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きゅんっ

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 ……。

 !? げほっげほっ! なんだ。何が起きた。喉に液体が……。ちょっと苦い。

「あ……ふぅ」

 ああ、なるほど。結局マイアの布団で寝たからな。垂れたミルクが口に入ったのか。うわ、マイアよだれも垂らしてるよ。上半身がミルク臭い。幸せそうな顔で寝ている。これ、絶対普通の雇用主なら怒られてるな。もちろん僕はありがたくぺろぺろしておくが。

「おはようございます。御主人様」

「ああ、ルーナ……おはよう」

 ルーナが既に身支度を整えて、ベッドの横で直立していた。手には着替えを持っている。ああ、朝からいきなり濡れたからな。ルーナは真面目だな。お漏らし乳牛とは大違いだ。いや、マイアも仕事はきっちりやってくれるけど。

 マイアを横にどかして服を着る。ていうかルーナに着せられた。すごい、他人に服着せて貰うなんて初めて。

「失礼します」

 何がだ? と思うとズボンをおろされ、さらにその下もおろされ丸出しにされる。そのままおもむろに、モーニング一番搾り。突然男の夢が一つ叶ってしまった。やさしい舌使いが寝起きに優しい……。しかしねっとり激しくて、あっという間に搾り取られる。

「うっ」

「……んっ、失礼しました。朝食の準備はできております。こちらへ」

 当然のようにこくり、と飲んだ。征服感ぱない。彼女は口元を拭い、何事もなかったかのように立ち上がる。

 あれ、マイアはこのままでいいのかな?

「彼女は奴隷の仕事を忘れ、寝過ごしました。殴り起こそうとしましたが、カリン様に可哀想だと止められたのでそのままに。罰として朝食は抜きです」

 あちゃー。それはまあ仕方ないのか。カリンも優しいな。あとでこっそりマイアに差し入れするように言っておこう。

「ルーナはちゃんと眠れた?」

「おかげさまで日々よく眠れております。ここなら誰にも寝首をかかれる心配はありませんし、鬣犬族は人族ほど寝なくても問題ありませんので」

 なるほど。種族的な特徴もあるのね。ルーナは護衛としてマジで優秀だな。


「おはようカリン、シルビア、みんな」

「おはようございます」

「お、おはよ……」

「ししょーー、おはようございます。ひん!」

「おはようだぜ!」

「朝からお姉様方と一緒で幸せです」

 大部屋ではみんな揃っていた。帰ってきた感がある。昨日はみんな寝ていたからね。よく寝て欲しい。バルデは亜人たちに挟まれ幸せそうだ。

「ケイ、おはよう、むぐむぐ」

「ふわぁー、昨日はよく寝たわねー」

 ベステルタとプテュエラは先に朝食食べてる。僕も頂くことにしますかね。

「今日はみんな何する予定?」

 一応予定くらい把握しておこう。

「ひん、ザルドはリーノウ、バルデと一緒に訓練です」

「あたしらも冒険者として活躍するんだ!」

「いつかお姉様方の隣で……」

 あれ、三人ともなんだかやる気だな。どうしたんだろう。

「どうやらケイ様が五層突破を早々に突破したと、シルビアから聞いたようです。今朝からずっとこの調子で」

 カリンが教えてくれた。

「ひん! 早く一人前になって、繁殖道を極めたいです! カリン姉ちゃんに楽してもらいたいです!」

 意気込むザルドを嬉しそうに撫でるカリン。僕も撫でて欲しい。

 僕がザルドたちに稽古つけられたらいいんだけど、流石に無理だ。斧で殴ることしかできないし。ベステルタがたまに相手しているみたいだけど、毎日じゃないからな。ルーナにも頼んでみようかな。

「わたくしは引き続きスラム住民の洗礼を執り行います。ケイ様のおかげでここ数年の疲労がポンッと取れました。感謝申し上げます」

 その言い方だと僕の浄化マッサージに依存性とか中毒性が生まれてしまうのだけれど……。

「シルビアは?」

 びくっ、と彼女が反応する。顔が赤い。やっぱり昨日宿舎の裏にいたのは君か……。僕とルーナたちの繁りを見て一人耽っていたとはね。あの後、外に出て確認したらかなり濃い匂いが立ち込めていたよ。

「今日もコスモディアの研究!」

 顔を真っ赤にして、がーっとご飯を一気に食べると走って大部屋から出て行ってしまった。うわー、めっちゃからかいたい。

「シルビアはどうしたのでしょうか?」

「大したことじゃないよ。すぐ元通りになるさ」

 今頃、枕に顔を埋めて足バタバタさせてるんだろうなぁ。

「ケイ様は本日どうされますか?」

「うーん、そうだな……」

 なんかラーズさんが来いって言ってたからそれは確定として。

 そうだ、素材の換金も一緒にやっちゃおう。昨日はシャールちゃんのことで頭一杯だったし。夜ご飯に誘うか? こういうのってすぐ誘うべきなのか。だめだ、経験値が圧倒的に足りていない。

 ああ、家の注文しに行かないとな。教えて貰った大工さん? のところに行ってみよう。嘘みたいだろ? これ、当初の目的だったんだぜ?

 お昼はブラガさんとこにも寄ろうかな。ラーメンの進捗気になるし。シャロンちゃんいるかな。あれ以来会えていないなあ。

 あとは……追加の奴隷? 今日中に雇えるかな。

 ちなみに、もちろんベステルタと一緒だ。プテュエラは姿消して散歩しているってさ。


「そんなところかな」

「畏まりました御主人様」

 ルーナが僕とベステルタの身支度を手伝ってくれた。ライダースーツはちょっと着にくいからね。とても甘やかされている気がする。着替えとか靴も全部やろうとするし。朝はハイエナバキュームだし。

「ベステルタ様、今日もお美しいです」

「ルーナはなんて言っているの?」

「ベステルタは今日も美しいってさ。僕としても同感だよ」

 彼女は嬉しそうに、にっこり笑った。

「あら、ルーナは嬉しいこと言ってくれるわね。今度可愛がってあげましょう」

 そう言ってルーナの頭を撫でた。ルーナは無表情だけど耳がぴょこぴょこしている。うーん、尊い。

「今日もご主人様のために一杯働いて、ご主人様のために一杯食べますね!」

 ……そしてマイアの言っていることは間違っていない。たくさんお乳出してくれ。

「ケイ様、ランラビットのお肉、本当に貰ってよろしいのですか?」

「いいんだよ。みんなのために狩ってきたんだし、たくさん食べてよ」

 兎肉も渡しておく。換金してもいいけど、それよりリッカリンデンのみんなが喜ぶ顔が見たい。

「……」

「シルビアも食べていいからね」

「べっ、別に言われなくても食べるし」

 言われてから食べろよ。僕が狩ってきたんだぞ、もう。

「それじゃ、ケイ。行きましょうか」

 ベステルタと一緒に皆に見送られて孤児院を出発する。

 また一日が始まるな。一日の始まりって、こんなに賑やかで幸せでいいんだね。知らなかったよ。


 結局、先に冒険者ギルドに行くことにした。朝からシャールちゃんに会いたかったし、換金というのも経験しておきたかった。ラーズさんの用も早めに片付けたかったしね。

 冒険者ギルドに着いて早速シャールちゃんを訪ねる。相変わらずここはがやがやしているな。活気と熱気があってエネルギーがすごい。

「シャールちゃん、おはよう」

「あ……ケイさん、ベステルタさん。おはようございます」

 シャールちゃんがぎごちなく微笑む。やっぱりシャールちゃんが嫌なのだろうか。いや、ご飯誘ってくれたし、そのくらい問題ないはず。よし、あれこれ考える方が恥ずかしくなってくるから止めよう。シャールちゃんはシャールちゃんだ。

「昨日の素材換金してもいいかな?」

「そ、素材ですか……? どこにも素材は見当たりませんが。もしかして、そちらの鞄は、やっぱり魔法の鞄なのでしょうか?」

 シャールちゃんが小声で聞いてくる。あれ、言って無かったっけな。

「そうだよ。あんまり大声で言っては欲しくないけど……」

 よくわかんないけど、今さら鞄を狙われたりしたら面倒だしね。

「そ、そうですか。大丈夫です。秘密にします」

 シャールちゃんは声の音量を落とし、口元でバッテンを作った。はっ? キュート過ぎなんだけど?

「そ、それじゃ出すね。ここに置けばいいのかな?」

「は、はい。それで」

 ぽいぽいぽいっ。

 素材を積み重ねていく。たくさんあるんだよなぁ。

 いやぁ、シャールちゃん可愛いよな。

「えっ、あ、あの」 

 ぽいぽいぽい…。

 この、ゴブリンの粗悪な武器とか誰が使うんだろう。鋳潰すのかな。

 不意なキュートアクションで心が落ち着かない。あんなあざといことするとは思わなかった。

「け、ケイさんっ、量がっ量がっ」

 ぽいぽいぽい…っ。

 コボルトの牙とか、ダンジョンウルフの爪はどうすんだろう。そんなに大きくないけど。

 はあ、シャールちゃんと早くご飯食べたいなあ。今日行けたらいいけど、難しそうな気もする。

「ケイ、その受付嬢困ってるわよ? 止めてあげたら?」

 我に返ると、受付机にこんもりと素材やら魔石やらを持ってしまっていた。やっべ。

「ごめんね。ちょっと考え事していて……」

「こ、こんなにたくさん集めたんですか? 一日で五層まで突破したのって、魔獣を無視したんじゃないんですか?」

 シャールちゃんが尊敬の眼差しを向けてくる。

 すっごい自慢したいけど、ベステル・ティーガーが蹂躙しただけなんです。僕は後ろから石渡していただけなんです。

「う、うん。まあね」

 結局見栄を張った。ゆるして。

「すごい……。ケイさんなら本当に成り上がれるかもしれないです」

 キラキラの視線。うっ、でもこの視線を浴びるためなら少しくらいの見栄は許されるはず。

「ただいま鑑定するので少々お待ちください……。あっ、確認ですが素材は冒険者ギルドで換金してしまって本当に宜しいんですか?」

 商業ギルドに持ち込んだ方がちゃんと鑑定するから高く売れるってやつだよね。でも、こんなガラクタみたいな素材持ち込んでも嫌がると思う。たぶん、ロイさん辺りがしぶしぶ対応してくれるだろうけど。

「いいよ。数が多くてごめんね」

「い、いえ……その私にもいくらか手当てが付くので助かります。えへへ……」

 ぎこちなく微笑む。

 きゅんっ。はーとがきゅんっ。

『ケイ、顔がだらしないわよ』

 ベステルタがわざわざチャンネルで注意してくれた。ということは相当キモい顔をしていたんだろうな。

『ありがとう。気を付けるよ』

『ふふ、これくらい気にしないで』

 背中をぽんぽんしてくれた。やだイケメン。

「すみません、しばらくかかりそうなので、良ければラーズさんにお会いになってはどうですか?」

 うー、うー、と素材片手に悪戦苦闘するシャールちゃんから提案された。

「あ、そうだったね。今彼はどこにいるのかな?」

「二日目の初心者講習を行っていますよ」

 えっ、僕そんなの知らないんだけど……。もしかしてハブられた? 思い当たる節がありすぎる。

「二日目なんてあったの?」

「普通の講師なら一日なんですが、ラーズさんは三日間、それもきっちりやって下さるんですよ。講師なんてほとんどボランティアなのに、あそこまでしっかりやって下さる方も珍しいです」

 あ、そうなのね。よかった。ハブられたわけじゃなかった。

 はー、それはすごいな。善意でそれだけやるなんてよっぽど熱意が無いと無理だよ。人格にクセはあるけどいい人だよな。

「ケイさんについては『五層突破した奴が初心者なんておかしいだろ。大体あいつは俺よりつええよ、がはは』って言ってました。二日目以降は参加しなくていいそうです」

 シャールちゃんが声を低くしてラーズさんの真似をしていたのに萌えた。

 正直、ラーズさんの講習ならもう少し参加してもよかったけど、そう言うことなら仕方ない。でも、会いに来いって言うのはまた別件なのかな。

「じゃあ、ラーズさんのところ行ってくるよ。換金よろしくね。頑張ってくれたらご飯たくさん御馳走するよ」

「あはは、それなら頑張らないとですね。で、デザートもいいですか?」

 もじもじしているシャールちゃん。おっ、意外と乗ってきたな。甘いもの好きなのかな。ていうかデザートあるんだね。

「もちろんだよ。たくさん食べていいよ」

「よ、よーし。それなら頑張ります……が、がんばるぞ!」

 きゅんっ。

 股間がきゅんっ。
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