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領地編2

閑話・愚かなのは

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(王兄ラドルファス視点)


私の幼少時代は光に満ちていた。朗らかな母。優しい乳母。たまに現れる、美しい客人。優しい使用人たち。全てが光輝いていた。

それが崩れ去ったのは5歳の披露目式。

初めて父というものを見た。初めて後宮の外を見た。初めて母以外の『父の妻』を知った。乳飲み児の弟を知った。

ああ、世界は理不尽で溢れている。

私は『側妃』にもなれぬ男爵令嬢の胎から生まれたのだと、大人たちが教えてくれた。

いずれ王になる弟たちのために、『影』であれと教育で叩き込まれた。


そんな折、私はある少年と出会う。


意思の強そうな眉。眼光は鋭く、肌は王族にあるまじき小麦色で、口唇は引き結んでいる。

それが、私の最愛になるエーブラハムだった。

子沢山の、蹴落としあいのなかで。エーブラハムは私を頼った。キラキラとした瞳で、私を『兄』と慕った。

第三王子を殺し、第四、第五王子も殺した。王女は全て。殺し損ねた第八王子が第三王子トエになった。

『光』のエーブラハムと、『影』である私。私は主人あるじを決めた。この命はエーブラハムに捧げよう。閨指導も務めたし自慰のやりかたも教えた。を使い古しの未亡人にくれてやる気も起こらず、媚薬で酔わせて私自身を犯させた。肌の合わせ方も、吸い方も、腰の振り方も教えた。エーブラハムが「抱くより抱かれたい」と顔を真っ赤にして告白してくれた時は、箍が外れてエーブラハムが3日も歩けないほど愛し合った。

乳母であるメアリーは、私とエーブラハムが愛し合っているのを見て。叫ぶでも嫌悪するでもなく、「孫の顔が見れない」と唇を尖らせただけの女だった。

正直、ズレている。

王女だった女がなぜ乳母に?と調べさせると、メアリーの過去は凄惨に尽きた。狂ってもおかしくない環境が、この能天気でおかしな性格にしたのだろう。そうでないと心が耐えきれなかったのだ。

美しく、優しいメアリー。私の乳母。この汚泥の様な王城で、穢れない新雪のような女。


彼女なら、私のために死んでくれる。


エーブラハムのために。敵を誘き出すために。エーブラハムの治世に仇なすものを討つために。きっとその身を捧げてくれる。 ーーー 実際、捧げた。


あとは待つだけなのだ。メアリーの訃報を。


知らずに手を握りしめていた。爪が手のひらに食い込み、血が流れる。

王族殺しは重罪だ。それが例え、隠された王女でも。多方向からの圧力による捜査の打ち切りはあり得ない。最大にして最強の一手。それをわかっていながら、リオ・プレンダーガストは私に食ってかかった。「よくそんなことができるな」と……。なんと愚かな。


「……愚かな…」


ぽつりと言葉が漏れる。




愚かなのは、どちらだろうか。





『殿下、報告致します』


放った『王家の影』が囁いた。


『プレンダーガスト侯爵が動きました』

「………………」






…………………は?


















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