113 / 153
認定官
しおりを挟む
僕がリッカリンデンのみんなのために、もう少しだけ兎狩りをしたいとベステルタに伝えると、
「もちろん。たくさん持って帰りましょ」
と快く引き受けてくれた。ありがてえ。
で、結局兎狩りしまくって二十羽ほど狩ることができた。これなら孤児院にも行き渡るだろう。子供たちがどれくらいいるかきちんと数えたことないけど確か十人くらいだったもんな。よかったよかった。ただ、途中で冒険者たちと出くわしてものすごく驚かれたんだけど何だったんだろう。よくわからん。
ハイタッチしつつダンジョンを進んでいくと、何度か転移陣に乗った。これが層ごとの切れ目だろうな。冒険者たちもちらほらいた。順番に転移していたので僕たちも行儀よく列に並んで転移した。
さらに進んでいくと突然ベステルタが「たくさんの人の気配がする。五層の終わりかも」と言った。あれ、早くね? え、一層に付き三日くらいかかるんじゃなかったっけ。とにかく前進した記憶しかない。いやでも、確かにそれくらい転移陣乗ったか。
そのまま進むと、開けた場所に出た。
冒険者たちがたくさんいて、相談やら武器の手入れをしている。雰囲気としてはダンジョン転移陣の感じに似ている。
「ボス倒してJランクともおさらばするぞ!」
「ああ! これで晴れて冒険者の仲間入りだ!」
「六層からたっぷり稼ぐわよ!」
ある一組の冒険者が円陣を組んで気合を入れていた。少年少女って年齢じゃないな。二十代半ばくらいに見える。うーん、五層くらいまではすぐに到達すると思ったんだけど、意外とそんなことないのかも。ラーズさんも戦闘要員以外にポーターとマッパーが必要だって言っていたし。辺りを見渡しても、それっぽい恰好をした人たちがいる。大きい背負子背負った奴隷っぽい牛系獣人や、難しい顔で地図とにらめっこしているハーフリング、疲労困憊の冒険者たちに水を配ったり世話する狸顔の獣人。いろんな役割の人がいるんだなあ。
よし、情報収集するか。
「ベステルタ、ちょっと情報収集してくるからいい子で留守番していてね」
「子ども扱いしないで欲しいわね。それくらいできるわよ」
むっ、と少し頬を膨らませる彼女。指で押してぷしゅってやりたい。そのまま汗だくで繁りたい。
ベステルタといったん別れ、適当な冒険者に話しかける。
「すみませんすみません、ちょっといいですか?」
「あ? 何だよ。これから作戦会議で忙しいんだよ」
ギロリ、と睨まれる。
やべ、強面な人に話しかけてしまった。仕方ないからそのまま押し切る。
「すみませんね。ちょっとボスについて知りたくて。初めてここまで来たんですよ。あ、これ地上で買った唐揚げです。良ければどうぞ」
鞄から結構前に大量購入した唐揚げを取り出す。初めてデイライトに来た時、プテュエラが見つけた唐揚げ屋さんだ。あの屋台のおっちゃん元気かな。また行かないとね。
「唐揚げ? うおっ、お前。ここでその匂い漂わせるのは犯罪だぜ。不味い保存食しか食えねえからなぁ。仕方ねえ! 食ってやるよ」
ひょいぱく、うんめぇー、と顔を綻ばせる強面さん。めっちゃ嬉しそう。ただの唐揚げなんだけどな。
「不味い保存食しかないんですか?」
「当たり前だろ。ここまで来るのにどれだけ時間がかかると思ってんだ。お前、出張屋台じゃねえのか? 料理人がここまでくるとか、冒険者に転向しろよ」
そんな生業もあるのか。まあ、確かに何日も洞窟でゴブリン相手にしながら不味い保存食しか食べられないなんて気が滅入りそうだし需要あるんだろうな。気が向いたらやってもいいかもしれない。気晴らしにね。
「僕は冒険者ですよ。Jランクですけど。五層のボスを知らないんで教えて欲しいんです。この唐揚げは情報料代わりですよ」
「お前、ここまで来たのにボスの情報持ってないのか? ったく馬鹿な奴だな。そんなんじゃせっかくJランク卒業して、稼げるランクに昇格できるのに死んじまうぞ。情報不足は死につながるんだぜ?」
いやはや、仰る通りです。返す言葉もない。
「耳が痛いですねえ」
「他人事みたいに言いやがって。お前が死んだら仲間が泣くぞ。仕方ねえから教えてやるよ」
お、言葉遣いは乱暴だけどけっこう熱くて優しい人だな。唐揚げもぐもぐしているけど。
「五層のボスはオークだぜ」
……オーク? え、もしかしてダイオーク?
「何オークですか?」
「何言ってんだお前。オークはオークだろうが。圧倒的なタフネスと腕力。装備整えて自信つけた初心者パーティーを、こん棒の一振りで粉砕しちまうオークだ。初めて挑むんだから気を付けろよ? 一度ボス部屋入ったら、倒すか一定時間経たないと出られないからな。いったん情報集めて作戦立てて出直しとけ。ポーションは持ってるか? 当たり前だが劣化してると使い物にならないから気を付けろよ。あ、唐揚げ、仲間の分の貰っていいか?」
「どうぞどうぞ」
ほくほく顔の強面さん。すごい助言してくれるやん。
いやー、マジか。ただのオークか。慢心は良くないけど、たぶんベステルカノンで一撃だな。強面さんめっちゃ忠告してくれたけど。うん、これなら早く済みそうだ。そうだ、もしボス部屋で亜人召喚できるなら、ラミアルカ呼ぼうかな。最近会えていないし。
「ちなみに五層突破したら稼げるようになるんですか?」
「そりゃなるわな。五層まででも一応稼げるんだが、六層以降の方が稼げる。ガンシープ、モリゲッコー、シャイバードが出現するからな。こいつらはゴブリンより強いが、それでも十分弱い。しかも素材は嵩張りにくくて高く売れる。五層でうろついている暇があったら、さっさとオーク倒して六層を主戦場にした方が金になるのさ。まあ、そこまでいくのが大変なんだけどな。初心者の大半が五層までに大抵心が折れる。単純に実力が足りないのもあるし、怪我や長期間ダンジョンに潜るから心病むやつもいる。あとはまぁ、ゴブリンとかコボルトに犯されたりとかな。あいつら男女関係ないから性質悪いんだよなぁ、ったく」
強面さん、唐揚げで気分良くなったのかいろいろ教えてくれた。良い人だな。ラーズさんの言う通り、まずは仲良くなることから始めてよかった。ていうかやっぱりゴブリンはそういうやつらなのね。でもコボルトまで襲ってくるとか意外だな。まあ、確かに全然可愛くなくて醜悪な顔つきだったけど。
「ありがとうございます。助かりました」
「おう、こっちも気晴らしになったわ。ありがとうな。ちなみにこの唐揚げどこで売ってるんだ?」
強面さんに唐揚げ屋を教えてあげると、とっても喜んでくれた。これが終わったら仲間と食べに行くらしい。完全に死亡フラグだが、まぁ大丈夫だと信じよう。
ベステルタのところに戻って早速作戦会議(蹂躙会議)をする。
「ふーん、ボスはダイオークか。相変わらず弱いわね。こんなんじゃ他の冒険者たちもやってられないんじゃない? 楽しくないでしょ? ふわぁ」
ベステルタが大きく伸びをして退屈そうに欠伸をする。おっぱいがばるんばるん跳ねて目の毒だ。
「ベステルタ、ボスはダイオークじゃない。オークなんだ」
「……ん? どういうこと? オークってダイオークの名前の一部よね?」
メラ〇ーマではないメ〇だ、みたいなことを言うとベステルタが斜め上の回答をしてきた。そっかぁ。オークさんは生物として認知すらされていないのかぁ。プテュエラは知ってたっぽいんだけどな。普段の行動範囲の違いかな。
かくかくしかじか説明する。
しばしの沈黙。
「……つまり、ダイオークはオークより強くて、オークはダイオークより弱いってこと?」
「そういうことだね」
「そう……」
するとベステルタは見るからに落胆してしまった。背中が煤けている。これに関しては何も言えない。
「早く終わらせて帰ろう?」
「ええ……」
とぼとぼ歩く彼女のお尻をさわさわしようかと思ったけどさすがに最低なので止めた。
……
ラーズさんから忠告されたように、階層突破認定官とやらを探す。ほどなくしてそれは見つかった。広間の隅に明らかに急ごしらえの掘立小屋があったからだ。ぼろい看板で「職員在中」と書いてある。幸い、並んでいる冒険者はいなかったので中に入った。
「こんにちは。認定希望ですか?」
奥から書類整理していた、ちょっと疲れ気味の男性職員が出迎えてくれた。そりゃこんな薄暗い場所に詰めていたらそうなるよな。
「お疲れ様です。これから五層のボスに挑戦しようと思っているのですが、知人にこちらに寄れと言われまして」
「ああ、それは賢明ですね。新人冒険者の方はつい忘れがちなので。認定を受けないとギルドとしても正式な昇格を認定しづらいので。もちろん先の層には進めるんですけどね」
やっとの思いでボスを倒した冒険者が後日「話が違う」と怒鳴り込んでくることが多いんですよ、とどんより話す職員さん。いやあ、これはマジでお疲れだな。クレーム対応までしなきゃいけないとか。どうにかならないのかね。
「それはお疲れ様です」
「いえいえ、仕事ですから。それで今回はどうされました?」
「あ、はい。さっき言った通りこれから挑戦するんですけど、認定の仕方を教えて欲しくて」
「ああ、なるほど。特に難しいことは無いですよ。向こうに二つの転移陣が見えますね? 右がボス、左が六層行きの転移陣です。私に六層に転移できるところを見せてもらえれば認定完了です。ボスを倒さないと左の転移陣に弾かれますから」
なるほど、それは簡単だな。そのまま六層攻略しても良さそうだけど。
「そうですか、ちなみにそのまま六層の攻略に向かってもいいんですかね?」
そう言うと認定官さんは顔を曇らした。
「もちろん可能ですが、私としてはお勧めしません。ボスを倒して浮かれて六層に行った冒険者がそのまま帰ってこない、なんてよくある話ですから」
すると彼は奥の書棚から箱を取り出して中を見せてくれた。ちょっとぼろい賞状? みたいのががたくさん入っている。その全部が「Iランク冒険者に認定する」と書いてある。ああ、そういうことか。
「これは帰ってこなかった冒険者に渡すはずだった認定証です。これをギルドに持ち帰って提出すればスムーズにランクアップが認められます」
彼は疲れた笑顔を向ける。
……うーん、ヘビーだな。ここは彼の精神のためにも忠告に従っておこう。なんかカリンたちに早く会いたくなってきた。
「ご忠告有難うございます。いったん戻ろうと思います」
「是非そうしてください。これは仕事ではありますが、すぐ戻る、と言った冒険者が戻らないのはやはり堪えますので」
うわー、僕絶対この仕事無理だわ。精神やられるよ。後で差し入れしよう。
その後オークを倒したらもう一度寄ることを告げて、その場を後にする。この世界の仕事も大変だな……。
「もちろん。たくさん持って帰りましょ」
と快く引き受けてくれた。ありがてえ。
で、結局兎狩りしまくって二十羽ほど狩ることができた。これなら孤児院にも行き渡るだろう。子供たちがどれくらいいるかきちんと数えたことないけど確か十人くらいだったもんな。よかったよかった。ただ、途中で冒険者たちと出くわしてものすごく驚かれたんだけど何だったんだろう。よくわからん。
ハイタッチしつつダンジョンを進んでいくと、何度か転移陣に乗った。これが層ごとの切れ目だろうな。冒険者たちもちらほらいた。順番に転移していたので僕たちも行儀よく列に並んで転移した。
さらに進んでいくと突然ベステルタが「たくさんの人の気配がする。五層の終わりかも」と言った。あれ、早くね? え、一層に付き三日くらいかかるんじゃなかったっけ。とにかく前進した記憶しかない。いやでも、確かにそれくらい転移陣乗ったか。
そのまま進むと、開けた場所に出た。
冒険者たちがたくさんいて、相談やら武器の手入れをしている。雰囲気としてはダンジョン転移陣の感じに似ている。
「ボス倒してJランクともおさらばするぞ!」
「ああ! これで晴れて冒険者の仲間入りだ!」
「六層からたっぷり稼ぐわよ!」
ある一組の冒険者が円陣を組んで気合を入れていた。少年少女って年齢じゃないな。二十代半ばくらいに見える。うーん、五層くらいまではすぐに到達すると思ったんだけど、意外とそんなことないのかも。ラーズさんも戦闘要員以外にポーターとマッパーが必要だって言っていたし。辺りを見渡しても、それっぽい恰好をした人たちがいる。大きい背負子背負った奴隷っぽい牛系獣人や、難しい顔で地図とにらめっこしているハーフリング、疲労困憊の冒険者たちに水を配ったり世話する狸顔の獣人。いろんな役割の人がいるんだなあ。
よし、情報収集するか。
「ベステルタ、ちょっと情報収集してくるからいい子で留守番していてね」
「子ども扱いしないで欲しいわね。それくらいできるわよ」
むっ、と少し頬を膨らませる彼女。指で押してぷしゅってやりたい。そのまま汗だくで繁りたい。
ベステルタといったん別れ、適当な冒険者に話しかける。
「すみませんすみません、ちょっといいですか?」
「あ? 何だよ。これから作戦会議で忙しいんだよ」
ギロリ、と睨まれる。
やべ、強面な人に話しかけてしまった。仕方ないからそのまま押し切る。
「すみませんね。ちょっとボスについて知りたくて。初めてここまで来たんですよ。あ、これ地上で買った唐揚げです。良ければどうぞ」
鞄から結構前に大量購入した唐揚げを取り出す。初めてデイライトに来た時、プテュエラが見つけた唐揚げ屋さんだ。あの屋台のおっちゃん元気かな。また行かないとね。
「唐揚げ? うおっ、お前。ここでその匂い漂わせるのは犯罪だぜ。不味い保存食しか食えねえからなぁ。仕方ねえ! 食ってやるよ」
ひょいぱく、うんめぇー、と顔を綻ばせる強面さん。めっちゃ嬉しそう。ただの唐揚げなんだけどな。
「不味い保存食しかないんですか?」
「当たり前だろ。ここまで来るのにどれだけ時間がかかると思ってんだ。お前、出張屋台じゃねえのか? 料理人がここまでくるとか、冒険者に転向しろよ」
そんな生業もあるのか。まあ、確かに何日も洞窟でゴブリン相手にしながら不味い保存食しか食べられないなんて気が滅入りそうだし需要あるんだろうな。気が向いたらやってもいいかもしれない。気晴らしにね。
「僕は冒険者ですよ。Jランクですけど。五層のボスを知らないんで教えて欲しいんです。この唐揚げは情報料代わりですよ」
「お前、ここまで来たのにボスの情報持ってないのか? ったく馬鹿な奴だな。そんなんじゃせっかくJランク卒業して、稼げるランクに昇格できるのに死んじまうぞ。情報不足は死につながるんだぜ?」
いやはや、仰る通りです。返す言葉もない。
「耳が痛いですねえ」
「他人事みたいに言いやがって。お前が死んだら仲間が泣くぞ。仕方ねえから教えてやるよ」
お、言葉遣いは乱暴だけどけっこう熱くて優しい人だな。唐揚げもぐもぐしているけど。
「五層のボスはオークだぜ」
……オーク? え、もしかしてダイオーク?
「何オークですか?」
「何言ってんだお前。オークはオークだろうが。圧倒的なタフネスと腕力。装備整えて自信つけた初心者パーティーを、こん棒の一振りで粉砕しちまうオークだ。初めて挑むんだから気を付けろよ? 一度ボス部屋入ったら、倒すか一定時間経たないと出られないからな。いったん情報集めて作戦立てて出直しとけ。ポーションは持ってるか? 当たり前だが劣化してると使い物にならないから気を付けろよ。あ、唐揚げ、仲間の分の貰っていいか?」
「どうぞどうぞ」
ほくほく顔の強面さん。すごい助言してくれるやん。
いやー、マジか。ただのオークか。慢心は良くないけど、たぶんベステルカノンで一撃だな。強面さんめっちゃ忠告してくれたけど。うん、これなら早く済みそうだ。そうだ、もしボス部屋で亜人召喚できるなら、ラミアルカ呼ぼうかな。最近会えていないし。
「ちなみに五層突破したら稼げるようになるんですか?」
「そりゃなるわな。五層まででも一応稼げるんだが、六層以降の方が稼げる。ガンシープ、モリゲッコー、シャイバードが出現するからな。こいつらはゴブリンより強いが、それでも十分弱い。しかも素材は嵩張りにくくて高く売れる。五層でうろついている暇があったら、さっさとオーク倒して六層を主戦場にした方が金になるのさ。まあ、そこまでいくのが大変なんだけどな。初心者の大半が五層までに大抵心が折れる。単純に実力が足りないのもあるし、怪我や長期間ダンジョンに潜るから心病むやつもいる。あとはまぁ、ゴブリンとかコボルトに犯されたりとかな。あいつら男女関係ないから性質悪いんだよなぁ、ったく」
強面さん、唐揚げで気分良くなったのかいろいろ教えてくれた。良い人だな。ラーズさんの言う通り、まずは仲良くなることから始めてよかった。ていうかやっぱりゴブリンはそういうやつらなのね。でもコボルトまで襲ってくるとか意外だな。まあ、確かに全然可愛くなくて醜悪な顔つきだったけど。
「ありがとうございます。助かりました」
「おう、こっちも気晴らしになったわ。ありがとうな。ちなみにこの唐揚げどこで売ってるんだ?」
強面さんに唐揚げ屋を教えてあげると、とっても喜んでくれた。これが終わったら仲間と食べに行くらしい。完全に死亡フラグだが、まぁ大丈夫だと信じよう。
ベステルタのところに戻って早速作戦会議(蹂躙会議)をする。
「ふーん、ボスはダイオークか。相変わらず弱いわね。こんなんじゃ他の冒険者たちもやってられないんじゃない? 楽しくないでしょ? ふわぁ」
ベステルタが大きく伸びをして退屈そうに欠伸をする。おっぱいがばるんばるん跳ねて目の毒だ。
「ベステルタ、ボスはダイオークじゃない。オークなんだ」
「……ん? どういうこと? オークってダイオークの名前の一部よね?」
メラ〇ーマではないメ〇だ、みたいなことを言うとベステルタが斜め上の回答をしてきた。そっかぁ。オークさんは生物として認知すらされていないのかぁ。プテュエラは知ってたっぽいんだけどな。普段の行動範囲の違いかな。
かくかくしかじか説明する。
しばしの沈黙。
「……つまり、ダイオークはオークより強くて、オークはダイオークより弱いってこと?」
「そういうことだね」
「そう……」
するとベステルタは見るからに落胆してしまった。背中が煤けている。これに関しては何も言えない。
「早く終わらせて帰ろう?」
「ええ……」
とぼとぼ歩く彼女のお尻をさわさわしようかと思ったけどさすがに最低なので止めた。
……
ラーズさんから忠告されたように、階層突破認定官とやらを探す。ほどなくしてそれは見つかった。広間の隅に明らかに急ごしらえの掘立小屋があったからだ。ぼろい看板で「職員在中」と書いてある。幸い、並んでいる冒険者はいなかったので中に入った。
「こんにちは。認定希望ですか?」
奥から書類整理していた、ちょっと疲れ気味の男性職員が出迎えてくれた。そりゃこんな薄暗い場所に詰めていたらそうなるよな。
「お疲れ様です。これから五層のボスに挑戦しようと思っているのですが、知人にこちらに寄れと言われまして」
「ああ、それは賢明ですね。新人冒険者の方はつい忘れがちなので。認定を受けないとギルドとしても正式な昇格を認定しづらいので。もちろん先の層には進めるんですけどね」
やっとの思いでボスを倒した冒険者が後日「話が違う」と怒鳴り込んでくることが多いんですよ、とどんより話す職員さん。いやあ、これはマジでお疲れだな。クレーム対応までしなきゃいけないとか。どうにかならないのかね。
「それはお疲れ様です」
「いえいえ、仕事ですから。それで今回はどうされました?」
「あ、はい。さっき言った通りこれから挑戦するんですけど、認定の仕方を教えて欲しくて」
「ああ、なるほど。特に難しいことは無いですよ。向こうに二つの転移陣が見えますね? 右がボス、左が六層行きの転移陣です。私に六層に転移できるところを見せてもらえれば認定完了です。ボスを倒さないと左の転移陣に弾かれますから」
なるほど、それは簡単だな。そのまま六層攻略しても良さそうだけど。
「そうですか、ちなみにそのまま六層の攻略に向かってもいいんですかね?」
そう言うと認定官さんは顔を曇らした。
「もちろん可能ですが、私としてはお勧めしません。ボスを倒して浮かれて六層に行った冒険者がそのまま帰ってこない、なんてよくある話ですから」
すると彼は奥の書棚から箱を取り出して中を見せてくれた。ちょっとぼろい賞状? みたいのががたくさん入っている。その全部が「Iランク冒険者に認定する」と書いてある。ああ、そういうことか。
「これは帰ってこなかった冒険者に渡すはずだった認定証です。これをギルドに持ち帰って提出すればスムーズにランクアップが認められます」
彼は疲れた笑顔を向ける。
……うーん、ヘビーだな。ここは彼の精神のためにも忠告に従っておこう。なんかカリンたちに早く会いたくなってきた。
「ご忠告有難うございます。いったん戻ろうと思います」
「是非そうしてください。これは仕事ではありますが、すぐ戻る、と言った冒険者が戻らないのはやはり堪えますので」
うわー、僕絶対この仕事無理だわ。精神やられるよ。後で差し入れしよう。
その後オークを倒したらもう一度寄ることを告げて、その場を後にする。この世界の仕事も大変だな……。
5
お気に入りに追加
1,413
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる