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迷宮踏破の栄光を

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 全員の点呼とっていざダンジョン。

 ラーズさんの後ろを、ぞろぞろと初心者冒険者が連なって迷宮を目指す。いかにも初心者丸出しでちょっと恥ずかしいけど、実際初心者なんだし仕方ない。通行人も暖かい眼差しで見送ってくれたり、励ましの言葉をかけてくれたりした。

 しばらくするとダンジョンがある広場に着く。

 ていうか、今更だけどダンジョンをこうやってまじまじと見るのは初めてだな。遠巻きから見ることはあったけど。

【迷宮広場】
  
 と看板が掲げられていた。

「五層までの地図売ってるよーっ! 攻略ポイント解説付き! 今ならたったの金貨三枚だ!」

「ポーター募集中ですー。どなたかいませんか? 二層まで行く予定です。一日辺り1万ソルン+歩合です」

「武器の点検は終わってるか? ダンジョン入る前にちゃんと準備しておけよ!」

「バインミン飯店の保存食いかがっすかー、干し肉、炒り豆、固パン、ご入り用ー。保存食いかがっすかー」

「どけどけ! 重傷者にポーション届けなきゃいけねえんだ! 早くしないと劣化しちまう!」

「おっ、初心者かぁー。頑張れよー」

 出店が立ち並び、行商人らしき人や冒険者で溢れ返っている。巡回の兵士もいるな。だいぶ熱気あるね。

 入り口はでっかい岩みたいになっていて、大きな洞窟がある。そこから大勢の冒険者が出入りしている。怪我したり笑っていたり様々だ。走る人もいれば歩く人もいる。街から少し離れているけど、普通にあるのね。柵とかあるのかと思ってた。

「あ、ラーズさん」

 迷宮の前にいた衛兵がラーズさんに気付いて話しかけた。

「おっ、セルヒム。今日も当番か? 精が出るな」

「いえいえ、怪我した兵士にもこうやって仕事があるのは有難いことです」

 セルヒムと呼ばれた衛兵はビシッと敬礼する。中年に差し掛かっているががっしりしていて、愛想が良い。よく見ると足をかばっている。なるほど、お疲れさまです。

「それよりも、もしかして初心者講習ですか? 珍しいですね、面倒くさがりの貴方が引き受けるなんて」

「まあ、成り行きでな。面白そうなやつがいたからよ」

「ほほう。ラーズさんの御眼鏡に敵う冒険者がいたので? それは将来有望ですなあ」

「だろ? すぐ頭角現すと思うぜ? 今のうち恩売っておこうと思ってよ」

「なるほど、相変わらずですね」

「体は衰えたが、こっちの嗅覚はまだまだ現役だぜ」

「「はははははは」」

 おっさん同士で小気味良いトークしてるし。別に混ざりたくはないけど。

「お前ら、こいつは衛兵のセルヒムだ。分からないことがあったら訊くといいぞ」

「セルヒムです。皆さん、冒険者は命あっての物種です。無茶はしないように」

「「「よろしくお願いします!」」」

 他の初心者冒険者たちが元気良く挨拶する。「マース!」とベステルタも元気よく続いた。片言外人かな?

 うーん、やっぱり初心者講習受けてよかったな。こうやって人の紹介してくれるだけでずいぶんやれることも増える。

……

 ダンジョンに入ると、まず長い階段を下って行った。
 しばらくすると大きな広間に出た。そこでも冒険者たちがたむろしている。でも、地上ほどのお気楽さは無く、どこかぴりぴりしている。装備の点検や、食料の確認を入念に行っている。

「そうそう、ダンジョンに入るときは装備をしっかりな。食料もきちんと揃えておくんだぞ。今日は本当に浅いところしか行かないからいいが、本当なら一層に付き三日分の食料は必要だからな」

 そんなに!?

 まじか、ちょっと舐めていたな。ガチで広いんだね。いや、単に時間がかかるってことかな。

「地図作製も重要だ。浅い層では道が固定されているが、深くなるとランダムで構造が変わる。さっき言ったように食料運ぶポーターと地図作るマッパーが必要だから覚えておけよ。それだけの専門職がいるくらい大事だ。毎年これをおろそかにして大勢死んでいくんだよ。お前らはそうなるなよ?」

 おっかねぇ。

 ダンジョンに潜るのも大変なんだな。初心者組も真剣な顔で聞いている。

 そのことをベステルタに伝えると、

「別に道なんて音とか気配で分かるわよ。食料はケイの鞄に入れたらいいじゃない」

 と全然気にしていなかった。

 そ、それでいいのかな……。周りが地図とか食料問題抱えている中で僕だけ関係ないとか申し訳ないんだが。

「考え過ぎよ。いい? わたしたちは冒険しに来ているの。楽しい方が良いに決まっているでしょ?」

 どやベス。

 まぁ確かにそれもそうだな。この世界では快楽優先でいくって決めたんだし。それでいっか。

 あと、僕がどのくらい強いのか気になる。ダイオークとかってランク的にはどこらへんなんだろう。ゴドーさん知っているくらいだから素材は流通しているんだろうけど。さすがにゴブリンには勝てるよね?

 広間を奥にしばらく進むと、大きな円形の空間に着いた。地面が一段高くなっている。そこから先は質感が明らかに変わっていて石畳っぽい。中心に石柱があってぼんやりと光っている。周りには囲むように冒険者がいて、何かを待っているように見える。

 ピカッ。

 石柱が突然強い光を放つと、周りにいた冒険者が……消えた。全員。うわ、すっげ。転移ってやつだな。転移陣かこれ。

「うおっ」

「これが迷宮の転移魔法陣かぁー!」

「本物見ると迷宮来たなって気がするな!」

 興奮したように話しているのは、えーと、紅蓮隊? の日に焼けた青少年たちだ。さっき話しているのを聞いたんだけど、小さいころから冒険者になりたかったが両親の反対でなれず、いったんは諦めたらしい。でもどうしても諦めきれず、お金を貯めて装備を買い冒険者になったらしい。僕以外では一番大人だな。装備も良さそうなものを身に着けている。

「はは。はしゃぐのも分かるが、この転移陣に乗って次に光ったらお前らは強制的に一層にいくんだからな。気合入れろよ? ほら、乗った乗った」

「あ、はい」

「さーせん」

 聞き分けの良い紅蓮隊の皆さんに続いて転移陣に乗る。うーん、変な感じ。転移って初めてだからな。

「ケイは転移してきたんじゃないの?」

 ベステルタに冷静に突っ込まれた。そ、そうだった。忘れていた。最近、あんまり前の世界のことを思い出さなくなってきている。これってどうなんだろ。何か残した方がいいのかな。

「ベステルタはどう? 緊張している?」

「うーん、緊張はしていないけどわくわくしているわね。この先何が待ち受けてるのかしら……」

 うっとりワクワクの表情でたたずむ。ブレないなぁ。でも見習わないとな。まずは何でもイエスで受け入れるのが、物事を楽しむコツなのさ。

「確か、浅い層はゴブリンがよく出るって聞いたよ」

「ゴブリン! シュレアから聞いたことあるけど、実際見たことないのよね。わくわくするわね!」

 顔をキラキラさせるベステルタ。あ、そうなんだ。まあ絶死の森にはいないだろうな。真っ先に淘汰されるだろう。あそこ普通の魚にも角生えてるからね。これ絶対げんなりすると思う。

 しばらくすると、後ろから冒険者たちが集まってきて順番に転移陣に上ってくる。やけにお行儀がいいな、と思っていたら何人かギルド職員がいた。列を捌いて、効率よく転移陣に案内している。あまりに自然で気付かなかったな。イベントスタッフみたいだ。

 あ、石柱の光がぐんぐん高まっていく。そろそろだな。うう、何か緊張してきた。

「お前ら、準備はいいな?」

 ラーズさんがにやりと笑い、僕たちは頷いた。

 ピカッ。

「雛鳥たちに、迷宮踏破の栄光を!」

 ラーズさんがそう叫んだ後、僕たちは転移陣から消えた。 
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