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紳士さん

4話 ~血、燃ゆる~

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「ゼティフォール様、テレポートで行かなくて良かったんですか? 国境を越えないので他国の許可もいりませんし、楽でしょう」
 テレポート系の魔法は国を越える場合、出発地点と到着地点の国に許可が必要で、もし無断で行った場合罰が課される。
「良いのだ。肉体の方はダンテのおかげで少しほぐれたが、目覚めてから大魔法を一度も使っていない故、少し肩慣らししたい」
「ぜたさま、おれもう、かえって肉くいたい」
「わがままを言うな。魔王軍屈指の力自慢であったみのたうろすともあろうモノが、移動で音をあげてどうするのだ!」
「ぶも~」
「そういえばダンテとみのたうろす、どっちの力が強いんでしょう?」
「おれだ」
「ふむ。ダンテは確かに力自慢ではあるが、みのたうろすには敵わんだろうな」
「そうなんですか?」
「ああ。ミノタウロスはもともと力の強いモンスターだからな。とは言っても、ダンテも負けてはいない」
「そうだぞ。あいつ、かた~いんだ」
「ああ。昨日手合わせした時に、私の正拳突きをあやつ耐えきったのだ。確かに城が破壊されても困る故多少手加減したが、その辺のモンスターであれば木っ端微塵にするのは容易な威力はあった」
「おお! 私も負けてられませんね~」
「おしろ、こわれてたぞ。ぜたさま」
「…………」
「今日、出発するの早かったですね?」
「む、そうか?」
「あさの4じは、はやくないのか?」
「言われてみれば、早いかもしれぬな」
「もしかして、怒られるのが嫌で、見つかる前に逃げたんじゃ……?」
 ローランは恐る恐る質問を投げかける。
「ぜぷと、おこってたな」
「ゼプト? 誰だ? 知らぬなそのような輩は」
「あ! とぼけても無駄ですよ。そもそも、魔王を倒したなんて、知らない方がおかしいでしょ? 何せ、その倒された魔王って、ゼティフォール様本人なのに」
「言うな。あの時は調子があまり良くなかったのだ。むしろ、調子が良ければ第二形態になって刹那の内に返り討ちにしてやったのだ」
 ゼティフォールはニヤリと笑った。
「第二形態なんてあるんですか?」
「…………いや、無い。今はな」
「と言うか、やっぱり知ってるじゃないですか! そうか、テレポートを使わないんじゃなくて、ゼプトに頼めないから使えないのか」
 ローランは納得した様子で、ポンっと手を叩く。
「ちっ。他にテレポートが使えるモノがいればな……」
「でもほら、少しの運動は健康にいいですよ」
 ゼティフォールはローラン、そしてミノタウロスのみのたうろす(名前)と白雷の塔を目指して平原を歩いていた。白雷の塔は魔王城、及び城下町の東に位置する塔で、同じ島にある。歩けば半日程で到着する距離なので魔法で移動した方が早いのだが、
「確かにそうだな。……それに、みのたうろすの二の腕と腹に付いた脂肪を少しでも取ってやらないとな。まったく、衣服をまとった程度で隠せると思うな? いくら平和だったとはいえ、魔王国防衛長がだらしのない体では示しがつかぬわ」
 みのたうろすは身長は5メートルを超える巨体で、金属でできたロングブーツこそ履いてはいるが他は貴族衣装に身を包み、片手には両刃でみのたうろすの身長に届きそうな大斧、ラビュリスを重そうに持っている。それに特注の衣装もお腹のせいではち切れそうだ。
「ぜたさま、つかれた……」
「で、あろうな、見てわかる。あのみのたうろすが400年も鍛錬を重ねているならば、力においては恐れるモノはないと踏んでのお伴選出だったのだがな」
 引きずられた大斧が地面を削り、長い線を描いていた。
「まあまあ、ゼティフォール様。みのたうろすは最近オフィスワークが多いみたいですし、最近の魔王国周辺はチャピラン達の散歩……、もといパトロールで片付く程度のモンスターしかいなかったらしいですかね、仕方ないですよ」
「そうなのか。済まなかったな、お前の事情も知らずに。……ん? みのたうろす、お前実は賢いのか!」
「へへっ。チャピランにおしえてもらったから、いろいろできる。もつかえる」
「まき? 何だそれは」
「魔機っていうのは、道具に魔方陣を描いて魔石か魔力で動く機械ですよ~。昔の魔法道具みたいに単純なものだけとか、一度魔方陣を描けば書き換えられない何てこともないですし、スクロールみたいに一度使えば無くなることもない優れものです。ちなみに、国営で魔力をお金と引き換えに供給する発魔所もあるんですよ、これによって魔機の魔力を充填したり常に魔力を供給しないといけない大型の魔機を難なく動かすことが可能なんです!」
「ほう、随分と便利だな。魔石は取り換えなくてよいのか?」
「ああ、なくなってもふやせる」
「チャピランが発明したんですよ、魔機は。確か、白雷の塔に住んでた大賢者と呼ばれたヒトも手伝ったらしいですけどね」
「私と同じ位に目覚めたはずだというのに、随分詳しいな。さては、私に自慢するために知識を詰め込んできたな?」
「やるな、ろーらん」
「いやー、徹夜した甲斐ありますね~」
「また知らぬ事があれば頼むぞ」
「はい!」
「おれも、たよられたい」
「頼らせてくれ、みのたうろす」
「わかった。がんばる」
 ローランが紙の地図を覗き、気付く。
「あっ! この丘を越えればそろそろ塔に着くはずですよ」
「とうとうか。大丈夫か、みのたうろす?」
「ふい~。げんかいだ」
「では、丘の上で休憩を挟むとしよう」
「そうですね。このローランも、スケルトンになったばかりで体が慣れていないので、疲れてしまいましたよ」
「そうか、あまり無理をするな。白雷の塔で戦闘になるやもしれぬからな、ふたりとも休める時に休んでおけ」

 心地の良いそよ風と春の日差しに包まれながら、ゼティフォール達は昼食をとっていた。
 みのたうろすとゼティフォールは骨付き肉のロースト、ローランは幽肉かそにくのソテーを食べている。
「肉、うまうまー。きてよかった」
「ふっ。お前が喜ぶと思ってな、ムッカネロという黒毛牛の上質な肉を用意させたのだ。存分に味わうがいい」
幽肉かそにくも美味しいですが、普通のが食べたいですねー」
「そういえば、ダンテは食べられるみたいだぞ。ローランもどうにかすれば食えるやもしれぬな」
「そうなんですか! いい事聞いちゃったな。またダンテにコツを教えて貰おうっと。骨だけに!」
「…………」
「あらら? 寒い、寒いです。この間……。恐ろしい程に!」
 骨ジョークをスルーされたローランは凍えてしまった。
「どうしたのだ、みのたうろす?」
「もんすたー、ちかい」
「ああ、良かった。ウケなかったんじゃなくて、聞いてなかったのか」
 ほっと胸を撫でおろすローランであった。
「む? 何だ、ローラン?」
「あ、いや、大丈夫ですよ! それで、モンスターでしたっけ?」
「そうか。……で、みのたうろす、どの辺りだ?」
「あっちだ」
 みのたうろすが北の方を指さす。
「そうか、塔や城下の方面ではないのだな。ならば何処かが襲われている心配は少ないな。よし、お前達はもう暫し休んでおけ。片付けて来る」
「ありがと、ぜたさま」
「ローランもお伴します!」
「いや、良い。本番は白雷の塔だからな」
「わかりました」

「ほう、大魔法を放つに丁度良いやもな。しかし、ひとまず試し撃ちをするか。何、少々減らした所でこの量であれば問題なかろう」
 少し歩いた先には、百近いモンスターの群れがいた。
「バイコーン、それに騎乗したオーガ、ヘルハウンドか。しかし、何故町や食料のある場所ではなく、こちらに向かって来るのだ? オーガはあまり賢くないモンスターだ。あそこまで大きな群れを成すのは異常とも言えるな。もしや何モノかが操っているのか? ふむ、私を狙っている可能性も捨てきれぬな」
 角が2本生えた黒い馬で善良なヒトを貪るバイコーン。岩の様な肌を持った2メートルを超える邪悪な鬼で斧やこん棒等の武器も扱うオーガ。大型犬程の大きさではあるが、亡者の叫びからできた毛を持ち、体は地獄の炎からできていると言われているヘルハウンド。個々としても侮れないが、それが群れを成しているのだ。常人であれば避難するのが定石だ。しかし、ゼティフォールは魔王であった。
 が、そうこう思案する内に、群れはもう目の前にまで迫っていた。
「おっと、もうここまで来たか。やはり殺気をみるに、私を狙っているのに間違いないようだ。…………私を魔王と知っての所業か! ならば相手してくれよう。ただし手加減はせぬ故、覚悟するがいい!!」
 まず1体のヘルハウンドがひとあし早くたどり着き、ゼティフォール目掛けて噛み付いてくる。
「隙だらけだ」
 それを軽く避け、
「────穿て雷光」
 声に反応して右手に貯めた魔力は雷の杭となり、ゼティフォールはそれをヘルハウンドに向けて撃ちつける。
『ギャゥッ!?』
 雷の杭は撃ち込まれておわりでは無く、見る見るうちにエネルギーを凝縮させていく。そのヘルハウンドは杭によって地面に磔にされて動けない。
「ようやく後続がお出ましか」
 5体のヘルハウンドの小隊がゼティフォールを囲み牙に炎を蓄える。そして同時に牙を立てて跳びかかる。
が、ゼティフォールは包囲の隙間を縫って回避し、
「味わうといい」
 指を鳴らす。すると杭は閃光を放ち、雷鳴を轟かせ、ヘルハウンド達に雷槌いかづちを振り下ろした。
「たわいもない」
 雷槌は大地を焼け焦がし、ヘルハウンドの塵も残さず消し去っていた。それをちらと横目で確認すると次の魔法の準備に入る。バイコーンに乗ったオーガがそこまで来ていた。
「────────光刃よ、来たれ」
 光の剣が生成、ゼティフォールを襲わんとする斧をオーガの体ごと真っ二つに切り裂く。
『ギィヤァ!』
 オーガに目もくれずバイコーンはゼティフォールの腹に角を突き刺すべく突進。
 バイコーンの頭に手を置き縦に回転しつつ回避し、体勢を整える。バイコーンはすぐにゼティフォールの居る方へ向き直し、再度突進する。
「ふぅ。……はぁっ!」
 ゼティフォールは正拳突きで対する。それを正面から喰らったバイコーンは大きく吹き飛ばされ、後ろに居た数騎を巻き込み、逃げられない大きなエネルギーがバイコーンの体の中で振動、諸共大爆発を起こして消え去った。
「──────影よ、刹那に来たれ」
 ゼティフォールは己の影に沈み、
「今度は私から行かせてもらおう」
 ゼティフォールはその場から一瞬で消えた。そして、次に現れたのはオーガの影からであった。
「もはや、貴様らに安寧は無い。──────黒刃よ、来たれ」
 気づいた時にはもう遅い。オーガは成す術なく、切り伏せられるしかなかった。周りも驚くばかりで動けない。しかし、それでもヘルハウンドは炎の爪で切り裂こうと襲ってくる。
「無駄な事よ……」
 空振り。そこにはゼティフォールの姿は無く、ヘルハウンドと周辺にいる数十のモンスターはただ空を追うしかできない。
 モンスター達は、突如現れた闇の凶刃によって、成す術無く次々と切り裂かれ倒れ行く。
「そろそろ良いか」
 もう動かぬモンスターの山に現れたゼティフォールは乱れた衣服を整え、ネクタイを締めなおした後、手を天にかざす。すると辺りは次第に暗くなり、塵や小石等小さな物から倒されたモンスターが空に吸い寄せられていく。
「──────闇の化身よ、ここに顕現し仇なすモノを貪り尽くせ!」
 ゼティフォールによって放たれた魔力は力を得て、天を覆い尽くさんとする程大きな漆黒の球体に姿を変える。真ん中から口を開くように裂け、草木や岩、大地ごとモンスター達を吸い込んでいく。
 モンスターは逃げようとするが、それはもはや無駄な足掻き。一歩も踏み出せぬまま、オーガ、バイコーン、ヘルハウンドは姿を消した。
「ふむ。体が温まったところだが、もう終わりか。…………む?」
 ゼティフォールは異変に気付く。何もいないはずの、剥き出しの地面の中心にはいた。
「プルプルか?」
 プルプルゼリー状の丸いモンスターで、変異種は存在するが基本的には弱い種族。しかし、
を喰らって、尚も生きているのか?」
 黒い体の中には、血のように紅い炎が揺らめいている。目はないが、こちらを見据えているのが判る。
「ただのモンスターでは無さそうだ」
 そのプルプルは先程までのモンスターと格が違う。音も風も凪ぎ、目視できる程濃いマナを体に纏い、肌をジリジリと焦がす程の熱い敵意を放つ。
「…………行くぞ。──────闇、解き放たん!!」
 ゼティフォールの体から吹き出した大量の闇は渦を巻いて体を包み、深紅の瞳は幽かに燃える。
 地面を蹴り、一瞬でプルプルとの距離を詰める。着地するより先に手刀で薙ぐ。が、プルプルは髪の毛一本分の所で回避。ゼティフォールは間をおかず反対の手をかざし、闇魔法を放つ。散弾銃の様に放たれたそれは、プルプルを確実に捉えた。
 だがプルプルは撃ち込まれる寸前で紅い盾を作り出し魔法を防ぐ。ゼティフォールはその間に着地し、拳に魔力を溜め、盾の無い側面から殴る。直撃。魔力は爆発を起こし、プルプルはダメージを受けつつ吹き飛ばされた。
 ゼティフォールはそれに闇のレーザーで追撃するが、そう甘くはない。プルプルは紅い刃を飛ばし、レーザーを切り裂きつつゼティフォールに攻撃を仕掛ける。それに気付いたゼティフォールは魔法を止め、横に跳んで回避する。プルプルはゼティフォールが回避した先に紅い槍を投げる。
 ゼティフォールも咄嗟に闇で盾を作って防ごうとするが、槍の威力が高く急ごしらえの盾を難なく貫通。しかし、できた一瞬の隙に体をねじって回避行動をとる。ゼティフォールは肩を掠めるだけに済んだ。
「面白い」
 闇の渦によって威力を弱められ、掠めただけだというにも関わらず、肩はえぐれている。
 敵は待ってくれはしない。プルプルが跳んで迫ってくる。ゼティフォールは傷をさっと魔法で治し、腰を落とし姿勢を低くする。
 プルプルは深紅の炎を纏って、スピードを落とすはおろか、勢いを増してくる。
 拳を引き、息を整え、拳を敵目掛けて撃ちこんだ。お互い真っ向からぶつかり、空気が裂かれ轟音が鳴り響く。威力は凄まじく、どちらも後退ってしまう。が、同時に動きだす。
 ゼティフォールは闇で剣を、プルプルは紅い炎で刃を作り、袈裟切り。相手に届かぬと察するや否や刃を返してまた打ち合う。プルプルがゼティフォールの首を捉えようとすれば剣で弾き、ゼティフォールがプルプルを真っ二つにしようとすれば刃で弾き、攻撃を躱し躱され、多少の切り傷には目もくれず、互角の戦い繰り広げられた。
 しかしそれもそう長くは続かなかった。いくら魔法の武器といえど、強度には限界がある。まずゼティフォールの剣にヒビが入った。まもなくプルプルの刃にもヒビが入り、この剣劇の終わりが近い事が告げられる。
 同時。そう同時に武器が折れた。どちらも知っていた。その瞬間に隙を見せればやられることを。
 故に抜かりなく、次の行動がとれたのだ。
 ゼティフォールは闇の球を左の手から放ち、プルプルは紅い炎の球を放った。それらがぶつかり爆発を起こす。それでは終わらず、両者とも絶え間なく魔法を撃ち合い、譲らなかった。
「なかなか手こずらせてくれるな!!」
 このままでは決着が着かないと見るやゼティフォールは大きく横に移動する。移動によって相手の魔法が来るまでの時間が増え、魔力を練ることができる。
「────雷よ、彼のモノに鉄鎚を下せ!」
 地面から上空にかけていくつもの魔方陣が形成され、魔法から逃れようとプルプルは魔方陣の中心から移動する。
『!?』
 しかし、結界がそれを許さない。
「存分に喰らうがいい!」
 天を貫く轟雷が、ひと欠片の容赦なくプルプルを打ち砕かんと降り注ぐ。
 免れないのを察したプルプルは、短い時間の中で最大限厚い結界を作り、隙間なく自分を覆う。少しでも隙間があれば相当な痛手となるからだ。
 そして、雷が止む。プルプルは生きていた。しかし、やはりと言うべきか、確実にダメージを与えていた。内に宿る炎の揺らめきが不安定で、纏うマナも減っていたのだ。
『──────!!!』
 プルプルから魔力の波動が迸る。ゼティフォールはその波動を思わず手で防ぐが、気配を感じてうえを見上げた。
「何!?」
 すると、上空で深紅の槍が無数に浮かび、どれもゼティフォールを補足していた。
「──────光の槍よ、」
 ゼティフォールも対抗すべく、光の槍を無数に生成する。一本でも少なければ串刺しにされかねない。
尽くことごとくを打ち砕け!!」
 ゼティフォールが言うが早いか、互いの槍がぶつかり合い砕けていく。ゼティフォールはその場から動けずにいた。深紅の槍は一度動けば自分を狙って真っすぐ飛んできているが、もしこの場から自分が動いてしまえばどこに飛んでくるか判らない。追うように飛んでくれば良いが、動きを予測して飛んでくるならばこちらが。そうなれば最悪防ぎきれず、やはり串刺しになる。
 しかしこの撃ち合い、こちらが勝ってもメリットはないが、相手が勝てば決着がついてしまう。
 それだけではない。こちらが上に意識を取られている以上、横ががら空きなのだ。相手が攻勢である故に一歩早く次の一手を打てる。守りにまわればジリ貧だ。打開しなくてはならない。
「一か八か。…………今だ!」
 相手の槍が少なくなったのを見計らい、光の槍を爆散させる。深紅の槍は勢いが凄かっただけに、少し軌道がずれればゼティフォールに当たりはしなかった。
「行け!」
 一本だけ残しておいた光の槍をプルプル目掛けて飛ばす。それをプルプルは紅い盾で防ぐ。
 が、それで問題ない。相手の攻撃の手を止めるのが目的だからだ。
「そろそろ決着をつけるとしようではないか!」
 ゼティフォールはプルプルに呼びかける。その言葉を理解してか、プルプルがこちらに向き直る。
「────────────我がしもべたちよ、我が声に応え仇なすモノを消し去れ!」
『────────────×××××!』
 ゼティフォールは掌大の暗黒の球を放つ。その球はゆっくりと進んでいき、ある程度ゼティフォールから離れた所で本当の顔をみせた。全てのモノを吸い込むかと思われる程にあらゆるモノを引き寄せ、近づいたモノは暗黒の球に触れ、次々と消え去っていく。それが草木であれ、砂や岩であれ、風や光りであっても。
 プルプルは深紅の球を放つ。それはまっすぐゼティフォールと、道すがらの暗黒の球目掛けて飛んでくる。周囲を巻き込むことは無かった。互いの魔法がぶつかり合うまでは。
「…………どうなっているのだ?!」
 魔法がぶつかった途端波動が幾度となく放たれ、その度に周囲の色が文字通り反転した。深紅であった球は暗黒の球と重なり混ざり合い、それは既にどちらかの魔法ではなく、どちらにとっても脅威になっていた。
 混ざり合った魔法は波動を放ちつつも今度は無理やり抑え付けられているように凝縮されていき、抑圧されてエネルギーは不安定さから大地を揺るがす。
「な、何ですかこれは!!?」
「ぜたさま!?」
 あまりの異変にローランとみのたうろすがやってきた。
「そこは危険だ。こちらへ来い!」
「わかりました!」
「たいへんだ!」
 ゼティフォールは残ったありったけの魔力を使い魔法を唱える。
「──────陰陽対為る大いなる行よ、今手を結び力と成せ。そして、我らに強固たる盾を!!」
 光と闇の大きな勾玉が現れ、それが連なり円になると結界を出してゼティフォール達を包み込んだ。
 ──────刹那。極限までエネルギーを抑圧された魔法は限界を迎え、大爆発をおこした。
 
「助かったのか……」
「す、すごいですね」
 途中結界にヒビが入ったものの、皆爆発は免れた。
「なにもないぞ」
 深さは百メートル、半径は数百メートルものクレーターができていて、その内側にはゼティフォール達以外何も無かった。先程まで昼食をとっていた丘も、影も残さず消し去られていたのだ。
「あのままこちらに来なければやばかったですね…………」
「きてよかった」
「ああ。……ぐぅっ」
 魔力を使いすぎて、ゼティフォールが眩暈をおこした。
「だいじょぶか、ぜたさま!?」
 咄嗟にみのたうろすが支える。
「ああ、すまない。……それより紅と黒のプルプルはいないか?」
「プルプルですか?」
 周囲を見渡せど、一向に見当たらない。少なくともクレーターの中で見落とすことはないはずだ。
「見当たらないですね」
「本当か? 黒の体の内に血のように紅い炎が揺らめくプルプルだ」
「ええ。聞いた事無い種類ですね。希少種でしょうか? 調べた方が良さそうですね。こんなクレーターが作れる程の魔法を使えるのは危険ですからね」
「さきに、とうにいこう」
「そうですね。ここは周りから丸見えですし、塔の周辺には宿の一つくらいあるでしょうから」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
 ゼティフォールが歩こうとするが体勢を崩し、またも倒れそうになる。
「むちゃするな、ぜたさま。おれ、はこぶぞ」
「ああ。頼んだ」
 斧を持つ逆の手でゼティフォールを持ち上げ移動する。
「魔力の使い過ぎでそこまで消耗するものなんですか?」
 クレーターを抜け、幾らか歩いた所でローランが訊いた。
「ふむ……。いくら生命のエネルギーといえど、死なぬように普通は最低限残るようになっている。が、あのプルプル、異様な雰囲気であったからな。何かあるのやもしれぬ」
「そうですか。やっぱり連絡できるようになったら、すぐに調べてもらわないといけませんね。チャピランなら何か判るかもしれませんし」
「ああ」
「あ、みえたぞ! すごいなー!!」
「ほう! ここまで発展しているとは」
「街ですね!」
 天にも届きそうなほど高く聳え立つ白雷の塔。しかしそれだけでなく、周辺には数十階建てのビルが建ち並び、民家や店も数えきれないほどある。それに加えて、街全体に電気が供給され、それを使って動く移動床や転送装置にエレベーター、車や列車、ロボットや機械類等、ここは電気によって発展した驚くべき程にハイテクノロジーな街であった。

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