158 / 160
偽神編
最終話
しおりを挟む目が覚めたらティグレの顔があった。疲れて窶れたティグレの顔。お…いっちょまえに無精髭なんか生やしやがって。生意気な。
「リ…リオ…!?」
「……ん…………は、よ…」
おお…声がガラガラだ。まるで何日も寝てたような……。さては口開けて寝てたか。
「リオ!リオ…!!いっ…生き、てた!生きてた!リオ…!!」
「お…?お?お、おう……???」
縋り付いてギャン泣きするティグレ曰く、俺は10日ほど眠り続けていたらしい。新しい左腕が馴染むまで、とかなんとか。そういや俺の腕、偽神に齧られたってぇのに生えてきてら。すげえな異世界。
俺の腕を生やしたのはアンティエーヌじゃないらしい。
見舞いに来てくれたアンティエーヌに礼を言おうとしたら、すっげえ不本意そうな顔で「新しい神様が癒してくださいました」とかなんとか…。その辺は何故か緘口令が敷かれているらしく、推測できる材料といえば王妃様がめっちゃ嬉しそうな件。……あー、うん。あれか。イケメンなんだな、その神様とやらは。
白湯に近い重湯から始まって粥、柔らかいパンと野菜のスープ。今日はティグレお手製のハムサンドになった。……ふむ、そろそろか…?
「あのなティグレ」「あのねリオ」
「「あ……」」
うーむ、同時か。さすがだティグレ。何が流石なのかわからんが。
「あ…え、と……リ、リオからどうぞ?」
「いや、ティグレからいいぞ?」
「ええ…」
ティグレは困ったようにへにょりと眉尻を下げた。
「えー……えー、…うん……その、ね…?ぉ……おっ、俺と…!」
お?
「俺と結婚してください!!!」
「………………は?」
えっ???あれ?そういや卒業したてぇのにティグレまだ北の大地に行ってねえな。
「だ…第二夫人でも愛人でもいい!俺はやっぱりリオと一緒にいたい!」
「ええぇ……」
「ごめん…ごめん、リオ……おれ、やっぱりあきらめられなかっ……」
ポロリとティグレの目から涙が溢れる。
「待て……待て待て待て待て待て!?どうしてそうなる!?ってか愛人って結婚してねえじゃん!?」
「…ぅう~……だって………」
「だってもクソもねえ。お前が俺と結婚してくれるんなら他の嫁も愛人もいらんだろ」
「………………はぁ?」
はぁ?じゃねえんだよ可愛いなチクショウ。
「明日……いや、まだ役所開いてるな?よし、届け出しに行くぞ!んですぐに新婚旅行だ!」
「ええええええ……???」
だってこういうのはさっさとやんねえと、だろ?メアリーばあちゃんは絶対衣装を揃えて小っ恥ずかしい結婚式やろうとするだろうし、ラドは絶対渋ってなんだかんだ理由をつけて俺を拘束しようとするだろう。アンティエーヌや王妃様はついてくるって言いかねないし、騎士たち全員も付いてきそうだ。
それはダメだ。おれは!ティグレと二人で旅行したいんだよ!!
「海を見に行こう!途中でプレンダーガストに寄って結婚指輪を見繕って、ケレスで食料を買い込んでいこう。本で見た永久凍土の大雪原にも行こう。古代火龍の棲む火山に砂のバラが咲く大砂漠。七色に変化する妖精の湖に夜空にかかる星の大河。自由都市の大市場とか、帝国の夜景も見たい!あと、ヴィンセントから魔王国に遊びに来いって言われてるんだ。さあ、忙しくなるぞ?」
「リ…リオ……」
「ん?ほら、準備しろ。まあ服なんか行く先々で買っても良いけどな」
「君って人は………」
「あぁ?なんだよ?」
「……いや、いいよ。こういうのは惚れた方が負けなんだよ…」
何が言いてえんだよ!行くったら行くんだよ!!
「そうだね。リオも不眠不休で働き詰めだったし、ちょっとくらい我儘を通しても良いよね?モンサロ王国を救っちゃったんだし?」
「そーいうこと!」
ティグレが笑う。それだけで世界が輝いて見える。すげえな、これが脳味噌お花畑ってやつか!だが悪くない。
ラスボスに生まれた俺だが、何故か勇者になって、今日、結婚する。うん、悪くない。これが幸せってやつか。
ティグレとキスをする。
偽神はもういない。けれどこれからも都合よく平和な毎日が続くとは限らない。むしろここからが人生の本番だろう。神通しをした俺の寿命があと何年あるかはわからない。だから毎日、この瞬間を。大切に。正直に生きていこう。
リオ・プレンダーガストはラスボスであった。
913
お気に入りに追加
2,537
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?
まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。
☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。
☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。
☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。
☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる