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弱者

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「……ッガルゥアアアアアアアアアアアッ!」

 ニステルの絶叫が地下室に響き渡る。天井の埃が落ちてくるほどの音量。ビリビリと振動が内臓にまで伝わってくる。

 今までのニステルからは考えられないほど、余裕の無い声。

 それは自分を奮い立たせるウォークライだった。

『煩い』

 シュウゥゥゥ、消えていたサンドリアが再構成され、ニステルの頭上に現れる。

「!? ルゥアァッ!」

 ニステルは血界を身にまとい、頭上のサンドリアに体当たりする。

 すべてを削ぎ取る朱いオーラ。

 サンドリアに激突するところを幻視して、思わず目を伏せる。

『こんなものか』

 ギャりりりり、リュリュリュ!

 サンドリアは退屈そうにその突撃を片手で止めていた。

 火花が散り、空気が焼ける。

「あ、アタシの血界が効かない!? ガハァッ!」

 破朱ッ!!!

 どこからともなく現れたムカデがおもむろにニステルを血界ごと薙ぎ払い、彼女は再び壁に激突した。

『霧散するまでも無かったか』

 サンドリアは柔らかそうな少女の手をさすって、言い放つ。瞳はどこまでも冷たい。

 そして、フ、と嘲笑。

(なんか覇王みたいなんだけど)

「ア、アタシを、睥睨ナメるナァーーーッ!!!!」

 怒りに絶叫したニステルは、地を駆ける。

 地面が抉れ、無数の軌跡が生まれる。

『下らぬ。自分の居場所を教えているだけではないか』

 シュンッ! シュンッ! シュンッ!

 サンドリアの周囲を高速で飛来する朱い影。やがてその包囲は狭くなっていき、すっとサンドリアが掌底を真上に突き出した。

 同時にサンドリアの顔面を高速回転したニステルの踵が捉える。

「もらった!」

 ぼふん。

 しかし、その目論見は外れる。信じられないことに、サンドリアの頭部が消失して霧散した。ニステルは勢い余って前に大きくつんのめる。

(こ、これが完全霧化……ていうか攻撃無効化じゃん)

「ゴブフゥッ!」

 頭上からの渾身の踵落としをすかされ、顎にカウンター掌底を叩き込まれる。

 クルクル、と回転するニステル。

 サンドリアは宙を舞う彼女の頭にそっと手を当てた。

『……霧迅掌』

 牙不ォン!

 サンドリアの掌で突如、無色の爆発が起きた。空気が幾層も震え、ビリビリと見る者の鼓膜を打つ。

 ニステルは一瞬で意識を刈り取られ、吹き飛ばされる。その間に地面に何度も叩きつけられ、四肢を打ち付け、やがて慣性がゼロになり……止まった。

 ……よかった、まだ息はあるみたいだ。

「ふぅー、ケ、ケイ? 見ててくれた?」

 きゃっきゃと嬉しそうに僕にふよふよ近付くサンドリア。顔に血がついている。

 思わず一歩後ずさりそうになりながらも、何とか堪えて返事する。

「う、うん。すごかったよ。さっきのはなに?」

「え、えへへ。あのね、あれはベス姉さんとプティ姉さんを参考に開発した技だよ。き、霧を掌に凝縮した後、爆発させるんだ」

 なるほど、分からん。

 霧って凄い。ていうかプティってプテュエラのことだよね? いつのまにそんな風に呼んでたんだ。

「そ、そっか。すごいね。サンドリアは。助かったよ。ありがとうね」

 それでも、やっぱり目の前にいるのはいつもの三白眼ヤンキーちゃんな訳で。

 なでなで。

「う、うぇへへ」

 いつも通り撫でてしまった。
 
 うーん、サンドリアさんって言った方がいいかな?

……

「ニステルっ! ニステルっ!」

 僕がへとへとになって座り込んでいると、ジャンゴさんがニステルに駆け寄る。おっさん奴隷が冷静に脈や呼吸を計っている。

 ジャンゴさんはゆすって起こそうとしたが、躊躇して止めた。そりゃそうだ。彼女、腹に穴が一つと大きな抉れが一つあるからね。ていうか僕も少しは心配してほしい。

「ジャンゴさん」

 その後に続く言葉が見当たらない。彼の様子を見ればわかる。さっきも嬉しそうにニステルについて話していた。特別な存在だったのだろう。

 僕が言いよどんでいると、はっと彼が我に返り僕に土下座してきた。

「タネズ様ッ 申し訳ございませんッ!」

 ジャンゴさんは額を地面に擦り付け、大声で謝ってきた。

「当商会のニステルが大変な無礼を致しましたッ! 誠に申し訳ございませんッ!」

 彼も内心複雑なんだろうな。

 ニステルがめちゃくちゃ心配だけど、まずは顧客に謝らなければいけない、という気持ちが交じり合っていそうだ。

「いえ、気にしないでください」

 謝り続けるジャンゴさん。正直僕も余裕が無い。今になって体にどっと疲れが押し寄せてきた。異常に眠い。あと寒い。血が足りていないのかもしれない。

「ケイ、ち、治療した方がいいと思うな。シュリ姉さんを、よ、呼んだ方がいいよ」

 シュリ姉さん?

 シュレアのことか?

 ていうか治療って……、あ、そう言えばラミアルカを一度治療していたっけ。

「分かった、呼んでみるよ」

 召喚は、よし、なんとか一回くらいはできそうだ。

 パチン!

 契約者チャンネルを開き、サンドリアとシュレアを参加させる。

『シュレア、今いいかな?』

『ケイですか。嫌ですが、いいですよ。ちょうど畑の世話も終わりましたし』

 どっちやねん。

 ちょっと機嫌良さそうなシュレアの声。僕よりずっとスローライフしてね?

『あ、シュリ姉さん。えっと、ケイが戦って怪我しちゃったの。だから治してあげて欲しいなって』

『……ケイが怪我? サンドリア、護衛はどうしたのですか?』

 シュレアの極寒の声色。めっちゃ怖い。

 う、とサンドリアが縮こまる。 

『そ、その、ケイが誇りをかけて戦っていたから、あの、その、邪魔しちゃいけないなって。ごごごごめんなさい』

 サンドリアめっちゃビビってる。でも分かる。シュレア怖いよね。可愛いけど。

 シュレアは少し沈黙した後、はあ、と溜息を吐いた。

『まったく、ベステルタの悪いところが移ったようですね。まあ、そういうことなら見逃してあげましょう。それで、ケイは勝てたのですか?』

『う、うん。相手が変身するまでは勝ってたよ。む、向こうも負けを認めていたかな。相手が朱いオーラの虎に変身してからは一方的に負けちゃったけど……』

『朱いオーラの虎、ですか』

 あら、シュレア教授何か思い当たる節でもあるのかな。

『で、でもっ、ケイはか恰好良かったよ! 練喚攻と殲風魔法、地毒魔法、あとあたしの千霧魔法を巧みに使って格上に勝ったんだ! 霧をたくさん使ってくれた……え、うぇへへ』

『ふむ、私の魔法は? 話に賢樹魔法が出てきていませんよ?』

『あっ……。ご、ごめんなさい。そこまで見てなかった。ケ、ケイ、よろしく』

 サンドリアが急にフェードアウトしやがった。こんなところで霧化するなよ。

『ケイ? 賢樹魔法は?』

 シュレアの詰問に屈して洗いざらい吐いた。

……

「それでは治療しますよ」

 その後状況をシュレアに説明し、彼女を召喚した。

 ジャンゴさんとおっさん奴隷は目を丸くして、震えていた。ちなみにショタ奴隷はずっと気絶している。彼らの監視はサンドリアがしてくれるらしい。この光景を外部に漏らされたら、流石に厄介だからね。

「さあ、揺り籠に入って来てください」

 久しぶりのシュレアは相変わらず嫌そうな目で僕を見てきた。でも、なんか、いつもより視線が……濃い?

「う、うん。よろしくね」

 ううぅ、この揺り籠いろいろやばいんだよなぁ。

「任せてください。リンカも張り切っていますよ」

(……!)

 ぐにょぐにょ、とリンカの顔が変化する。

 シュレアはこっちに来るにあたって、リンカを身体に宿してきた。前みたいに背中に蠢く人の顔が浮き出ている。召喚って亜人だけしか無理なのでは、と思ったが「同化していれば問題ありません」とのことだった。

 こっちには樹木が無いので、リンカにいったん絶死の樹木(ドルガンさん曰く、ラクール樹だったっけ?)たちの力を移して持ってきたらしい。リンカちゃんまじ有能。

 シュレアは前見たような花園を地下室に作り出していた。すごい違和感があるけど、退廃的な美しさがあるな……。

 ざむ、ざむ、と花園に分け入っていく。

「おかえりなさい、ケイ」

 いつもと違う妖艶なシュレアの微笑み。ぶるり、と体が震える。

 彼女を中心に広がった、樹木やら花やら草木達に出迎えられ、僕の身体は優しく絡めとられる。シュレアが作り出したコクーンに僕は横たわった。

 ふわふわぁ。

 全身をシュレアの触手で包まれる。顔も草で覆われ、目の前にシュレアの頭部だけが現れる。他は真っ暗で何も見えない。

「ふむ……激しい戦いだったようですね」

 唇と唇が触れ合うほどに近い。この匂いから逃れられない。

「全身のいたるところに裂傷と打撲、骨にひびが入っています。喉と内臓も傷付いていますね。血も足りていません。常人ならきっとショック死していますね」

 マジかよ。そこまでやばかったのか。頑健スキル様、ありがとうございます。カンストさせておいてよかった。

「それにこの右腕……先ほど説明してもらいましたが、やはり異様です。清浄な気配しかしませんが。ふむ」

 やっぱり右腕はおかしいのね。結構ダメージ大きかったのに、右腕だけやたらと回復が早かったし。

「そうですね、やはり血が足りません。輸血しましょうか」

 え、そんなことできるの?

「できますよ。まあ、輸血と言うより私の液状にした魔力をケイの身体に根付かせるだけですが」

 ……聞いてるとやばそうなんだけど。

「このまま放っておいたら回復に時間かかりますよ、はい。注入します」

「え、ちょっ」

 ぷすっ。ぞわわわ。

 あ”ーなにこれえ”え”え”え”ぇぇぇ。身体が溶けるぅぅぅ。

 全身を温かくてねっとりしたものが駆け巡る。

 ずみょみょみょ。

(……♪)

 「♪」じゃないよリンカ。なんかやばいことしてるでしょ。あっあっ、なんか血管がずぽずぽされてるぅぅ。

「リンカと私で手分けしてケイの全身の血管に魔力と栄養を行き渡らせています。あと、ついでに掃除してます」

 ずみゅずみゅ。

 全身を内側から羽毛で撫でられている感覚。それが何百本も同時に動かされる。

 バカになりゅ。血管犯されてりゅ。

「ふむ、生命の危機を感じたからか、こちらも元気ですね。久しぶりに搾精させていただきましょうか」

 ちゅぷっ。

 股間に何かがかぶせられる。それが勢いよく蠢き始めた。

 じゅろろろっ、ちゅぷ、にゅくく。

「ひぃぃぃぃ、ん、んむっ」

「ケイは気を楽にして、私たちに身を任せてください」

 暗闇の中、シュレアの頭部が僕の口を塞ぎ、甘い樹液を送り込んでくる。

 舌が優しく動き、歯茎や口蓋を愛撫する。

 ちゅこちゅこ。ぐぷぷ、ぬくくっ。

 搾精も一定のリズムで行われ、もう何度も吐き出してしまった。

「んくっ、んくっ、久しぶりですね……こうやってゆっくりするのは」

 シュレアは美味しそうな表情で僕の舌を頬張る。もしかして、別の受容器で味を感じているのだろうか。

「んむむーっ」

「ケイ、静かにして……。はい、おやすみなさい」

 ぷすっ。

 あっ。あっー……。

 くちゅくちゅ、とシュレアに全身に貪られつつ、僕の意識は快楽と眠気に支配されていった。
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