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地毒魔法、千霧魔法

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 次の日、もれなく全員二日酔いになった。冷静なシュレアまで怠そうにしていたことから察してほしい。仕方ないので全員に浄化をかけ、昼前まで寝ていた。全員、誰かの身体のどこかに触れている状態。僕の腹にはプテュエラが頭を乗っけていて、口内にラミアルカの長い舌が時折侵入してくる。シュレアが右腕を拘束、左手はベステルタが甘噛みし、両足から腰まではサンドリアのムカデがしゃぶりついていた。無意識でやられると怖いんですが。

 昼過ぎから活動し出した。適当にお昼を食べて軽く今日何するかを決める。

・ベステルタ、プテュエラ
 狩り。ラーメン作りの材料探し。

・シュレア
 野菜とリンカの世話。浄化調査。

・ラミアルカ、サンドリア
 僕と一緒に訓練など。

 こんな感じ。新しく来た二人の能力をいくらか把握しておきたい。楽しみだ。ちなみに二人とも、すでにリンカとの挨拶は終わっている。小さくても先輩だからな。敬わないとあかん。あとは拠点近くの案内とか。温泉湖は教えてあげないと。

「それで、ラミアルカの能力って?」

「おう、オレは地と毒を扱えるんだぜ。すごいだろ?」

 地と毒か。何か地味な気もするがどうなんだろ。
 そしてドヤ顔でも他の亜人と比べて嫌味が無いな。なんでだろ。素直だから?

「二種類使えるってこと?」

「そうだぜ。心臓二つあるからな」

 まじかよ。すごいな。いきなりだったから、タフそうだ、くらいしか感想が出てこないが。

「どこにあるの?」

「ここと、ここ」

 ラミアルカ僕の腕を取り、灰色っぱいを触らせる。ふにゅぽよん。うう、ありがたい。一つは普通に人間と同じところかな。でも昨日繁って食べられたときは心臓なんて見えなかったけど。どこか別の場所に移しているのだろうか。シュレアも似たことできるし、全然あり得るな。

 もう一つは蛇の胴体側だった。なるほど、道理だな。それぞれ人と蛇の胴体にひとつずつか。心臓二つあると能力も二つってことなのかな。

「サンドリアは霧だっけ?」

「そ、そうだよ」

 霧ねぇ。
 個人的にはとても可能性を感じるんだけどな。この後の合同訓練でいろいろ見させてもらおう。ちなみに僕のステータスには「地毒魔法、千霧魔法」と記載されていた。

 それで手ごろな魔獣を探すために移動することになったんだが、二人とも他の三人と比べて高速移動手段に乏しかった。まぁ他の三人が速すぎるってだけな気もするが。ラミアルカの背に乗って移動したけど、普通に自動車以上のスピード出てたからこれでも十分早い。ベステルタは長距離ジャンプ、プテュエラは高速飛行、シュレアに至っては瞬間移動だからね。ラミアルカはさしづめ装甲車かな? サンドリアは暴走状態ならまだしも亜人状態だと無理そう。ていうかぷかぷか浮かんで幽霊みたいなんだよなぁ。かわいい。

「獲物はどうするの? ダイオーク? フレイムベア?」

「ダイオークじゃ弱すぎるな。フレイムベアでもいいが、よく戦うんだろ? ケイがまだ見たことなくて歯応えあるやつが良さそうだな」

 フレイムベアと単独で戦うとか無理です。誰だそんな情報流したやつ。

「姉さん、普通にアイアンドラゴンがいいんじゃないかな。あれならあたしにも倒せるし……」

 ど、ドラゴン? この森ドラゴンなんかいるの? 

「あー、まぁ面白み無いけどそれにすっか。戦ったことないよな?」

「な、ないけど……え、僕も戦うの?」

 ドラゴンとかフレイムベアより勝てる気がしないんだけど?

「まーやるだけやってみようぜ、うはは」

 カラカラ笑うラミアルカ。ドラゴンってあのドラゴンだよね。不安だ……。


 
「ギャオオオオオオオオ!」

 拠点周りの魔獣がいそうな地点はあらかた行き尽くしたかと思っていたけれど、全然そんなことは無く。ほんと広いよなこの森。

 しばらくするとごろごろと大きな岩が転がっている岩山に着いた。そこでラミアルカが手ごろな岩に尻尾をぶつけて、ばしんばしんと音を鳴らす。かなりの音量だ。やまびこの要領で岩山に音がこだまする。

「ガアアアアアアアッ!」

 すると地面が盛り上がり土の中からアイアンドラゴンが姿を現した。めっちゃでかい。そしておっかない。まさしくドラゴンな顔に見上げるほどの巨体。これと戦うとか心が折れそうだ。

「グオオオオオオオオオ!」

 どすんどすん、と縄張りを荒らされ近づいてくるアイアンドラゴン。どんどん近づいてくる。まだまだ近づいてくる。もう百メートル切った。えっ、ちょっと何もしないの? ちょちょちょ、逃げていいですか。

「ま、まだ倒さないの!」

 大声で暢気に構えているラミアルカに訊く。アイアンドラゴンの重量で地面が揺れる。振動と一緒に恐怖が伝わってくる。

「近くないとよく見えないだろ。っし、いっくぜー!」

 つんつん黒髪を揺らしながら腕をぐるぐる回し、叫んだ。

「轟く槍!」

 そういうや否や、アイアンドラゴンの下からゴゴゴと地鳴りがした後、無数の土の槍が飛び出した。

「ギュオオオオオ!?」

 電信柱より太そうな槍が、ちょっとした家より重そうなアイアンドラゴンを空中に縫い付けた。いきなり地面から離された哀れなアイアンドラゴンは苦痛に叫び、翼と脚でじたばたもがいた。何かかわいそうになってくる。

「うし、じゃあサンドリア、とどめだ」

「う、うん。霧空きりから

 サンドリアは呟くと、手の上にあのもやもやを出現させる。それをどうするんだろう、と見ていると「えいっ」とアイアンドラゴンに飛ばし顔をすっぽりと覆った。

「……!?!?!?」

 アイアンドラゴン唐突に声を出せなくなり、さらに激しく体をじたばたさせる。しかし次第に動きが弱くなっていき、ぴくりとも動かなくなった。え、何したの?

「き、霧の中の空気を無くして、ち、窒息させた。あと念のため霧の中の本体でめった刺しにした」

 どっちかにしてあげてよ。どっちもなんてむごすぎる。

「で、でもあたしの能力、姉さんみたいにすぐ発動しないし、使い勝手も悪いから、か、確実に殺らないといけなくて……」

「そ、そっか。ごめんね」

 しゅん、とうなだれるサンドリア。くっ、そんな落ち込まなくても。思った以上に千霧魔法は使い勝手が悪いみたいだな。この方法もやっと生み出したんだろう。どうにか一緒に運用方法を考えてあげたい。

「「「グルオオオオオオオオッ!」」」

 僕がどうやってサンドリアを慰めようか考えていると、岩山の地面がいくつも盛り上がって何頭ものアイアンドラゴンが出現した。おいおい、もしかして群れだったのか?

「お、群れのボスがやられて逃げるかと思ったが向かってくるか。いいぜ、相手になってやる」

 知ってたのかよ。言って欲しかった。

 どすんどすんどすんどすんどすんどすん!

 さっきとは比べ物にならない振動だ。もう地震だな。立ってられない。あと怖い。普通に本能的な恐怖を覚える。何とかラミアルカに支えて貰わずにはいるが。

「蝕む波!」

 一瞬なんだか分からなかった。こぽこぽ、と地面から毒々しい色の液体が泡立つ。次の瞬間ズオオォォォッとその液体が僕たちの前に壁となって現れた。めちゃくちゃ大きい。アイアンドラゴンを飲み込んでもまだ余裕がありそうで、紫とか緑色の津波をそのまま停止させているような光景だ。
 
「溶けちまいな!」

 ラミアルカが手を振ると、その圧倒的大きさの波がアイアンドラゴンに向かって突き進んだ。面くらったアイアンドラゴンたちは「ギャオン! ギャオン!」と逃げ出すが時すでに遅く、毒の波に呑まれていった。

「ど、どうなったの?」

 あたり一面毒浸し。しかもアイアンドラゴンは消えていた。

「オレの毒で全部溶けたぜ?」

 こともなげに言い返すラミアルカ。うわぁ。

「ていうかこんなに毒まみれにしてどうするんだよ。森が枯れちゃうよ」

 完全に環境破壊のように見える。木にも地面にも、あたり一面に毒々しい粘液がべったり張り付いている。こんなの自然愛好家が見たら卒倒するだろ。

「ん? オレの毒は自然には悪さしないぜ? もともと土の中にあるものだからな。溶かすのは魔獣だけだ」

 なにその親切設計。それならいいけどさ。

 岩山であらかたアイアンドラゴンを狩った。きっちりアイアンドラゴンとも戦わされたけど、意外と何とかなった。足元に入り込めば一方的に攻撃できたよ。潰されないように気を付ければいける。特にブレス攻撃とか無かったし、外皮も硬かったけど練喚攻で強化したフランチェスカの一撃には無力だった。結構強くなってるのかな。

 ていうかこれ、食べられるのかな。アイアンとか言うくらいだし固そうだが……まぁ、一応保管しておこう。

 その後、二人を温泉湖に案内して一風呂浴びた。

 うーん、やっぱこれだな。温泉最高。二人とももちろん初めてだったみたいでなかなかつやっぽい声を出していた。ラミアルカはボーイッシュな見た目だからギャップで背徳的だし、サンドリアは三白眼と茶髪がへにょっと垂れて見ていてほっこりする。そのまま親交を深めるべく繁った。今度こそ僕主導で繁ったので、満足。ラミアルカはやっぱり守勢に回ると恥ずかしいタイプのようで、終始恥ずかしがっていた。もう、最高。そしてラミアルカを何とか倒して、ぐったりしている僕を、

「じ、じゃあいただきます」

 と興奮気味のサンドリアにぱくりと食べられた。いや、いいんだけどね。
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