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ラミアルカ

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 あの恥ずかしい宣言をした後、僕たちは拠点に場所を移した。ラミアルカの治療、もとい浄化をするためだ。

「えっと、じゃあ浄化してくれるってことでいいのよね?」

「いいよ」

「お、おう。頼んだぞ」

「う、うん」

「……」

「頼むから珍獣を見るような目をしないでくれ」

 シュレアが何とも生暖かい視線だ。くっそ、さっさとやってしまおう。それで、すべて済ませて繁殖生活に戻るんだ。

「な、何でもいいから姉さんを浄化してあげて……」

「ひゅっ、ひゅっ」

 あかん、ラミアルカさんがマジで虫の息だ。こんなことしている場合じゃない。

「浄化!」

 ラミアルカさんの身体を清浄な光が包む。

「大丈夫そう……?」
 
 ベステルタの心配そうな声。

「たぶん……」

 今のところ問題ない。そんな大きな負担は。意外とすんなり行けそうだ。

 あっ。なんだこれ。身体が寒い。あれ、頭が痛い! 吐き気がする。あばばばばばばばば。

「ケイ! しっかりしろ!」

 プテュエラの声か? 何か目の前が暗い。やばくね。やっぱ止めりゃよかったかな。でもそういう訳にもいかなかったからな。

『……!』

 ……あれ、景色が見える。絶死の森っぽい。でも知らない場所だな。うおっ、勝手に視点が動く。うええ、酔いそう。

『ね、姉さん! 獲物、狩れたよ!』

『おおー、いいじゃねぇか。よしよし。偉いぞ、わはは』

『え、えへへ』

 サンドリアだ。身体の何倍もの大きさのブラッドサーペントを片手で引きずって、僕に見せてくる。僕っていうかラミアルカさんだな。僕、今ラミアルカさんの視点で見ているのか。

『ん、まだ死んでねえぞ?』

『あ、ほ、ほんとだ』

 サンドリアはそう言うと残念そうに瀕死のブラッドサーペントを地面や木にびったんびったんと叩きつける。ブラサのくぐもった呻き声と肉と骨が砕ける音。血がサンドリアの頬にはねる。えっぐ。

『よし、死んだな。この蛇はしぶといから念入りに殺さないとだめだ。これで問題なし! うはは!』

 二人とも楽しそうだ。これは……ここに来る前のラミアルカさんの過去? 浄化の効果が深すぎて彼女の記憶まで侵入してしまったのだろうか。

 再度暗転。

『ラミイ! 話を聞きなさい!』

 これはデイライトかな。ベステルタとプテュエラ? なんか今より少し若い。かわゆ。

『ラミイ! みだりに人に干渉してはだめよ!』

『うるせえ! 亜人のルールなんて知ったこっちゃねぇ!』

 ヤングベステルタは僕に向かって叫ぶ。あっ、これラミアルカさんの視点か。なるほど。いや、なるほどじゃない。どういうこと?

『よかった……助けられた……』

 ぶつ切りの映像は、今度はラミアルカさんが子供を抱きかかえている。特徴的なホワイトアッシュの髪の毛をしている。周りは炎の海だ。近くに穴だらけの魔獣の死骸がある。

『その子を放せ! おぞましい亜人め!』

 声の方向を向くと、精悍な顔立ちの男が剣を持って構えている。この人も白灰の綺麗な髪の色だ。

『……』

 ラミアルカさんの何とも言えない気持ちが流れ込んでくる。喜び、諦め、悲観。それらが心の内を何回か巡った後、彼女は姿を消した。どうやらこの後からベステルタやプテュエラに会ってないようだ。

 もう一度暗転。

 あれ、次の映像はなんだ。ラミアルカさんじゃない。これは……僕だ。

「種巣啓」

 耳元で囁かれた。振り返るが誰もいない。いつのまにか呼吸が浅くなっている。恐ろしい声だ。低く、蕩ける様に美しく、それでいて内臓を鷲掴みにされるような声。

「……」

 それは暗闇の中で囁く。しかし声が小さくて聞こえない。ふと宙から何かがぽたりと落ちてきた。これは……血?

「徒……よ」

 声は近いのに何も見えない。恐ろしい。何か触れてはならないものに触れているようで。

「……ける」

 ぽ、っと僕の胸に白い炎が宿った。びっくりして尻もちを付く。慌てて叩いて消そうとするが火は消えない。それどころか、いや、熱くない。その火炎はどんどん小さくなり僕の胸の奥に消えた。

「を……」

 声は何かを伝えようとするが、途切れた。黒い水が空間に滲み出す。息ができない。溺れる。やばい。

「見ろ」

 溺れる前に僕は見た。
 顔が半分爛れている。肉は所々熔け落ち、白骨化している。鎖につながれた無残な身体。女性だろうか。血と腐った肉が滴っている。しかし右目の周りだけは白い肌が残り金色の瞳が力強くこちらを見つめている。瞳の奥には何かの文様が見える……これは……リッカリンデンの紋章。Λのマーク……。

 疑問が解けないまま僕は黒い水に沈んでいった。

…………

……


 う、うーん。身体が暖かい。ぽかぽかする。
 もふもふと、もちもち?

「お、起きた!」

「ベスー! ベスー!」

 体の上にいたのはプテュエラと、ちょっと顔の赤いサンドリア。プテュエラは羽で僕を包み込み、サンドリアは横から抱きしめてくれている。暖めてくれていたようだ。二人とも仲良くなったのか。それならいいんだけど。なるほど、どうやら僕は寝ていたらしい。というか意識を失っていた? どれくらいだ?

「よかった、起きたのね」

「さすがに心配しました」

 ベステルタとシュレアも続いて姿を現した。そしてもう一人。

「よお、あんたが種巣啓か? オレはラミアルカってんだ」

 大きな蛇の胴体をシュレアの触手に支えられながら引きずってくる。あの死にそうだった表情はもうない。快活にニカっと笑っている。ツンツンした黒髪の癖っ毛が不良っぽい。ボーイッシュな印象、ていうか美形男子に見える。

「ん、大丈夫か? まだ具合悪いのか?」

 僕が見とれていると心配そうに声をかけてくる。

「いいや、大丈夫ですよ。ラミアルカさん。種巣啓です。宜しくお願い致します」

「あー、そんな丁寧な言葉使わなくていいぜ。ベステルタたちと同じように気楽に話してくれ」

 すると、そのまま横になる僕を乱暴に抱き寄せ、顔をぐっと近づけてくる。さらに僕の顎をくっと掴む。おいおい、王子かな? すげえ、所作がナチュラルイケメンだ。見た目は不良、仕草は王子。

「どうやら、お前にはずいぶん世話になっちまったようだな。命まで助けてくれた上に、妹のサンドリアまで止めてくれたようだ。感謝する」

 まあサンドリア止めたのはベステルタたちだけどね。

「気にしないでくれ。成り行きだよ」

「成り行きで人が亜人を助けたりしねぇよ。謙遜すんな」

 ラミアルカはフッと微笑む。意外と肉感的な唇。

 しゅるしゅる。

 その裂け目から長くて細い舌が僕の顔を舐め触ってくる。ギャップがすごい。あと個性の情報が多い……。そして彼女は一番聞きたくないことを言ってきた。
 
「お前に報いたいが生憎この身体以外に差し出せるものがねえんだ。だから、こんな毒まみれで悪食のオレだが、良ければ貰ってくれ。ていうか嫁にしてくれるんだろ?」

「ぐっ」

 思い出したくないダークアクションの記憶がよみがえる。心臓が痛い。僕のブラックヒストリーが溢れ出してしまう。

「……僕は亜人王になるっ!」

「ぷぷーっ」

「お、おいシュレア、グフっ、や、やめてやれ」

「……ふひっ」

 シュレアがまさかの裏切り。この子最近自重してないよね。からかうにしても、ベステルタかプテュエラだと思っていたからダメージがでかい。あとサンドリアがオタクっぽい笑い方している。見た目ヤンキーなんだけどな。

「おい、何で笑うんだ? 亜人王かっけえじゃんか。オレは好きだぜ」

 ほかの四人が再びぷふーっと笑う。もう僕のライフはゼロよ。

「あ、ありがとうラミアルカ。とにかく元気そうで良かったよ」

「ああ、よろしくな! オレ、まさか自分が嫁に行くなんて思わなかったから、ちょっと恥ずかしいんだけど、頑張って繁殖するぜ。子供はたくさん欲しいな。ふふ、楽しみだ。お前もそう思うだろ? 早速繁殖しようぜ。サンドリアも一緒にやるぞ」

「ふ、ふひっ……え、あた、あたしも?」

「当たり前だろ。ケイは器のでかい男だ。二人くらい訳ないさ」

 会って間もないのに言い切るのか。すごいな。嬉しいけど。

 いや、サンドリアはまずくないか? ぎりぎり見た目は成人しているけど、本人の意志が……。

「う、は、はい。よろしく……」

 顔を赤らめて肯定。いいのかよ。自分で言うのもあれだけど、ものすごい流されてないか?

「ケイ、サンドリアはこういうのに興味あるんだよ。そんな雰囲気してないのに。やべーよな。あっちじゃオレが手取り足取り教えてやったもんだ」

「ね、姉さん!」

 からから笑うラミアルカと恥ずかしがるサンドリア。
 手取り足取りって……そういうこと? まじかよ、サンドリア意外とむっつりだった。そしてラミアルカ、百合王子だった。意味わかんないな。

「弱点教えてやるよ。さあ、繁ろうぜ、わはは!」 

 雰囲気も何もない。ていうかもう具合はいいのか? 亜人の回復力だから問題ないのか? いや、いいんだけどね。なんだかんだでラミアルカがちょっと顔を赤くしていたのにはきゅんってしたから。
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