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炎の日

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 結局夕方までみっちり訓練した。いい汗かいたよ。

 でもそこまで息は切れていない。やっぱり体力上がってたんだな。実際ステータス画面見ると実感するよ。

 うーん、同年代、同ランクのステータスが気になってしまう。こういうのはゲームっぽい感覚だな。今度シャールちゃんに聞いてみよう。

 ダイオークたちも回収した。

 結局、近くのダイオークをあらかた倒してしまった気がする。三百を超えた辺りから数えていない。ダイオークも逃げてたし。

 僕が姿を現すと、

「ブギャーン! ブギャーン!」

 泡を吹いて鳴いて逃げていった。

 それを見てベステルタが、

 「あっはっは!」

 と指差して楽しそうに笑う辺り、

「やっぱ人間と亜人じゃけっこう感覚が違うのかもなあ」

 と思ったけど、よく考えたらそんなもんか。人間同士でも価値観合わないことなんてしょっちゅうあるし。それが殺し殺されに発展して、戦争になるんだし。

 少なくとも僕らはお互いを尊重できている。あんまり気にしなくていいのかもしれない。……いいよね?

 流石に逃げる個体は追わなかった。もし方天画戟を持ってたら「ケイ・リョフ」とでも改名したいくらいだ。

 いや、イキるのはやめておこう。調子に乗るのは恥ずかしい。

 最後の方は戦うのにも慣れて、食料兼素材として、なるべく綺麗に倒す余裕があった。フランチェスカを無駄なく振れば、スコココーン、と首が飛んで行って胴体が丸のまま手に入るからね。

 帰りはいつも通り温泉に入った。
 この夜月の下、じんわり身体が温まっていくのが最高だよ。ほぼ毎日入っているから身体も温まって、冷え性ともおさらばした。腰痛肩こりも消え失せている。身体が軽い。

 ただ、温泉繁りは止めておいた。

 なぜかって? 
 今夜に上位スキル「繁殖術」を解禁するつもりだからさ。正直何がどうなるか分からないし、セーブしておく。
 
 まったり温泉に入った後は拠点に戻って団らんタイムだ。

 プテュエラは、

「ケイ! 仕留めてきたぞ!」

 とお亡くなりになっている凶悪な魔獣を見せびらかしてきた。
 うわ、脚の爪でがっちり抑えている。すんごいゴツイんだけど。と思ったらすぐに小さくなった。収納式なのね。

 そう言えば初めてその爪使っているところみたかもしれない。ベステルタの爪とは違って太さが尋常じゃない。微妙にかえしが付いていて、一度掴んだら離れなそうだ。

 あと、仕留めた魔獣がプテュエラの脚の握力? で潰れている。あんな無邪気なクールフェイスなのに……。こわいよ。
 
 しゅるしゅる。

 僕の脚にいつの間にか蔦が絡んでいた。

「ケイ、新たな魔素溜まりを見つけました。近い内に行きますよ」

(……)

 シュレアと腕に抱えられたリンカ。
 彼女の脚の触手が僕の下半身を絡めとっている。
 リンカも身体をよじらせているけど、真似しようとしているのかな?

「プテュエラ、ありがとう。収納するね。シュレアもありがとうね」

 プテュエラは得意げにその場で凶悪な脚をふみふみ、翼をばっさばさする。シュレアは汚物を見る目で枝角をぴかぴかさせる。二人とも可愛いな。

 屋内に移動する。みんなでまったり。

 あ、そうだ。
 炎の日について話さないとな。はぁ、気が重い。でもいつかは話さなきゃいけないことだ。

「そういえばシルビアから聞いたんだけどね」

「あら、どうしたの? またカリンみたいに手篭めにしたの?」
「いや、違うと思うぞ。この前真剣な顔で話していたやつだ」
「真剣な顔? 気持ち悪いですね」

 ベステルタとシュレアはナチュラルに話の腰を折ってくるの止めてくれよ。

「手篭めにもしていないし、気持ち悪くもないよ。
 いや、昔ベステルタとプテュエラとラミィさん? とでデイライト行ったことあったでしょ? フレイムベア倒したってやつ」

 すると、きょとんとしたシュレア以外の二人は懐かしそうに目を細めた。

「あー、そうね。この前ちょこっと話したやつね」
「ラミィが暴走したんだよな」
「まったく……今聞いても呆れます」

 若気の至りよ、とベステルタが苦笑した。

 ほっ。よかった。この話題自体はそこまでセンシティブじゃないみたいだ。

「それがどうかしたの?」

「いやね、シルビアが言うには、あっ街で知り合った商人なんだけどさ、どうも亜人がフレイムベアをけしかけたって噂が主流になっているみたいだよ? アセンブラ教会が主導してさ」

「ほお」
「くだらない」
「詳しく教えて」

 三人とも怒ってる。うう、こわい。常人なら漏らしてるよ。

「正直僕もそれ以上のことは知らないんだよ。後はシルビアは反アセンブラだったから信じていないってことぐらい。
 ああ、デイライト伯爵は否定しているらしいよ」

 この噂、どれくらいの人が信じているんだろうね。
 アセンブラはポーション製造握っているから、冒険者なんかにも影響力ありそうなものだけど。

「……ふぅん」

 カチカチカチ。

 何の音かと思ったら、ベステルタが苛ただしそうに爪を鳴らしているのだった。スズメバチの警戒音かよ。本能的な恐怖を覚えてしまう。

「ベス、アセンブラはもう滅ぼさないか?」

 プテュエラは至極冷静な口調でいった。マジトーンだ。軍人っぽい。

「母たち、祖母たちの時代は奴らの言いなりだったかもしれない。種を人質に取られていたからな。でも今は違うじゃないか。私達にはケイがいる。もう気にしなくていいはずだ」

「しかしプテュエラ。それはケイの意志を無視していますよ」

 マジトーンのプテュエラに、マジ声色で意見するシュレア。ひぃー、気まずい。

「無視していない。ケイは亜人と共にある。その逆も然り。今まで過ごしてきて、私はそう確信している」

「それが無視していると言っているのです。プテュエラ、貴方は思い込んでいます。冷静になりなさい」

「私は冷静だ!」

 バフォン、とプテュエラが大きく翼を羽ばたかせ空気が唸る。羽が金色に輝いて辺りを照らしている。目を開けると大きな木の壁が守ってくれていた。

「ぐっ」

「……プテュエラ、シュレアの言う通りよ。少しだけ冷静になって。お願い」

 ちょ、ちょっと。
 
 ベステルタがプテュエラの首を掴み、爪を腹に当てている。いつでも止めをさせるってポーズだ。

 勘弁してくれ。

 目の前で起こっていることは、この世で最も見たくない光景の一つだ。

 プテュエラの翼が力なくしおれ、光が消えた。

「……そうだな。どうかしていたよ。すまない、シュレア。お前はいつも私の間違いを正してくれる」

「そんなことありません。プテュエラ、友人を思いやるのは当たり前のことです。気にしないで」

 ベステルタが手を離して、しょんぼりするプテュエラを抱きしめる。シュレアも加わる。流石に僕はそこに入れない。そんな度胸は無い。

『プテュエラのお母さんは種の提供者と珍しく相思相愛だったらしいわ』

 ベステルタがチャンネルでフォローしてくれた。

『でも当時力が強かったアセンブラ教会に夫が殺されたの。亜人に与する人類なんて敵だってね。そしてプテュエラのお母さんは彼女を産んで、すぐに自殺したのよ。後を追って』

『そうだったんだ』

 なるほど……。そういうことか。それは……いや、何も言えないな。

「ケイ……すまん」

 謝るプテュエラ。目尻が光っている。

「プテュエラ、気にしていないよ」

「ありがとう。お前と契約したことは私の誇りだ」

 にこりと笑う。金髪がほつれて顔にかかる。

 なんてことを言うんだよ。
 そんなこと……ああくそっ、言葉が出てこない。

 とりあえずアセンブラは撃滅の方向でいこう。

 話は聞いてやってもいいが、基本的にはデストロイだ。
 僕は臆病で一方的で心の狭い男だからね。好きな方に好きなだけ肩入れするのさ。
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