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明るいおうち計画『交渉編』
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「よし、ここに出してもらおうかの」
案内されたのはでっかい倉庫みたいなところだった。ちょうど人が出払っているのか、人の気配が無い。
出す前に念のため確認しておこう。
「さっきも言いましたけど、魔法の鞄のことは秘密にしておいて欲しいんです。大丈夫ですか?」
「もし、この話が本当なら契約魔法交わして秘密を守るから安心せい」
そんなことになるとは思わんがの、とチクリ。ほー、言ったな。やってやろうじゃん。
契約魔法って、確かジャンゴさんの奴隷たちにかけられていたやつだよな。それなら安心か。
「分かりました。じゃあ出しますね。離れていてください。ベステルタ、鞄持っていてもらえる?」
「ええ、分かったわ」
僕は彼女の持つ鞄に両手を突っ込んで木材を掴む。掴むというか念じる、に近いけどね。
ズオオオォン! ドシィン!
鞄の中から、四次〇ポケットみたいな感じで、物理的にあり得ない大きさの木材を取り出し、地面に置く。けっこう大きな音が出てしまった。
ズオオオォン! ドシィン! ズオオオォン! ドシィン! ドシィン!
それを繰り返して山のような木材を倉庫に出した。
「……」
ドルガンさんが呆気に取られて、木材を見つめている。
「どうですか? 信じてもらえましたか?」
ふっふっふ。でっかい丸太を簡単に持ち上げたからね。びっくりしたのかも。筋肉アピールも成功だぜ。もちろん鞄のことも信じてもらえただろう。
「な、な、な……」
ドルガンさんはわなわな震えながら絶死の木材に近付く。
「なんじゃこの木材はあああああああああ!?!?!? 高品質すぎるうううううううう!!!!」
え、そっち? うわっ、木材に頬ずりし始めた。ドン引きなんだが……。
……
「す、すまぬ。つい夢中になってしまったわい」
興奮したドルガンさんを宥め、どうにか落ち着かせた。
「それで、どうですか? 信じてもらえましたか?」
「もちろんじゃ。そしてすまぬ。おぬしの言葉を疑っておった。許して欲しい」
がばっと頭を下げるドルガンさん。もともと背が低いからさらに低くなって、なんだかいたたまれない。ドルガンさんをあっと言わせたかったけど、こんな風に低姿勢になられるとこっちが申し訳無くなる。僕の器の小ささがはっきり分かるよ。
「いえ、気にしないでください。それよりも、この木材そんなに高品質なんですか?」
絶死の森産の木材か。
僕としては一度も気にしたことなかった。でも、考えてみれば絶死の森の素材な訳だし。シュレアの言うこと聞いてパワフルに動く樹木は確かにやばかった。重機みたいに動くのに、全然折れていなかったしね。同じ由来のフレベ、ブラサ、ダンボ素材の価値を考えれば理解できるかも。
「当たり前じゃろうが! この価値が分からんのか!? これは失われし古代樹、ラクール樹じゃぞ!」
……ラクール樹? 初耳なんですがそれは。
「そ、そうなんですか?」
「そうじゃ! 見てみい! こ、この光沢と重厚感……。それに少なくない魔力も帯びておる……。鉄のような硬さと相反したしなやかさ。おそらく耐火性もある。まさか儂が生きているうちに実物にお目にかかれるとはのう……」
ドルガンさんがいやらしい手付きで木材を触っていく。心なしか木材が嫌がっている気がする。賢樹魔法の効果かな。
「ドルガンさん、その木材は貴方のものではありませんよ」
「おお、そうじゃったわい。すまんな」
すっと手を引っ込めると木材の嫌そうな雰囲気が消えた。思い込みかもしれないけど。
「それで依頼は受けてもらえるんでしょうか?」
「もちろんじゃ! 是非やらせてくれ! うんと安くするぞ!」
唾を飛ばす勢いで肯定された。おっさんドワーフの唾は嬉しくない。浄化しよう。しょわわーん。
「いえ……安いのは嬉しいですけど手を抜かれたりしたら困るんですが。それに今忙しいのでは?」
「て、手を抜いたりするはずないじゃろ! これだけの素材を前にして素通りなんぞできん! 若い衆の得難い経験にもなるはずじゃ! 人員フル稼働でねじ込むから安心せい!」
必死な様子のドルガンさん。僕の肩をがっしり掴んで離さない。強い意志を感じる。僕はというと、なるべく目を合わせないように顔を背けている。さっきと立場が逆転しているよ。
ていうかフル稼働でタイトなスケジュールにねじ込むとか、そういうブラックなのは止めてくれ……。転移前を思い出す。うっ、心が。
「職人さんたちに無理させるのもなぁ」
「人員は何とかする! 頼む!」
そういう問題じゃないんだって。
土下座する勢いのドルガンさん。なんか話が変な方向にいってるな。
「落ち着いて下さい。僕としては無理なスケジュールで誰かが怪我をしたり、精神的に疲労した上に作られた家をプレゼントしたくないんです。具体的にどんな人員が足りていないんですか?」
「う、うむ」
彼はスーハースーハー深呼吸して気持ちを落ち着かせた。大丈夫かよこの人。
「……うむ、足りておらんのは単純作業員じゃな。主に木材を運ぶ者たちじゃ。これは肉体的にきついからやりたがるものも少ない」
なるほどな。いつの時代もこういうのは忌避されるよね。
うーん、スラムの人たちに紹介してみようかな。お仕事欲しがっていたし。無理させないようにドルガンさんに言えば大丈夫だろう。そこら辺も契約魔法結べばいいんじゃね?
「実は僕に単純作業員の当てがあります。うまくいけば結構な人数を確保できそうなんですがどうですか?」
「なに!? それが本当なら有り難い話じゃ。この街は金回りはいいが、肉体労働者はほとんど冒険者に流れていくからのう。むしろ、確保できるなら定期的に仕事発注するぞい」
おっ! いい流れだ。ジオス教のスラムの人たちの役に立てるなら、使徒としても働いているって言えるよね。
「ちなみにどんな人材なんじゃ? デイライトにそんな人材余ってるところあったかのう」
「スラムの住人ですよ」
「スラムじゃと? あやつら体力的に大丈夫なのか?」
ドルガンさんの目がまたもや不審げにひそめられる。この人、少しは心中に留めるってことしないのか。ちょっと疲れてきた。まあ当然の疑問だけどさ。
「スラムはつい最近、大幅に食料事情が改善したんです。病気もほぼ根絶されましたし、今投資するには魅力的な土地ですよ?」
「ほぉー。投資か。お前さん、商人だったか。そうは見えんが……。しかし、もし本当なら魅力的な案件じゃな」
うむむ、と考え込むドルガンさん。よし、いい感じに商談がまとまりそうだ。
「一度、スラムの代表とも話したらいかがでしょう? 何度か話しましたが、理性的で人格的に何も問題無い人です。スラムの発展と住人の幸せを常に考えている方ですよ」
フェイさんなら大丈夫だろう。狂信者状態じゃない彼なら安心だ。むしろその取り巻きが不安だけど。
「ふむ……。よし、会ってみるか。タネズ、確かケイじゃったな? その代表とやらにお前さんの名前で取り次ぐことは可能か? どこに行けば会える?」
「今だったらおそらくリッカリンデン孤児院にいるはずですよ」
「よし! こうしちゃおれん! 早速商談じゃ!」
そう言うや否や、ドルガンさんは風のような速さでどこかへ行ってしまった。
ぽつん、と残された僕とベステルタ。
……防犯意識、ガバガバやんけ。
「ケイ、どうするの? あのドワーフどこかいっちゃったけど」
「そうだね……。うん、プテュエラに伝えておくよ」
うーん、プテュエラにどう伝えたものかな。亜人は言葉理解できないからね。彼女たちが悪いって訳ではなく普通のことだけど。
まてよ?
そう言えば「言語理解スキル」って「文章も同様」って書いてあったよな? もしかして……手紙送れるんじゃ? 配達方法はプテュエラにお願いすれば殲風魔法でちょちょいとできそうだ。
……もしできるのだとしたら、遠くの亜人やカリン達とも意思疎通できることになる。やばい、どきどきしてきた。
「何しているの? お絵描き?」
僕が以前シルビアから買った紙にオルスフィンのペンで文字を書いていると、ベステルタが興味津々で覗き込んでくる。
「ベステルタ、何て書いてあるか分かる?」
文章を書いた手紙を五枚ほど見せる。
「分かるわけない……じゃ、あれ?」
彼女の顔が驚き、顔が赤くなり、そして笑った。
「まったく……貴方は本当にわたしを飽きさせないわね」
そこにはこう書いてある。
『ベステルタ、好き好き大好き、超愛してる』
『プテュエラ、好き好き大好き、超愛してる』
『シュレア、好き好き大好き、超愛してる』
『ラミアルカ、好き好き大好き、超愛してる』
『サンドリア、好き好き大好き、超愛してる』
良かった。分かるみたいだ。嬉しいな。日ごろの感謝をこうやって書き留めておくのは大事だよね。
「もう……繁る?」
やる気満々のベス。
いや、流石にオフィス繁りはあかん。いや、オフィス繁りが悪いのではなく、TPOはわきまえないとね……。
「ここじゃだめだよ。また今度ね」
「あら、その気にさせておいて意地悪ね」
彼女は唇を尖らせて文句を言った。その唇をぺろぺろした。
……
文字の方は問題なく認識してもらえそうなので、フェイさんとカリン宛に手紙を送る。内容はもちろんドルガンさんがそちらに向かっていること、そして彼がスラムに仕事の発注をしたいことだ。僕の名前を出してきちんと契約するように書いてある。もし、不利な契約を結ぶならラクール木材は触らせないと脅して問題ない、ともね。
チャンネルを開きプテュエラに事情を話すと、どこからともなく一陣の風が吹き、見えないプテュエラが舞い降りた。ちょっと嬉しそうな雰囲気。最近はお留守番だったからね。そんな彼女にこれからメール便を頼むと思うと少し心苦しいが。
「プテュエラ、この手紙を二人に渡して欲しいんだ」
「ああ、任せろ」
「あと、この手紙読んでみて? どう思う?」
私に読める訳ないだろう、と言いつつプテュエラ宛の手紙を見る。
「ぶっ! なんだこれは! 恥ずかしいぞ!」
慌てたように翼をばさばさ動かす音が聞こえる。
そのまま手紙をひったくって飛び立ってしまった。手紙は持っていくのね。
案内されたのはでっかい倉庫みたいなところだった。ちょうど人が出払っているのか、人の気配が無い。
出す前に念のため確認しておこう。
「さっきも言いましたけど、魔法の鞄のことは秘密にしておいて欲しいんです。大丈夫ですか?」
「もし、この話が本当なら契約魔法交わして秘密を守るから安心せい」
そんなことになるとは思わんがの、とチクリ。ほー、言ったな。やってやろうじゃん。
契約魔法って、確かジャンゴさんの奴隷たちにかけられていたやつだよな。それなら安心か。
「分かりました。じゃあ出しますね。離れていてください。ベステルタ、鞄持っていてもらえる?」
「ええ、分かったわ」
僕は彼女の持つ鞄に両手を突っ込んで木材を掴む。掴むというか念じる、に近いけどね。
ズオオオォン! ドシィン!
鞄の中から、四次〇ポケットみたいな感じで、物理的にあり得ない大きさの木材を取り出し、地面に置く。けっこう大きな音が出てしまった。
ズオオオォン! ドシィン! ズオオオォン! ドシィン! ドシィン!
それを繰り返して山のような木材を倉庫に出した。
「……」
ドルガンさんが呆気に取られて、木材を見つめている。
「どうですか? 信じてもらえましたか?」
ふっふっふ。でっかい丸太を簡単に持ち上げたからね。びっくりしたのかも。筋肉アピールも成功だぜ。もちろん鞄のことも信じてもらえただろう。
「な、な、な……」
ドルガンさんはわなわな震えながら絶死の木材に近付く。
「なんじゃこの木材はあああああああああ!?!?!? 高品質すぎるうううううううう!!!!」
え、そっち? うわっ、木材に頬ずりし始めた。ドン引きなんだが……。
……
「す、すまぬ。つい夢中になってしまったわい」
興奮したドルガンさんを宥め、どうにか落ち着かせた。
「それで、どうですか? 信じてもらえましたか?」
「もちろんじゃ。そしてすまぬ。おぬしの言葉を疑っておった。許して欲しい」
がばっと頭を下げるドルガンさん。もともと背が低いからさらに低くなって、なんだかいたたまれない。ドルガンさんをあっと言わせたかったけど、こんな風に低姿勢になられるとこっちが申し訳無くなる。僕の器の小ささがはっきり分かるよ。
「いえ、気にしないでください。それよりも、この木材そんなに高品質なんですか?」
絶死の森産の木材か。
僕としては一度も気にしたことなかった。でも、考えてみれば絶死の森の素材な訳だし。シュレアの言うこと聞いてパワフルに動く樹木は確かにやばかった。重機みたいに動くのに、全然折れていなかったしね。同じ由来のフレベ、ブラサ、ダンボ素材の価値を考えれば理解できるかも。
「当たり前じゃろうが! この価値が分からんのか!? これは失われし古代樹、ラクール樹じゃぞ!」
……ラクール樹? 初耳なんですがそれは。
「そ、そうなんですか?」
「そうじゃ! 見てみい! こ、この光沢と重厚感……。それに少なくない魔力も帯びておる……。鉄のような硬さと相反したしなやかさ。おそらく耐火性もある。まさか儂が生きているうちに実物にお目にかかれるとはのう……」
ドルガンさんがいやらしい手付きで木材を触っていく。心なしか木材が嫌がっている気がする。賢樹魔法の効果かな。
「ドルガンさん、その木材は貴方のものではありませんよ」
「おお、そうじゃったわい。すまんな」
すっと手を引っ込めると木材の嫌そうな雰囲気が消えた。思い込みかもしれないけど。
「それで依頼は受けてもらえるんでしょうか?」
「もちろんじゃ! 是非やらせてくれ! うんと安くするぞ!」
唾を飛ばす勢いで肯定された。おっさんドワーフの唾は嬉しくない。浄化しよう。しょわわーん。
「いえ……安いのは嬉しいですけど手を抜かれたりしたら困るんですが。それに今忙しいのでは?」
「て、手を抜いたりするはずないじゃろ! これだけの素材を前にして素通りなんぞできん! 若い衆の得難い経験にもなるはずじゃ! 人員フル稼働でねじ込むから安心せい!」
必死な様子のドルガンさん。僕の肩をがっしり掴んで離さない。強い意志を感じる。僕はというと、なるべく目を合わせないように顔を背けている。さっきと立場が逆転しているよ。
ていうかフル稼働でタイトなスケジュールにねじ込むとか、そういうブラックなのは止めてくれ……。転移前を思い出す。うっ、心が。
「職人さんたちに無理させるのもなぁ」
「人員は何とかする! 頼む!」
そういう問題じゃないんだって。
土下座する勢いのドルガンさん。なんか話が変な方向にいってるな。
「落ち着いて下さい。僕としては無理なスケジュールで誰かが怪我をしたり、精神的に疲労した上に作られた家をプレゼントしたくないんです。具体的にどんな人員が足りていないんですか?」
「う、うむ」
彼はスーハースーハー深呼吸して気持ちを落ち着かせた。大丈夫かよこの人。
「……うむ、足りておらんのは単純作業員じゃな。主に木材を運ぶ者たちじゃ。これは肉体的にきついからやりたがるものも少ない」
なるほどな。いつの時代もこういうのは忌避されるよね。
うーん、スラムの人たちに紹介してみようかな。お仕事欲しがっていたし。無理させないようにドルガンさんに言えば大丈夫だろう。そこら辺も契約魔法結べばいいんじゃね?
「実は僕に単純作業員の当てがあります。うまくいけば結構な人数を確保できそうなんですがどうですか?」
「なに!? それが本当なら有り難い話じゃ。この街は金回りはいいが、肉体労働者はほとんど冒険者に流れていくからのう。むしろ、確保できるなら定期的に仕事発注するぞい」
おっ! いい流れだ。ジオス教のスラムの人たちの役に立てるなら、使徒としても働いているって言えるよね。
「ちなみにどんな人材なんじゃ? デイライトにそんな人材余ってるところあったかのう」
「スラムの住人ですよ」
「スラムじゃと? あやつら体力的に大丈夫なのか?」
ドルガンさんの目がまたもや不審げにひそめられる。この人、少しは心中に留めるってことしないのか。ちょっと疲れてきた。まあ当然の疑問だけどさ。
「スラムはつい最近、大幅に食料事情が改善したんです。病気もほぼ根絶されましたし、今投資するには魅力的な土地ですよ?」
「ほぉー。投資か。お前さん、商人だったか。そうは見えんが……。しかし、もし本当なら魅力的な案件じゃな」
うむむ、と考え込むドルガンさん。よし、いい感じに商談がまとまりそうだ。
「一度、スラムの代表とも話したらいかがでしょう? 何度か話しましたが、理性的で人格的に何も問題無い人です。スラムの発展と住人の幸せを常に考えている方ですよ」
フェイさんなら大丈夫だろう。狂信者状態じゃない彼なら安心だ。むしろその取り巻きが不安だけど。
「ふむ……。よし、会ってみるか。タネズ、確かケイじゃったな? その代表とやらにお前さんの名前で取り次ぐことは可能か? どこに行けば会える?」
「今だったらおそらくリッカリンデン孤児院にいるはずですよ」
「よし! こうしちゃおれん! 早速商談じゃ!」
そう言うや否や、ドルガンさんは風のような速さでどこかへ行ってしまった。
ぽつん、と残された僕とベステルタ。
……防犯意識、ガバガバやんけ。
「ケイ、どうするの? あのドワーフどこかいっちゃったけど」
「そうだね……。うん、プテュエラに伝えておくよ」
うーん、プテュエラにどう伝えたものかな。亜人は言葉理解できないからね。彼女たちが悪いって訳ではなく普通のことだけど。
まてよ?
そう言えば「言語理解スキル」って「文章も同様」って書いてあったよな? もしかして……手紙送れるんじゃ? 配達方法はプテュエラにお願いすれば殲風魔法でちょちょいとできそうだ。
……もしできるのだとしたら、遠くの亜人やカリン達とも意思疎通できることになる。やばい、どきどきしてきた。
「何しているの? お絵描き?」
僕が以前シルビアから買った紙にオルスフィンのペンで文字を書いていると、ベステルタが興味津々で覗き込んでくる。
「ベステルタ、何て書いてあるか分かる?」
文章を書いた手紙を五枚ほど見せる。
「分かるわけない……じゃ、あれ?」
彼女の顔が驚き、顔が赤くなり、そして笑った。
「まったく……貴方は本当にわたしを飽きさせないわね」
そこにはこう書いてある。
『ベステルタ、好き好き大好き、超愛してる』
『プテュエラ、好き好き大好き、超愛してる』
『シュレア、好き好き大好き、超愛してる』
『ラミアルカ、好き好き大好き、超愛してる』
『サンドリア、好き好き大好き、超愛してる』
良かった。分かるみたいだ。嬉しいな。日ごろの感謝をこうやって書き留めておくのは大事だよね。
「もう……繁る?」
やる気満々のベス。
いや、流石にオフィス繁りはあかん。いや、オフィス繁りが悪いのではなく、TPOはわきまえないとね……。
「ここじゃだめだよ。また今度ね」
「あら、その気にさせておいて意地悪ね」
彼女は唇を尖らせて文句を言った。その唇をぺろぺろした。
……
文字の方は問題なく認識してもらえそうなので、フェイさんとカリン宛に手紙を送る。内容はもちろんドルガンさんがそちらに向かっていること、そして彼がスラムに仕事の発注をしたいことだ。僕の名前を出してきちんと契約するように書いてある。もし、不利な契約を結ぶならラクール木材は触らせないと脅して問題ない、ともね。
チャンネルを開きプテュエラに事情を話すと、どこからともなく一陣の風が吹き、見えないプテュエラが舞い降りた。ちょっと嬉しそうな雰囲気。最近はお留守番だったからね。そんな彼女にこれからメール便を頼むと思うと少し心苦しいが。
「プテュエラ、この手紙を二人に渡して欲しいんだ」
「ああ、任せろ」
「あと、この手紙読んでみて? どう思う?」
私に読める訳ないだろう、と言いつつプテュエラ宛の手紙を見る。
「ぶっ! なんだこれは! 恥ずかしいぞ!」
慌てたように翼をばさばさ動かす音が聞こえる。
そのまま手紙をひったくって飛び立ってしまった。手紙は持っていくのね。
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