絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

文字の大きさ
上 下
28 / 146

やりたいこと

しおりを挟む
(はあ……また仕事か)

 僕は目覚めた。寝ぼけてる。まだ寝ていたい。

 朝起きて、でも、目を開けたくない。目を開けて身体を起こしたら仕事に行かなきゃいけないからだ。

(ああ、早く起きて五十分後の準急電車に乗らないと。髭も剃らないと。昨日剃っておけばよかったな……)

 何もかもうまくいかない。
 何もやりたくない。

 仕事ができないから現場の評価も悪いし、周りの目も厳しい。数ヵ月で仕事先を変えられてしまう。

 バス停の場所が分からないお婆さんに道教えてあげたり、 ハンカチ落としたOLにハンカチ拾って渡したり、酔って寝ているお兄さんを介抱したり、そういうことならできるんだけどね。難しいね。

 でも、生きるために起きる。起きてうまく 出来ない仕事をしにいく。それが、僕のささやかな反抗だった。

(辛いけど働かなくちゃ)

 目を開けると紫のふわふわ。くぴくぴ鳴る寝息。よだれを垂らす不機嫌そうな寝顔。

 まだ日がほとんど昇っていない。

 早朝だ。そして、異世界だ。

 あったかい。布団も無いのに、どうしてこんなにあったかいんだ。こんなに窮屈なベッドなのに、どうして心がこんなに自由なんだ。

 僕は人知れず笑った。鼻の奥がつんとする。無性に叫びたい。
 でもみんなを起こしちゃいけない。そんなことしなくてもそこにいる。だから安心して二度寝した。




 朝日が昇った。

 一番早く起きるのはプテュエラ。まだ人には肌寒い風に向かって、心地よさそうに羽を広げて毛繕いをしている。

 二番目はベステルタ。プテュエラと一緒によく身体を動かしている。空中を駆け上がっている気がするけど気のせいだろう。

 三番目は僕。のそのそ起きる。基本的に体力限界まで搾り取られるからね。普通の人間なら枯れ死んでいるよ。頑健スキル万歳。

 最後にシュレア。ピクリともしない。不機嫌そうによだれを垂らして寝ている。すすりたい。

 朝はだいたいこんな感じ。

ーー

 今日は午前で訓練を切り上げて、午後から野菜部の活動を始めることにした。記念すべき第一回目だ。

「部長、まずは何から始める?」

「シュレアが決めるんですか?」

 そりゃそうだよ……と思ったけど部活ってそういうもんでもないか? いや、分からないな。もうずっと昔のことで忘れてしまった。 

「野菜部長はシュレアだからね。まあ、どんなことしたいか教えてよ。一緒に考えるからさ」

「であればやはり畑を作りたいです。自分でも何度か試したのですが魔素溜まりのせいでダメでした。浄化された土地がどうしても見当たらなくて」

 悔しそうに言った。うまくいかなくて歯痒い思いをしたんだろうね。

 シュレアは樹魔法使えるし、野菜の育て方も分かるんだろうけど、土地と野菜がどちらも汚染されていたらどうしようも無いよ。

「よし、じゃあやっていこう」

「はい」

 早速シュレアと畑になりそうな場所を選定して、浄化をしていった。
 なかなか選ぶのは大変だった。シュレアの拘りが強く、妥協することがなかったからだ。土食べ始めたときはびっくりしたよ。でも前の世界でも、そうやって土の状況を調べる農家さんいたし、理にかなった方法なのかな?

「ここでお願いします。比較的魔素が少なく土の栄養のバランスが良いです。ラミアルカがいればもう少し詳しく分かるのですが……」

 シュレアが報告してくる。

 おお、見付かったんだね。ていうかその人って前ベステルタが話していた人かな? 土に詳しいのか。色んな亜人がいるね。
 ま、それじゃ、やっちゃいますか。

「浄化」

 シュワワァー。

 土から魔素が消えていく感覚。よし、手応えありだ。

「この後はどうする?」

「種を植えます。ケイのではないですよ」

 不機嫌そうに眉をひそめる。そのままこちらをじっと見つめる。な、 なんだ。

 ……あっ、もしかして冗談か?

「あはは」

 分かんない。とりあえず笑っておこう。

「ふん」

 顔をしかめてそっぽを向いた。枝角はぴかぴかしている。満足している……のか? ただ、シュレアのジョークセンスは壊滅的かもしれない。そっと見守ろう。

「種は前から用意してありました。しかし汚染されているので浄化が必要です。こちらもお願いできますか?」

「もちろん」

 シュレアの触手が差し出してきたのは、大きさや色がまちまちの粒だった。
 へー、これが異世界の種か。一体どんな野菜が生えるんだ? ていうかトマトとか玉ねぎってこういう種だっけ? まあ異世界だし僕の常識が通じないことの方が多いか。

「浄化」

 しょわわぁー。

 種を浄化して畑に植えていく。
 シュレアの触手が伸びて次々に種を選んでは植え、選んでは植えた。仏頂面だけどとても丁寧に種を扱っているのが印象的だった。
 そんなに大きい畑でもないからすぐに全部植えられた。

「これで完了です。ありがとうございます」

「いえいえ。お疲れ様。これからどうするの?」

「部長として野菜の成長を見守ります」

 そう言うと畑の前に座り込んで、じっと見つめる。怖い顔だ。本人は真剣なのだろうけど。野菜たちもびびるんじゃないかな。でも可愛いから問題なし。あとタイトスカートからちらちら見えてつらいです。そっちには何も着けてないんだよね……。
 ……うん、そっちの服も買ってあげよう。もちろん僕の心の平穏のためにね。

 シュレアが野菜見守りに徹していると、プテュエラが難しい顔で話しかけてきた。

「なあ、ケイ。私も部活作りたいんだが、いいか?」

 おっ、プテュエラもとうとう作るのか。

「もちろん。一体どんな部活?」

「肉部だ」

「肉部」

 直球だ。自分の欲求ど真ん中ストレート。飾らないところがプテュエラらしい。

「プテュエラらしいね。どんな活動するの?」

「それに悩んでいるが、どうすればいいと思う?」

 あー、そういうことか。テーマはできたけど具体的な活動がイメージできないってことね。ふーむ。

「肉部ってことは肉を食べたいんだよね?」

「そうだ。いろいろ考えたんだが、繁殖以外には肉を食べるのが好きだと分かったからな」

 繁殖も好きなのね。よかったです。素直に嬉しい。僕も好きですはぁと。

「難しく考えなくていいんじゃない? 例えば肉が好きなら色んな肉を食べて、どれがどんな風に美味しいとか記録してみんなに教えてあげるとかさ」

 グルメブログみたいなもんかな。いやプテュエラの場合は肉を食べたい、だから料理というよりジビエかな?

 これは本格的に紙やペンが必要になってきたな。シュレアもあった方がいいだろうし。

「なるほど! 面白いなそれは。
 うむ……私が肉に詳しくなって、他の亜人や子供に伝える……。
 素晴らしい。なんて素晴らしくて楽しそうなんだ」

 うわっ、プテュエラが感動している。キラキラした目で見られているよ。ちょっと怖い。

「それでいこう! 肉部は肉の美味しさの探求とその記録だ! 部長は私だよな?」

「プテュエラ以外にいないよ」

「なら決まりだ。よし、森中の肉を狩ってくるぞ。ちょっと行ってくる。肉の浄化は任せる。では」

 あっ、ちょっ。

 ……行ってしまった。心配だなあ。プテュエラじゃなくて、森の魔獣たちが。プテュエラが本気出したら絶滅するんじゃない? でも楽しそうだからいっか。

「……」

 岩場にベステルタが座って何やら思案している。考えるベステルタだ。

「ベステルタも部活に悩んでいるの?」

「そうね……。私のやりたいことって何かしら。それを考えていたの」

 おお、青少年の悩みみたいだな。分かるよ。僕もやりたいことなくて悩んでた。結局何も見付からなくて、適当に就職したら大失敗したんだけどね。

「二人を見て焦る必要はないよ。本当にやりたいことなんて、簡単に見付かることじゃないんだ」

「そうね。難しいわ。こんなに考えることなかったし」

「分かるよ。ただ、簡単じゃないけど意外と単純なことだったりするからふとした瞬間に気付いたりするよ。二人を手伝ったりしながらゆっくり探そう?」

「ええ……そうね。そうするわ」

 そう言ってベステルタがにっこり笑ってくれた。元気だしてくれたかな。それなら嬉しい。僕はやりたいことが最後まで見付からなかった勢だ。だから、みんなにはとことん楽しんでほしい。……もちろん自分のためにね。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...