【異世界大量転生2】囲われモブは静かに引きこもりたい

モブとオズワルドと透

前世の弟妹はエルトリア王国に旅立って行った。

超あっさり。

もっと一緒にいるとか言ってごねられるかと思ったのに。あいつらももう子供じゃないんだなぁ…。



ルクレツィアと遥はあの後、城の竜舎に行ってカムイを撫で回し、なんだか意気投合して帰ってきた。

テオと遼も、なんだか熱い(というか暑苦しい)友情を育んだらしい。

まあ今の遼は俺よりだいぶ歳上に見えるから、テオの方が歳が近くて懐いちゃったのかな…。さ、寂しくなんかないぞ！？ないったら！



テオがやたらと俺に触ってくるから、遼からなにか聞いたのかもしれない。





前世で俺は普通の家に生まれた。日本国の大半を占める中流家庭だ。

両親と俺、双子の弟妹。どこにでもある家庭。

それが変わったのは俺が中1の時。母が事故で急逝した。

ああ、中1ってのは……なんていうか、学園の中等部？12歳くらいだよ。

おしどり夫婦で有名だった父は荒れた。会社にも行かず酒浸りだ。

コンビニで弁当買って、まだ小学生だった弟と妹に食べさせて。犬にも餌はやってたけど、散歩までは手が回らなかった。

掃除も洗濯もゴミ出しもやったことなかったから、うちはみるみる荒れていった。

それでも我慢した。

そんな生活が一月は続いたある日、父が言った。

再婚する、と。もうこんな生活を続けることは出来ない。お前たちの世話をしてくれる女と再婚して、普通の生活をさせてやらなくちゃ……と。

幸か不幸か、父は顔だけは良かった。父にそう言った女は、金だけは持っているのだろう。

気付いたら。父の顔面にヤクザキックして、馬乗りになって往復ビンタしてた。

泣きながら殴る俺を、やっぱり泣いてる遼と遥が止めた。

母さんが居ないのが悪いんじゃない！あんたが腑抜けてんのが悪いんだろう！……と。

今考えるとキッツイ息子だよ。鬼だよな？

で。次の日からめっちゃ早起きして家事を始めた。殴った手前、俺が不貞腐れるってのはアウトだし。

クッソ可愛くない弟に文句言われながらも、焼いてない食パンと焦げた目玉焼きから始めた。

ぐずる妹の、縺れてぐしゃぐしゃの髪を梳き、高さの違うツインテールにリボンを結ぶ。

ベッドから出てこない父を叩き起こし、ハロワに行けと家から蹴り出す。

洗濯機から出してそのまま干したシワシワの洗濯物。久しぶりに洗濯物が出てたから…と、見るに見かねた隣の奥さんが垣根越しに干し方を教えてくれた。

買い物の帰りに、図書館で料理の本を借りて帰った。

なんとかやってきた。

最初は学校休んで家事やってたのに、慣れてくると余裕ができた。父も弟も妹も、出来る範囲で手伝ってくれた。そのうち学校にもちゃんと行けるようになって、勉強もして、好きな本も読んで、みんなの分の弁当だって作った。

父は大手企業に再就職し、妹は格闘技を始め、弟は……ヤンキーになったけど。



高校生の時、庭掃除をしてたら見知らぬ女が父はいるかと尋ねてきたが、にっこり笑って「誠志郎さんは今日はまだベッドで寝てますよ？」と言うと、真っ赤になって何か喚いて、二度と来なかった。





大学1年 ーーー 19歳の夏。

炎天下で汗だくで買い出し行ってて、胸が苦しいな……って思ったらこの世界に来ていた。多分俺はあそこで死んだんだろう。






そういうことを夜に寝室で話して聞かせる。

なんか、なあなあになっちゃって言ってなかったからね？




「……オズワルドと、トールが混ざり合って、お前が生まれたんだな…」




うん、たぶんね。

俺は笑う。

ああ、なんか胸の支えが取れた。




俺は異世界に来たんじゃなくて、生まれたのか。




テオが俺に触れる。

優しくて、時々頑固で、俺のことが大好きな、俺の旦那。




嬉しくて、テオの頭をぎゅうぎゅうに抱きしめたら、それじゃあ何もできないと笑われた。