したモノの魔力を吸い取るかもしれん」
「魔力を吸い取る……?」
「ああ。いくら魔法を乱発したとはいえ、私が歩けぬほどに、つまり生命活動に支障がでる程に魔力が枯渇するのはおかしい。そもそも魔法を放つ時に普通は自らの命を守るために、少なからず使用量が制御されるからな」
「あー。それは危険ですね。伝説の魔王様に魔法を乱発させて、止めが刺せないプルプルって」
「あんなこわいの、ぜたさまがおこったときくらいだな」
「私はそう怒らぬだろう?」
「おれがおしろこわしたとき、すごいおこってた」
「そうなんですか?」
「あれは、みのたうろすが建てられて間もない魔王城を半壊させたのが悪いのであろう。それにまだ我が軍に入る前であったしな」
「しぬかとおもった」
「そのつもりでいたからな」
「え、それでどうなったんですか?」
「こうさんした。つよかったんだ」
「みのたうろすも強くてな。そのまま止めを刺すのも追放するのも勿体無い。攻める側の視点も判る故、我が軍の防衛長に就いてもらった」
「へ~。そうだったんですね、すごい」
「やるじゃねえか、みのさん。魔王様にこうまで言わせるなんてよ!」
若い女性と小太りのおじさんは嬉しそうにする。
「でも、当の魔王はボロボロじゃん。今はそのミノタウロスに抱えてもらってるし、実はそんなに強くないんじゃね」
若い男性が、ゼティフォールを小ばかにしたように言う。
「ふむ。相手に苦戦したのは事実故その点には反論はせぬ。が、多少親し気に話すのは構わないとは言え、貴様流石に礼が成ってないのではないか?」
ゼティフォールは諭すように言う。
「おー、こわ! こんな事で普通怒るか? 王様なのに器ちっちゃくね?」
態度が改まらない相手に、ゼティフォールはため息をつく。
「おまえ、おこるぞ!」
みのたうろすが若い男性を睨む。
「あ~、はいはいわかりました。友達じゃなかったら喋るのもダメなのかよ。ちぇっ」
それに怯んでその男性は去っていった。
「むかつくやつだ!」
「落ち着けみのたうろす。ヒトが多ければ、話の通じぬ輩も増える。あの手のモノには何を言っても無駄だ。もう去って行った以上、怒る時間をあのモノに割くのは勿体ない」
「ぶむ~」
「それに、魔王と聞きヒトビトが恐れた時代は過ぎ去ったのだ。私にとってはほんの少し前だがな」
「ごめんなさい! 失礼なのは承知ですけど、魔王ゼティフォールという名前を聞いても、実際に世界を征服して闇に包んでたとか、一国の王様をしているとか、信じていないヒトも少なく無いんです」
若い女性が謝る。少し震えているのが判る。
「そうであったか。それで、あのモノと知り合いか?」
「いえ、そうではないですけど、同じ街に住む仲間のしたことですから」
「ならば君に今回の件で特にいう事はない。だが何かいうとするならば、個人個人、それぞれに人格があり責任がある。故に君が謝る必要はない。周りのモノ達もな。あとあまり畏まらずとも、怒ったところでひとりのモノの為に街を滅ぼすなどしないさ」
「ありがとうございます」
「ああ」
流石にこの後で楽しい会話をする気になれず、しかし去るのも違う気がして皆だまってしまう。
「ひえー!? た、助けて下さい~」
そこに割って入る様にローランは困りつつも楽し気に悲鳴を上げる。
子どもはローラン相手に戦いごっこをしたり、アスレチックのようによじ登ったりしている。
「悪いスケルトンは~、こうだ!」
ひとりの子どもがローランの腕に枝をぶつける。
「こ、こら! ゼティフォール様~」
ローランがゼティフォールに助けを求める。
「ふっ。自分で何とかできるであろう? 存分に遊んでやれ、ローラン」
「来た! では、王命を頂いたこのローラン容赦しませんよー!」
ローランはガッツポーズをしたあと、囲んでいた子ども達を追いかけていった。
「にげろー! スケルトンにつかまるな~」
一連の流れに空気が軽くなり、周りの皆も笑顔に戻る。
「ああそうだ、みのさん、今回は何の用だ? 武器の手入れか、それともまたパルトが故障したのか? あ、オレと飯にいくか?」
小太りのおじさんが冗談交じりに訊く。
「いや、きょうはしごとだ」
「ちぇー! しゃあねえ、仕事終わったら来てくれ、奢るからよ」
「いいのか?」
「ったりめーよ! いつも息子と遊んでくれてるしな。みのさんに奢るってんなら、カミさんも文句ねえぜ」
「わかった。ごはんのときは、はらすかせとくぞ」
「おう、もう今から楽しみだぜ! じゃあな、みのさん」
おじさんはご機嫌で去っていった。
「丁度いい所に居たんで連れてきましたよ。この街の小さなお偉いさん」
先程の若い女性がいつの間にか少年を連れて来ていた。
「いつの間に。ありがたい」
「おほん! こんにちは、みなサン。魔王様御一行ですネ? ボクはバルバラ、この街の長をしていマス。よろしくどうゾ!」
見た目はニンゲンでいう所の10歳程度の見た目で、白い髪はセミショートだが自分で切ったのか長さがバラバラで、瞳は覗けば吸い込まれそうな深緑。中性的な顔立ちから男性とも女性とも判らず、少しの歪みも傷もない整った顔はどことなく人形を思わせる。服は年季の入った男性用のワイシャツとカーキのズボン着ているが、丈を合わせていないのでズボンは何度も折り返し、シャツは余った部分が手を隠している。
「君がか? このような体勢で申し訳ない。私はゼティフォール、魔王国で王を担っている。こちらこそよろしく」
ゼティフォールはみのたうろすに抱えられながらも挨拶を交わし、バルバラと握手をする。
「気にしないでくだサイ。モンスターの件聞きましたのデ、今魔機を使って街の外をパトロールして貰ってマス」
「おお! 仕事が早いな。助かる」
「バルバラ、ひさしぶりだな」
「みのサン! 久しぶりデス」
「知り合いか?」
「そうだ」
「魔王様もお疲れでショウ。ここで立ち話もなんデスシ、それも含めてボクの家で食事でもしながら話をしませんカ?」
「そうだな。私は抱えてもらっていて少し楽ではあるが、みのたうろすも疲れている。そうさせてもらおう」
「ご案内しマス」
「ああ、あと子どもと遊びに行ってここには居ないが、もうひとりお伴がいるのだ。スケルトンのローランで、黒を基調としオリハルコンの装飾が施された軽装鎧を身に着けている」
「わかりまシタ、探しておきマスネ。あ、みなサン、お話はもういいデスカ?」
「大丈夫、仕事だろ? 邪魔しちゃ悪い」「じゃあね、みのさん、魔王様。またお話聞かせてください」「またねー」「すぐに帰らないなら、また話せるよな」「ありがたやー」
口々に言葉をかけて手を振り、皆もとに戻っていった。
「デハ、飛びますノデ、魔方陣に入ってくだサイ」
バルバラはパルトで地面に魔方陣を展開して、そこに入るよう促す。
「お、知っているぞ。それはパルトさんであろう?」
ゼティフォールはしたり顔で言った。
「ハイ。しかも特注品なんデス!」
「ほう。特注品か、良い響きだ」
魔方陣に入った3ニンは、光に包まれその場から姿を消した。
気づけば広い庭のある、シンプルながらも質の良い邸宅の前に来ていた。
「良い所だ。ここはどの辺りに位置するのだ?」
先程までのヒトや建物でごった返した場所ではなく、邸宅は街の内側ではあるが建物も少なく、自然に囲まれて近くに海も臨めた。
「あそこからさらに東、街の端デス。さあ、入ってくだサイ」
「おじゃまします」
みのたうろすは慣れている様子で、迷う事無く中に入る。
「年代物が多いな……」
年季の入ったアンティークの家具で揃えられていて、本や魔機が沢山並べられている。
「すぐに食事を用意しマス。ダイニングで待っていてくだサイ」
「わかった。たのしみだ」
ゼティフォールはみのたうろすから降り、少しよろめきながらも椅子に座った。それを見届けてからみのたうろすも座る。
「綺麗だな」
「なんだ?」
「西側の窓から外を覗けば夕焼けに照らされた塔や街が見え、東側の窓から外を覗けば夜の闇に包まれた海が見える。昼と夜が混じりあうこの場所は、まるで狭間の世界だな」
「ぜたさま、ろまんちすとだな」
「感じたままを言ったのだが、そう思うか?」
「そうだな。おれはきにしたこと、あまりない」
「そうか。私はこの位の時間が好きだな」
そうこう話していると、バルバラとエプロンを着けたおじいさんが料理をカートに乗せて運んできた。
「おまたせしまシタ。どうゾ」
バルバラ達は待っていたふたりの前に皿を運ぶ。
「急な御来客でしたので、簡単なものですが。質には拘りましたので、お楽しみください」
「これは、食欲をそそられるな」
「ひるも、よるも肉なんて、きょうはついてるぞ」
「アクアドラゴンのステーキ、バルサミコソース。マッシュポテト添えでございます」
「お二方、このエドウィンも一緒に食事を共にしてもいいデスカ? ボクの友人なんデス」
「ああ。私達の話はあまり言い広められても困る内容なのでな、内密に頼めるなら構わん」
「恐れ入ります。では、私めも着席させて頂きます」
バルバラとエドウィンもテーブルに皿を置き、椅子に座った。
「では、頂きます」
まずゼティフォールはステーキにナイフを入れる。
「ほう、肉汁が溢れてきよったわ。ふむ、ウェルダンか」
「ええ。アクアドラゴンの肉は火を通しても柔らかさが損なわれる事がなく、肉汁を保持しやすいのでウェルダンにすることで最大限その肉汁を愉しむことができるのです」
「美味い。食感も独特だな。外側はソーセージの皮のようにしっかりしているが、内側はまるでスープでも食べているようだ。それに、バルサミコソースがいいアクセントになっている。ステーキの濃い目の味付けに対し、優しい味付けのマッシュポテトが調和をとる」
「然様。お判り頂けて何よりでございます」
「アクアドラゴン、うまいなー。まいにちでもくえそうだ」
「ハハハ。それは難しいデスネ。高級食材ですカラ」
「そうなのか?」
「ああ。アクアドラゴンは希少な種でな、滅多に市場に出てこない。故に、今は知らぬが私の知っている時代なら、各国の王でも入手することが困難で、手に入れる為に国庫を開いた熱狂的愛好家がいたとか」
「流石に今は養殖が進み、国庫を開く程ではありませんが、それでも手軽には食べることはできません。しかし、祝い事や今回の様に客人をもてなす時には買われるようになりました」
「時代は刻々と進んでいるのだな。少し取り残された気分だ」
少しだけ寂しげな顔をするゼティフォール。
「私めもそのお気持ち、全ては到底不可能でしょうが分かります。気持ちも体力も、己の一番輝いていた時分で止まっているよう錯覚しますが、残念ながら若きモノが成長し、古きモノは旅立っています。私も、若い頃は名うての魔法使いでしたが、今ではもう……」
と、エドウィンは肩をすくめた。
「そうか。もしかすると私より強いモノもいるやもしれんな」
「彼方様はまだ動けます故、取り戻せるのではありませんか?」
「やもな。エドウィン、ありがとう。だが、余り己を卑下するのは頂けぬ。お互い自身を高めるとしよう、死ぬにはまだはやい」
「ほっほっほ。魔王様にそう言われてしまえば、死人ですら蘇ってしまいますな。では、私めも、この歳ながら久方ぶりに魔法の鍛錬を再開するとしましょう」
「ふぅ~。遅れてすみません、みなさん! いやぁ、子どもの体力は底なしですねー」
扉を開け、ダイニングに入ってきたローランは、バルバラにジェスチャーで席に案内され着席する。
鎧は脱ぎ、絹でできた衣服をまとっている。
「問題ない。まだ本題には入っておらぬからな」
「そうでしたか。あ、これってもしかして!?」
「アクアドラゴンのステーキだ。最近は比較的入手しやすくなっているみたいだぞ」
「へー! もしかして私の分もあったりしますか?」
「ありマス。あ、でもスケルトンは実体型の食べ物は接種できないんデシタカ?」
「チャレンジします! 半実体とか、幽体の食べ物は満足感がないですからね!」
「では、どうぞ。お召し上がり下さい」
エドウィンはローランの席に皿を運んだ。
「じゃあ、いただきます! あ、本題に入っていいですよ。私はステーキを食べてますので。食べられるかわからないですけど」
「くえなかったら、おれがくってもいいか?」
「まあ、食べられなかったらいいですけど、余り期待しないでくださいね」
「わかった」
ゼティフォールは、目覚めたら魔力路が焼けていた事、今まで闇以外の魔法は行の王との契約によってつかっており、その契約が何モノかによって切られ、残っているのが光と雷のみ。そして行の王の行方不明とという情報とともに、近頃怪しげな普通のモンスターとは違うらしい怪物の目撃情報がある事を伝えた。
「それで、雷御さんに警告しに来たんデスネ?」
「ああ。最近何か変わった事は無かったか?」
「変わった事……。そういえば、怪物は聞いてないデスガ、黒っぽい煙みたいなモヤモヤを見かけると、言ってマシタ」
「黒い煙か……。関係あるやもしれぬな。他には? あとその煙はどうしているのだ」
「今の所聞いたのは煙だけデス。気味が悪いから気付いたら消しているみたいデ、被害は無いデス」
「そうか。今後どうなるか判らぬ故、魔王城に来て貰うつもりなのだが、可能だろうか? 煙が怪物と関係が無いとも限らぬしな」
「むずかしいな」
「ええ。この街のエネルギーの殆どを雷御様に頼っていますので、もしいなくなれば機能は停止。この街で生活するのは困難になるでしょう」
「ふむ、水準を下げての生活はできないのか? 雷御が膨大な魔力を持ち強いとは言っても、万が一何かあれば結局この街は機能しなくなる」
「モンスター避けの結界も雷御さん有りきの設計の魔方陣なんデス。だから、もし雷御さんが移動するなら住民と一緒にするしかないデスヨ」
「そうか。では私だけでは決められぬな」
「そうだ、住民のみなさんは幾らくらいいるんですか?」
「住んでいるのは3万ニンデス」
「意外とすくないですねー」
「ハイ。パルトやそれに伴うテレポート関係の条例整備で引っ越しをしなくとも働きに出られるようになりマシタ。なので、昼間は40万ニンから最大60万ニンいますヨ」
「その程度なら、移住できない事もないか? だが、移住を反対するモノもいるだろう、したくとも何等かの理由でできないモノもいるだろう。どうしたものか……」
「チャピランにれんらくするか?」
「そうだな。そうする他なさそうだ」
「あ、あのプルプルについてはどうなったんですか? 今後の対処をどうするかとか、どんな種だったか調べないといけないですし」
「バルバラが街の外を探してくれている」
「もう、れんらくして、どんなやつかチャピランにしらべてもらってるぞ」
「ほう。結果はまだなのか?」
「ごめんぜたさま。じかんかかりそうって、いってた」
「では、プルプルの事についても、移住についてもひとまず連絡待ちだな。それで、其方らは知り合いだったのだな」
「そうなんだ。おれがそとにでたの、さいきんだから、しりあったのは10ねんくらいまえ」
「ボクが街長に就任した時に魔王城からの使者として来て頂いたのが、みのサンデシタ。それからよく話すようになったんデスヨ」
「パルトさんを、たまにしゅうりしてもらってるんだ」
「パルトさんを修理できるのか?」
「ハイ。パルトネルは、チャピランさんと大賢者様が協同で作ったんデス。そして、ボクはここの長であると同時に、大賢者様の後継者のひとりなんデスヨ!」
「ならば修理できて然りか。このような素晴らしい物を作った大賢者に、会ってみたいものだ。今は隠居でもされているのか?」
「いえ、10年前に亡くなりました。100歳は越えていたので、ニンゲンとしては大往生と言えるでしょう」
「そうか、それは残念だ。そう言えば、後継者のひとりと言ったな。他にはどの様なモノがいるのだ?」
「私でございます」
エドウィンが応えた。
「そうであったか。友人同士協力しているのだな」
「ええ。バルバラが政治、私がパルトネルを主に担っております。しかし、互いに力が必要な時には協力し、助け合っております」
「良い事だ」
「そうだ、今日は泊まっていきますカ?」
「良いのか? 泊まれるのであれば情報が入り次第行動に移せる故、私達としても助かるのだが」
「ええ。お構いなく、お寛ぎ下さい」
「助かる。む? ローランいつまでステーキと戦っているのだ?」
「どうしたらたべられるんでしょ~? アクアドラゴンは美味しいんで食べたかったんですが、何度やっても食べられなくて…………」
ローランは落ち込んでしまった。
「もう、ダンテに訊く他あるまい。今回は運が無かったとして諦めろ」
「そんなー」
「宜しければ、食べられるようになった暁にはまた、同じものをお出しさせて頂きますよ」
エドウィンはローランを不憫に思い、微笑みながら提案した。
「いいんですかー!?」
「はい。御所望であれば。それと、今日の所は幽体の食事を用意しましょう」
「ありがとうございます! いや~、うれしいなあ。あ、みのたうろす食べますか? 冷めちゃいましたけど……」
「もちろんだ! もぐぅ。さめても、うまい!」
「それは良かったですね」
みのたうろすはおいしそうにペロリと平らげる。
「よし、少し早いが眠るとしよう。すまないが、先に休ませて貰うとしよう」
「はい。では客室にご案内しますので、こちらへどうぞ」
「わかった。ふたりとも、あまり夜更かしするでないぞ。バルバラ、今日はありがとう。皆のモノ、おやすみだ」
「こちらコソ。魔王様、ゆっくり休んでくだサイ」
「おれは、もうすこしバルバラとはなししてねるぞ。おやすみなさい、ぜたさま」
「私もご飯が終わったら寝るつもりです。おやすみなさい、ゼティフォール様」
「では、参りましょう」
「ああ、頼む」
ゼティフォールは休憩を挟んだことで幾分マシになったものの、まだよろめきつつ立ち上がり、エドウィンの先導のもと眠りに行ったのだった。
「とうとう来ましたネ!」
いつからあるのか、誰が何の為に建てたのか不明で、雲も貫く程高く聳える白雷の塔。そこに雷の王雷御は住んでいる。
その塔を囲むように街ができており、建物は然ることながら沢山のヒトでごった返していた。
ローランは物珍しさからウロウロしつつ観察、ゼティフォールは魔力切れでみのたうろすに抱えられるため、自由に動くことはできないが落ち着きなく辺りを見回している。
「見た事も無い道具が沢山ありますね~!」
「あ、ああ。ヒトが持っているアクセサリーや四角い箱のようなものから映像が飛び出しているぞ……!」
「パルトだな。おれももってるぞ」
「ああ、パルト! 貰った資料に有りましたね、確か」
「やるな、みのたうろす」
「へへっ」
ローランは斜め掛けの皮のバッグから、本のように綴じられた紙の資料を取り出し、パラパラと読み進める。
「どうなのだ。何か判ったか?」
「待って下さいね。え~っと……」
「じょうほうがみれるんだ。あと、まほうをたすけることもできる。おれはこまかいまほうにがて。だからよくたすけてくれるんだ。ほら、おれのパルトさん」
「む? 魔法を助けるとはどういう事だ? 魔法のスクロールとは違うのか」
「有りました! えっとですね、別売り? の、魔方陣をダウンロード? して、パルトネル……。ああ、携帯万能機が機械の名前で、パルトネルが商品名みたいですね。通称がパルトと言うみたいです」
「それで、魔法の補助は?」
「あ、すみません。その、ダウンロードはわかりませんが、とりあえず手に入れた魔方陣を画面に出して、魔法発動段階に移行したら、魔紋を読み取って? ああ、…………魔力の波紋の事で、魔紋は個人で違うのでそれで個人を特定しているみたいですね。それで、魔紋を読み取って本人確認して、パルトから許可が出たら必要な魔力を流す。発動場所や方向を指定したら魔法がでるみたいです」
「ややこしいな……」
「それで……」
「まだあるのか!?」
「はい、有ります。まだ補助について言ってないですし」
「ああ、確かに」
「それで、適正が無くても発動できるのはスクロールと同じなんですけど、使用者が元々使える魔法の威力や範囲等も調整できるとか。勿論、限界もあるみたいですが。あと、ここがいいですね! 使っても無くならないっていうところ」
「ほう。よく判らぬが、便利なのだな。しかし、時間や手間が掛かりすぎないか?」
「みてみろ、ぜたさま、ローラン」
みのたうろすは道の端に移動し、懐から取り出したパルトを操作してふたりに近づけた。
「何ですか?」
「はやいヒトの動画だ。おれはおそいけど、このヒトはすごい」
パルトから立体の映像が飛び出し、その映像に映るニンゲンが素早く操作するコツを説明し、それをふたりは夢中で見入る。
「素晴らしい! このような過去の事象を映し出す高度な魔法が使えるというのか!? 作った賢者は誰だ! 話を聞きたい」
「ああ、静かにしてくれないと聞こえないですよー。ゼティフォール様」
「そろそろだぞ」
すると映像のニンゲンがズボンの横ポケットから薄い箱型のパルトを取り出し、片手で画面を3回程操作したかと思うと、反対の手から火の魔法が飛び出した。
「おお、2秒もかかってないですね。凄い!」
「待てローラン。まだ映像は続いているぞ!」
「ほんとだ」
ニンゲンはショートカットについてを軽く説明し、次に手だけでなく声や流す魔力によっても操作できる等とも語った。
「ほう、同じ魔法であれば連続発動もできるのか!」
「初めの魔法も早かったですけど、連続発動は次が出るまでの間隔が殆どなかったのは、度肝を抜かれました」
「おれも、さいしょはおどろいた」
パルトネルの話で盛り上がる3ニンだが、気付けばヒトに囲まれていた。
「みのさん久しぶりー」「そのヒトが魔王様か? 目覚めたのは本当だったんだな」「さっき爆発があったけど、怪我してない?」「みのさんはいつ見てもでかいな!」「スケルトンだ、やっつけろ!」「やー!」
皆思い思いに話していて、あまり聞き取れない。
「何事だ!?」
「おれ、たまにこのまちにくるんだ。ほとんどは、ともだちだ」
「好かれているのだな」
「ああ。……みんな、はなすのはひとりずつにしてくれ」
好き勝手に話していたヒト達はそれを聞いてひとまず落ち着いた。
「さっきの爆発みた? 被害こそないけど、爆風がこの辺までここまで来たよ。みのさん大丈夫だった?」
若い女性がみのたうろすを気遣う。
「ああ、モンスターがだしたまほうだ。ぜたさまがたたかってたけど、もういない」
「騒がせて済まないな。周りに気を使える程余裕もなかったのだ。ま、街が有ることも知らなかったが……」
「あなたが魔王様なの? あんな魔法を使うモンスターを倒すなんて、すごいですね!」
「倒せたかどうかは判らぬ。爆発が収まった時にはもう姿が無くてな。しかし、あれを受けてタダではすまぬとは思うが」
「じゃ、まだこの辺りにいるかもしれないですね。一応役場のヒトに知らせないと」
「ああ、そうだな。頼めるか?」
「はい。特徴をうかがってもいいですか?」
「黒いプルプルだが、体内で血のように紅い炎のようなものが揺らめいていてな。その炎は体外で刃や盾の様にして扱う事もでき、魔法もその炎を操って出していた様に窺えたな。あとは、感覚のものでしかなく不確かだが、相対したモノの魔力を吸い取るかもしれん」
「魔力を吸い取る……?」
「ああ。いくら魔法を乱発したとはいえ、私が歩けぬほどに、つまり生命活動に支障がでる程に魔力が枯渇するのはおかしい。そもそも魔法を放つ時に普通は自らの命を守るために、少なからず使用量が制御されるからな」
「あー。それは危険ですね。伝説の魔王様に魔法を乱発させて、止めが刺せないプルプルって」
「あんなこわいの、ぜたさまがおこったときくらいだな」
「私はそう怒らぬだろう?」
「おれがおしろこわしたとき、すごいおこってた」
「そうなんですか?」
「あれは、みのたうろすが建てられて間もない魔王城を半壊させたのが悪いのであろう。それにまだ我が軍に入る前であったしな」
「しぬかとおもった」
「そのつもりでいたからな」
「え、それでどうなったんですか?」
「こうさんした。つよかったんだ」
「みのたうろすも強くてな。そのまま止めを刺すのも追放するのも勿体無い。攻める側の視点も判る故、我が軍の防衛長に就いてもらった」
「へ~。そうだったんですね、すごい」
「やるじゃねえか、みのさん。魔王様にこうまで言わせるなんてよ!」
若い女性と小太りのおじさんは嬉しそうにする。
「でも、当の魔王はボロボロじゃん。今はそのミノタウロスに抱えてもらってるし、実はそんなに強くないんじゃね」
若い男性が、ゼティフォールを小ばかにしたように言う。
「ふむ。相手に苦戦したのは事実故その点には反論はせぬ。が、多少親し気に話すのは構わないとは言え、貴様流石に礼が成ってないのではないか?」
ゼティフォールは諭すように言う。
「おー、こわ! こんな事で普通怒るか? 王様なのに器ちっちゃくね?」
態度が改まらない相手に、ゼティフォールはため息をつく。
「おまえ、おこるぞ!」
みのたうろすが若い男性を睨む。
「あ~、はいはいわかりました。友達じゃなかったら喋るのもダメなのかよ。ちぇっ」
それに怯んでその男性は去っていった。
「むかつくやつだ!」
「落ち着けみのたうろす。ヒトが多ければ、話の通じぬ輩も増える。あの手のモノには何を言っても無駄だ。もう去って行った以上、怒る時間をあのモノに割くのは勿体ない」
「ぶむ~」
「それに、魔王と聞きヒトビトが恐れた時代は過ぎ去ったのだ。私にとってはほんの少し前だがな」
「ごめんなさい! 失礼なのは承知ですけど、魔王ゼティフォールという名前を聞いても、実際に世界を征服して闇に包んでたとか、一国の王様をしているとか、信じていないヒトも少なく無いんです」
若い女性が謝る。少し震えているのが判る。
「そうであったか。それで、あのモノと知り合いか?」
「いえ、そうではないですけど、同じ街に住む仲間のしたことですから」
「ならば君に今回の件で特にいう事はない。だが何かいうとするならば、個人個人、それぞれに人格があり責任がある。故に君が謝る必要はない。周りのモノ達もな。あとあまり畏まらずとも、怒ったところでひとりのモノの為に街を滅ぼすなどしないさ」
「ありがとうございます」
「ああ」
流石にこの後で楽しい会話をする気になれず、しかし去るのも違う気がして皆だまってしまう。
「ひえー!? た、助けて下さい~」
そこに割って入る様にローランは困りつつも楽し気に悲鳴を上げる。
子どもはローラン相手に戦いごっこをしたり、アスレチックのようによじ登ったりしている。
「悪いスケルトンは~、こうだ!」
ひとりの子どもがローランの腕に枝をぶつける。
「こ、こら! ゼティフォール様~」
ローランがゼティフォールに助けを求める。
「ふっ。自分で何とかできるであろう? 存分に遊んでやれ、ローラン」
「来た! では、王命を頂いたこのローラン容赦しませんよー!」
ローランはガッツポーズをしたあと、囲んでいた子ども達を追いかけていった。
「にげろー! スケルトンにつかまるな~」
一連の流れに空気が軽くなり、周りの皆も笑顔に戻る。
「ああそうだ、みのさん、今回は何の用だ? 武器の手入れか、それともまたパルトが故障したのか? あ、オレと飯にいくか?」
小太りのおじさんが冗談交じりに訊く。
「いや、きょうはしごとだ」
「ちぇー! しゃあねえ、仕事終わったら来てくれ、奢るからよ」
「いいのか?」
「ったりめーよ! いつも息子と遊んでくれてるしな。みのさんに奢るってんなら、カミさんも文句ねえぜ」
「わかった。ごはんのときは、はらすかせとくぞ」
「おう、もう今から楽しみだぜ! じゃあな、みのさん」
おじさんはご機嫌で去っていった。
「丁度いい所に居たんで連れてきましたよ。この街の小さなお偉いさん」
先程の若い女性がいつの間にか少年を連れて来ていた。
「いつの間に。ありがたい」
「おほん! こんにちは、みなサン。魔王様御一行ですネ? ボクはバルバラ、この街の長をしていマス。よろしくどうゾ!」
見た目はニンゲンでいう所の10歳程度の見た目で、白い髪はセミショートだが自分で切ったのか長さがバラバラで、瞳は覗けば吸い込まれそうな深緑。中性的な顔立ちから男性とも女性とも判らず、少しの歪みも傷もない整った顔はどことなく人形を思わせる。服は年季の入った男性用のワイシャツとカーキのズボン着ているが、丈を合わせていないのでズボンは何度も折り返し、シャツは余った部分が手を隠している。
「君がか? このような体勢で申し訳ない。私はゼティフォール、魔王国で王を担っている。こちらこそよろしく」
ゼティフォールはみのたうろすに抱えられながらも挨拶を交わし、バルバラと握手をする。
「気にしないでくだサイ。モンスターの件聞きましたのデ、今魔機を使って街の外をパトロールして貰ってマス」
「おお! 仕事が早いな。助かる」
「バルバラ、ひさしぶりだな」
「みのサン! 久しぶりデス」
「知り合いか?」
「そうだ」
「魔王様もお疲れでショウ。ここで立ち話もなんデスシ、それも含めてボクの家で食事でもしながら話をしませんカ?」
「そうだな。私は抱えてもらっていて少し楽ではあるが、みのたうろすも疲れている。そうさせてもらおう」
「ご案内しマス」
「ああ、あと子どもと遊びに行ってここには居ないが、もうひとりお伴がいるのだ。スケルトンのローランで、黒を基調としオリハルコンの装飾が施された軽装鎧を身に着けている」
「わかりまシタ、探しておきマスネ。あ、みなサン、お話はもういいデスカ?」
「大丈夫、仕事だろ? 邪魔しちゃ悪い」「じゃあね、みのさん、魔王様。またお話聞かせてください」「またねー」「すぐに帰らないなら、また話せるよな」「ありがたやー」
口々に言葉をかけて手を振り、皆もとに戻っていった。
「デハ、飛びますノデ、魔方陣に入ってくだサイ」
バルバラはパルトで地面に魔方陣を展開して、そこに入るよう促す。
「お、知っているぞ。それはパルトさんであろう?」
ゼティフォールはしたり顔で言った。
「ハイ。しかも特注品なんデス!」
「ほう。特注品か、良い響きだ」
魔方陣に入った3ニンは、光に包まれその場から姿を消した。
気づけば広い庭のある、シンプルながらも質の良い邸宅の前に来ていた。
「良い所だ。ここはどの辺りに位置するのだ?」
先程までのヒトや建物でごった返した場所ではなく、邸宅は街の内側ではあるが建物も少なく、自然に囲まれて近くに海も臨めた。
「あそこからさらに東、街の端デス。さあ、入ってくだサイ」
「おじゃまします」
みのたうろすは慣れている様子で、迷う事無く中に入る。
「年代物が多いな……」
年季の入ったアンティークの家具で揃えられていて、本や魔機が沢山並べられている。
「すぐに食事を用意しマス。ダイニングで待っていてくだサイ」
「わかった。たのしみだ」
ゼティフォールはみのたうろすから降り、少しよろめきながらも椅子に座った。それを見届けてからみのたうろすも座る。
「綺麗だな」
「なんだ?」
「西側の窓から外を覗けば夕焼けに照らされた塔や街が見え、東側の窓から外を覗けば夜の闇に包まれた海が見える。昼と夜が混じりあうこの場所は、まるで狭間の世界だな」
「ぜたさま、ろまんちすとだな」
「感じたままを言ったのだが、そう思うか?」
「そうだな。おれはきにしたこと、あまりない」
「そうか。私はこの位の時間が好きだな」
そうこう話していると、バルバラとエプロンを着けたおじいさんが料理をカートに乗せて運んできた。
「おまたせしまシタ。どうゾ」
バルバラ達は待っていたふたりの前に皿を運ぶ。
「急な御来客でしたので、簡単なものですが。質には拘りましたので、お楽しみください」
「これは、食欲をそそられるな」
「ひるも、よるも肉なんて、きょうはついてるぞ」
「アクアドラゴンのステーキ、バルサミコソース。マッシュポテト添えでございます」
「お二方、このエドウィンも一緒に食事を共にしてもいいデスカ? ボクの友人なんデス」
「ああ。私達の話はあまり言い広められても困る内容なのでな、内密に頼めるなら構わん」
「恐れ入ります。では、私めも着席させて頂きます」
バルバラとエドウィンもテーブルに皿を置き、椅子に座った。
「では、頂きます」
まずゼティフォールはステーキにナイフを入れる。
「ほう、肉汁が溢れてきよったわ。ふむ、ウェルダンか」
「ええ。アクアドラゴンの肉は火を通しても柔らかさが損なわれる事がなく、肉汁を保持しやすいのでウェルダンにすることで最大限その肉汁を愉しむことができるのです」
「美味い。食感も独特だな。外側はソーセージの皮のようにしっかりしているが、内側はまるでスープでも食べているようだ。それに、バルサミコソースがいいアクセントになっている。ステーキの濃い目の味付けに対し、優しい味付けのマッシュポテトが調和をとる」
「然様。お判り頂けて何よりでございます」
「アクアドラゴン、うまいなー。まいにちでもくえそうだ」
「ハハハ。それは難しいデスネ。高級食材ですカラ」
「そうなのか?」
「ああ。アクアドラゴンは希少な種でな、滅多に市場に出てこない。故に、今は知らぬが私の知っている時代なら、各国の王でも入手することが困難で、手に入れる為に国庫を開いた熱狂的愛好家がいたとか」
「流石に今は養殖が進み、国庫を開く程ではありませんが、それでも手軽には食べることはできません。しかし、祝い事や今回の様に客人をもてなす時には買われるようになりました」
「時代は刻々と進んでいるのだな。少し取り残された気分だ」
少しだけ寂しげな顔をするゼティフォール。
「私めもそのお気持ち、全ては到底不可能でしょうが分かります。気持ちも体力も、己の一番輝いていた時分で止まっているよう錯覚しますが、残念ながら若きモノが成長し、古きモノは旅立っています。私も、若い頃は名うての魔法使いでしたが、今ではもう……」
と、エドウィンは肩をすくめた。
「そうか。もしかすると私より強いモノもいるやもしれんな」
「彼方様はまだ動けます故、取り戻せるのではありませんか?」
「やもな。エドウィン、ありがとう。だが、余り己を卑下するのは頂けぬ。お互い自身を高めるとしよう、死ぬにはまだはやい」
「ほっほっほ。魔王様にそう言われてしまえば、死人ですら蘇ってしまいますな。では、私めも、この歳ながら久方ぶりに魔法の鍛錬を再開するとしましょう」
「ふぅ~。遅れてすみません、みなさん! いやぁ、子どもの体力は底なしですねー」
扉を開け、ダイニングに入ってきたローランは、バルバラにジェスチャーで席に案内され着席する。
鎧は脱ぎ、絹でできた衣服をまとっている。
「問題ない。まだ本題には入っておらぬからな」
「そうでしたか。あ、これってもしかして!?」
「アクアドラゴンのステーキだ。最近は比較的入手しやすくなっているみたいだぞ」
「へー! もしかして私の分もあったりしますか?」
「ありマス。あ、でもスケルトンは実体型の食べ物は接種できないんデシタカ?」
「チャレンジします! 半実体とか、幽体の食べ物は満足感がないですからね!」
「では、どうぞ。お召し上がり下さい」
エドウィンはローランの席に皿を運んだ。
「じゃあ、いただきます! あ、本題に入っていいですよ。私はステーキを食べてますので。食べられるかわからないですけど」
「くえなかったら、おれがくってもいいか?」
「まあ、食べられなかったらいいですけど、余り期待しないでくださいね」
「わかった」
ゼティフォールは、目覚めたら魔力路が焼けていた事、今まで闇以外の魔法は行の王との契約によってつかっており、その契約が何モノかによって切られ、残っているのが光と雷のみ。そして行の王の行方不明とという情報とともに、近頃怪しげな普通のモンスターとは違うらしい怪物の目撃情報がある事を伝えた。
「それで、雷御さんに警告しに来たんデスネ?」
「ああ。最近何か変わった事は無かったか?」
「変わった事……。そういえば、怪物は聞いてないデスガ、黒っぽい煙みたいなモヤモヤを見かけると、言ってマシタ」
「黒い煙か……。関係あるやもしれぬな。他には? あとその煙はどうしているのだ」
「今の所聞いたのは煙だけデス。気味が悪いから気付いたら消しているみたいデ、被害は無いデス」
「そうか。今後どうなるか判らぬ故、魔王城に来て貰うつもりなのだが、可能だろうか? 煙が怪物と関係が無いとも限らぬしな」
「むずかしいな」
「ええ。この街のエネルギーの殆どを雷御様に頼っていますので、もしいなくなれば機能は停止。この街で生活するのは困難になるでしょう」
「ふむ、水準を下げての生活はできないのか? 雷御が膨大な魔力を持ち強いとは言っても、万が一何かあれば結局この街は機能しなくなる」
「モンスター避けの結界も雷御さん有りきの設計の魔方陣なんデス。だから、もし雷御さんが移動するなら住民と一緒にするしかないデスヨ」
「そうか。では私だけでは決められぬな」
「そうだ、住民のみなさんは幾らくらいいるんですか?」
「住んでいるのは3万ニンデス」
「意外とすくないですねー」
「ハイ。パルトやそれに伴うテレポート関係の条例整備で引っ越しをしなくとも働きに出られるようになりマシタ。なので、昼間は40万ニンから最大60万ニンいますヨ」
「その程度なら、移住できない事もないか? だが、移住を反対するモノもいるだろう、したくとも何等かの理由でできないモノもいるだろう。どうしたものか……」
「チャピランにれんらくするか?」
「そうだな。そうする他なさそうだ」
「あ、あのプルプルについてはどうなったんですか? 今後の対処をどうするかとか、どんな種だったか調べないといけないですし」
「バルバラが街の外を探してくれている」
「もう、れんらくして、どんなやつかチャピランにしらべてもらってるぞ」
「ほう。結果はまだなのか?」
「ごめんぜたさま。じかんかかりそうって、いってた」
「では、プルプルの事についても、移住についてもひとまず連絡待ちだな。それで、其方らは知り合いだったのだな」
「そうなんだ。おれがそとにでたの、さいきんだから、しりあったのは10ねんくらいまえ」
「ボクが街長に就任した時に魔王城からの使者として来て頂いたのが、みのサンデシタ。それからよく話すようになったんデスヨ」
「パルトさんを、たまにしゅうりしてもらってるんだ」
「パルトさんを修理できるのか?」
「ハイ。パルトネルは、チャピランさんと大賢者様が協同で作ったんデス。そして、ボクはここの長であると同時に、大賢者様の後継者のひとりなんデスヨ!」
「ならば修理できて然りか。このような素晴らしい物を作った大賢者に、会ってみたいものだ。今は隠居でもされているのか?」
「いえ、10年前に亡くなりました。100歳は越えていたので、ニンゲンとしては大往生と言えるでしょう」
「そうか、それは残念だ。そう言えば、後継者のひとりと言ったな。他にはどの様なモノがいるのだ?」
「私でございます」
エドウィンが応えた。
「そうであったか。友人同士協力しているのだな」
「ええ。バルバラが政治、私がパルトネルを主に担っております。しかし、互いに力が必要な時には協力し、助け合っております」
「良い事だ」
「そうだ、今日は泊まっていきますカ?」
「良いのか? 泊まれるのであれば情報が入り次第行動に移せる故、私達としても助かるのだが」
「ええ。お構いなく、お寛ぎ下さい」
「助かる。む? ローランいつまでステーキと戦っているのだ?」
「どうしたらたべられるんでしょ~? アクアドラゴンは美味しいんで食べたかったんですが、何度やっても食べられなくて…………」
ローランは落ち込んでしまった。
「もう、ダンテに訊く他あるまい。今回は運が無かったとして諦めろ」
「そんなー」
「宜しければ、食べられるようになった暁にはまた、同じものをお出しさせて頂きますよ」
エドウィンはローランを不憫に思い、微笑みながら提案した。
「いいんですかー!?」
「はい。御所望であれば。それと、今日の所は幽体の食事を用意しましょう」
「ありがとうございます! いや~、うれしいなあ。あ、みのたうろす食べますか? 冷めちゃいましたけど……」
「もちろんだ! もぐぅ。さめても、うまい!」
「それは良かったですね」
みのたうろすはおいしそうにペロリと平らげる。
「よし、少し早いが眠るとしよう。すまないが、先に休ませて貰うとしよう」
「はい。では客室にご案内しますので、こちらへどうぞ」
「わかった。ふたりとも、あまり夜更かしするでないぞ。バルバラ、今日はありがとう。皆のモノ、おやすみだ」
「こちらコソ。魔王様、ゆっくり休んでくだサイ」
「おれは、もうすこしバルバラとはなししてねるぞ。おやすみなさい、ぜたさま」
「私もご飯が終わったら寝るつもりです。おやすみなさい、ゼティフォール様」
「では、参りましょう」
「ああ、頼む」
ゼティフォールは休憩を挟んだことで幾分マシになったものの、まだよろめきつつ立ち上がり、エドウィンの先導のもと眠りに行ったのだった。
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