112 / 146
兎狩り
しおりを挟む
「ギャッギャッギャッ!」
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードが持っ凝りしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードが持っ凝りしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
1
お気に入りに追加
1,409
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる