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奴隷選び

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 スラムを浄化したら狂信者が生まれてしまった。逃げるように戻ったら追いかけてきて洗礼を迫られたけどカリンが元祖狂信者として説得してくれたよ。でも心はガリガリ削られる。また逃げるようにサンドリアに甘えたら、シルビアにロリコン呼ばわりされた。つらい。でもカリンとサンドリア(だいしゅき丸呑みホールド)のおかげで説得できたよ。

「カリンが奴隷に求める条件って何かある?」

 この前ロイさんが教えてくれた奴隷商人までの道をベステルタ、カリンと一緒に歩いている。貰った地図も、言語理解スキルが拡張したから読めるもんね。ちなみにプテュエラは留守番してもらっている。

「やはり一番は子供に優しいことですね」

 まあ孤児院が職場になる訳だし、それは外せないよね。

「他には何かある?」

「そうですね……。協調性がある方だと有り難いです」

 確かに宿舎があるって言っても集団生活を送るんだし当たり前か。ふむふむ。

「ベステルタは何かある?」

「わたし? うーん、そもそも奴隷っていうのがよく分からないんだけど、カリンや子供たちを守るのよね? やっぱり強さじゃない?」

 それは大事だな。戦闘経験ある人物じゃないと厳しそうだ。

 よし、じゃあそれを主眼に選んでいこう。

 ・子供に優しいこと
 ・協調性
 ・ある程度の強さ

 これでいこう。

…………

 その後、商業ギルド御用達の奴隷商人を訪ねて行った。正直、思ったよりもちゃんとしていたよ。

 やっぱり奴隷って言うと、人権が無くて、虐待された跡があって、全てを憎むか全てに絶望しているようなのを想像してしまう。でも、少なくとも紹介された奴隷商人たちはそんな扱いはしていなかった。

「かつてはそうだった、と聞き及んでいます。しかし初代ソルレオン王の治世で奴隷法が大きく変わり、奴隷たちの処遇が大きく変わったのです」

 丁寧な口調で、そう僕たちに説明してくれたのは奴隷商人「マダム・ジャンゴ」さん。少年と屈強な男従者を隣に控えさせ、静かにお尻を触りまくっている、オカマだ。しかもハート様みたいで鏡餅みたいな巨体だ。でも物腰が柔らかく良い声している。でもオカマだ。

 他の奴隷商人たちも悪くなかったけど、商人自体が少し横柄だったり上から目線だったりして止めた。ロイさんの紹介状見せたのにな。ただ、帰るって言った後に焦っていたから、もしかしたら商人同士ではごく当たり前の交渉術なのかもしれない。だとしたら申し訳ないけど。

「へー、そうなんですね」

「左様でございます。当店の奴隷たちは最低限のマナーは教えてありますし、見込みのある者には別途教育も施してありますし、衣食住も揃えてあります。売らないでここにいさせてくれ、という者がいるくらいです」

 それはすごいな。日本の派遣会社みたいなものだ。あれも自社で教育して客先に派遣させるわけだからな。ということは日本の職場環境は異世界の奴隷市場とさして変わりないってことか。笑えるね。はは。ぜんぜん笑えないけど。

「それなら条件に合う奴隷もいるかな?」

「そうだと助かるのですが」

 カリンは心配そうに言った。この子結構、奴隷審美眼がシビアだったのよ。「口が臭すぎます」で落としたからね。その人すんごいショック受けてたよ。許してやれって思ったけど、やっぱり子供がかわいそうだから何も言わなかった。

「当店は大陸各国から仕入れていますから各種族、幅広い年齢層、多種多様な背景を持つ奴隷を取り揃えております」

 大陸各国ってすごいな。人の輸送は大変なはずだ。危険がたくさんあるだろう。

「それはすごいですね。魔獣や野盗に襲われるでしょうに」

「当店には腕の良い用心棒がおりますので」

 にこやかな返答。

 ふむふむ。やはり武力がモノを言う世界だなここは。力があれば金も稼げる訳だ。シンプルだね。

「当店にはそう言った他店には無い強みがございますので、必ずご満足いただける商品に出会えると自負しております。そちらの奥方様にもきっと気に入って頂けるはずです」

「ケイ様、このお店は信頼できます」

 こらこら、チョロすぎるだろ。マダムも狙い打たないで欲しい。

 ていうか商品って言い切って、少しゾクっとした。いや、これくらいの気持ちじゃないと奴隷商人なんてやってられないか。現に僕はその奴隷商人から奴隷を買おうとしている訳だしね。中途半端なヒューマニズムを振りかざすのはよしておこう。

「そうですか。期待しています」

「お任せください」

 マダム・ジャンゴは体中の肉をたぷたぷ揺らして、自信あり気に微笑んだ。そして両手で男たちの尻を揉んでいる。ちょっと股間に怖気が走った。ひゅんって。

「それでどういったご用途に必要ですか?」

 お、条件じゃなくて用途を訊いてくる辺りかなり親身になってくれているな。条件から絞り込んだ方が早いけど、それだと客の細かい要望とか客自身が気付いていない条件を見つけられない。この店は当たりだな。

「そうですね、ちょっと秘密が多いので詳しくは言えないんですけど……」

「この店には防音の魔法がかけられていますし、この奴隷たちは契約魔法で商談を外部に話すことができません。無論、私も同じことです」

「契約魔法ですか?」

「ええ。契約に反した行動をすると凄まじい痛みが襲います。それでも話そうとしたら強制的に気絶させますし、何度も繰り返した場合、死亡します」

 こっわ。それすごい安心できるけど、下手な契約結んだら終わりってことだよね? 良かった知ることができて。気を付けよう。

「ご説明ありがとうございます」

「いえいえ、それで用途の方ですが……」

 僕はマダム・ジャンゴの丁寧なヒアリングに一つずつ応えていった。子供好きで戦闘経験があり協調性がある人物。種族や性別を訊かれたけど特に制限は設けなかった。ジオス神はきっとそこら辺で差別したら怒るだろう。年齢はなるべく若い方がいいが、能力重視と答えた。

「なるほど……。分かりました。確かにこの条件では他店では厳しいでしょう。しかし既に何人か心当たりがございます。少々お待ちください」

 そう言って奥に引っ込んでいった。

「見つかるでしょうか?」

「まー、大丈夫でしょ」

 マダムからやり手オーラ出ていたしなあ。

 少年奴隷がお菓子を出してくれた。あ、美味しい。

…………

「ケイ様、失礼致します。連れて参りました」

 そう言って数人の男女を連れてきた。うわぁ、いろんな人種がいるな。でも全員首輪をしている。

「用途を伺ってさらに条件を絞り込んだのがこの者たちです。私としては誰を選んでも後悔はさせないつもりですが、最後は相性です。どうぞ心ゆくまで質問なさってください」

 そう言ってマダム・ジャンゴは引き下がった。こういうところも他店とは違うね。他のところは自分の目利きを押し付けてきたし、こっちの要望もあまり聞いてくれなかった。これで商業ギルド推薦なのだから、それ以外の店はどれだけやばいんだっていう話だ。やっぱりロイさんに訊いておいてよかったな。おかげでかなり時間を節約できたと思う。

「それじゃ自己紹介してくれる?」

 右から順番に自己紹介を促した。

「自己紹介ですか?」

 一番右の……何か牛みたいな角が生えた少女が言った。あれ、うまく伝わらなかったのかな。

「君の情報を教えて欲しいんだ。名前、年齢、種族、どんな仕事をしていたか、得意な事、とかね」

 そう言うとなるほどー、と少女は納得してくれた。

「マイア・ベズナです! 歳は19歳! 牛人族で力仕事が得意です! 家事もこなせます」

 ふむふむ。マイアちゃん。とっても元気な女の子。あとお胸が牛さんサイズなのもとても良い。母性に溢れて愛嬌があり、子供受けも協調性もありそうだな。ただ、戦闘経験が無さそうだな。いざという時に敵を撃退できるか心配だ。武器も持ったこと無さそうだし。力仕事が得意ならいける……か? 家事熟せるのはいいね。カリン大変そうだし。幸先良いな。キープで。

「アルガロ・マルクル。歳は23。蜥蜴人族。北方戦争で従軍していたことがある。村では子供とよく遊んでいた。漁が得意だ」

 これが成人したリザードマンか。でかいな。がっしりしていてウロコがかっこ良い。顔はまんま蜥蜴だけど、そんなに怖くない。喋り方がちょっとぶっきらぼうだけど、マイアちゃんの後だからそう聞こえるだけだな。子供と遊んでいたみたいだし、近所のお兄ちゃんって感じかな。北方戦争って何だろうね。漁は……今のところ微妙だな。

「軍ではどんな風に戦いましたか?」

「最前線で暴れた」

「……部隊で暴れたんですか?」

「いや、他人は足手まといだ。俺だけで戦える」

 誇らしげに胸を張った。

 うーん、ちょっとこれは厳しいな。強そうなのは疑いの余地ないけど、協調性が無さそうだ。護衛なのに無策で敵に突っ込まれたら味方の命も危険に晒すし。パスで。あ、でも成長性もあるかもしれないな。保留で。

「次の方どうぞ」

「ルーナ・クレースです。歳は27歳。種族は鬣犬族で、奴隷兵でした。子供は兄弟の面倒をよく見ていました。大概のことなら熟せます」

 淡々と話すルーナさん。名前だけ見たらお嬢様っぽいが、まさかのハイエナ族。そしてケモナー歓喜であろう、ケモ対ヒトの比率が要素6:4。口と鼻はハイエナのように突き出ているが、目元や体つきは人間だ。青みががった髪の毛に沿ってタテガミが背中に伸び、腕に斑点模様の体毛が生えている。そして野性味溢れるおっぱい。奴隷服から零れそうだ。でも自分のこと話すの苦手なのかな。感情の起伏が小さい。協調性に難ありか? それだと厳しい。なんていうか地味。うーん、分からん。保留で。

「お次の方」

「シャズス・ピンキー! 16歳! ハーフリング族だ! G級冒険者をしていたぞ! 子供は可愛いから大好きだ! 特技は歌を歌えるぞ!」

 ハーフリングってなんだっけ。たぶん小さいから小人のことだと思うんだけど。あと性別が分からない。たぶん女の子? 元気なのは宜しい。声も良く通りそう。

「冒険者ではどういった役割をしていましたか?」

「んー、基本中衛だな! 槍で前衛の手助けをしたり時には後衛に回って援護もする。弓も使えるぞ!」

 おー、結構すごいな。中衛ポジションって頭使うからね。的確な判断ができないと難しい。すばしこくて、目端が利きそうだ。元冒険者ってのもプラス査定。孤児院の子供たちに冒険者のイロハを教えてあげたいし。むしろ僕が教えてもらいたい。

「冒険者は何人で組んでいましたか?」

「五人だな! みんなハーフリングだから楽しかったぞ!」

 む、他種族と組んだ経験は無いのか。それはちょっと怖いな。
 うーん、マイナス要素はあまり見当たらない。今んとこベストに近い。ちなみに歌もうまかった。雰囲気を盛り上げてくれる人は大事だよね。

「次どうぞ!」

「俺はハルクリフト。32歳の普人族だ。王都で用心棒をしていた。若いころはスラムのガキどもを束ねていたぜ」

 スキンヘッドのおっさん。筋骨隆々で体格も良い。でもこれは厳しいな。常に身体を揺らして落ち着きがない。子供をガキどもって言うのも引っかかるし、何よりカリンの身体をいやらしい目付きで見ている。ゆるさん。

「ジャンゴさん。ハルクリフトさんは縁が無かったということで」

「畏まりました」

「あ!? なんでだよ! 俺はこの中で一番強えし、くせえ獣人どもより良い仕事するぜ?」

 あー、これは駄目だ。すべてがアウト。むしろ素直に言ってくれてありがとう。罪悪感覚えなくて済んだよ。

「パスで」

「なんで、あああああああああああああああああああああああ!!!!」

 バチバチバチッ! っとハルクリフトさんの首輪から電流のようなものが迸った。彼はのたうち回って白目を剥いて倒れた。

「え、大丈夫ですか?」

「死にはしません。この者は顧客の意に反しないという契約に違反しましたので、罰として隷属の首輪が発動したのです」

 隷属の首輪、か。契約魔法と似ている気がするけど違うのかな? それくらいで発動するのはこわい。ハルクリフトさん白目向いて痙攣してるよ。

「契約魔法は両者の合意の元、ほぼ対等な条件で行われますが、隷属の首輪は生命さえ奪わなければ所有者の自由です」

 契約魔法の比じゃないくらいやばい代物だった。こんなの不意に嵌められたら終わりじゃないの?

「管理とか大丈夫なんですか?」

「国の厳しい審査に合格し認可を受けた奴隷商しか扱えないので問題ございません」

 じゃあ認可を受けていない他の奴隷商はどうするかと言うと、ジャンゴさんみたいな認可奴隷商に頼んで首輪を付けてもらうらしい。その際、奴隷商自身に契約魔法で『奴隷に無茶なことは言わない』と宣誓させられるようだ。はー、いろいろやってんのね。

 さて、ここから絞り込むか。はてさて、誰になることやら。
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