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閑話:ヴィットーリオとモブ1

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私はなにをしているのだろう…。

ざわざわ、がやがや。

喧騒が遠い。

ここはどこだろう…。

私は……私は…………

ああ、そうだ。確か、フェルディナンドにされて、それで………母上、が………………………ははうえ、が、……く、く、、も、、、、、くも、くも、くもくもくもくもくもくもくも…、蜘蛛……に……………………………………




ふに。





……………う……?





う……………………………………………










「……ぅ、うぁっ、ちいいいいいいいいいいい!!??」





「あ、熱かった?すみません」






目の前に。





目の前には、オズワルド・ヴァッサロがいた。手にした丸い食べ物を私の口元に差し出しながら。






「オ…オズワルド………?」


「はい?……ええ、はい」





オズワルド・ヴァッサロ。

私の、初恋の ーーー 叔父上の、妻、だ。

美しい男だ。美しい ーーー 存在、だ。





初めて逢ったのは、聖女と思しき者たちを集めた時だ。

《預言者》である叔父の妻 ーーー オズワルドが国中の『夜の色の髪の娘』を集めた。

私は当時15歳という反抗期真っ盛りで、でも自身が死ななくていい《特効薬》の聖女を選ぶのならば……と、父上 ーーー 陛下の命で顔だけは見せた。

その時だ。

彼と出会ったのは。

一般的に言うならば、地味な薄茶の髪に、目立たない暗くて深い緑の目。

けれど、私には彼が得難い宝石のように見えた。

彼がその場にいるだけで、生まれてからずっと感じてきた不安が和らいだ気がした。

車椅子に乗って幼い少女に付き添われ、叔父上の妻だと牽制されなければ、きっと ーーー 囲っていた。



結構きつい事も言えるんだな、と思ったのはヴァッサロ邸に先触れ無しで乗り込んで行った時だ。

兄上が、あの女に入れ込んで「ルクレツィアに会いたい!一緒に学園に通いたい!」という頭の悪い願いをきいてしまった時だ。

一目見ただけの言葉も交わしていない大公家令嬢を呼び捨てにし、共に学園に通いたい?馬鹿も休み休み言え。少し調べればわかるだろう。ルクレツィア嬢が学園に通わないのは。滅多に顔を見ることの叶わない深窓の令嬢だが、家庭教師として通った者たちからは最高級の評価だ。美しく、教養があり、他国の王妃にもなれるだろう淑女教育を受けた少女。今更『学園』などに通って派閥に参加し、結婚相手を探す必要もない。

一緒に行きましょう!とあの女から誘われた時は鼻で笑った。どうしてこの女は、兄上たちも、こうも頭が悪いのか!?と。耳触りの良い言葉で兄上も未来の側近たちも、留学してきたカガンの皇子さえ陥落された。花の香りをさせながら、妙に甘ったるい声で囁かれる言葉は限りなく軽い。鳥肌が立つほど。

いや、この女が他国の者だとしたら非常に優秀な間諜だ。

そう思って渋々付いて行ったヴァッサロ邸。多少はあの美しい叔父の妻に会えるという下心はあったが。




そして叔父上の妻や義理の娘の口から出たのは、 ーーー 鉛のような言葉だった。









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