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閑話:王太子と罪人
しおりを挟む生まれて初めて恋をした。
特別美しくもないが、よく笑い、よく怒り、よく泣く…。そんな天真爛漫な少女だ。
彼女の笑顔が好きだ。王族にも物怖じしないところも惹かれた。
貴族の娘のように、扇子で口を隠しながら感情を隠すこともない娘。
少女は聖女候補だった。
彼女が「レベルが上がらない。このままでは聖女になれない」と一番最初に私に相談してきたときは ーーー 嬉しかった。私が一番…。ただただ優越感に浸った。
だから、北の民族が謀反を起こすのではないか、と聞いたときはチャンスだと思った。
父上でさえ気付けなかった謀反を未然に防ぎ、そして、討伐に同行させることで少女の ーーー ルミナのレベルを上げる。
そして、ルミナの聖女としての適性を認めさせ……私の妻に。
そう、ルミナを妻にして、側妃に子供を沢山産ませれば《弟》のスペアが多くできる。聖女を与えずとも、使い捨てれば良いのだ。
北の民族の横暴さに困っていると言っていた貴族にも声をかけて。
私は気の置けない友人たちとルミナ、そして直属の騎士たちを連れて北に向かった。
北の蛮族たちは、私たちが謀反の動きに気付いてないとでも思ったのか。快く私たちを迎え入れた。
そして ーーー 逆賊たちを残さず始末した。
邪竜も殺した。人間でありながら、邪竜の番であった男も始末した。
後方支援だけだと言って連れてきたルミナはいつのまにか返り血で真っ赤になっていた。
ルミナが笑う。血塗れで。
ああ ーーー 私の愛する聖女は美しい。
血に酔った私は昂り、ルミナを抱き寄せる。
手柄を横取りされた叔父上が、《予言》スキルを持った妻と駆けつけたがもう遅い。私は竜殺しだ!怖いものなどない!
なのに………
叔父上の妻が、事切れた謀反人の、冷たい手を取って ーーー 泣いた。
何故?どうして?それは罪人だ!咎人なのだぞ!?
はらはらと頬を伝った雫が、地面に撒き散らされた血と混ざり合う。
そうして信じられない事が起こる。
地からふわりと小さな光の粒が舞い上がる。
ふわり、ふわり。
罪人の体から。邪竜の死骸から。ふわり。ふわり。
無数の神々しい光が、舞い踊るように、空に向かって。
ああ……まさか………。
私の熱が、冷水を浴びせられたように引いていく。
…この男は……竜は…………
本当に、罪人……だったのか?
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