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デイライト

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 デイライトの外壁には、立派な城門があった。城門で合ってるよね? そこにたくさんの人が並んでいる。

 うわっ、耳が生えてる。獣人ってやつかな。
 うおっ、この人はずんぐりむっくりして小さい! たぶんドワーフだな。あ、睨み付けられた。
 ほわー、綺麗だ。耳が尖ってる。たぶんエルフかな。
 何かちっちゃいのもいる。ノームってやつか。

 珍しくて目移りしてしまった。当たり前だけど異世界来たんだな僕は……。

 列に並んで順番を待つ。たぶん入国審査だよね。どれくらいかかるのかなあ。ベステルタにも質問したいけど、変に思われたら嫌だからやめておこう。

 うっ、人混みが久し振り過ぎて何か緊張してきた。今まで辺境で好き勝手に生きてきたからかな。

…………

「次、身分証は?」

 異世界初トーク(人間)は衛兵さんとだった。うーん、やっぱこうなるか。素直に言おう。

「すみません、田舎から来たもので身分証が無いんです。どうすれば入れますか?」

「身分証が無い者は銀貨二枚だ」

 銀貨なんて無い。お金すら見たことないよ。

「すみません、それも無いです」

「何? お前何も持たずに何しに来たんだ」

 あっ、衛兵さんの視線が厳しい。こんなところでしょっぴかれるわけには行かないぞ。

「すみません、何分本当に田舎から来たものでして。他に入る方法はありませんか?」

 慌てて話題を逸らす。

「……一応、立場のある住人の紹介状などがあれば問題ないが。お前、妙な服着ているな。少しでも怪しい真似したらしょっぴくからな。とっとと行け」

 しっしっ、と追い払われる。すごすごと列を離れ退散した。

 終わった。まさに門前払いだ。

 これは作戦立てる必要があるな。確かに服装のことはあまり気にしていなかった。失策だ。どうしたもんかな。

 でも、幸い幾らか情報は手に入れられたしこれを元に亜人たちと相談してみよう。

………………

 近くの森の中で作戦会議。

「飛んで中に入ればいいじゃないか。私なら風魔法で、いや殲風魔法で姿消せるから簡単だぞ」

 プテュエラが胸を張って言った。殲風魔法の響きが気に入ったのね。かわゆ。
 あ、でも、可愛いけど待って。それって思いっきり密入国だよね?

「バレなければ問題無くない?」

 ベステルタがやんちゃJKみたいなこと言っている。やめてくれ……。

 とは言っても対案がある訳じゃない。対案を用意しないで否定するのは愚の骨頂だ。うーん、これしかないのか。仕方ない、先に入国して何とか身分証かお金を工面しよう。

 ……まあ、後でお金か身分証貰ったら何食わぬ顔でもう一回城門から入ればいいか。つじつまを合わせるんだ。何だか小物くさいなあ。

「じゃあプテュエラ頼める? 適当なところで降ろして貰えると助かるよ」

「任せろ」

「頑張ってね」

 ぐぃーん! とプテュエラの風のシェルターに包まれて急上昇する。
 え! そのまま街に向かっていくけど大丈夫かな? 姿消えてなくない?

「周りからは見えないから大丈夫だ。ほら」

 そう言うと、僕を連れて城門の前をぐるぐる旋回した。本当だ。誰も気付かない。

 ステルス機能があって上空から一方的に爆撃できるなんて、プテュエラの能力やばくない? この世界にどれくらい自由に飛べる存在がいるか分からないけどさ。ドラゴンとかいるのだろうか。

 おー、上から見るとこの迷宮都市ってのも広いな。十万人くらい住んでそうだ。ところどころスラムっぽいのもある。近付かないようにしよう。

 なるべく人気の無いところに降ろして欲しいと頼んで、人通りは無いけど少し開けたところに着陸した。

「何かあったら呼ぶんだぞー」

 と言い残してプテュエラは上空に去っていった。

 ぽつん、と見知らぬ街の中で一人。世界に放り出された感じ。

 あっ、心が。寂しさが込み上げる。

『どうしたの? もう何かあったの?』

 思わず契約者チャンネルでベステルタを繋げてしまった。

『いや、何だか急に一人になって寂しくてさ』

『本当に急ね。でも大丈夫よ。上空にはプテュエラがいるし、こうやってわたしとも話せる。ケイがわたしたちから離れない限り……一緒にいるわよ。だから安心しなさい』

『うう……ありがとう』

 涙が出そうだ。いや、出ている。何て優しいんだろう。こんなに優しくしてくれる人が今までいただろうか。いや、ない。ていうか人とか亜人とかどうでもいい。何が亜人だ! 亜人最高! 人外お姉さんフォーエバー!

「僕も少しは気を強く持たないとな」

 彼女たちと一緒にいてもおかしくないように振る舞わないと。訓練も真面目にやろう。 

 さて、少し辺りを歩いてみようか。どこか道具屋とか野菜売りとかに品物卸せればいいんだけど。

………………


 考えが甘かった。

 身分証が無いと商売はできないらしい。そりゃそうだよな。当たり前だよ。露骨にあやしまれてしまったし、万事休すだ。

 不味いな、このまま手当たり次第に売り込んでいったら衛兵に通報されるかもしれない。何か考えないと……。

 僕がとぼとぼと道を歩いていると、少し大きな建物が目に入った。かなりぼろぼろだけど、荘厳な造りをしている。

 もしかして教会かな? ああ、でも孤児院かもしれない。どっちだろう。どちらにしろ、情報が集まるかもしれない。邪険にもされないだろうし……。伺ってみるか。

 裏手から来たので表側に回り込む。

「お、お止めください。ここは行く宛の無い子供たちの孤児院ですよ、こんな無体な……」

 おっとり目のシスターみたいな服を着たお姉さんがおろおろしていた。

「うるせえ! 孤児院だろうがなんだろうが払えるもんが無いなら差し押さえるまでよ!」

「そんな……払えるものなどございません……何とか工面しますので今しばらく猶予を……」

「てめえ、アニキに逆らうんじゃねえぞっ!」

「アニキが本気出したらこんなボロい建物が一撃だぜ! バァーッ!」

 孤児院の前で幸薄そうで気弱なお姉さんが、見るからに怖そうなごろつきリーダーと、見るからに頭悪そうなヒャッハー系二人組にぺこぺこ頭を下げている。シスターって孤児院にいるものなんだっけ? うーん、分からない。
 
 これは……関わりたくないなあ。うーん。でも見過ごすのもなあ。

 中途半端に助けて、変に肩入れすることになってずるずると身動きが取れなくなっていくのは避けたい。僕はまず、自分と亜人のことを考えるべきなんだ。
 実際、このお姉さんとごろつきの関係なんて分からないし。ごろつきの方が筋通ってるかもしれないし。善悪なんて曖昧なものは立場に寄ってすぐに変わるからね。

「お、お姉ちゃんに手を出すな……」
「怖いよう」
「ひーん……」

 あっ、孤児院から子供たちが顔を覗かせている。一人勇ましいのがいるな。そして、人っぽくない。亜人ではないだろうけど。獣人?
 もしかして、そういう孤児院か。そうか……。

「うるせえ! ガキ共!」

 ごろつきリーダーが子供たちに怒鳴ると、びくっ、と萎縮してしまった。あーあ、大人が子供に声を荒げるなんてみっともない……。

「おい、何も払うもんが無いならあんたの身体で支払ってもらおうか? 
 何、野暮ったいシスター服からでも分かるぜ、その体つきはよぉ。たまんねえぜ」

「ッヒャァ! 流石アニキ! それがいい、そうしましょうぜ!」

 こいつら完全に世紀末ヒャッハー野郎たちだな。

「うぅ……」

 薄幸お姉ちゃんは悩ましげに顔を赤くしている。おいおい、色気が半端ないよ。ほら、ごろつきもごくりって喉鳴らしてるよ。

「ま、あんたが応じないって言うなら仕方ねえ。後ろのガキどもを貰っていくぜ。野郎共!」

「ぐへへへ!」

 汚い顔で子供に近づくごろつき。こんなのトラウマになるよ。 

「いやぁ!」
「や、やめて……」
「ひーん……」

 ああ……子供たちがごろつきたちに捕らわれていく……。

「わ、わかりました。わたくしの身体でしたら差し上げます。どうか子供たちは……」

「けっ、最初からそう言えばいいのよ」

 下卑た表情で薄幸お姉さんの手を伸ばす。だめだ、やっぱり許せん。いくら理性で分かっていても、感情が抑えられない。

『プテュエラ!』

『どうした? 何かあったか?』

『うん、僕のすぐ近くに教会が見える? そこのシスターがごろつきに襲われて困っているんだ。どうにかならないかな?』

『構わないぞ……って、あの紋章はジオス神の教会じゃないか! まだあったのか! 全て取り壊されたと聞いていたが……』

 紋章? あ、本当だ、うっすらとだが描いてある。三角形の一辺がない形。古代ギリシャ文字のΛラムダのマークに似ている。やっぱり教会なのか。ならなんで孤児院って言っていたんだろう。

 ていうか、ジオス神? そう言えばベステルタと最初会った時に言ってたような……。もしかして亜人の神様?

『よし、ジオス様の信徒なら守らねば!』

 何やらめちゃくちゃ気合い入っている。

『こ、殺さないように! 少し手加減してね!』

『む、努力しよう』

 大丈夫かな、心配だよ。

「ぐへへ」

「こんなところで、お、お止めください……」

 ごろつきリーダーがシスターの手を取って何やらいかがわしいことに及ぼうとしている。子供たちを解放する素振りもない。ゆるさん! 薄幸お姉さんを放せ!

風縛ふうばく

 バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 三つの破裂音とプテュエラの声が聴こえたかと思うと、空から凄まじい勢いで風の縄? が落ちてきた。

「ぐぼぁっ!」

「あぎゃっ!」

「げばぁっ!」

 汚い声をあげて転がるごろつきたち。ぴくぴく痙攣して完全に気を失っている。あの風縄とかいう魔法エグいな。僕にはうっすらごろつきを幾重にも取り巻く縄が見えるけど、当人たちには何のこっちゃだろうよ。ま、風爆じゃなくてよかった。ちょっと焦った。

「い、いったい何が」

 あわあわする薄幸お姉さん。人だよね? 初めて人のお姉さんに会った。あっ、シスター服の上からたわたわと果実が揺れている。うっ。

 このまま立ち去ってもいいんだけど、一応挨拶しておくか。まだデイライトに知り合い居ないし。

「すみません、勝手ですが加勢しました」

 物陰から出てきて、シスターさんに姿を見せる。びくぅっ、とびっくりするシスターさん。ちょっと罪悪感が。

「い、いえ。ありがとうございます。貴方様のおかげです。助かりました」

 うるうると目を潤ませてお礼を言った。そして目を閉じ「偉大なるジオス様、感謝いたします」と呟く。

「す、すげえ」
「ありがとうございます……」
「ひん……ありがと」

 子供たちにもお礼を言われた。ちゃんとお礼言えて偉いな。一人違うのいるけど。

「わたくしのような者を助けてもそちらがご迷惑でしょうに……。しかし助かりました。心より感謝します」

 う、やっぱり何か裏がある感じか。いかにも訳ありっぽいもんな。でも、あそこで見捨てるのはちょっとね。

「何かお礼ができたら良いのですが」

 そう言って伏し目がちになる薄幸シスターさん。たわわん、と果実が揺れる。くっ、禁断の果実には惑わされんぞ。

 ん、お礼? そうか。この人に紹介状書いてもらえばいいのか!
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