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学園編

おかしな男

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久しぶりにむしゃくしゃしたので、王都で美味しい菓子でも食べることにした。ティグレのおやつも美味いのだが、今日は甘いものが食べたい。もうギットギトジャリジャリベットリなやつ。脳の疲労で体が糖分を欲している。ティグレは自分がテイクアウトするからと言ってくれたんだが、そうじゃない。俺が求めているのは非日常と糖分だ。……うん、我ながらよほどストレスだったらしい。

だが俺は王都とかいを舐めていた。

どこの喫茶カフェに行っても行列なのだ。美味そうな屋台でさえずらりと並んでいる。嘘だろ?平日だぜ?ほら言わんこっちゃないと言いたげなティグレ。ムキになって探す俺。

俺は!喫茶で!ティグレと!甘いものが食べたいんだよぉ!!

ストレス解消のつもりがさらなるストレス。半泣きでウロウロしていると、人ひとり通れるか?という小道というか建物の隙間から「もし…」と声をかけられた。


「もし…?休憩する場所を探しているのかな?」

「え……」


昼間だというのに薄暗い隙間にいたのは、真っ黒い照る照る坊主……ではなく、黒いローブの………男?背格好と声からしてそうだろう。だがローブに認識阻害効果でも付与してあるのか、顔が見えない。明らかに怪しい。


「……僕、穴場を知っているよ?来るかい?僕が奢っちゃうよ?美味しいよ?」


怪しすぎる…!!

前世の「お菓子をあげるからおいで」っていうのくらいわかりやすくて怪しい!!怪しいのに………







「あ、ウィルバート?お茶とお菓子を持ってきてくれるかな?3人分?」


なんで俺はノコノコついてきてるんだろうなあ!?


いかにも怪しげな男に、何故か付いてきてしまった俺たちは、裏路地をぐるぐる回って古い建物が並ぶエリアに出た。それから男が手招きするままに、その建物の1つに入る。中は喫茶というより商館の事務所のようで、古いが手入れが行き届いていた。応接室のような部屋に案内されて、ウィルバートと呼ばれた事務員のような男がローテーブルに所狭しと菓子や軽食を並べていった。……えっ。俺、ほんとなんでこんなことになってんの???


「ささ?召し上がれ?」


なんで俺は菓子なんか食ってんだろうなあ!?

おかしい。精神操作系の魔力反応もないし、麻薬も毒も入っていない。クッソ!美味えなこれ!マドレーヌかと思ったらフィナンシェかよ!焦がしバターうっめええぇぇぇ!


「美味しい?美味しいね?これもどう?あっ、塩っぱいものもどう?お茶のおかわりは如何かな?」


顔も見えない照る照る坊主がなんだかすごく嬉しそうなんだが!?なんだろう。なんで俺は初対面の男に甲斐甲斐しく給仕されてるんだ?ティグレはめちゃくちゃ訝しげで茶さえも口を付けていない。と思うのは俺だけか。

なんだ?波長でも合うのか?……誰に?東郷晶おれか?それとも…


リオ・プレンダーガスト。お前か?



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