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俺の浅はかさと一緒によ
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「マイア……ごめんなさい」
「い、いえいえっ。ルーナさんが悪いんじゃありませんっ。気にしないでくださいぃ」
マイアのプレゼント仮説に一考の余地ありと皆に伝えるとルーナが無言でマイアに頭を下げ、死んだ目で謝り始めた。マイアもめちゃくちゃ動揺している。あれだな、謝罪には土下座が効くっていうけど死んだ目も効くな。
「もし、因子が譲渡可能だとしたら厄介だな。因子の特定が難しくなりそうだ」
ゴドーさんが相変わらず難しい顔で発言する。
ていうか、特定?
「特定してどうするの?」
「何言ってんだ。因子を探しだして、ケイが浄火するに決まってんだろうが」
……え、そうなの?
反対意見も出ない。あれ、そういう流れなのか?
「ごめん、今更なんだけどアセンブラの因子って、浄火して良かったの?」
なりゆきで滅ぼしたけど分身だよね、あれ。本体気付くんじゃないか?
「良いか悪いかで言えば、良いに決まっている。少なからずアセンブラの力を削げるからな」
よくやった偉いぞ、とプテュエラが褒めてくれた。翼で優しく包んでくれる。いや嬉しいけど。孵化したくなるけど。
「でも、分身を滅ぼしてアセンブラに気付かれないかな? それが心配なんだ」
アセンブラって一応現世を支配している神なんだよね? そんなやつに気付かれて神の軍勢とか差し向けられたら詰みそうなんだが。亜人がそう簡単に負けるとは思えないけどさ。
「ケイの懸念は尤もだ。アセンブラも分身の消滅におそらく気付いたはず。何かしら対抗手段を打ち出すかもしれん」
あかんやん。やばいやつやん。否定してほしかったよ。
おいおい、知らないうちに分水嶺越えてた? ポイント・オブ・ノーリターンってやつ? 後戻り不可ですか?
はぁ……。ままならない。でもああするしかなかったよね。シャフナさん放っておくわけにはいかなかったし。アセンブラ教徒でもさ。
「ケイ、そう気を落とすな。お前の行いはジオス神の使徒として誇るべきものだ」
「そうよ。この数世紀、誰もできなかったことをやってのけたのよ? ケイは神に傷を負わせたの。さすがわたしの契約者ね」
めっちゃ褒めてくれる。え、えへへ? いや、だめだろ。神に傷負わせるとか次のページで滅殺されるよ。
「その様子だと亜人様も喜ばれているんだろ? ならいいじゃねえか」
不敵に微笑むゴドーさん。
「でもさ、アセンブラが対抗してくるかもしれないよ?」
「使徒ケイ様。それに関してはこのフェイからご提案がございます」
すっと、直立するフェイさん。「この」っていうの止めてくれ。完全にカリンスタイルじゃないか。カリンもうんうん頷くなよ。
フェイさんは狐目をさらに細くして、にこやかに爆弾発言をした。
「本日、外でお目に触れたかもしれませんが、スラム住人を訓練しケイ様やカリン様をお守りする『ジオス神兵隊』を設立しようと考えております」
……。
ばっ、ばっ、
バカヤローーーーーーーー!
何やってくれてんの。すべてアウトだよ。却下だ却下。なんよ神兵って。さっき訓練してたのってそれを見越していたのか? ていうかヒキニートとかむさくるしいおっちゃんとかだったぞ。いいのかそれで。問い詰めたい。それが神兵でいいのか問い詰めたい。そもそも神兵ってなんだよもう。はぁはぁ、動悸がしてきた。
「ケイ様より事前に密命を受けていた諜報隊も統合し運用する次第であります。……これを見越して事前に諜報隊を組織しておくとは、さすがでございます。このフェイ、深く感銘を受けました」
狂信アイで僕を見つめるフェイさん。
だめだ、パターン入った。
確かにアセンブラの情報を得るためにそういう要請はしたけどさ。神兵隊はやりすぎなんじゃないかなって、思うんですよ。
「神兵隊……素晴らしい響きです。フェイ、よくやりましたね」
「はっ!」
案の定、カリンは神兵隊設立に賛成のようだ。フェイさん跪いてるし。完全に従者のそれだよ。
「まあ身を守るためには必要だわな。いいと思うぜ?」
「神兵隊って名前はちょっとあれだけど……ルーナだけじゃ厳しいだろうから、私も賛成かな」
亜人達にも伝える。
「いいんじゃない? 戦力が多いに越したことは無いわ」
「訓練が必要ならば手伝ってやろう」
彼女たちも賛成みたいだ。プテュエラの訓練とか竜巻を素手で倒すとか? 人類には無理だと思うんだが……。
となると、護衛じゃなくて教官役の奴隷を購入した方がいいのだろうか。
ていうかみんな神兵隊設立には賛成なのね。分かった。分かったよ。アイデアとしては認める。でも、ネーミングが嫌すぎる。せめて傭兵団とかにしてほしい。その方が対外的にもやりやすいでしょ。神兵隊を名乗るスラム住人とか、胡散臭すぎるもん。
だめだマジで頭痛くなってきた。話を変えよう。
「そう言えばアセンブラの情報って集まった?」
「申し訳ございません。諜報隊も発足して間もないので重大な情報はまだ掴めておりません。現在ある情報ですと……パウロ」
「はい。報告しやす。ここ最近、アセンブラの連中は『羽衣草』の仕入れを増やしているようです。冒険者たちにも積極的に採取するように呼び掛け、報酬も上乗せされているようですぜ」
パウロが意外にもすらすら答えた。実は優秀なのかな?
ただそれよりも気になるのが。
「羽衣草?」
初めて聞く素材だ。そう言えば初心者講習にもそんな名前のパーティーがあったよね。ぼろ布まとった子達。何か関係あるのかな。
「羽衣草はアセンブラポーションの原材料だよ。製法はもちろん秘匿されているけどね。たまに採取依頼が出されることがあるんだよー」
シルビアが教えてくれた。そうなんだ。やっぱここら辺は詳しいんだな。
「冒険者ギルドの初心者講習に行ったとき、羽衣っていうパーティーがあったんだけど、何か関係あるの?」
以前から感じていた疑問をぶつけてみた。何か違和感のあるパーティーだった。冒険者にしては装備がお粗末すぎたし。
「ああ……それはアセンブラ教会が運営している孤児院出身のパーティーのことですね」
カリンが答えた。あっ、なるほど。そこに繋がるのか。
「ある程度見込みのある男女は、孤児院から幾らか支援を受け独立し、『羽衣』のパーティー名で冒険者登録すると聞き及んでいます。パーティーは番号で管理しているらしいです」
あー、それでラーズさん何番目か聞いていたのか。なるほどね。腑に落ちたよ。それにしても孤児院出たばっかりだからあんなぼろぼろの恰好していたのか。うーん……なんというかいろいろ勘ぐってしまうな。子供たちを使って搾取してんじゃないだろうな。やっていてもおかしくない。
「その子供たちは大丈夫なの?」
「それが意外と問題ないそうです。アセンブラ孤児院が『羽衣』から報酬を取り上げることは無く、あくまでも子供たちの支援に徹しています。それに活躍した羽衣の冒険者は、腕を見込まれて教会本部の仕事を斡旋されるとのこと」
淡々とカリンが述べる。ふーん、ちゃんと慈善事業はやっているのかね? たとえそれがポーズだとしても、偽善だとしても、救われる人がいるなら、ある程度認めざるを得ないよね。
「……ふん。奴らのことだ。どうせ必ず裏がある。ケイ、お前も使徒ならアセンブラの偽善に騙されるなよ。小物の偽善と巨悪の偽善じゃ、その意味は大きく違ってくるんだからな」
うっ、ゴドーさんに釘を刺されてしまった。言葉に重みがある。正直、使徒としてのバランス感覚が難しいんだよね。未だにどこまでアセンブラに非情になればいいのか分からない。結局アセンブラ教徒らしいシャフナさん助けたしね。みんな気を遣って何も言ってこないけどさ。
「ケイ様。わたくしとしても、ゴドーさんの言う通り、アセンブラの良い側面を見て評価するのは危険だと考えています。あの者らは、長く世の中に巣食っています。どうか慎重な判断をしてくださいますよう……」
カリンにもお願いされてしまった。ううむ、そうだよね。僕は僕の大切な人たちのために非情になるべきなんだろうな。少しだけでも。
そして、ほんの少しだけ、沈黙が続いた。
腕を組んでいたゴドーさんがおもむろに語り始める。
「ケイ。俺はな、身内を、妻を、アセンブラのクソどもに害された。
先代デイライトの治世での話だ。あの頃は今より獣人差別が酷かった。先代デイライトとアセンブラ教会が癒着しまくっていたみたいでな。アセンブラ教会の司祭やら神父やらが連日信者どもを引き連れて、街ででかい顔していたんだ。俺はその頃まだ何も知らない青二才でな。金の集まるデイライトで一旗揚げようと思って、渋る妻を説き伏せて引っ越してきたんだ。最初はブラガとつるんで冒険者をやっていたんだが、どうも鍛冶の方が向いていると分かってな。思い切って転向したら、大当たりだ。俺には鍛冶の才能があったらしい。毎日腕の良い冒険者が訪れて来て剣を打ってくれ、防具を造ってくれとせがまれた。正直天狗になってたな。出来ないことはねえ、と勘違いしてた。そんなダサい俺を妻は笑って支えてくれた。
夢中になって武具を鍛えている内に、アセンブラ教会が俺の噂をかぎつけたらしい。ある日、アセンブラ教会のお偉いさんの使者がやってきて、『貴様は薄汚い獣人だが、その腕を見込み、毎日無休でアセンブラ教会に尽くす栄誉をくれてやろう』と言ってきやがった。ひどく傲慢な態度でな。ムカついた俺はそいつを一喝して追い出してやった。痛快だったぜ? その時はな。
次の日、俺が納品から戻ると、妻が変わり果てた姿で店の床に倒れていた。奴ら報復しにきやがったんだ。抵抗する妻に爛れの呪いをかけやがった。呪いのかけ方知っているか? 四肢を拘束して、全裸にした後、全身に特殊な器具で入れ墨彫っていくんだ。一生消えない魔法陣を体に刻み込むのさ。
その時から妻は全身が爛れて膿まみれの日々を送っている。毎日苦しんで、綺麗な髪は抜けきって、それでも俺の心配をしてくれる。一方で、そんなことした奴らは薄汚い獣人に天誅を下したとか、英雄的行為だとか、ほめたたえられて出世してやがる。なぁ、ケイ。こんなこと許されるのかよ? 俺たちが何したって言うんだ? 俺たちはただ必死に生きただけだ。アセンブラってのはそんなに偉いのか? なぁ、ケイ。頼む。奴らを薙ぎ払ってくれ。その右腕で浄火してくれよ。俺の浅はかさと一緒によ」
ゴドーさんはそう言うと、猛獣のような瞳を燃え滾らせ、にやりと笑った。
「い、いえいえっ。ルーナさんが悪いんじゃありませんっ。気にしないでくださいぃ」
マイアのプレゼント仮説に一考の余地ありと皆に伝えるとルーナが無言でマイアに頭を下げ、死んだ目で謝り始めた。マイアもめちゃくちゃ動揺している。あれだな、謝罪には土下座が効くっていうけど死んだ目も効くな。
「もし、因子が譲渡可能だとしたら厄介だな。因子の特定が難しくなりそうだ」
ゴドーさんが相変わらず難しい顔で発言する。
ていうか、特定?
「特定してどうするの?」
「何言ってんだ。因子を探しだして、ケイが浄火するに決まってんだろうが」
……え、そうなの?
反対意見も出ない。あれ、そういう流れなのか?
「ごめん、今更なんだけどアセンブラの因子って、浄火して良かったの?」
なりゆきで滅ぼしたけど分身だよね、あれ。本体気付くんじゃないか?
「良いか悪いかで言えば、良いに決まっている。少なからずアセンブラの力を削げるからな」
よくやった偉いぞ、とプテュエラが褒めてくれた。翼で優しく包んでくれる。いや嬉しいけど。孵化したくなるけど。
「でも、分身を滅ぼしてアセンブラに気付かれないかな? それが心配なんだ」
アセンブラって一応現世を支配している神なんだよね? そんなやつに気付かれて神の軍勢とか差し向けられたら詰みそうなんだが。亜人がそう簡単に負けるとは思えないけどさ。
「ケイの懸念は尤もだ。アセンブラも分身の消滅におそらく気付いたはず。何かしら対抗手段を打ち出すかもしれん」
あかんやん。やばいやつやん。否定してほしかったよ。
おいおい、知らないうちに分水嶺越えてた? ポイント・オブ・ノーリターンってやつ? 後戻り不可ですか?
はぁ……。ままならない。でもああするしかなかったよね。シャフナさん放っておくわけにはいかなかったし。アセンブラ教徒でもさ。
「ケイ、そう気を落とすな。お前の行いはジオス神の使徒として誇るべきものだ」
「そうよ。この数世紀、誰もできなかったことをやってのけたのよ? ケイは神に傷を負わせたの。さすがわたしの契約者ね」
めっちゃ褒めてくれる。え、えへへ? いや、だめだろ。神に傷負わせるとか次のページで滅殺されるよ。
「その様子だと亜人様も喜ばれているんだろ? ならいいじゃねえか」
不敵に微笑むゴドーさん。
「でもさ、アセンブラが対抗してくるかもしれないよ?」
「使徒ケイ様。それに関してはこのフェイからご提案がございます」
すっと、直立するフェイさん。「この」っていうの止めてくれ。完全にカリンスタイルじゃないか。カリンもうんうん頷くなよ。
フェイさんは狐目をさらに細くして、にこやかに爆弾発言をした。
「本日、外でお目に触れたかもしれませんが、スラム住人を訓練しケイ様やカリン様をお守りする『ジオス神兵隊』を設立しようと考えております」
……。
ばっ、ばっ、
バカヤローーーーーーーー!
何やってくれてんの。すべてアウトだよ。却下だ却下。なんよ神兵って。さっき訓練してたのってそれを見越していたのか? ていうかヒキニートとかむさくるしいおっちゃんとかだったぞ。いいのかそれで。問い詰めたい。それが神兵でいいのか問い詰めたい。そもそも神兵ってなんだよもう。はぁはぁ、動悸がしてきた。
「ケイ様より事前に密命を受けていた諜報隊も統合し運用する次第であります。……これを見越して事前に諜報隊を組織しておくとは、さすがでございます。このフェイ、深く感銘を受けました」
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だめだ、パターン入った。
確かにアセンブラの情報を得るためにそういう要請はしたけどさ。神兵隊はやりすぎなんじゃないかなって、思うんですよ。
「神兵隊……素晴らしい響きです。フェイ、よくやりましたね」
「はっ!」
案の定、カリンは神兵隊設立に賛成のようだ。フェイさん跪いてるし。完全に従者のそれだよ。
「まあ身を守るためには必要だわな。いいと思うぜ?」
「神兵隊って名前はちょっとあれだけど……ルーナだけじゃ厳しいだろうから、私も賛成かな」
亜人達にも伝える。
「いいんじゃない? 戦力が多いに越したことは無いわ」
「訓練が必要ならば手伝ってやろう」
彼女たちも賛成みたいだ。プテュエラの訓練とか竜巻を素手で倒すとか? 人類には無理だと思うんだが……。
となると、護衛じゃなくて教官役の奴隷を購入した方がいいのだろうか。
ていうかみんな神兵隊設立には賛成なのね。分かった。分かったよ。アイデアとしては認める。でも、ネーミングが嫌すぎる。せめて傭兵団とかにしてほしい。その方が対外的にもやりやすいでしょ。神兵隊を名乗るスラム住人とか、胡散臭すぎるもん。
だめだマジで頭痛くなってきた。話を変えよう。
「そう言えばアセンブラの情報って集まった?」
「申し訳ございません。諜報隊も発足して間もないので重大な情報はまだ掴めておりません。現在ある情報ですと……パウロ」
「はい。報告しやす。ここ最近、アセンブラの連中は『羽衣草』の仕入れを増やしているようです。冒険者たちにも積極的に採取するように呼び掛け、報酬も上乗せされているようですぜ」
パウロが意外にもすらすら答えた。実は優秀なのかな?
ただそれよりも気になるのが。
「羽衣草?」
初めて聞く素材だ。そう言えば初心者講習にもそんな名前のパーティーがあったよね。ぼろ布まとった子達。何か関係あるのかな。
「羽衣草はアセンブラポーションの原材料だよ。製法はもちろん秘匿されているけどね。たまに採取依頼が出されることがあるんだよー」
シルビアが教えてくれた。そうなんだ。やっぱここら辺は詳しいんだな。
「冒険者ギルドの初心者講習に行ったとき、羽衣っていうパーティーがあったんだけど、何か関係あるの?」
以前から感じていた疑問をぶつけてみた。何か違和感のあるパーティーだった。冒険者にしては装備がお粗末すぎたし。
「ああ……それはアセンブラ教会が運営している孤児院出身のパーティーのことですね」
カリンが答えた。あっ、なるほど。そこに繋がるのか。
「ある程度見込みのある男女は、孤児院から幾らか支援を受け独立し、『羽衣』のパーティー名で冒険者登録すると聞き及んでいます。パーティーは番号で管理しているらしいです」
あー、それでラーズさん何番目か聞いていたのか。なるほどね。腑に落ちたよ。それにしても孤児院出たばっかりだからあんなぼろぼろの恰好していたのか。うーん……なんというかいろいろ勘ぐってしまうな。子供たちを使って搾取してんじゃないだろうな。やっていてもおかしくない。
「その子供たちは大丈夫なの?」
「それが意外と問題ないそうです。アセンブラ孤児院が『羽衣』から報酬を取り上げることは無く、あくまでも子供たちの支援に徹しています。それに活躍した羽衣の冒険者は、腕を見込まれて教会本部の仕事を斡旋されるとのこと」
淡々とカリンが述べる。ふーん、ちゃんと慈善事業はやっているのかね? たとえそれがポーズだとしても、偽善だとしても、救われる人がいるなら、ある程度認めざるを得ないよね。
「……ふん。奴らのことだ。どうせ必ず裏がある。ケイ、お前も使徒ならアセンブラの偽善に騙されるなよ。小物の偽善と巨悪の偽善じゃ、その意味は大きく違ってくるんだからな」
うっ、ゴドーさんに釘を刺されてしまった。言葉に重みがある。正直、使徒としてのバランス感覚が難しいんだよね。未だにどこまでアセンブラに非情になればいいのか分からない。結局アセンブラ教徒らしいシャフナさん助けたしね。みんな気を遣って何も言ってこないけどさ。
「ケイ様。わたくしとしても、ゴドーさんの言う通り、アセンブラの良い側面を見て評価するのは危険だと考えています。あの者らは、長く世の中に巣食っています。どうか慎重な判断をしてくださいますよう……」
カリンにもお願いされてしまった。ううむ、そうだよね。僕は僕の大切な人たちのために非情になるべきなんだろうな。少しだけでも。
そして、ほんの少しだけ、沈黙が続いた。
腕を組んでいたゴドーさんがおもむろに語り始める。
「ケイ。俺はな、身内を、妻を、アセンブラのクソどもに害された。
先代デイライトの治世での話だ。あの頃は今より獣人差別が酷かった。先代デイライトとアセンブラ教会が癒着しまくっていたみたいでな。アセンブラ教会の司祭やら神父やらが連日信者どもを引き連れて、街ででかい顔していたんだ。俺はその頃まだ何も知らない青二才でな。金の集まるデイライトで一旗揚げようと思って、渋る妻を説き伏せて引っ越してきたんだ。最初はブラガとつるんで冒険者をやっていたんだが、どうも鍛冶の方が向いていると分かってな。思い切って転向したら、大当たりだ。俺には鍛冶の才能があったらしい。毎日腕の良い冒険者が訪れて来て剣を打ってくれ、防具を造ってくれとせがまれた。正直天狗になってたな。出来ないことはねえ、と勘違いしてた。そんなダサい俺を妻は笑って支えてくれた。
夢中になって武具を鍛えている内に、アセンブラ教会が俺の噂をかぎつけたらしい。ある日、アセンブラ教会のお偉いさんの使者がやってきて、『貴様は薄汚い獣人だが、その腕を見込み、毎日無休でアセンブラ教会に尽くす栄誉をくれてやろう』と言ってきやがった。ひどく傲慢な態度でな。ムカついた俺はそいつを一喝して追い出してやった。痛快だったぜ? その時はな。
次の日、俺が納品から戻ると、妻が変わり果てた姿で店の床に倒れていた。奴ら報復しにきやがったんだ。抵抗する妻に爛れの呪いをかけやがった。呪いのかけ方知っているか? 四肢を拘束して、全裸にした後、全身に特殊な器具で入れ墨彫っていくんだ。一生消えない魔法陣を体に刻み込むのさ。
その時から妻は全身が爛れて膿まみれの日々を送っている。毎日苦しんで、綺麗な髪は抜けきって、それでも俺の心配をしてくれる。一方で、そんなことした奴らは薄汚い獣人に天誅を下したとか、英雄的行為だとか、ほめたたえられて出世してやがる。なぁ、ケイ。こんなこと許されるのかよ? 俺たちが何したって言うんだ? 俺たちはただ必死に生きただけだ。アセンブラってのはそんなに偉いのか? なぁ、ケイ。頼む。奴らを薙ぎ払ってくれ。その右腕で浄火してくれよ。俺の浅はかさと一緒によ」
ゴドーさんはそう言うと、猛獣のような瞳を燃え滾らせ、にやりと笑った。
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