112 / 146
兎狩り
しおりを挟む
「ギャッギャッギャッ!」
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードが持っ凝りしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
ゴブリンたちが獲物を見つけて醜悪な笑い声をダンジョンに反響させて、なんの警戒もせず近付いてくる。
「はぁ……」
ベステルタが面白く無さそうに、溜息を吐いた。
拳が翻る。
シュンッ。
「ッグギャ!」「ぐぎょっ!」「ギャッ」「ギャギャギャァ!」「ンギョエ!」「ギャブッ!」「ギャアアア!」「アギャグ!」「グゴエッ!」
ぼたぼたぼたぼた。どちゃどちゃっ。
ゴブリンの醜い悲鳴と肉塊がダンジョンに舞う。もう何回これを繰り返したか。ゴブリン、コボルト、ダンジョンウルフ(ただの狼だけど)しか出てこない。その肉塊が光の粒子になって消えていくのは綺麗なんだけどね。魔石やドロップ素材も拾うのめんどくさくなってもう拾ってない。ぼろぼろの武器と毛皮、牙とか。魔石も最初は珍しかったけどもう嫌ってほど見たし。放置した後どうなるのか分からないけど、どうでもいいや。
「ケイ、さすがに飽きたわ」
ふわあ、と欠伸。その間も肉片が生成されていく。
そりゃそうだよね。ベステルタの拳ではオーバーキルだ。その証拠にゴブリンが少ない時は小石を指で飛ばして頭を吹き飛ばしている。わぁー、省エネ。
ちなみにベステルタが初めてゴブリン見た時はマジでやばかった。
「ギャッギャッ!」
「ゴブリンよ!」
テンションめっちゃ上がるやん。
迫り来る醜悪な緑の小鬼。
「成敗!」
ジュッ。
嬉々として放った一撃で、ダンジョンの一部が消し飛んだ。
もちろんゴブリンは骨どころか、そこに存在事実さえ無かったかのように木っ端微塵。ていうかダンジョンの地面とか壁面が溶解しているんだが? パンチで地面が一瞬で溶けるってどういうことなの。摩擦ってこと? それとも魔力的な何か? いずれにしろ僕の理解を超えてるよ。もう二度と模擬戦なんかやるもんか。ちなみに、辺りはドロドロに溶けてシュウシュウ湯気を立てていたけど、あっという間に元に戻った。ダンジョンは自己再生機能があるみたいだ。
まあ、そんなことがあったけど、すぐに彼女は飽きちゃった。そして今は省エネモードってわけだ。
「ゴブリンって話には聞いていたけど、こんなに弱いの?」
「うーん、まあ……弱い部類だとは思うけど」
実際、新人冒険者たちは苦戦していたからね。彼らも舐めてかかっていた訳だが、まあこっぴどくやられていた。彼らは一応Jランク冒険者だけど、その実、「冒険者の肩書きを持つ素人」に過ぎない。魔獣と戦った経験なんてほとんどない。だから、相手がどんなに弱いゴブリンやコボルトでも、どんなにボロい武器を持っていても臆してしまう訳だ。
「こんな弱い生き物、どうやって生きてきたのかしら……」
マジで不思議そうにしている。見つめる拳には血肉一つ付いていない。あれかな、拳圧ってやつかな。まだ居合い拳スタイルだ。これは気に入っているみたい。
ちなみに他の冒険者は、そういう理由で早々に引き上げてしまった。初めての敵意を持つ相手だ。怖がったり軽い怪我をしたり、酷いもんだった。ラーズさんは基本的に手出しせず、危ない時だけ助けていた。すごいスピードのナイフ投擲してたよ。ダンジョンウルフ二匹の頭貫通して、地面穿ってたもん。
思わず「やばすぎない? その威力」と言ったら、
「……いや、まだまだだな。上には上がいるんだぜ」
と遠い目をして呟いていた。慢心してなくてすごいよなあ。冒険者ってやばいな。
その冒険者たちだけど。
「紅蓮隊」は装備が良かったので初めこそ順調だったが、調子に乗って進み過ぎて、いつの間にかにゴブリンに囲まれて袋叩きにされていた。「濃霧」でゴブリンたちの目を潰して適当にフランチェスカで叩き斬って、彼らを助けた。血で汚れて不快。でもフランチェスカを見て度肝を抜かしていたから嬉しい。後で拭き拭きしてあげなきゃな。
「羽衣」は終始逃げ回っていた。戦意が無い訳じゃ無いけど、魔獣に怯えて身体がすくんでしまうようだった。彼らを襲うダンジョンウルフをベステルタの指弾が貫き絶命させる。その中にドロップ素材があったようで、羽衣の一人がそれを拾って大事そうに抱えていた。被っていたフードが外れて顔を見たら痩せた女の子だった。ごはん食べられてないのかな。
「デイライトウルフ」が寡黙なイメージだったけど、そんなことなかった。迫り来るコボルトに対して雄叫びを上げて無茶苦茶に武器を振り回し、バテて動けなくなったところをぼこぼこにされていた。フランチェスカを使いたくないのでベステルタみたいに石を投げて助けた。
「ドラゴンソード」のターク君たちは初心者組の中では頑張っていたけど、限界が来てへたっていた。でも一番連携ができていて、自分たちの力でどうにか倒せていた。結局僕たちが助けることは無かったし。この結果を見れば、確かに将来有望なのかも。
「ま、こんなもんだろ。ドラゴンソードは良く動けていたな。慢心せずに地道にやっていけばすぐにランク上がるだろ。慢心しなければな」
「……ありがとうございます」
ターク君が複雑な表情を浮かべお礼を言った。でも、君がラーズさんの弾丸ナイフ投げ見て目をキラキラさせてたの知っているからね? 今だってちょっとにやけそうなの我慢しているし。一度持った憧れって捨てるのむずいよね。ターク君、この短期間でいろいろ経験してるなぁ。
「おう。あ、ちゃんと金は払えよな。ギルドに言って、お前たちの報酬から天引きして所定額まで俺の口座に振り込んでもらうように言っておくわ」
「……はい」
今度は苦々しげ。うーん、大人って怖い。ていうかラーズさん、ギルド内部まで顔が利くの? どんだけ貢献したんだろう。それとも何か弱みでも握っているのかな。到底昼から飲んだくれていたおっさんには見えないんだけど。
「じゃあ、俺たちはこれで引き上げるからよ。ケイはそのまま攻略して来いよ。問題ないだろ」
さも当然かのように言うラーズさん。初心者組の中から「嘘だろ?」「まだ動けるのかよ」「さすが斧舐めの変態……」という声が聞こえる。最後のは一刻も早く忘れて欲しい。その異名? 流したやつに懸賞金出そうかな。風評被害だよ。
「あ、五層まで攻略するならちゃんと階層突破認定官に報告しておけよ? ランクに反映されるの遅くなるからな」
そういう人たちがいるのか。なんかこう、ギルドカードにぱぱっと記入されるのかと思っていたけど違うんだね。そこは人力なんだ。こんなところに来てお仕事するなんて大変だな。
そう言ってラーズさんは疲労困憊の冒険者たちを引き連れ、帰っていった。
……とまぁ、一層に転移してほんのちょっと進んだだけなのに同期はみんなリタイアしてしまった。悲しい。前の世界では、あんまり同期とかいたことないから少し嬉しかったんだけどな。誰かと何かを一緒に同じスタートラインから始める機会って、大人になると少なくなるんだよね。仕方ないので進むことにした。この時はベステルタがまだやる気あったのでサクサク進んだ。
で、今だけど。
「ケイ、石」
「うい」
僕たちは襲い掛かる魔獣に石を投げ続ける作業を淡々とこなしていた。ベステルタの投石フォームが洗練されていってるのが何とも切ない。やや目が死んでいる。僕は石運びスキルを取得しそうなくらい石運んだよ。手ごろな石を見つけ、彼女の手にセット。それを砲弾のように打ち出す紫姉ちゃん。うーん、むしろ戦車の運用に近いかもしれない。装填手だな。必殺のベステルカノン搭載、ベステル・ティーガー、パンツァー・フォー! ……無理やり気持ちを高めないとやってられない。お腹も空いてきた。やってることが単調だから空腹も感じやすいんだろうなあ。
ほとんど作業だったからあまり覚えていないけど、かなりのスピードで進んでいたと思う。方向とかベステルタ・イヤー頼りで駆け抜けたし、素材はもうやけになって魔法の鞄に片っ端から収納した。ポーターもマッパーもいないから進み放題だ。
ちなみにダンジョン内は洞窟だった。足場が凸凹していて通路の大きさはまちまち。微妙に狭い横道があったり、いかにもな小部屋があって宝箱を期待したけど何もなかった。浅い階層では取りつくされているって言ってたしな……。五層クリアしたらさっさと戻ろう。
「あっ、兎を仕留めたわ!」
ベステルタの久しぶりに嬉しそうな声。
兎? そんなの今まで見たことなかったな。もしかしてEX魔獣ってやつかな。強いって聞いていたけど、ベステル砲の前ではただの兎も同然だったみたいだ。
兎が光になって消えていく。ん? 何か残っている。ドロップ素材かな……。
「肉だ!」
思わず雄たけびを上げた。兎の生肉が洞窟に突然現れたシュールな光景なのに、ものすごく嬉しい。なんか神々しく見える。お腹がグーグーと歓喜の音を鳴らす。食っちまうか。
「ふふ……。やったわ」
ベステルタも生肉を爪でつんつんして嬉しそうだ。む、そう言えばパーティー組んでこういう場面は初めてだな。
「ベステルタ、いぇーい」
手を挙げると、彼女はきょとんと僕を見つめる。
「ケイ? 何しているの?」
ちょっと困惑気味。そうか、知らないか。
「ハイタッチだよ。仲間の活躍……冒険をこうやって称えるんだ」
「そ、そうなの!? えっと、こう?」
ぱちん、と僕と彼女の手が打ち鳴らされる。僕が少し背伸びする形。本当に背が高いよな。でもそういうとこも好き。
「いぇーい。おつかれー」
「別に疲れてはいないけど……でもなんだか楽しいわね。退屈な作業も、こうやれば楽しいわ」
にこにこ機嫌よさげなベス。そうそう。退屈な仕事なんて意味も無くハイタッチでもしないとやってられないよ。退屈しのぎにスレイされたゴブリン以下魔獣たちには同情の念を禁じ得ないけどね。
「後で兎肉、焼いて食べよ?」
「そうね。それがいいわ。い、いぇーい」
気に入ったのか、ぱちんぱちん、と何度もハイタッチしてくるベステルタ。まだ若干恥ずかしそうになのが可愛い。あー、繁りたい。誰もいない教室で秘密の繁りっこしたい。JK制服が欲しい。セーラー、ブレザー、何でもいい。みんなに着せたい。そりゃ人間用だから似合わないかもしれないけど、それがいいんだよ。セーラー服から紫の生足がちらり、嫌そうな視線と三白眼に睨まれ、凶悪な鉤爪と香ばしいもふもふに包まれ、立派な蛇さんソードが持っ凝りしていたら最高じゃないか。縫製部門まじで前向きに考えよう。亜人ランジェリーも作りたいし。わくわく。
その後、兎は四匹ほど獲ることができた。合計五匹だ。あんまり獲れなかったな。三匹は僕とベステルタ、あと肉部部長のプテュエラ先輩に渡しておこう。すねていたからな。残り二匹は……そうだシャールちゃんに上げよう。喜ぶかな? いや、女の子のプレゼントに生肉ってどうなんだ? 普通に頭おかしいよね。素材鑑定する時にそれとなく価値を聞いておこう。それで良さそうなら渡すことにする。あと一匹は……。カリンたちに渡したいところだけど、少ないしな。ラーズさんに渡しておくか。お世話になったし。
……うーん、やっぱりカリンたちにもお土産として持って帰りたいな。頑張って狩るか。
1
お気に入りに追加
1,408
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる