絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

文字の大きさ
上 下
48 / 146

ブラス家の崩壊

しおりを挟む
 落ち着いたシルビアさんに案内されたのは路地から外れたとこにあるカフェ。何でも祖母のリディアさんがお世話になっていた所で、防音室があるらしい。そこなら落ち着いて話せるとのこと。

 カランカラン、とカフェのドアを開ける。

「マスター、奥の部屋借りるね」
「好きにしなさい」

 優しそうだけど、眼力の強いお爺さんに断って進む。

 さっきからシルビアさんが全然笑っていない。怒っている訳じゃなさそうだけど、神妙な顔つきだ。むう、どうしよう。こういう時どんな態度でいればいいのか分からない。僕なんてこんなもんだよ。他人の顔を常に伺っちゃうんだ。

『ケイ、情けない顔をするな。お前には私たちが付いている。もっと胸を張れ』

 プテュエラが発破をかけてくれる。
 
『……そうだね。ありがとう』

『うむ』

 そうだ。何も恐れることは無い。前は前、今は今。もう、他人に振り回されて生きるのは止めたはずだ。僕は自分のために生きなければいけない。よし。気合入った。

「ここなら防音の魔法がかかっています。だからある程度秘密を話しても大丈夫なんですよ」

「そうですか」

 そう言って椅子に座る。シルビアさんは手を組み俯いてしまった。どーしよ。

 お茶が来るまで彼女はずっと沈黙していた。何かを話そうとしていたけど、何を話せばいいのか分からない様子だ。失礼な気もするけど、まあいいや。訳ありそうだしね。本当は話すのが苦手なのかもしれないし。

「シルビア」

 沈黙を破ったのは例のマスターだった。二人分のお茶を持ってきてくれた。

 ことり、とよく磨かれたテーブルに置かれ、シルビアさんが一口飲んでほうっと息を吐く。

「……相変わらず良いお茶」

「リディアとの約束だからの。それよりお客さんをいつまで待たせるつもりじゃ?」

 シルビアさんはハッとして僕を見る。いやいや、忘れてたの? ちょっとショックだ。

「す、すみません! こちらが誘ったというのに……ああ、私ってばいつも……ごめんなさい」

 しょんぼりしてしまった。

 ああ、集中すると周り見えなくなるというか、微妙に自分のコントロールできない人なのかもね。心の声漏れてたし、有能だけどブレーキの効きが悪いというか。

 いや、責めてないよ? むしろ好感度が上がった。完璧な人間なんて神話にも出てこない。

「いいんですよ。気にしてません。ゆっくり話してください。ああ、美味しいですねこのお茶」

 コーヒーかと期待したけど違った。でもとっても美味しい。紅茶とかハーブティーの類だ。花の香りが強くてほんのり甘い。リラックスできる。欲しいなこれ。

「お客さん、舌が肥えておるようだ。嬉しいよ。それはライラティーと言ってな。その娘の祖母、リディアが愛したお茶じゃよ。気に入ったのなら後で分けてあげよう」

 好々爺マスターはにこにこ話してくれる。が、目付きは鷲のように鋭い。
 左手でジェスチャーを交え視線を絞らせず、右手はいつでも動かせるように自由になっている。ゆったりした服で分かりづらいが、重心も少し落としてやや半身。つまり警戒態勢だ。何もんだよこのおじいさん。

 僕、なんでこんなこと分かるようになってるんだろうなあ。まったく、絶死の森ブートキャンプ様々だよ。

「……」

 おっと、この爺さん一瞬だけ力を入れたね。なんだ?

『ケイ、非常に小さいがその翁、殺気を飛ばしたぞ』

 へー、殺気! これが殺気かぁー。ちょっと感動だ。なるほどな。覚えておこう。のちのち役に立つかもしれない。

「マスター?」

「シルビア、この方は大丈夫じゃ。少なくともお前に危害を与えようとはしておらん」

 当たり前やんけ。僕は平和主義だぞ。

「え、どういうこと?」

「鋭く殺気を飛ばしたが軽く受け流されたわ。まさに泰然自若といった佇まい。このような方はおおらかで、礼を尽くせば応えてくれるのよ」

「殺気!? 何してんの! あぁー、ケイさんごめんなさい……重ね重ね本当に……」

 恐縮して縮こまるシルビアさん。爺さん何が「ふぉっふぉっふぉ」だよ。乱すだけ乱して出て行ったしさ。おかげで、話しやすい雰囲気になったけどね。

「いいんですよ。気にしていません。それより……そうですね。ならこっちから質問しましょう。リディアさんはどんな人ですか?」

「祖母ですか……」

 シルビアさんはまだ恐縮していたけど、やっと思考がまとまったのか、ぽつりぽつりと話してくれた。

…………


……

「という訳なんです」

 シルビアさんは話し終えるとほっとした様子で、椅子にもたれかかった。ライラティーをぐいっと飲み干し、ちょっとぼうっとしている。安心したのかもね。

 それにしても、なるほどね。

 シルビアさんの祖母、リディアさんとは。一言でまとめるとこうだ。


『リディア・ブラスはブラス家に破滅を招いた張本人』


 シルビアさんが小さい頃に、リディアさんは行方不明になってしまって殆どが両親から伝え聞いた話らしいが。
 
 リディア・ブラスは小さい頃からお転婆でとにかく行動しまくる人だったらしい。
 そして大のつくお人好しで、仕入れた商品を格安で売りさばいたり、逆に貧困困窮?する人から相場よりずっと高く物を買ったり。彼女の両親は、それはそれは手を焼いたそうだ。

 そんな彼女には特技があった。

 それは品物を見抜く力。

 鑑定魔法ではなく、もっと本質的な「それが売れるのか」「人のためになるか」を見抜くことにかけて天才的だったらしい。

 だから、世に出ていない芸術家の作品や辺境の特産品の価値を見抜き、貴族や大商人に売ったことでずいぶんな財を築いたそうだ。

「祖母の商売は『お金を積極的に手放す』やり方でした。あれは祖母にしかできないやり方です。真似したけど無理でした」

 シルビアさんは悔しそうに、でも誇らしげに言う。リディアさんがやったことは「損して得とれ」とか「先行投資」の類だと思う。そこに天才的な閃きと、自由奔放な行動力、そして運が絡んだ奇跡的な商売スタイルだったんだろう。

 でも何故、リディアさんがブラス家に破滅を招き、商会は破産したのか。それも一言で言い表せられる。正直、またかって感じだけどね。


『リディア・ブラスはアセンブラ教の利権を荒らし、潰された』


 まーた、アセンブラか。だめだなこいつら。デイライト市民の敵だよ。長い年月をかけて腐った保守組織の香りがする。デイライト伯爵、この問題で禿げ上がってそうだ。

 お茶が好きなリディアさんはある時、コス茶という不思議な茶を飲み、感激する。味も素晴らしく、活力と精力が湧いてきたそうだ。彼女は追い求めた。

 余談だがその時、後に夫となる幼馴染と良い雰囲気になって、シルビアさんのお母さんが生まれるきっかけになったらしい。

 その後あらゆる伝手を使ってコス茶を調べ、それがコスモジオ霊草だと知ったリディアさんは誰に言うことも無く一ヶ月ほど留守にし、ある日突然帰ってきた。山ほどのコスモジオ霊草を持って。
 ちなみにシルビアさんの言いぶりだとコス茶が絶死の森由来だと知らなそうだね。この時、優しき紫獅子の亜人がリディアさんを助けている。ベステルタ自身がそう言ったからね。優しき、ってのは僕が付け足したけど。

 では何でブラス商会がアセンブラ教の利権を荒らし潰されることになったのか。それは単純で複雑だ。


『コス茶を元に、従来のポーションより遥かに質の良いポーションを製造することができたから』


 なるほど、そう繋がるか。

 そう思ったね。

 確かに昨日市場で激不味アセンポーション、汗汁とでも名付けようか。そこで商人が言っていた。「一時期質の良いのが出回ったけど潰された」って。

 それがリディアさんの作ったコス茶ポーション『コスモディア』だそうだ。リディアさんはそれを安く売り、多くの人々の命を救った。さらに秘伝は守りつつ、製造過程で雇用も生んだ。経済的にも救われた人がいた。

 しかしアセンブラ教会の利権に食い込んでしまい、疎まれた挙げ句、あらゆる商会が敵に回り潰された。
 ……たぶん雇用した中にアセンブラ教が紛れ込んでいたんだろうね。

「あの頃は毎日が地獄でした。
 止まない借金取りたちの怒声、罵声、中傷。いたずら書きや嫌がらせ。両親は馬車馬のように働いて、文字通り身を粉にして借金を完済してくれました。そして私を残して逝ってしまいました」

 過労だったらしい。心労も重なっているだろうけど。ただ、僕はそれだけじゃないと思った。

 どこかで一服盛られているんじゃないかな。借金返すときにお茶くらい飲みそうだし。強面たちが部屋にたくさんいる状況で、にこやかに出されたお茶飲まない訳にはいかないだろうしな。

 そう思ったのはブラス家の秘密を聞いたからだ。

『ブラス家は古い神よりコスモジアの製法を伝承している』

 これ絶対ジオス神でしょ。コスモ『ジオ』霊草だしね。つまりコス茶はジオス神が何らかの意図を持って作り出した可能性が高そうだ。

 ブラス家って大昔は神官だったんじゃない? 
 で、アセンブラ教はジオス教を排斥している訳だし? 
 きっかけは利権絡みで調べていく内に突き止めたのかもしれない。
 リディアさんがコス茶を命を懸けて取りに行ったのも、もしかしたらコスモディアの原材料だと突き止めたからかも。

「事実を知ったのは、両親が亡くなる少し前です。
 大事な話があると言われ、ブラス商会倉庫の一画に連れて行かれました。
 かつて異国の品々で満杯だった、大好きだったブラス商会の倉庫には、殆ど何も残っていませんでした。

 いつも穏やかで優しい父と、快活でふっくらした母。
 私の手を取って歩いたあの時……彼らは見る影もなく痩せ細っていました。枯れ木のような腕、幽鬼のような、でも晴れやかな笑顔。今でも夢に出てきます。

 両親に案内された所には、大事そうにしまわれた箱がありました。その中にコスモジアの製法とブラス家の出自が記された紙が入っていたんです」

 そして、両親は私に幾ばくかの財産を残し、疲れ切った表情で永久の眠りにつきました、とシルビアさんは締め括った。

 以上がブラス家の崩壊、破産の背景だ。

 正直僕には何も言えない。あまりにも僕の想像したことと離れていた。あまりにも、世界が違った。だからこそ冷静になれたのかもしれないね。ほら、人ってキャパシティ超えると逆に冷静になれる時あるでしょ? 今がまさしくそれ。だから問えた。

「シルビアさんは、どうしたい?」

 すると彼女は、まるで誰かに花束でも渡すかのような、晴れ晴れしい笑顔で言った。涙の筋が光る。

「アセンブラ教に復讐を」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...