126 / 179
閑話:殲赤鬼と冒険者引退
しおりを挟む久々にエルトリアの冒険者ギルドに行くと面倒事が待っていた。
正確には、《百鬼夜行》のメンバーが、だ。
「だから、お前は今日でクビだって言ってんだよ!」
「……了承しかねます。僕の雇い主はリョウです」
「今は俺が代行なんだよ!良いから金と装備置いて出て行けよ。ああ、そうそう、他所様に迷惑かけねえように冒険者のライセンスもここで置いていけ」
「……………っ」
「ミナト様は《百鬼夜行》から脱退した場合、ここ5年の実績が無くなりますので冒険者ライセンスは剥奪となります。早速お手続きを致しますね♪」
「だってよ~!手間省けて良かったなあ?この穀潰し」
………聞くに耐えねえ。そのギルドの受付中から、隣接した酒場から、下卑た笑い声が上がる。ずらっと並んだうちのパーティーメンバーも全員笑ってる。中立であるはずのギルド職員までも嗤っている。
ああ…オレはこんな所にいたんだな。兄貴のいるヴァッサロ邸が異常だったんだ。
「なんの騒ぎだ?」
オレが声を掛けると、笑い声がピタリと止む。
「リーダー……お、おかえり!なんだよ連絡も寄越さねえで。もう問題は解決したのk……」
「なんの騒ぎだ、ってオレぁ訊いてんだよ」
聞いてたけどな。
オレは付いてきてくれてた赤竜に小銭を渡し、ちょっと呑んで待っててくれと頼む。すぐにトンボ返りするつもりだったが、少々事情が変わった。
「ミ……ミナトが、戦えもしねえのに口煩くてよ?アンタが居ねえと調整も手ェ抜くし、金だってちょろまかしt……」
「金は!アンタらが壊した物の弁償だろ!?調整ミスは、リョウが居ないと好き勝手するアンタらが……!!」
「うるせえ!とにかくお前はクビだ!!だいたいなんでFランクが《百鬼夜行》にいんだよ!?うちはな!SSSランク冒険者パーティーなんだぞ!?最低でもAランクの……!!」
「もういい、わかった!」
オレは不毛な言い合いを止める。ああ、めんどくせえ。遥を連れてくりゃ良かったなあ。
「受付さんよ、手続きしてくんねえか」
オレが言うと、ミナトは真っ青になった。俺が留守を任せていたガイは満足げにフンと鼻息を荒くする。
「《百鬼夜行》解散。名称の凍結。オレと遥の冒険者ライセンス返上」
「………………はい?」
「聞こえなかったか?今日、今限りで《百鬼夜行》は解散だ。……元々、《百鬼夜行》はオレと遥が兄貴を探すために作ったパーティーだった。二人だけで良かったんだよ。なのに、オレが考えなしにメンバーを増やした。遥はやめろって言ってたのによ?兄貴が見つかった今、もうこのパーティーは要らねえや。名称は悪用されねえように凍結すっけど、この後はガイ、お前に任せた」
「は……!?え!?え!!??ええ!?」
「ミナト、お前さあ、冒険者やめろ。向いてねえわ」
「……………っ!」
「兄貴がさ、サヴァレーゼで魔獣専門の自衛団立ち上げるんだよ。オレも行くから、手伝ってくんねえ?兄貴は人使い荒いし要求もめっちゃ高ぇけどさあ、オレ、お前がいるとすっげえ楽だって思うんだけど?」
「え……?」
「あ、そうそう。装備と金、だったな?」
オレはギルドタグを外し、装備を脱ぐ。
まあ元々、あんまり装備には拘らなかった。量産品の安物だ。ギルドタグには今まで稼いだ金の大半が入っている。それこそ、爵位が買えるくらいの大金が。
「ズボンとパンツは勘弁してくれ。流石にマッパだと、帰った時に兄貴に殴られそうだしな」
オレはミナトに手を差し出す。
「おら、行くぞ?」
「………仕方ないですね?」
ミナトがオレの手を握る。んー、やっぱり可愛い。兄貴の次に可愛い。
280
お気に入りに追加
9,607
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる