【完結】リオ・プレンダーガストはラスボスである

とうや

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領地編2

護衛失格

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「……エルマー、お前さぁ、やる気あんの?」

「…………っ」


新年会一日目を終え、俺はエルマーを呼び出した。もちろん二人きりなどではない。ティグレとプレンダーガスト騎士隊のウォーレン、大公邸の執事アイザック、そして何故かメアリーばあちゃんまでいる。聞いていないと言い訳できない様に王兄ラドルファスに許可をとり、大公邸での説教だ。なお、ラドはまだ新年会の会場だ。まあ陛下しゅやくが抜けてないのにあの男が傍を離れるわけがない。それに……

ラドにはを頼んでいる。

プレンダーガストからの次の品が新年会の最終日に陛下に献上される、と。嘘じゃない。職場の紅一点同士、職人姐さんと彫金師ちゃんがタッグを組んだエログッズ。アレを持ってきている。万が一見られても「なんに使うんだろう?」というシロモノだが、芸術的価値は高い。セクハラかなー…とも思ったが、なんだか本人たちは非常に楽しそうなので良しとする。ニップルピアスをあの二人に頼んだら、もう関係は彼女たちに任せた方がトラブルが少ないだろうという判断。

……っと、話が逸れた。その『新作の献上』を阻止したい奴らが一定数いるということだ。ガラス産業のライバル工場とか、。正直、真打までは届かないだろう。だが確実に打撃は与えられるし、次の一手に慎重になるだろう。ラドのてのひらでガッツリ転がされているんだが、そこはそれ。俺に利がないわけでもないし。


そして今。

俺の仕込みはすでに終わっている。将棋倒しやピタゴラ⚫︎イッチの最初の一手。ツン、と突くだけ、簡単作業。前世のめっちゃ嫌味な教官を思い出しながらエルマーを追い詰める。正直楽しくない。陰口とかいじめとか、そういうの苦手なんだよ。やるならガッツリ『指導』して、そこから人間関係を構築して笑い合いたいものだ。


「なんのための護衛なんだ?突っ立ってるだけなら案山子で十分だろう?」

「……っそれ、は…っ……!」

「理由があるなら聞く。 ーーー 言え」

「……っ」


トン、トン、と指でテーブルを叩く。ほら、エルマー。ここで根性見せろ。怒鳴って喚いて本音を見せろよ。


「……わなかった、じゃ……か…」

「ん?」

「言わなかった…じゃないかっ!「助けて」って…!リオ!お前が俺にちゃんと!助けを求めたら俺だって…!!」

「はあ?なんでわざわざ?おかしいだろ?一々号令掛けねえと動けねえとか、頭の足りない自走人形ゴーレムかなんかかよ?お前、プレンダーガストから給料貰ってるよな?それ、なんの対価?俺について回るだけの金魚の糞料金か?違うだろう?俺はお前を『護衛』として雇った。騎士隊のリーダーであるウォーレンと同じ金額を払っている。金魚の糞はそこまで重要か?」

「そこのと一緒にしないでくれ!俺は侯爵家なんだぞ!出世コースから外れた奴らとはわけが違うんだ!!」

「侯爵家…と言えば、なあ、ウォーレン?お前の実家も侯爵家だなぁ?お前とウォーレン、何が違うんだエルマー?ウォーレンは護衛の仕事もこなすし、高位貴族のやり方もをくれる。騎士隊のまとめ役もやってくれている。なあ、聞かせてくれよエルマー?」

「……なん、だよこれ!パワハラかよ!訴えてや…」

「なーにがパワハラだ?俺の雇用主としての立場からは逸脱していないし、就業環境が妨げられてんのはこっちだ阿呆が。こっちが訴えてェわ。……で、なんだ?雇い主のはずの俺は、護衛に「助けてください」って頭下げなきゃならんのだったか?………はー…つっかえねェなぁ、お前」

「………っ………!!!偉そうに!天狗になってんじゃねーよ!脇役のくせに!俺は主人公だぞ!?英雄のなる男なんだ!!踏み台如きがなに偉そうに説教たれてんだよ!大体、脇役なら脇役らしく、俺に頼って俺を崇めてけつでも差し出しとけばいいんだよ!田舎者の脇役が、未来の英雄に掘られるんだ、光栄だろ!」

「…………」


あー……ダメだこいつ。不治の病だ。英雄症候群。………つらい。過去の阿呆な自分を思い出して辛い!今すぐに叩き斬りたい…!!

ハァ~…と深い溜息を吐く。この溜息もさあ、演技のつもりだったんだ。演技で、溜息………もおおおおお…演技じゃねえよ!マジもんの溜息だよ!!

つまり、なんだ。こいつは俺に頼って欲しくて木偶の坊と化していた、と?危機ピンチに颯爽と現れる英雄ヒーローの如く、すげえ良いとこ見せて、そんで……俺のケツを掘りたかった……と!?


……さいっあくだな、こいつ…!鳥肌が止まんねえわ、マジで。



「も、いい……お前、実家に帰れ。謹慎してろ。俺が良いって言うまで実家から絶対出てくるな。ウォーレン、こいつを外に放り出せ」

「はっ」

「なっ…なんで!?なんでだよ、リオ!なんでわかんねえんだよ!俺だけがお前を救えるんだよ!リオ!リォォォオオオオオオオオオオオ!!」




わかってたまるかァ!ボケェ!!









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