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フレイムベア先輩
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「ステータス」
氏名 種巣 啓
レベル 15
体力 90
魔力 70
腕力 40
精神 10
知力 60
器用 15
スキル
生活魔法
固有スキル
言語理解
頑健
浄化
一週間繁殖生活。
べつに区切っていた訳じゃないけど、なんとなく一週間経ったからふとステータス見るとレベルが上がっていた。レベルが上がる心当たりなんて一つしかない。
「よかったじゃない。安全にしかも気持ちよくレベルあげられるなんて」
安全? 毎回命の危険を覚えているよ。気持ち良いのには同意しかないけどね。むしろ命の危険を覚えたからレベルが上がったのか? 命を育む行為なのに、これいかに。
ベステルタはニコニコつやつやしながらフレイムベアのステーキを作っている。繁殖生活中、体力やらなにやら搾り取られ、ある時完全に身体が動かなくなった僕は、ほうほうの体でベステルタに作り方を教えたのだ。そうしなきゃご飯も食べられない。彼女も興味があったようですぐに習得した。それ以来ステーキは彼女が作っている。
ちなみに塩も確保した。やはりというか、彼女の心当たりは岩塩のことだった。確かにこの辺岩山が多いからね。適切な塩の抽出方法が分からないので、とりあえず浄化をかけてみたら、良い塩梅になった。すごすぎない? このスキル。
塩を手に入れたことによって肉焼きはステーキにジョブチェンジした。その最初の感動たるや、半端無かった。うますぎて失神したもんね。そして次に目を覚ますと、僕の上で肉を食べながら黙々と杭打ちするベステルタ。怖すぎる。何かの儀式かと思ったよ。ちょっとトラウマになった。ある意味最高だけど。
「それで、どうかな。当たりそう?」
「うーん、まだ当たった感じはしないわね。身体は怖いくらい調子が良いのだけれど」
亜人は子供ができたかどうか分かるらしい。
たぶん、亜人の防御機構がかなり強いんだろうな。昔調べたことがある。こう、強い子孫を残すために途中の道でわざとソルジャーたちを殺す番人みたいのが女性には備わってるんだってさ。もちろん病原体なんかもそこでやっつけるらしい。すごいよね。
「はい、どうぞ」
そう言ってステーキを綺麗に切り分けてくれる。この一週間で彼女はずいぶん器用になった気がする。感動ものだよ。
「まあ、できにくいんだよね? ゆっくりやっていこうよ。焦らずにさ」
「ありがとう、ケイ。うれしいわ」
なんか図らずも、新婚さんみたいな会話してるな。これが幸せだよ。父さん母さん、僕は異世界で何とかやってますよ。
そして、口にステーキを咥えて、机の反対側から身体を寄越して僕に差し出してくる。親愛の証らしいよ。すごい動物的だよね。正直悪くないです。
ぱくり、と口移しでステーキを頬張る。
じわぁ、と旨味が口内に溢れ出す。いや、全然飽きないなこれ。毎日食べても飽きない。家にある肉のほとんどは浄化したから当分は楽しめるな。フレイムベアもいくらでもいるらしいし。彼女にとったら雑草むしりするようなもんらしい。まだ見ぬフレイムベアが気の毒に思えてきたよ。なんか愛着が湧いてきた。
「でもそろそろ野菜が欲しいなあ」
「あるじゃない野菜」
「コス茶葉は野菜とは言いません」
「言わないの?」
言わないよね?
香辛料の類いだよね、これは。
もっとこう、玉ねぎ長ネギとか、ニンジンとかじゃがいも、トマト、ニンニクなんかが欲しい。せめてそのうちの一つでもいいから欲しい。それで一ヶ月は戦える。
「ちなみに野菜ってなんだか分かる?」
「土に植わってるやつでしょ? あんま好きじゃないわ」
うーん、知識が偏ってるなあ。ちょっとくらっときてしまったよ。今まで肉しか食べてこなかったんだから仕方ない……のか?
あっ、食料事情が改善されればされるほど、肉が足りなくなりそうだな。そこらへん問題ないのだろうか。
「亜人王、肉の貯蔵は十分か?」
一度言ってみたかったんだこれ。
「王……? 一応束ねる亜人はいるけど、最近体調が悪いらしくて会っていないわね。あと肉の貯蔵は確かに不十分ね。ここまで一気に無くなるとは思わなかったわ。一狩りする?」
マジか。リアル一狩りしようぜ!が聞けるとは思わなかった。ていうかやっぱりまとめ役はいるのね。どこかでお会いすることになるのかな。
「僕が行っても大丈夫かな。その、足手まといにならない?」
「大丈夫よ別に。この森にわたしを脅かせる存在はいないわ。怖いなら抱きついてなさい」
イケメンベステルタの株がぐーん!と上がった。僕は初めての狩りに胸を踊らせて彼女に付いていった。
というわけで狩りです。
「あがががががが」
『グゥオオオオオオオオオオアアアア!!!』
生物としての格の違いを思い知らされてます。
五メートルはある巨大過ぎる熊。怪獣だよこんなもん。
僕を丸のみにできそうな口。凶悪な牙。四本の腕が怒りに燃えている。リアルに燃え盛っている。つまりフレイム。つまりフレイムベア。
すみませんステーキ要員とか思っててごめんなさい。これに人が勝てるとは思えない。だって小さなビルが意志をもって暴れるようなもんじゃん。質量の暴力だよ。
「うるさいわね……ふんっ」
うるさいですね、と煩わしげに拳を少し揺らす。凄まじいスピードでノックした感じ。次の瞬間、彼女の指からあの鋭利な爪が生えていて、遅れてフレイムベアの首がくるくるお宙を舞ってズゥンと落ちた。地響きで身体が揺れて木の葉が落ちる。一体何トンあるんだろうこれ。
「ひぇぇぇぇ」
「情けない声出さないの。ふふ、部屋では あんなに勇猛なのにね」
ベステルタがセクハラおじさんみたいなことを言ってる。うまいこと言った!という顔をしているが、それ日本ではどっちらけです。残念な感じもまた好きです。
「じゃあ鞄に収納してくれる?」
「ねえ、僕はついこの間まで一般人だったんだよ? はあ、わかったよ 。『収納』」
そう心で念じるとフレイムベアの死体がふっと消えた。どこにいったか、簡単だ。魔法の鞄だよ。
一週間繁殖生活しているときに、こっちに持ってきた荷物を鞄に入れようとしたら、根こそぎ消えてびっくりしたのがきっかけだ。慌ててベステルタに尋ねたら「魔法の鞄」だと教えてくれた。いやいや、これただのビジネスバッグなんだけど、と野暮な突っ込みはおいといて、一応神に感謝した。
使い方は簡単で『収納』と念じて物に触れば勝手に収納され、取り出したいときは対象物をイメージすれば出てくるらしい。ドラッグアンドドロップに似ているな。
しかも何回か使用した感じ、鞄の中は時間の流れがかなり遅くなっていることが分かった。これは実用的なチートだよほんとに……。いざとなったら引っ越し屋さんになればいいからね。めんどくさそうだからやらないけど。ありがてえありがてえ。
「これでまた一週間は持つわね」
「一週間しか持たない、の間違いじゃ……」
念のため言っておくが、僕の食べる量は普通だ。そりゃ確かに前と比べて量はかなり増えたけど、ベステルタの比ではない。一日に分厚いステーキを何十枚も食べる。しかもご飯が美味しくて前より増えているらしい。そのぶん身体はかなり健康になって、力がみなぎっているようだけど。
「うーん、美味しすぎてついつい食べちゃうのよね。しかも栄養?が身体中に行き渡っていく感じがするの」
この現象についてちょっと仮説を立てた。
おそらく浄化前の肉にはやはり毒素があって、それが栄養の吸収を妨げていたのではないか、という説だ。けっこう良い線いってるんじゃないかな。
ただ、心配なのが今までそれを普通に食べていたベステルタの食生活を突然変えてしまって大丈夫か、というところ。
もしかしたらあの毒素もある程度必要なのかもしれないからね。だからベステルタにはたまにあの浄化前の生肉を食べるようには言ってある。嫌な顔してたけど。
「君がこれ以上元気になってしまうと本格的に僕がぶっ壊れてしまうんですが?」
「大丈夫よ。ケイも強くなって?」
くっ、強くなれと言われたら強くならなければいけない気がする。
いやぁ初日に心臓焼き食べたときだけは主導権握れたけど、あの後はぐんぐん元気になっていくベステルタに負けっぱなし。供給するのに精一杯です。
「それにしても一週間か……ということはそろそろあの子が来るわね」
「あの子?」
おっ、何だ。 近隣住民か?
「ええ。あなたも飲んでるコス茶を届けてくれるのよ。代わりにフレイムベアの肉をあげてるの」
なるほど、物々交換か。絶死の森に貨幣経済なんて無さそうだしな。それが主流なんだろう。
「その子はフレイムベア狩れないの?」
「もちろんフレイムベアごときいくらでも狩れるわ。でも彼女より私の方が効率がいいのよ。コス茶の採取も向こうがやった方が遥かに早いの。だからこうしてるのよ」
ごとき扱いされるフレイムベア先輩……。もし人の街に行ったら先輩がどれくらいの価値なのか調べる必要があるな。この世界の人間が亜人ほどじゃないにしても、めちゃくちゃ強い可能性はあるだろうけど。
「コス茶が自生している場所はここから離れているのよ。わたしが行ってもいいけど時間かかっちゃうからね」
「その子は時間かからないの?」
「ええ、空飛べるからね」
マジか。
それは確かに移動の面で圧倒的に有利だね。
なるほど。
効率っていうのは自他共栄ってやつかな。お互い強みを活かして効率よく相互に生きていくと。こんな辺境の土地じゃ助け合わないと不都合も多いか。
「じゃあ挨拶しないとね」
「色んな意味でね」
怪しく笑って舌なめずりする。うう、それ見ると僕は背筋に悪寒が走ったあと強制的に一部分が元気になってしまうようになったんだよ。まるでパブロフの犬だ。
「や、やっぱり?」
「当たり前でしょ。まあ段取りはあるけど。ただの挨拶で済むと思ってるの?」
思わないけど、ベステルタだけでも身体が持たなさそうなのにもう一人とかほんとに二人いないと厳しいんじゃないかな。ていうかもう物理的に二つに裂けそうなんだけど。
「大丈夫よ。あの子は私より激しくないはずだし。あの子の番の時はわたしも自重するわ」
「ほんとに? 乱入とか無しだよ」
「……善処するわ」
だめだ、これスリーピース活動することになるわ。やばい本格的にどうにかしないと。レベル上げた方がいいのかな。
「ベステルタ、どこかでレベル上げ手伝ってくれる? 僕が強くなった方が早い気がしてきた」
「ふふ、強い男はもちろん好きよ。任せなさい。すまきにしたフレイムベア並べてあげるわ」
それパワーレベリングっていうんですよ。本能で理解してるのか? それで上がるならいいけど。
一抹の不安を覚えつつ家に戻った。
氏名 種巣 啓
レベル 15
体力 90
魔力 70
腕力 40
精神 10
知力 60
器用 15
スキル
生活魔法
固有スキル
言語理解
頑健
浄化
一週間繁殖生活。
べつに区切っていた訳じゃないけど、なんとなく一週間経ったからふとステータス見るとレベルが上がっていた。レベルが上がる心当たりなんて一つしかない。
「よかったじゃない。安全にしかも気持ちよくレベルあげられるなんて」
安全? 毎回命の危険を覚えているよ。気持ち良いのには同意しかないけどね。むしろ命の危険を覚えたからレベルが上がったのか? 命を育む行為なのに、これいかに。
ベステルタはニコニコつやつやしながらフレイムベアのステーキを作っている。繁殖生活中、体力やらなにやら搾り取られ、ある時完全に身体が動かなくなった僕は、ほうほうの体でベステルタに作り方を教えたのだ。そうしなきゃご飯も食べられない。彼女も興味があったようですぐに習得した。それ以来ステーキは彼女が作っている。
ちなみに塩も確保した。やはりというか、彼女の心当たりは岩塩のことだった。確かにこの辺岩山が多いからね。適切な塩の抽出方法が分からないので、とりあえず浄化をかけてみたら、良い塩梅になった。すごすぎない? このスキル。
塩を手に入れたことによって肉焼きはステーキにジョブチェンジした。その最初の感動たるや、半端無かった。うますぎて失神したもんね。そして次に目を覚ますと、僕の上で肉を食べながら黙々と杭打ちするベステルタ。怖すぎる。何かの儀式かと思ったよ。ちょっとトラウマになった。ある意味最高だけど。
「それで、どうかな。当たりそう?」
「うーん、まだ当たった感じはしないわね。身体は怖いくらい調子が良いのだけれど」
亜人は子供ができたかどうか分かるらしい。
たぶん、亜人の防御機構がかなり強いんだろうな。昔調べたことがある。こう、強い子孫を残すために途中の道でわざとソルジャーたちを殺す番人みたいのが女性には備わってるんだってさ。もちろん病原体なんかもそこでやっつけるらしい。すごいよね。
「はい、どうぞ」
そう言ってステーキを綺麗に切り分けてくれる。この一週間で彼女はずいぶん器用になった気がする。感動ものだよ。
「まあ、できにくいんだよね? ゆっくりやっていこうよ。焦らずにさ」
「ありがとう、ケイ。うれしいわ」
なんか図らずも、新婚さんみたいな会話してるな。これが幸せだよ。父さん母さん、僕は異世界で何とかやってますよ。
そして、口にステーキを咥えて、机の反対側から身体を寄越して僕に差し出してくる。親愛の証らしいよ。すごい動物的だよね。正直悪くないです。
ぱくり、と口移しでステーキを頬張る。
じわぁ、と旨味が口内に溢れ出す。いや、全然飽きないなこれ。毎日食べても飽きない。家にある肉のほとんどは浄化したから当分は楽しめるな。フレイムベアもいくらでもいるらしいし。彼女にとったら雑草むしりするようなもんらしい。まだ見ぬフレイムベアが気の毒に思えてきたよ。なんか愛着が湧いてきた。
「でもそろそろ野菜が欲しいなあ」
「あるじゃない野菜」
「コス茶葉は野菜とは言いません」
「言わないの?」
言わないよね?
香辛料の類いだよね、これは。
もっとこう、玉ねぎ長ネギとか、ニンジンとかじゃがいも、トマト、ニンニクなんかが欲しい。せめてそのうちの一つでもいいから欲しい。それで一ヶ月は戦える。
「ちなみに野菜ってなんだか分かる?」
「土に植わってるやつでしょ? あんま好きじゃないわ」
うーん、知識が偏ってるなあ。ちょっとくらっときてしまったよ。今まで肉しか食べてこなかったんだから仕方ない……のか?
あっ、食料事情が改善されればされるほど、肉が足りなくなりそうだな。そこらへん問題ないのだろうか。
「亜人王、肉の貯蔵は十分か?」
一度言ってみたかったんだこれ。
「王……? 一応束ねる亜人はいるけど、最近体調が悪いらしくて会っていないわね。あと肉の貯蔵は確かに不十分ね。ここまで一気に無くなるとは思わなかったわ。一狩りする?」
マジか。リアル一狩りしようぜ!が聞けるとは思わなかった。ていうかやっぱりまとめ役はいるのね。どこかでお会いすることになるのかな。
「僕が行っても大丈夫かな。その、足手まといにならない?」
「大丈夫よ別に。この森にわたしを脅かせる存在はいないわ。怖いなら抱きついてなさい」
イケメンベステルタの株がぐーん!と上がった。僕は初めての狩りに胸を踊らせて彼女に付いていった。
というわけで狩りです。
「あがががががが」
『グゥオオオオオオオオオオアアアア!!!』
生物としての格の違いを思い知らされてます。
五メートルはある巨大過ぎる熊。怪獣だよこんなもん。
僕を丸のみにできそうな口。凶悪な牙。四本の腕が怒りに燃えている。リアルに燃え盛っている。つまりフレイム。つまりフレイムベア。
すみませんステーキ要員とか思っててごめんなさい。これに人が勝てるとは思えない。だって小さなビルが意志をもって暴れるようなもんじゃん。質量の暴力だよ。
「うるさいわね……ふんっ」
うるさいですね、と煩わしげに拳を少し揺らす。凄まじいスピードでノックした感じ。次の瞬間、彼女の指からあの鋭利な爪が生えていて、遅れてフレイムベアの首がくるくるお宙を舞ってズゥンと落ちた。地響きで身体が揺れて木の葉が落ちる。一体何トンあるんだろうこれ。
「ひぇぇぇぇ」
「情けない声出さないの。ふふ、部屋では あんなに勇猛なのにね」
ベステルタがセクハラおじさんみたいなことを言ってる。うまいこと言った!という顔をしているが、それ日本ではどっちらけです。残念な感じもまた好きです。
「じゃあ鞄に収納してくれる?」
「ねえ、僕はついこの間まで一般人だったんだよ? はあ、わかったよ 。『収納』」
そう心で念じるとフレイムベアの死体がふっと消えた。どこにいったか、簡単だ。魔法の鞄だよ。
一週間繁殖生活しているときに、こっちに持ってきた荷物を鞄に入れようとしたら、根こそぎ消えてびっくりしたのがきっかけだ。慌ててベステルタに尋ねたら「魔法の鞄」だと教えてくれた。いやいや、これただのビジネスバッグなんだけど、と野暮な突っ込みはおいといて、一応神に感謝した。
使い方は簡単で『収納』と念じて物に触れば勝手に収納され、取り出したいときは対象物をイメージすれば出てくるらしい。ドラッグアンドドロップに似ているな。
しかも何回か使用した感じ、鞄の中は時間の流れがかなり遅くなっていることが分かった。これは実用的なチートだよほんとに……。いざとなったら引っ越し屋さんになればいいからね。めんどくさそうだからやらないけど。ありがてえありがてえ。
「これでまた一週間は持つわね」
「一週間しか持たない、の間違いじゃ……」
念のため言っておくが、僕の食べる量は普通だ。そりゃ確かに前と比べて量はかなり増えたけど、ベステルタの比ではない。一日に分厚いステーキを何十枚も食べる。しかもご飯が美味しくて前より増えているらしい。そのぶん身体はかなり健康になって、力がみなぎっているようだけど。
「うーん、美味しすぎてついつい食べちゃうのよね。しかも栄養?が身体中に行き渡っていく感じがするの」
この現象についてちょっと仮説を立てた。
おそらく浄化前の肉にはやはり毒素があって、それが栄養の吸収を妨げていたのではないか、という説だ。けっこう良い線いってるんじゃないかな。
ただ、心配なのが今までそれを普通に食べていたベステルタの食生活を突然変えてしまって大丈夫か、というところ。
もしかしたらあの毒素もある程度必要なのかもしれないからね。だからベステルタにはたまにあの浄化前の生肉を食べるようには言ってある。嫌な顔してたけど。
「君がこれ以上元気になってしまうと本格的に僕がぶっ壊れてしまうんですが?」
「大丈夫よ。ケイも強くなって?」
くっ、強くなれと言われたら強くならなければいけない気がする。
いやぁ初日に心臓焼き食べたときだけは主導権握れたけど、あの後はぐんぐん元気になっていくベステルタに負けっぱなし。供給するのに精一杯です。
「それにしても一週間か……ということはそろそろあの子が来るわね」
「あの子?」
おっ、何だ。 近隣住民か?
「ええ。あなたも飲んでるコス茶を届けてくれるのよ。代わりにフレイムベアの肉をあげてるの」
なるほど、物々交換か。絶死の森に貨幣経済なんて無さそうだしな。それが主流なんだろう。
「その子はフレイムベア狩れないの?」
「もちろんフレイムベアごときいくらでも狩れるわ。でも彼女より私の方が効率がいいのよ。コス茶の採取も向こうがやった方が遥かに早いの。だからこうしてるのよ」
ごとき扱いされるフレイムベア先輩……。もし人の街に行ったら先輩がどれくらいの価値なのか調べる必要があるな。この世界の人間が亜人ほどじゃないにしても、めちゃくちゃ強い可能性はあるだろうけど。
「コス茶が自生している場所はここから離れているのよ。わたしが行ってもいいけど時間かかっちゃうからね」
「その子は時間かからないの?」
「ええ、空飛べるからね」
マジか。
それは確かに移動の面で圧倒的に有利だね。
なるほど。
効率っていうのは自他共栄ってやつかな。お互い強みを活かして効率よく相互に生きていくと。こんな辺境の土地じゃ助け合わないと不都合も多いか。
「じゃあ挨拶しないとね」
「色んな意味でね」
怪しく笑って舌なめずりする。うう、それ見ると僕は背筋に悪寒が走ったあと強制的に一部分が元気になってしまうようになったんだよ。まるでパブロフの犬だ。
「や、やっぱり?」
「当たり前でしょ。まあ段取りはあるけど。ただの挨拶で済むと思ってるの?」
思わないけど、ベステルタだけでも身体が持たなさそうなのにもう一人とかほんとに二人いないと厳しいんじゃないかな。ていうかもう物理的に二つに裂けそうなんだけど。
「大丈夫よ。あの子は私より激しくないはずだし。あの子の番の時はわたしも自重するわ」
「ほんとに? 乱入とか無しだよ」
「……善処するわ」
だめだ、これスリーピース活動することになるわ。やばい本格的にどうにかしないと。レベル上げた方がいいのかな。
「ベステルタ、どこかでレベル上げ手伝ってくれる? 僕が強くなった方が早い気がしてきた」
「ふふ、強い男はもちろん好きよ。任せなさい。すまきにしたフレイムベア並べてあげるわ」
それパワーレベリングっていうんですよ。本能で理解してるのか? それで上がるならいいけど。
一抹の不安を覚えつつ家に戻った。
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