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上位スキル

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「ブビャーーーッ!」
「ブビャッ!」
「ブヒィャァ!」

 旋風。血煙。肉片。
 すまん、中二チックかもしれないけど許して欲しい。僕は今、そんな感じだ。

 某無双ゲームみたいに襲いかかってくるダイオークたちを薙ぎ倒す、斬り倒す、殴り倒す。
 
 回転を止めないように、空に流れる血の川に背かないように、鉄塊の旋毛風(つむじかぜ)となって肉壁を穿っていく。

 おかしいな。周りが遅い。
 ダイオークたちの表情がはっきりと見える。
 握る戦斧の重さを感じない。

 気が付くと辺り一面は肉片だらけ。さっきまでダイオークだった。

 質量×スピード×フランチェスカ=破壊力

 戦斧とカッコ良さが合わさって最強に見える。

 あたしってば最強ね!

「群れでいきなり襲ってくるとは思わなかったけど、対処できているじゃない」

 偉いわよ、と褒めてくれる。嬉しい。
 いや、こんなことになるとはな。

……

 ダイオークの集落に到着した僕たちは、この前のようにベステルタが何匹か釣り出そうとした。しかし、結果は見ての通り。

 ベステルタに釣り出された数匹のダイオークが、僕たちを見た途端、懐から法螺貝のような物を取り出して『ぶぉぉぉぉおおん!』と吹いた。

「あっ」

 ベステルタがミスった、って顔してる。

「どうしたの? 何したのあれ」

 ダイオークたちは鬼の形相で睨んでくるが、動かない。森の奥から地鳴りが聞こえる。何かがたくさん猛烈な勢いで近付いてくる。やばいんじゃないかこれ。

「うーん、どうやら仲間を呼んだみたい。あいつら、前回のことで相当頭に来ているわね」

「そ、そうなの? この前はそんな事なかったけど」

「普段は弱い癖にプライドだけは高いから、仲間呼ぶなんてことしないわ。でも爪の先ほどの知能はあるから、敵わないと思った時はこういうこともするのよ」

「な、なるほど」

 というと、指示するトップがいるってことだろうか。やっちまったな。

「「「ブガァァァァァッ!!!」」」

 暢気なベステルタをよそに、森の奥からダイオークの群れ、群れ、群れ。
 仲間を殺された怒りに燃えている。
 や、やばい。百匹くらいいるんじゃないか。

「逃げた方が良くない?」

「逃げる必要なんてないし逃げたらだめよ。訓練なんだから」

 マジか。これに突っ込むの? 
 古来より、数の暴力には抗えないようになっているんだよ?

「大丈夫よ。行けるところぎりぎりまで、練喚攻を発動させなさい。打ち漏らしたのはわたしが処理するから大丈夫。ケイは薙ぎ払うことだけを考えればいいわ」

 要するにケツもったるからやってこい、と。まったく勇ましくて惚れそうだぜ。

 僕は鞄からフランチェスカを取り出す。
 陽光に鈍く反射してダイオークたちを睥睨する。
 
「ブ、ブギャッ!?」

「ブビィ! ブビゥッ!」

「ブォォォォ!」

 高々と掲げられた無骨な戦斧に、何頭かが明らかに動揺していた。しかしそれを別の個体が鼓舞している。
 もしかして仲間内で情報の連携までしているのか? 厄介だな……。

「ほら、グズグズしないで行ってきなさい」

 とん、と軽く押されつんのめる。
 
 群れの大敵である僕たちを倒そうとプライドを捨ててまで向かってくるダイオーク。

 完全にこっちが悪役だ。

 こっちの目的なんて訓練と食料調達くらいだからね。大義と言えば、こいつらが人を襲うから、くらいしか無い。

「プギャッ!」

 若い個体が僕に突っ込んでくる。 

「練喚攻」

 二層まで発動させる。
 もうほとんどラグ無しで発動できる。 
 まだいける。
 もっと、深くへ、力を。

 漲る力。

 ダイオークが振り下ろす棍棒ごと、戦斧を振り抜いた。

 ボシュッ! ドチャッ。

 まるで鈍器で殴るような手応え。それでいて余韻は斬撃。

 次の瞬間、そいつは血煙に消えた。

「流石フランチェスカ。見込んだ通り最高だ」

 今宵のフランチェスカは血に飢えておるわ。まだ昼だけど。

「ぶびゃぁぁぁぁ!」

「ぶぅぅぅぅぅ!」

「ぶびっ! ぶびびぃっ!」

 ダイオークが悲しむように叫んだ。

 まあ大義のために倒す、なんて御大層なこと考えてはいない。生きるために倒す。僕の自由のために倒す。それだけだ。

「もう弱者の立場に戻りたくないんだ」

 その気持ちが一番強い。

 見てくれよ。
 見るからに強者なダイオークが、僕の振るう斧に成す術無く吹き飛んで行く。無残にも命が惨殺されていく。

 強いと思っていたやつが、ある日突然弱者に回る。

 笑っちゃうよな。でもこれ、真実なんだぜ。

 僕はもうそっち側に回りたくない。
 弱者は、うんざりだ。だから強さを求め、自由を求める。

 うん、そうだ。それがいいや。それでいこう。だからダイオークは倒す。

 ……僕ってこんなに冷徹な思考していたっけ。
 慣れたのか麻痺したのか、それとも変質したのか。はたまた壊れてしまったのか。分からない。この強い気持ちを客観できる自分がいるのも事実だ。

「黒豚ども、舞いなさい。我が契約者の糧となり、散華しろ」

 でも、むせ返る血煙の中、嬉しそうにダイオークを屠り、楽しそうに笑うベステルタを美しいと思えるほどには、正気を保っていた。
 正気だと、そう思いたい。

…………

「ぜ、ぜんぶ倒しちゃった」

 いったいどれだけのダイオークを倒したのか。
 死屍累々、屍山血山。
 貴様こそ、万夫不当の豪傑よ。って言われてもおかしくない。数は足りないけど。

「いいじゃない。かなり良い動きだったわ」

 ぱちぱち、とベステルタが手を叩く。

「そう? ありがとう」

「足運びがスムーズだったわね。わたしの爪を使っていた時よりずっと滑らかだったわ」

 少し悔しいけど、と苦笑いする。

 確かに。フランチェスカは使っていて何の違和感も無かった。ベステルタソードの時は初戦ってのもあったけどビビってた。この違いは何だろう。

「案外、本当に斧使いの才能あるのかもしれないわ」

 それならとても面白いな。

 まさか日本では無能常駐派遣リーマンの僕が、異世界で剣でも槍でもなく、最も縁のなさそうな斧使いの才能を開花させるなんて。

 でも、夢があるね?
 
 ふと、ステータスを確認したくなった。斧使いのスキルあるかもしれないし。結構倒したし。こういうのは細かく確認しない派なんだよ。それが僕のジンクスだ。


「ステータス」


氏名 種巣 啓
レベル  52
体力 220
魔力 200
腕力 240
精神 95
知力 150
器用 180


スキル
生活魔法
料理術(Lv2)
房中術(Lv10【MAX】)→上位スキルへ拡張可能


固有スキル

練喚攻・三層(発動中)
賢樹魔法
殲風魔法
言語理解
頑健(Lv5)
浄化(Lv3)


 んん……?

 また結構変化してるな。なんだこれ。

 えっと、レベルはまた上がったな。相変わらず精神か弱い。まあメンタル薄弱だからね。むしろステータスに信憑性出たよ。ただ95っていうのは普通の人よりあるのかな? まあ商業ギルドで色々言ったし、そこらへん加味されてるのかもな。

 何気に腕力が体力を抜いた。まさかの脳筋か。確かに戦闘ではフランチェスカ使ったし、夜のお勤めも腕力いるからなあ。

 その他は順当だ。もう少しだけ知力が伸びて欲しいけど……。

 それで、だ。問題はスキル関係。

「房中術レベルMAXって」

 これだけカンスト速すぎでしょ。そりゃほぼ毎日頑健スキルに任せて繁りまくりだけど。

 しかも上位スキルに拡張可能って。これどうすれば拡張できるんだろう。拡張って念じればいいのかな。


『上位スキル【繁殖術】を取得しますか?』


「ひぃぃぃぃん」

「わっ、何よ。そんな気持ち悪い声出して」

「ご、ごめん。気にしないで」

 繁殖……術。実在したのね……。

 これ、今後のためには拡張したほうがいいんだろうなあ。せめて、名前どうにかなりませんか。真・房中術とかにしてくれよ。
 
 ……うーん、やっぱり今拡張するのは止めておこう。せめて今夜にしよう。ここで性欲むらむらバーンになったら大変だ。あとであとで。

 何気に練喚攻が三層までいけるようになったのが嬉しい。やっぱりフランチェスカでくるくるしている時の感覚はこれか。飛躍的に身体能力が上がった気がする。多分これ、空間把握力も対象な気がするよ。広義の運動神経が向上している。

 ……。
 何度見ても斧関係のスキルは無かった。
 悲しい。

「ケイ、何をブツブツ言っているの? そろそろお昼にしましょう」

 正気か? こんな血まみれダイオーク横丁で食事とか。でもお腹はめちゃくちゃ空いてる。今朝作ったご飯は他の二人に全部あげちゃったし。

「せ、せめて別の場所で……」
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