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本当の霧魔法をお見せしますよ
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冒険者ギルドでシャールちゃんに魔道具について確認した。ダンジョンでドロップするみたいだけど難易度が高いみたいだ。そこで初心者講習を勧められたのでお言葉に甘えることにしたけど、パーティ名どうするか決めていなかった。シャールがパーティに登録する情報をベステルタに訊いたんだけど。
「ん、もしかしてわたしに言ってるのかしら」
ベステルタはどうやらギルド内を眺めていたようで全然聞いていなかった。まあ言葉分からないし、仕方ないか……。
「そうだよ。名前と戦闘方法とか教えて欲しいんだって」
「ケイに任すわ」
そう言ってまたきょろきょろとギルド内を眺め出した。同じ部屋にたくさんの種族がいるのが珍しいのかな。そんなこと言ったら君こそ相当目立っているよ。超エスニック美女だからね。しかもライダースーツとグラサンだし。フェロモン半端ないし。
「ごめんねシャールさん、彼女とても遠くから来た獣人なんだ。言葉が僕にしか分からないんだよ」
もちろん亜人だということは隠してる。
「な、なるほど。だから魔道具が必要なんですね。それにしてもすごい美人だなあ……」
ほえー、と気の抜けた声でベステルタを見つめる。君にも彼女の良さが分かるかね。よしよし飴ちゃんあげるからね。
「……はっ、す、すみません。うっかりしていました」
「いいよいいよ気にしないで」
あわあわするシャールちゃん。いつまでも見ていられるよ。
「そ、それでお連れ様の名前を伺ってもいいですか?」
「彼女の名はベステルタ。とにかく身体能力が高くて素手で戦うよ。気配にも敏感で斥候もできると思う」
「す、素手ですか。すさまじいですね。分かりました、登録しておきます」
(ベステルタさんって言うんだってよ)
(美しいお名前だな……ぜひご一緒したい)
(バカ、鼻であしらわれるだけだぜ。見ろよあの悠然としつつ、圧倒的暴力がにじみ出る佇まい。ただもんじゃねえぜ)
(で、隣にいる男はなんだ? 従者か?)
(分からん。ペットじゃないか?)
(あの男の人、顔に特徴無いけど何か生理的に受け付けないわ)
(しっ、聞こえるぞ)
聞こえているよ。お前らマジで覚えておけよ。
ああ……昔ラーメン屋でバイトしていた時のことを思い出す。店のトイレで着替えていたら「今日種巣と仕事かよ!」と同僚に言われたんだ。はー、凹むんだが。
「ケイさんも念のため氏名と……あ、魔法は何を使えるということにしておきますか? あとスキル等は開示しますか?」
「スキルの開示は無しで」
スキルの開示なんてやばすぎてできないからね。
あと、そうだった。前シャールちゃんと話した時に「前衛できて魔法数種扱えるのは目立ちすぎるから止めた方がいい」って忠告されていたんだ。ふむ。それなら決めてある。結構悩んだけどね。
「殲風魔法」は使いやすくて想像もしやすい。汎用性もあるだろう。初期の威力は他と比べて低そうだけど、プテュエラみたいに極めたら恐ろしいことになる。
「賢樹魔法」は周りに植物が無いと能力を最大限発揮できない。その代わり一定の条件下では無類の強さを誇る。一人でスカウト、タンク、アタッカー、何でもできるからね。
「地毒魔法」もいいなと思っていた。扱いが難しいけど、土という特性上、汎用性が期待できる。防御にも攻撃にも使えそうだ。さらに毒という唯一無二の特性にポテンシャルをびんびん感じる。
「練喚攻」は基本的にばれないから併用する方向で。これが無いと僕は一気に弱くなるからね。
それで悩んだ結果、出した答えがこれだ。
「種巣啓、29歳です。駆け出しのJランクですが霧魔法が使えます、ってことでお願いします」
千霧魔法を選んだ。だってロマン感じるし。霧魔法って聞いたことないし。あと発展途中でサンドリアと一緒に技を極めていけるというのが良い。
もちろん、実用性も考えた。僕は基本的に戦斧でスッと行ってドガァンが基本だから、霧によるノータイム目潰しはかなり良いコンボになる。
むふふ、霧と戦斧組み合わせたやつは僕が初めてだろー。燃えるぜ。
「ぎゃはははははは! 29歳で最弱Jランクのおっさんかよ! しかも役立たずの霧魔法とか笑っちまうぜ! ひゃはははは」
「おいおいおい、止めてやれよ、おっさんも必死なんだよ、ぷくふふふ」
「なあおっさん、冒険者舐めてんのか? デイライトの冒険者は完全実力主義だ。おとなしく田舎で死んどけよ」
……は?
うっわ、めっちゃ嘲笑されたんだが。何でだよ千霧魔法良いだろうが。
ぶはははははははは! と数人の冒険者が笑いまくっている。顔が赤いから酒が入っているのだろうか。これだけ笑われるとムカついてくるな。
ふむ、でもいいこと聞いた。完全実力主義ね。
「け、ケイさん。霧魔法はちょっと……」
シャールちゃんが言いにくそうにして顔を寄せてくる。うっほ、ごっつええ香り。いかんいかん。冷静になれ。ハルクリフトさんの顔を思い出せ。おえっ。
「何か問題あるんですか?」
「霧魔法は確かにれっきとした魔法ですが、冒険者間では水魔法の下位互換で、攻撃にも防御にも使えない無意味な魔法だと思われています。転じて、その、『役立たず』の隠語として使われることがあるのでお止めになった方がいいかと」
「そっか。ありがとう」
はー、なるほどね。理由は分かった。理解もできた。納得はしてないけどね。
霧魔法がそんな扱い受けているとはなあ。サンドリアには聞かせられないな。きっと悲しい顔をする。そんなことになったらラミアルカがこの街を毒の海で満たすだろうね。
「それでも霧魔法で登録をお願いします」
「おーい、おっさん聞こえてましたかー? 耳穴オークのクソでもつまってるんですかぁー?」
「ぶっとばされてえのか?」
「決闘申し込んじゃうよーん?」
さっきからずっと笑っていたやつらだ。顔の下卑っぷりがすごい。どうしたらこんなに悪そうな造形になるんだろう。ていうか僕より年上に見えるけど、もしかして下なのか? そしてみんなスキンヘッドだ。つるつるつるりん。つるりんぱ。まるでゆでダコみたいに……。いかん、笑えてきた。
「ぷっ」
「てめえ今頭見て笑ったな?」
「おいおいてめえしんだわおいおい」
「殺す」
「そこの受付嬢、決闘の準備しろよ。そいつぶっ殺すわ……。」
あ、矛先がシャールちゃんに……。
「お、お待ちください。話し合えば」
「うるっせえ! ブチ犯すぞ! 早くしろ!」
「う、うぅ」
目に涙を溜めて震えるシャールちゃん。それでもそこから動こうとしない。惚れた。
「女性に乱暴な言葉遣いなんて品性が知れますよ?」
やんわりと指摘する。僕は紳士だからな。相手にも忠告をしてあげなくては。
「うるせえクソの役にも立たない霧野郎が。いいぜ、準備なんていらねえ。この場でぶっ殺してやる」
「駆け出し雑魚Jランクが。Fランクの俺たちに楯突くなんて身の程を教えてやるよ」
目が血走ってる。完全にいっちゃってんな。
「ふむふむ。いけませんな。お若い方は血気盛んでいかん」
「何言ってんだ気持ちわりい」
ちょっと言ってみたかっただけだよ。
「ははは、かかってこいよハゲ! 髪の毛なんて捨ててかかってこい!」
くいっくいっ、と手で招く。やば、乗ってきた。
「死ね!」
ゆでだこスキンヘッドが剣を構えて突っ込んでくる。
…………
……
「え? おそ」
突進の進路に肘を置く。
「ぼぐわぁっ!」
つるりんヘッドが僕のエルボートラップに突っ込んでそのまま脇に吹っ飛んでいく。フェイさんが肘をうまく使っていたから真似してみた。最小限の動きでいい威力。でも顔面にめり込んで嫌な感触がした。まずは一人。
男の動きに合わせてカウンターで肘を置いていたんだが、めっちゃ遅くてびびった。なにこれ。どうなってんの? わざと?こんなに遅いとマスキュラスが腕にとまってバカにしてくるよ。
「おっ、喧嘩だ!」
「FランクがJ吹き飛ばしたのか? 大人げないな」
違うよ。逆だよ。
にしても冒険者たちは落ち着いているな。このくらい日常茶飯事ってことか。
「お、おい、今のやられたって確かFランクのスターヘッズだったよな?」
「あ、ああ。素行は悪いが実力は確かだったはずだ」
スターヘッズってもっとどうにかならなかったの?
えーと、Fランクというと上から六番目か。中堅に足がかかるくらいか? ただFランクの響き自体があまりよくなくて強そうに思えない。
「ケイ、こいつらどうしたの?」
ベステルタが路肩の石でも見るように言った。
「うーん、僕が29歳で最下位のJランクだから絡んできたんだよ。あと霧魔法をバカにしてきた」
「ふぅん? 人間って年齢でお互いを差別するの? よくわからないわ。でも霧魔法をバカにするのは腹立つわね。サンドリアがかわいそうよ」
ベステルタも同じ気持ちのようだ。よかった。
彼女はノリノリでふっ飛んだつるりんFランクを踏み潰して言う。
「ぐえぇ」
「よくもわたしの仲間と契約者をバカにしたわね。地獄を見せてあげる。かかってきなさい、愚かな人間ども」
僕の真似だろうか、手をくいっくいっとして挑発する。こっちの方が様になっているな。ただし、すごく悪者っぽい。それでも楽しくて仕方ないのか口角をひくひくさせている。
「このアマァ!」
「全員でやっちまえ!」
残りのつるりんヘッドたちが一斉にかかってくる。
「ケイ、わたしが二人殺るわ」
殺らないでね?
「ほとほどにね……。シャールさん、見ていてください。本物の霧魔法をお見せしますよ」
「は、はあ」
僕がシャールちゃんにドヤっている間に、二人のつるりんがベステルタに襲いかかる。
「ふんっ」
「ごぶぇっ」
下から抉り込むような亜人拳。
まあボディブローなんだけど、威力が酷い。男の体がくの字になって1メートルは浮いたな。そのままドサリと落ち、白目向いて痙攣。二人目。
「よっと」
「かっ」
あっけにとられる残りのハゲ。
その場で華麗なベステルターン。
からの、恐ろしく速いバックハンド手刀。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
綺麗に顎を掠めて脳を揺らし膝をガクガクさせて崩れ落ちた。鋭過ぎて男の顎が削げ落ちたんじゃないかと思った。三人目。
いやー、年末の格闘技イベント出場して欲しいわ。
さて、本物の霧魔法を見せるぜ。
『濃霧!』
「うわっ、何だ! 前が見えねえ!」
最後のつるつる男の顔に霧がまとわりついた。頭のつるつるだけ覆わずに強調させてやる。
「くそっ、どこだ!」
ふふふ。フェイさんとの実践を通して習得した霧魔法『濃霧』だぜ。ほとんどノータイムで発動可能。魔力消費もほとんど無い。ふむ、なんか手応えある。戦うたびに何か掴めそうな気がするな。習熟度みたいのがあるのかな? 千霧魔法、本当に極めてみようかな。
男は手で霧を払おうとするが掻き消せない。私の霧は特別製よ。
近距離戦でこの隙は致命的でしょ? お分かり頂けたろうか。
「これはサンドリアの分!」
「ぶべっ」
ベステルタ仕込みのスパルタキックでKO。うーん、スカッとした。四人目。しゅーりょー。
「Jランクとその連れがツーリンたちをぶっ飛ばしたぞ!」
ツーリンっていうのか。あともう少しでツルリンじゃん。ひどい名前だな。
「やるじゃねえか! がはは」
お、おお? 何か好意的に迎えられた。バシバシと背中叩かれて一杯飲めや、とエールを奢ってくれる。ごくごく、麦茶だこれ。嘘です。エールです。
「ぶっ飛ばしちゃったんだけどいいんですか?」
今更ながら不安になって近くのドワーフっぽい冒険者に訊いた。
「かまうこたねえよ。よくあることだぜ。ツーリンたちは腕は悪かねえが、頭打ちでよ。新入りに絡んで憂さ晴らしたんだよ。良い薬になってんじゃねえか?」
ツーリン、名前も素行もろくでもないやつだな。ぶっ飛ばしてよかった。
あと僕はまだおっさんじゃない。後期お兄さんだ。頭のつるぴかディスクに刻んでおけ。
「殺したらさすがに衛兵来るけど、それも同意済みの決闘なら問題ないよー」
ちっこいハーフリング冒険者が付け足す。人の命軽いなー。それだけ冒険者は実力主義か。その分自由なんだろうね。いいね。自由最高。
「け、ケイさん、係員は呼びましたので続きをしましょう」
シャールちゃんも案外慣れてた。ささっと回収係の人たちがやって来て、ツーリンたちを「派手にやられたな」「油断するからだ」と言いながら介抱していた。うーん、ここら辺の感性が違いすぎるな。
えっと、続きってなんだっけ。ああ、そうか。パーティー名か。どうすっかな。
「ん、もしかしてわたしに言ってるのかしら」
ベステルタはどうやらギルド内を眺めていたようで全然聞いていなかった。まあ言葉分からないし、仕方ないか……。
「そうだよ。名前と戦闘方法とか教えて欲しいんだって」
「ケイに任すわ」
そう言ってまたきょろきょろとギルド内を眺め出した。同じ部屋にたくさんの種族がいるのが珍しいのかな。そんなこと言ったら君こそ相当目立っているよ。超エスニック美女だからね。しかもライダースーツとグラサンだし。フェロモン半端ないし。
「ごめんねシャールさん、彼女とても遠くから来た獣人なんだ。言葉が僕にしか分からないんだよ」
もちろん亜人だということは隠してる。
「な、なるほど。だから魔道具が必要なんですね。それにしてもすごい美人だなあ……」
ほえー、と気の抜けた声でベステルタを見つめる。君にも彼女の良さが分かるかね。よしよし飴ちゃんあげるからね。
「……はっ、す、すみません。うっかりしていました」
「いいよいいよ気にしないで」
あわあわするシャールちゃん。いつまでも見ていられるよ。
「そ、それでお連れ様の名前を伺ってもいいですか?」
「彼女の名はベステルタ。とにかく身体能力が高くて素手で戦うよ。気配にも敏感で斥候もできると思う」
「す、素手ですか。すさまじいですね。分かりました、登録しておきます」
(ベステルタさんって言うんだってよ)
(美しいお名前だな……ぜひご一緒したい)
(バカ、鼻であしらわれるだけだぜ。見ろよあの悠然としつつ、圧倒的暴力がにじみ出る佇まい。ただもんじゃねえぜ)
(で、隣にいる男はなんだ? 従者か?)
(分からん。ペットじゃないか?)
(あの男の人、顔に特徴無いけど何か生理的に受け付けないわ)
(しっ、聞こえるぞ)
聞こえているよ。お前らマジで覚えておけよ。
ああ……昔ラーメン屋でバイトしていた時のことを思い出す。店のトイレで着替えていたら「今日種巣と仕事かよ!」と同僚に言われたんだ。はー、凹むんだが。
「ケイさんも念のため氏名と……あ、魔法は何を使えるということにしておきますか? あとスキル等は開示しますか?」
「スキルの開示は無しで」
スキルの開示なんてやばすぎてできないからね。
あと、そうだった。前シャールちゃんと話した時に「前衛できて魔法数種扱えるのは目立ちすぎるから止めた方がいい」って忠告されていたんだ。ふむ。それなら決めてある。結構悩んだけどね。
「殲風魔法」は使いやすくて想像もしやすい。汎用性もあるだろう。初期の威力は他と比べて低そうだけど、プテュエラみたいに極めたら恐ろしいことになる。
「賢樹魔法」は周りに植物が無いと能力を最大限発揮できない。その代わり一定の条件下では無類の強さを誇る。一人でスカウト、タンク、アタッカー、何でもできるからね。
「地毒魔法」もいいなと思っていた。扱いが難しいけど、土という特性上、汎用性が期待できる。防御にも攻撃にも使えそうだ。さらに毒という唯一無二の特性にポテンシャルをびんびん感じる。
「練喚攻」は基本的にばれないから併用する方向で。これが無いと僕は一気に弱くなるからね。
それで悩んだ結果、出した答えがこれだ。
「種巣啓、29歳です。駆け出しのJランクですが霧魔法が使えます、ってことでお願いします」
千霧魔法を選んだ。だってロマン感じるし。霧魔法って聞いたことないし。あと発展途中でサンドリアと一緒に技を極めていけるというのが良い。
もちろん、実用性も考えた。僕は基本的に戦斧でスッと行ってドガァンが基本だから、霧によるノータイム目潰しはかなり良いコンボになる。
むふふ、霧と戦斧組み合わせたやつは僕が初めてだろー。燃えるぜ。
「ぎゃはははははは! 29歳で最弱Jランクのおっさんかよ! しかも役立たずの霧魔法とか笑っちまうぜ! ひゃはははは」
「おいおいおい、止めてやれよ、おっさんも必死なんだよ、ぷくふふふ」
「なあおっさん、冒険者舐めてんのか? デイライトの冒険者は完全実力主義だ。おとなしく田舎で死んどけよ」
……は?
うっわ、めっちゃ嘲笑されたんだが。何でだよ千霧魔法良いだろうが。
ぶはははははははは! と数人の冒険者が笑いまくっている。顔が赤いから酒が入っているのだろうか。これだけ笑われるとムカついてくるな。
ふむ、でもいいこと聞いた。完全実力主義ね。
「け、ケイさん。霧魔法はちょっと……」
シャールちゃんが言いにくそうにして顔を寄せてくる。うっほ、ごっつええ香り。いかんいかん。冷静になれ。ハルクリフトさんの顔を思い出せ。おえっ。
「何か問題あるんですか?」
「霧魔法は確かにれっきとした魔法ですが、冒険者間では水魔法の下位互換で、攻撃にも防御にも使えない無意味な魔法だと思われています。転じて、その、『役立たず』の隠語として使われることがあるのでお止めになった方がいいかと」
「そっか。ありがとう」
はー、なるほどね。理由は分かった。理解もできた。納得はしてないけどね。
霧魔法がそんな扱い受けているとはなあ。サンドリアには聞かせられないな。きっと悲しい顔をする。そんなことになったらラミアルカがこの街を毒の海で満たすだろうね。
「それでも霧魔法で登録をお願いします」
「おーい、おっさん聞こえてましたかー? 耳穴オークのクソでもつまってるんですかぁー?」
「ぶっとばされてえのか?」
「決闘申し込んじゃうよーん?」
さっきからずっと笑っていたやつらだ。顔の下卑っぷりがすごい。どうしたらこんなに悪そうな造形になるんだろう。ていうか僕より年上に見えるけど、もしかして下なのか? そしてみんなスキンヘッドだ。つるつるつるりん。つるりんぱ。まるでゆでダコみたいに……。いかん、笑えてきた。
「ぷっ」
「てめえ今頭見て笑ったな?」
「おいおいてめえしんだわおいおい」
「殺す」
「そこの受付嬢、決闘の準備しろよ。そいつぶっ殺すわ……。」
あ、矛先がシャールちゃんに……。
「お、お待ちください。話し合えば」
「うるっせえ! ブチ犯すぞ! 早くしろ!」
「う、うぅ」
目に涙を溜めて震えるシャールちゃん。それでもそこから動こうとしない。惚れた。
「女性に乱暴な言葉遣いなんて品性が知れますよ?」
やんわりと指摘する。僕は紳士だからな。相手にも忠告をしてあげなくては。
「うるせえクソの役にも立たない霧野郎が。いいぜ、準備なんていらねえ。この場でぶっ殺してやる」
「駆け出し雑魚Jランクが。Fランクの俺たちに楯突くなんて身の程を教えてやるよ」
目が血走ってる。完全にいっちゃってんな。
「ふむふむ。いけませんな。お若い方は血気盛んでいかん」
「何言ってんだ気持ちわりい」
ちょっと言ってみたかっただけだよ。
「ははは、かかってこいよハゲ! 髪の毛なんて捨ててかかってこい!」
くいっくいっ、と手で招く。やば、乗ってきた。
「死ね!」
ゆでだこスキンヘッドが剣を構えて突っ込んでくる。
…………
……
「え? おそ」
突進の進路に肘を置く。
「ぼぐわぁっ!」
つるりんヘッドが僕のエルボートラップに突っ込んでそのまま脇に吹っ飛んでいく。フェイさんが肘をうまく使っていたから真似してみた。最小限の動きでいい威力。でも顔面にめり込んで嫌な感触がした。まずは一人。
男の動きに合わせてカウンターで肘を置いていたんだが、めっちゃ遅くてびびった。なにこれ。どうなってんの? わざと?こんなに遅いとマスキュラスが腕にとまってバカにしてくるよ。
「おっ、喧嘩だ!」
「FランクがJ吹き飛ばしたのか? 大人げないな」
違うよ。逆だよ。
にしても冒険者たちは落ち着いているな。このくらい日常茶飯事ってことか。
「お、おい、今のやられたって確かFランクのスターヘッズだったよな?」
「あ、ああ。素行は悪いが実力は確かだったはずだ」
スターヘッズってもっとどうにかならなかったの?
えーと、Fランクというと上から六番目か。中堅に足がかかるくらいか? ただFランクの響き自体があまりよくなくて強そうに思えない。
「ケイ、こいつらどうしたの?」
ベステルタが路肩の石でも見るように言った。
「うーん、僕が29歳で最下位のJランクだから絡んできたんだよ。あと霧魔法をバカにしてきた」
「ふぅん? 人間って年齢でお互いを差別するの? よくわからないわ。でも霧魔法をバカにするのは腹立つわね。サンドリアがかわいそうよ」
ベステルタも同じ気持ちのようだ。よかった。
彼女はノリノリでふっ飛んだつるりんFランクを踏み潰して言う。
「ぐえぇ」
「よくもわたしの仲間と契約者をバカにしたわね。地獄を見せてあげる。かかってきなさい、愚かな人間ども」
僕の真似だろうか、手をくいっくいっとして挑発する。こっちの方が様になっているな。ただし、すごく悪者っぽい。それでも楽しくて仕方ないのか口角をひくひくさせている。
「このアマァ!」
「全員でやっちまえ!」
残りのつるりんヘッドたちが一斉にかかってくる。
「ケイ、わたしが二人殺るわ」
殺らないでね?
「ほとほどにね……。シャールさん、見ていてください。本物の霧魔法をお見せしますよ」
「は、はあ」
僕がシャールちゃんにドヤっている間に、二人のつるりんがベステルタに襲いかかる。
「ふんっ」
「ごぶぇっ」
下から抉り込むような亜人拳。
まあボディブローなんだけど、威力が酷い。男の体がくの字になって1メートルは浮いたな。そのままドサリと落ち、白目向いて痙攣。二人目。
「よっと」
「かっ」
あっけにとられる残りのハゲ。
その場で華麗なベステルターン。
からの、恐ろしく速いバックハンド手刀。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
綺麗に顎を掠めて脳を揺らし膝をガクガクさせて崩れ落ちた。鋭過ぎて男の顎が削げ落ちたんじゃないかと思った。三人目。
いやー、年末の格闘技イベント出場して欲しいわ。
さて、本物の霧魔法を見せるぜ。
『濃霧!』
「うわっ、何だ! 前が見えねえ!」
最後のつるつる男の顔に霧がまとわりついた。頭のつるつるだけ覆わずに強調させてやる。
「くそっ、どこだ!」
ふふふ。フェイさんとの実践を通して習得した霧魔法『濃霧』だぜ。ほとんどノータイムで発動可能。魔力消費もほとんど無い。ふむ、なんか手応えある。戦うたびに何か掴めそうな気がするな。習熟度みたいのがあるのかな? 千霧魔法、本当に極めてみようかな。
男は手で霧を払おうとするが掻き消せない。私の霧は特別製よ。
近距離戦でこの隙は致命的でしょ? お分かり頂けたろうか。
「これはサンドリアの分!」
「ぶべっ」
ベステルタ仕込みのスパルタキックでKO。うーん、スカッとした。四人目。しゅーりょー。
「Jランクとその連れがツーリンたちをぶっ飛ばしたぞ!」
ツーリンっていうのか。あともう少しでツルリンじゃん。ひどい名前だな。
「やるじゃねえか! がはは」
お、おお? 何か好意的に迎えられた。バシバシと背中叩かれて一杯飲めや、とエールを奢ってくれる。ごくごく、麦茶だこれ。嘘です。エールです。
「ぶっ飛ばしちゃったんだけどいいんですか?」
今更ながら不安になって近くのドワーフっぽい冒険者に訊いた。
「かまうこたねえよ。よくあることだぜ。ツーリンたちは腕は悪かねえが、頭打ちでよ。新入りに絡んで憂さ晴らしたんだよ。良い薬になってんじゃねえか?」
ツーリン、名前も素行もろくでもないやつだな。ぶっ飛ばしてよかった。
あと僕はまだおっさんじゃない。後期お兄さんだ。頭のつるぴかディスクに刻んでおけ。
「殺したらさすがに衛兵来るけど、それも同意済みの決闘なら問題ないよー」
ちっこいハーフリング冒険者が付け足す。人の命軽いなー。それだけ冒険者は実力主義か。その分自由なんだろうね。いいね。自由最高。
「け、ケイさん、係員は呼びましたので続きをしましょう」
シャールちゃんも案外慣れてた。ささっと回収係の人たちがやって来て、ツーリンたちを「派手にやられたな」「油断するからだ」と言いながら介抱していた。うーん、ここら辺の感性が違いすぎるな。
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