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温泉調査隊
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大噴水温泉にジョブチェンジした湧き水。素晴らしい潮吹きをかましてくれたぜ。
いくら魔獣が害あると言えど、完全に環境が変わってしまったので焦った。ただ、際限無く湖が広がっていくのではないかとビビったけど、窪地になっていたおかげでうまく湖っぽくなってくれた。もしかして、昔は湖だったのかな。それが何かのきっかけで塞き止められて、小さくなっていたとか。
あれ、もしかして、俺、何かやっちゃいました?
よし、平静を装おう。素数を数えるんだ。種巣啓はクールに去るぜ。
「ケイ、これどうするんだ?」
「至急調査します」
はい、罪悪感からは逃げられません。去れません。
こうなったら仕方ない。温泉調査隊だ。
再び湧き湖に降り立つ。
うわっ、湿気がすごいな。辺り一体が湯気で覆われてまるで濃霧みたいだ。でも不思議と心地好い。なんか身体に良い成分含んでるのかな。天然のサウナみたいなものか。うーん、脱ぎたくなってきた。
「プテュエラ、この温泉に害があるかどうかわかる?」
「うーむ、私は鑑定が使えないから詳しいことわからないが……どれ」
そう言うと屈んで直接温泉水を飲んだ。ああ……、なんか悪いことした気分。
「ほー、この温泉? という水うまいな。微量の魔力を感じるが、不浄さは感じない。ケイの浄化のおかげだな」
「そうなんだ」
それなら入っても良さそうかな。今度鑑定魔法が使えるシュレアさんが来たら訊いてみよう。
「そう言えば気になってたんだけど、魔力に不浄とか綺麗とかあるの?」
プテュエラは少し難しい顔をする。
「それは私ではうまく答えられないな。私はこの土地しか知らないからな。シュレアに訊くといいぞ」
羽を垂れ下げてしゅん、とする。あとでたっぷり毛繕いしてあげなきゃ。
いや、最初はスルーしてたけど魔力が不浄前提だといろいろおかしいよね? ベステルタとかプテュエラはガンガン魔法使ってるし。僕の浄化スキルも魔法みたいだし。それが汚れているならやばいよ。
これは推論だけど、この土地の魔力に問題があるんじゃないかな。つまり地質が汚染されてるみたいなさ。それを身体に溜めてる魔獣は狂暴だし、水や肉、野菜も不味い。亜人は持ち前の生命力でどうにかしてるけど、ベステルタの身体にも不浄な魔力が溜まっていた。なんか体調崩してる亜人もいるんでしょ? そうだとしたら良くないな。
「気にしないで。ありがとうプテュエラ。帰ったらご飯食べようね」
「うん」
うんって。
最強か。唐突に可愛さアッピルアッピル止めてくれないかな。心臓に悪いよ。顔輝かせてるし。幼児退行起きてない? そう言えば亜人って親いるのかな。いやいるんだろうけど、ちょっと質問しづらいんだよね。また今度にしよう。
ああ、愛しさが湧いてきたんじゃ。止められないんじゃ。よし、愛でよう。目の前には温泉。隣にはプテュエラ。温泉同好会じゃあ!
「よし、温泉は問題無いことが分かった。プテュエラ隊員。これより温泉調査隊は突撃を敢行する。良いな?」
「はあ?」
訳が分からなさそうなプテュエラ。
つらい。冷たいギャルみたいな返事だ。心が折れそう。
「プテュエラ。そういうノリなんだよ。合わせて。心がしにそう」
「……何だか良く分からないが分かった」
「イエッサーと言うのです」
「イエッサー」
「声が小さいのです!」
「い、イエッサー!」
よし、脱ぐぞ! キャストオフ! これより温泉調査隊は温泉に入ります。楽しみなんじゃ。
「ああ"あ"あ"~暖かいんじゃああ~」
もう最高。さいつよ。
適当にそこら辺の石とか岩とか組み上げて、即席の露天風呂を作った。なんか重そうな岩が簡単に持ち上がったのは気にしてはいけない。
はやる気持ちを抑えて裸体で浸かると、ぞぞわーっと快感が押し寄せてくる。はぁ……。これだよこれ。日本酒飲みたくなってくる。くねくねする僕を見るプテュエラの視線がちょっと気になるけど。
「大丈夫かケイ? さっきからおかしいぞ。スキルの使いすぎか? それともこの温泉が悪いのか。吹き飛ばすか……」
「わー! ちょっと大丈夫だよ。リラックスしてるだけ。プテュエラも入ってごらんよ。気持ちいいよ」
せっかくの温泉を吹き飛ばされたらそれこそ精神をやられる自信があるよ。
解決策はたった一つ。プテュエラも誘って一緒に心地好さを共有するのだ。まあ気持ち良さは毎日共有してるんですけどね。ぐへへ。
「このお湯に入るのか? だ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。気持ちいいよ。身体にいいことばっかりさ。これが目的だったんだよ」
厳密に言うと違うけどそう言うことにしておこう。
「そ、そうか。なら入らないわけにはいかないな」
そう言ってプテュエラはおそるおそるお湯に入ってくる。
鷲のような鉤爪が湯に触れ、
「うっ」
ふわふわの胴体がしっとり濡れ、
「くっ」
自慢の翼が全て温泉に浸かる。
「あ"あ"あ"あ"あぁー」
プテュエラ陥落。ふっ。
見てくれ、この蕩けきった顔を。あの切れ長クールなまなじりが、とろんと垂れてるよ。恐るべし温泉。
「どう? 悪くないでしょ?」
「悪くない……いや、いい。いや、よすぎる。これは危険な代物だ……あ"あ"あ"ぁ~くぴっ」
なんか変な笑い声だしてない? 大丈夫かな。
「それにお湯につかれば汚れもとれるでしょ? もっと綺麗になれるよ」
「くぴぴ……。あっ、そうだな。確かにそれは魅力的だ」
うーん、あれだ。鳥っぽい鳴き声だ。たぶん。あまりの心地好さに、脳が原初に還って本能を呼び覚ましたのかな。
「ふぅ、なるほど。これがお前の言っていた『亜人繁栄策』の一つという訳か」
「ま、まあね」
そんな大それた作戦名は一言も言ってない。ちょっとプテュエラに変なノリやら心地好さを与えすぎておかしくなってるかもしれない。
「身も心もリラックスし、綺麗になることでオスの気を引く……。なるほど良く考えられている」
あ、あれ。自分としては温泉に浸かると健康になるからそういう意味で亜人の未来に繋がるって言ったんだけどな。もちろん、プテュエラの言っていることも間違いじゃないんだけど。ていうか大正解なんだけど。
「そういえばプテュエラの帽子、よく似合ってるよね」
僕もリラックスして、前から訊けなかったことを訊いた。
「ああ、これか? これは母から貰ったものなんだ。大事なものだよ。ふふ、嬉しいな。ありがとう」
にっこり微笑む。そうか、そういうことだったのね。もう少しお母さんの話も知りたいけど、これ以上は野暮かな。
「いえいえ。いつもそう思っていたんだ。それにしても、今日のプテュエラはいつもと違う魅力があって素晴らしいよ」
「ふふ、そうか?」
上気した頬がそそります。あと全体的にぴったり羽がくっついているから身体のラインがめちゃくちゃ出てる。ほっそりしてるけど。き、着痩せするタイプなんだね。あっ、ちょっとあかんです。
「プテュエラ」
「ふっ、ケイから誘ってくれるのか。嬉しいな。これが温泉の効果か。ベスには申し訳ないが、お先に失礼しようか」
僕はプテュエラの前で仁王立ちする。温泉に天狗様が降り立ったのじゃ!
「それじゃあ繁ろうか?」
「し、繁るってなんだ。ケイが名前じゃなかったのか」
あ、それいいな。偽名にしようかな。
「これからすることさ。ほら言ってみて」
「なんか恥ずかしいぞ」
「気にするでない」
「う。うぅむ。なぁ、ケイ。繁ろうか?」
繁った。手をつないで繁った。いいものですね。
いくら魔獣が害あると言えど、完全に環境が変わってしまったので焦った。ただ、際限無く湖が広がっていくのではないかとビビったけど、窪地になっていたおかげでうまく湖っぽくなってくれた。もしかして、昔は湖だったのかな。それが何かのきっかけで塞き止められて、小さくなっていたとか。
あれ、もしかして、俺、何かやっちゃいました?
よし、平静を装おう。素数を数えるんだ。種巣啓はクールに去るぜ。
「ケイ、これどうするんだ?」
「至急調査します」
はい、罪悪感からは逃げられません。去れません。
こうなったら仕方ない。温泉調査隊だ。
再び湧き湖に降り立つ。
うわっ、湿気がすごいな。辺り一体が湯気で覆われてまるで濃霧みたいだ。でも不思議と心地好い。なんか身体に良い成分含んでるのかな。天然のサウナみたいなものか。うーん、脱ぎたくなってきた。
「プテュエラ、この温泉に害があるかどうかわかる?」
「うーむ、私は鑑定が使えないから詳しいことわからないが……どれ」
そう言うと屈んで直接温泉水を飲んだ。ああ……、なんか悪いことした気分。
「ほー、この温泉? という水うまいな。微量の魔力を感じるが、不浄さは感じない。ケイの浄化のおかげだな」
「そうなんだ」
それなら入っても良さそうかな。今度鑑定魔法が使えるシュレアさんが来たら訊いてみよう。
「そう言えば気になってたんだけど、魔力に不浄とか綺麗とかあるの?」
プテュエラは少し難しい顔をする。
「それは私ではうまく答えられないな。私はこの土地しか知らないからな。シュレアに訊くといいぞ」
羽を垂れ下げてしゅん、とする。あとでたっぷり毛繕いしてあげなきゃ。
いや、最初はスルーしてたけど魔力が不浄前提だといろいろおかしいよね? ベステルタとかプテュエラはガンガン魔法使ってるし。僕の浄化スキルも魔法みたいだし。それが汚れているならやばいよ。
これは推論だけど、この土地の魔力に問題があるんじゃないかな。つまり地質が汚染されてるみたいなさ。それを身体に溜めてる魔獣は狂暴だし、水や肉、野菜も不味い。亜人は持ち前の生命力でどうにかしてるけど、ベステルタの身体にも不浄な魔力が溜まっていた。なんか体調崩してる亜人もいるんでしょ? そうだとしたら良くないな。
「気にしないで。ありがとうプテュエラ。帰ったらご飯食べようね」
「うん」
うんって。
最強か。唐突に可愛さアッピルアッピル止めてくれないかな。心臓に悪いよ。顔輝かせてるし。幼児退行起きてない? そう言えば亜人って親いるのかな。いやいるんだろうけど、ちょっと質問しづらいんだよね。また今度にしよう。
ああ、愛しさが湧いてきたんじゃ。止められないんじゃ。よし、愛でよう。目の前には温泉。隣にはプテュエラ。温泉同好会じゃあ!
「よし、温泉は問題無いことが分かった。プテュエラ隊員。これより温泉調査隊は突撃を敢行する。良いな?」
「はあ?」
訳が分からなさそうなプテュエラ。
つらい。冷たいギャルみたいな返事だ。心が折れそう。
「プテュエラ。そういうノリなんだよ。合わせて。心がしにそう」
「……何だか良く分からないが分かった」
「イエッサーと言うのです」
「イエッサー」
「声が小さいのです!」
「い、イエッサー!」
よし、脱ぐぞ! キャストオフ! これより温泉調査隊は温泉に入ります。楽しみなんじゃ。
「ああ"あ"あ"~暖かいんじゃああ~」
もう最高。さいつよ。
適当にそこら辺の石とか岩とか組み上げて、即席の露天風呂を作った。なんか重そうな岩が簡単に持ち上がったのは気にしてはいけない。
はやる気持ちを抑えて裸体で浸かると、ぞぞわーっと快感が押し寄せてくる。はぁ……。これだよこれ。日本酒飲みたくなってくる。くねくねする僕を見るプテュエラの視線がちょっと気になるけど。
「大丈夫かケイ? さっきからおかしいぞ。スキルの使いすぎか? それともこの温泉が悪いのか。吹き飛ばすか……」
「わー! ちょっと大丈夫だよ。リラックスしてるだけ。プテュエラも入ってごらんよ。気持ちいいよ」
せっかくの温泉を吹き飛ばされたらそれこそ精神をやられる自信があるよ。
解決策はたった一つ。プテュエラも誘って一緒に心地好さを共有するのだ。まあ気持ち良さは毎日共有してるんですけどね。ぐへへ。
「このお湯に入るのか? だ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。気持ちいいよ。身体にいいことばっかりさ。これが目的だったんだよ」
厳密に言うと違うけどそう言うことにしておこう。
「そ、そうか。なら入らないわけにはいかないな」
そう言ってプテュエラはおそるおそるお湯に入ってくる。
鷲のような鉤爪が湯に触れ、
「うっ」
ふわふわの胴体がしっとり濡れ、
「くっ」
自慢の翼が全て温泉に浸かる。
「あ"あ"あ"あ"あぁー」
プテュエラ陥落。ふっ。
見てくれ、この蕩けきった顔を。あの切れ長クールなまなじりが、とろんと垂れてるよ。恐るべし温泉。
「どう? 悪くないでしょ?」
「悪くない……いや、いい。いや、よすぎる。これは危険な代物だ……あ"あ"あ"ぁ~くぴっ」
なんか変な笑い声だしてない? 大丈夫かな。
「それにお湯につかれば汚れもとれるでしょ? もっと綺麗になれるよ」
「くぴぴ……。あっ、そうだな。確かにそれは魅力的だ」
うーん、あれだ。鳥っぽい鳴き声だ。たぶん。あまりの心地好さに、脳が原初に還って本能を呼び覚ましたのかな。
「ふぅ、なるほど。これがお前の言っていた『亜人繁栄策』の一つという訳か」
「ま、まあね」
そんな大それた作戦名は一言も言ってない。ちょっとプテュエラに変なノリやら心地好さを与えすぎておかしくなってるかもしれない。
「身も心もリラックスし、綺麗になることでオスの気を引く……。なるほど良く考えられている」
あ、あれ。自分としては温泉に浸かると健康になるからそういう意味で亜人の未来に繋がるって言ったんだけどな。もちろん、プテュエラの言っていることも間違いじゃないんだけど。ていうか大正解なんだけど。
「そういえばプテュエラの帽子、よく似合ってるよね」
僕もリラックスして、前から訊けなかったことを訊いた。
「ああ、これか? これは母から貰ったものなんだ。大事なものだよ。ふふ、嬉しいな。ありがとう」
にっこり微笑む。そうか、そういうことだったのね。もう少しお母さんの話も知りたいけど、これ以上は野暮かな。
「いえいえ。いつもそう思っていたんだ。それにしても、今日のプテュエラはいつもと違う魅力があって素晴らしいよ」
「ふふ、そうか?」
上気した頬がそそります。あと全体的にぴったり羽がくっついているから身体のラインがめちゃくちゃ出てる。ほっそりしてるけど。き、着痩せするタイプなんだね。あっ、ちょっとあかんです。
「プテュエラ」
「ふっ、ケイから誘ってくれるのか。嬉しいな。これが温泉の効果か。ベスには申し訳ないが、お先に失礼しようか」
僕はプテュエラの前で仁王立ちする。温泉に天狗様が降り立ったのじゃ!
「それじゃあ繁ろうか?」
「し、繁るってなんだ。ケイが名前じゃなかったのか」
あ、それいいな。偽名にしようかな。
「これからすることさ。ほら言ってみて」
「なんか恥ずかしいぞ」
「気にするでない」
「う。うぅむ。なぁ、ケイ。繁ろうか?」
繁った。手をつないで繁った。いいものですね。
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