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【メンドゥサ王国軍官僚視点】「ハルフォード男爵領は独立を宣言した」
しおりを挟む国境の結界が消滅した。
我がメンドゥサ王国は南東に魔王領である海、西に魔物の棲む魔の森、北は隣国というのも烏滸がましい野蛮な騎馬民族の集合国家がある。先日、聖女であったシャーロット・ハルフォード男爵令嬢が王太子殿下に不敬を働いて国外追放。新しく聖女の地位に就いたエレオノーラ・スタンスフィールド公爵令嬢は経験不足で未だ結界装置に魔力を込められずにいた。
結果、建国以来300年続いた王国の結界は消滅した。
現在、我が軍は蛮族オーブルと交戦。西の森はまだ静かだが、モンスタースタンピードの兆候がある。西方地区に冒険者を集め準備を進めているのだが…。
「断る」
元SSSランク冒険者『剛拳』のブライアンはこちらも見ずに拒絶した。
「これは王命であるぞブライアン殿!」
「俺ァ先代陛下から「何もしなくていいからこの国に住んでくれ」って言われたんだよ?それがさあ、ああん?息子と娘を王宮に取り上げて生贄にした挙句に魔王と通じていただのなんだので追放処分だったから良かっただのなんだの……そんで次は俺に「戦え」?ふざけんなよテメエら、何度うちの嫁を泣かすんだよブッ殺すぞ!?」
鼓膜を、全身を震わす怒気が辺りを包む。
「しかも嫁にも《聖女》の力があるかもしれないから寄越せ?お前ら大概にしとけよ!?常日頃から「お前たち平民とは魔力量が違う」って言ってるお貴族様にやらせろよ!?引退した聖女も駆り出せ!出来なきゃその軽い頭下げて他国から借りて来い!冒険者ギルドから魔術師掻き集めろ!!どいつもこいつも使えねえな!!」
ブライアンの声に見物人たちが「そうだそうだ!」「何の為に俺らが税金で貴族ら養ってると思ってんだ!」「あの子たちを返しておくれ!」と騒ぎ始めた。……チッ、《煽動》スキルか!?
私の合図で兵士たちがブライアンを取り囲む。多少強引なことをしてもいいと陛下からの許可もある。20年以上ブランクのある丸腰の冒険者など、現役兵士の敵にもならん。
抜刀した兵士たちに、見物人たちが悲鳴をあげる。
「やれ」
私の合図で兵士たちが一斉に襲い掛かり……
「どっせい!!」
「………は?」
ブライアンの掛け声とともに数人が宙を舞った。
「鍛え方がなってねえなぁ?うちの息子ならカウンター叩き込んでくるぞ?もっと踏ん張れよオラァ!!」
わ…私は夢でも見ているのか!?殴られただけで人間が吹っ飛んでいくはずないだろう!?嘘だ嘘だ夢だ。そうだ夢なんだ…そんな……
奴の拳がやけにゆっくりと眼前に迫る。
「ヒッ…!!」
「そこまでだ、ブライアン」
ピタリと凶器が止まった。
「………チッ…!」
「ヒ…ヒィ……!!」
黒衣に身を包み、仮面で顔を隠した男が馬車から降りてきた。ああ…この異様な風体の『貴族』は……
「ハルフォード男爵…!?」
「テメエ何しに帰ってきたよ!?嫁保護したら屋敷から出るなっつっただろう!?」
「妹がお前が心配だと泣くのでな?ああ、こんなゴリラの心配なぞ無駄中の無駄だというのに…」
「なにおう!?」
「ああ、そこの君。この男に殺される前に持ち込んだゴミを拾って早くこのハルフォード国から立ち去りなさい。命令です」
「なに、を…!?」
私は軍中尉の子爵だぞ!?男爵如きになぜそのような……………は?ハ…ハルフォード、『国』?
ブライアンがピュゥと口笛を吹いた。
「本日正午を以って我がハルフォード男爵領は独立を宣言した。我が国から疾く退去しなさい、メンドゥサ国軍第二中隊コーディー・プリッドモア中尉」
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