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戦闘訓練・包囲戦(対ダークエイプ)

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「ウキャーーーー!」
「ウッキウキ! ウッキウキャ!」
「ウキャキャウキャ!」
「ウキャァーッ! ウギャギャハァー!」

 訓練のためにシュレアの樹渡りでダークエイプの群れにワープしてきた。

  正直に言おう。

 過去一ムカついてる。この猿たち、人を見るなり馬鹿にしきった態度だ。頭掻いたり、指差して笑ったり、変な顔して挑発したり。

 ゆるせん。絶対に勝ってやる。

…………

……
  
 ちょっと前にシュレアがダークエイプで訓練すると言った。気が進まなかったけど、野菜畑を作るためにはもっと力の使い方に慣れないといけないらしい。ならしかたないか……。

「ダークエイプはダイオークやマスキュラスと違い、森を立体的に動きながら爪や牙で攻撃してきます。中には石を投げてくる個体もいます」

 それだけ聞くと、大したこと無さそうに感じる。所詮は猿だしね。

「非常に素早く、死角に入るように動くので人の眼では追えません。爪や牙も良く切れる刃物だと思った方がいいです。また見た目以上に防御力が高く、固い毛皮は弓矢も通しません。さらに必ず群れで移動し、連携を取ってきます。普通の冒険者ならただのエサですし、ベテラン冒険者でも撤退せざるを得ない相手です」

 撤回。すごい厄介そうだ。眼で追えないってどんな速さだよ。
 つまり、立体的に物凄いスピードで動く性格の悪い傭兵チームだ。
 確かに力押しで何とかなったダイオークや、頭を使わないマスキュラスとは違う。

「そんな狡猾な相手にどうすればいいの?」

 練喚攻では一体を追っている間に背後から攻撃されるだろう。
 風魔法では木々や毛皮に防がれ、決め手に欠けるだろう。

「簡単ですよ、樹魔法なら」

 あ、ちょっとドヤ顔した。どっかのCMにありそうなセリフだ。


…………


……


「樹縄!」

 シュレアから教わった通り、周囲の木々に意識を向け魔力を流し込みイメージを伝える。

 四方八方から蔦やら根っ子やらがダークエイプたちに向かって伸びていく!

 シュルシュルシュルシュルッ!

 シュバーッ! シュルシュルッ!

「ウキィ!?」

「ウギャェー!」

 あっという間に万力のような触手たちに絡め取られ、なすすべもないダークエイプたち。呆気ないな。

 いや……樹魔法がやばいんだ。一度イメージを伝えれば自動追尾してくれるのはでかい。逃げても一緒に追えばいいし。たとえ触手を数本どうにかしたところでほぼ無限に湧いてくる。

 ……あれ、樹魔法めちゃくちゃ強くない? 特に森林の中だと反則に近い強さだ。数の優位を物ともしない。

「それだけではないですよ。教えた通りにあれも使って下さい」

(……)

 シュレアは例の木を苗にして抱えている。ちんまりとシュレアの腕の中に収まっていた。この子にも名前を付けないとな。

 ていうか、もう勝負ついているけどやるのね。エグいな。まあ嫌いって言ってたし。

「ふぅ……樹睡香」

 すると蔦の先からぱかっと綺麗な花が咲いた、かと思うと甘ったるい匂いが辺りを包む。もちろん、僕とシュレアには効かない。

「ウ……キ……」

「ウキュ……キュ…」

 あれだけ騒がしくしていたダークエイプは見事に沈黙してしまった。心地良さそうに寝息を立てている。

 おそろしい。

 樹睡香はその名の通り、強烈な眠気を誘発する香りを発生させる。

 なんて速効性のある催眠攻撃なんだ。範囲攻撃だから群れとか関係ない。毛皮は関係ないし嗅いだだけでアウトだ。

 ちなみに、他にもバリエーションがあるらしい。麻痺させたり毒にさせたり。つまりは広範囲状態異常攻撃だ。やってみて分かるけどエグすぎる。練喚攻や風魔法とは別種のヤバさだ。

「さあ、止めを」

 シュレアが無慈悲な宣告をする。生かしておく必要も無いけど、次の技もまた、躊躇う怖さなんだよね……。

(……)

 ああ、でもこの子も期待している。もしかしたらダークエイプに迷惑掛けられたのかもしれない。ならいっか。ダークエイプ死すべし。慈悲は無い。

 うわっ、寝ているダークエイプの顔を見てしまった。こいつら寝てても邪悪な顔してんなあ。

 僕もいつの間にか影響受けていないか心配になって、シュレアの方を見た。

「いかがわしい目付きですね」
 
 眉間にシワを寄せて嫌そうに距離をとった。むしろそういう目でしか見れないんだけど。ちょっと僕いかがわしい雰囲気作ってきます。

 さて、覚悟決める時間も終わりだ。

「吸命」

 ぶすり。

 ぶすぶすぶすぶすっ。

 眠ったダークエイプたちに無数の尖った触手が突き刺さる。しかし、深い睡眠状態のダークエイプ達は目を覚まさない。

「………………ウ………」

「………………」

「キ………………」

 悲鳴を上げることなく干からびていく……うわ……やっぱり引くわ……。

 生命力やら水分やらを根こそぎ吸われたダークエイプはカラカラに乾いて、最後は落ち葉のようにくしゃりと潰れて跡形も無くなった。

 ひええええ。

「上出来ですね。木々たちも喜んでいますよ」

 あっ、本当だ。

 樹魔法に協力してくれて木々が、嬉しそうに葉を揺らす音が聞こえる。

 さわさわ……。
 
 さわわ……。

 ざわざわ……。

 風が語りかけます。
 いや、木々だけど。

 役に立てたならよかった、のかな? 死骸も残さず新たな生命の糧になったということで、ダークエイプたちには諦めてもらおう。

 その後何回か包囲戦を繰り返した。
 やればやるほど、森という限定空間において樹魔法は最強クラスなんだなと痛感した。

 打撃力や破壊力があるわけじゃないけど、状況対応力に優れている。

 探知、捕縛、睡眠による無効化、吸命して証拠隠滅……。あれ、暗殺向きすぎてない? 
 ゲリラ戦では無敵になれそうだ。

「こんなものでしょうか」

 その日、何グループのダークエイプの群れを落ち葉にしたか分からない。夕方くらいにシュレアがそう言った。それでもこの森は広大だからまだたくさんいるんだろうけどさ。

 そのくらいにはすっかり樹魔法の使い方にも慣れていた。魔法発動までの時間も短くなったし、朝よりも精密に運用できたように思う。

 後半では木々よりも小さい草でも練習した。戦闘に使うのは難しいけど、草むしりの手間が省けるようになったかな。移動をお願いしたら、草たちがにょきっと地面から出て、整列して行進していったのには驚いた……。

 そういえば森では使えるけど、街中でも使えるのかな?

「もちろんです。街中でもそこに草木があれば樹魔法は使えますよ」

 ただ、森の中よりも運用効率は落ちるらしい。それでもかなり強いと思うけどね。

 いやー、汗かいたな。
 練喚攻や風魔法と比べて頭を使って集中することが多かったけど、知らない内に体へ負担がかかっていたようだ。

 これは温泉に寄るしかない。

 帰りにシュレアに言って温泉に寄ってもらった。

「ああ……」

 目を閉じて息を漏らすシュレア。やはり温泉はいいよなあ。眼福だし。そのまま浄化マッサージをすると、嫌そうな目で気持ち良さそうにしていた。なんか個性的な表情だ。だめだ、むらむらしてきた。

 そしてたっぷり繁ったよ。元からいろいろと繁ってたけど。シュレア結構密林なんだよね。もじゃもじゃ。それを頬でしょりしょりしょわしょわするのがすき。

 相変わらず、すごい嫌そうな目付きだったのがよかった。でも枝角はぴかぴか光っているんだよね。うーん、結局どういう時に光るんだろうな。

 シュレアと温泉でまったりしている時にふと気になって、周りの樹木の様子を窺ってみた。どうやら、この前浄化したおかげでかなり気分がよくなったらしい。ならよかったよ。

「かなり大きな魔素溜まりだったようですね。樹木たちの喜び方がすごいです」

 ほんのり頬を上気させつつ、不機嫌そうに言った。うーん、僕にはまだ分からない。シュレアくらいにかると簡単に分かるようになるのかな。

 辺りの日が落ちる頃、樹渡りしてもらって帰った。これ、渡る度に抱きすくめられるのは慣れなさそうだ……。
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