上 下
73 / 125
領地編2

閑話・ガラス職人姐さんと彫金師ちゃん

しおりを挟む


(ガラス職人視点)


「……はあ…お互いの色を纏った二人……尊かったですねぇ、ねえさん…」


火酒テキーラをちびちびやりながら、彫金師ちゃんがつぶやいた。この彫金師ちゃんはプレンダーガストで実力は一番の彫金師だ。なんでも隣国の出身だが男尊女卑で手柄を横取りされまくり、セクハラまでされて、あわや貴族の愛人に…というところで逃げ出してプレンダーガストに流れ着いたらしい。


「うふふ……作って良かったわあ… 猫睛石クリソベリル・キャッツアイに似せたガラス……すっごく大変だったのよぉ…」


対してあたしは、自分より背が高い、女にモテるというだけで婚約破棄された元貴族だ。15歳で家出してプレンダーガストに流れ付き、ガラス職人の親方に拾われて今に至る。


「ねえ姐さん……も凄かったですねぇ…?あれって高位貴族向けですよねェ……」

「そぅねぇ……前回の乳首ピアスもびっくりしたけどぉ…」


そう。我らが麗しの領主様は、この間からエログッズの依頼を持ってくるようになった。前回が揃いの乳首用ピアス。今回が用のリング。共にギリギリまで『赤』を入れたガラスで飾り立てる高級品。親方や兄弟子たちは新しい物に飛びつくので、宝飾品用のガラスはちまちまとあたしが作る。ま、小さなものを作るのって嫌いじゃないし。


「おっきい輪でしたねぇ……誰に頼まれたんだろ…」


グビリ、と火酒を煽る。


「あー、駄目駄目。そういうの詮索したら消されるのが物語のお約束でしょ」

「ですねぇ……」


はぁ…と酒精アルコールを吐息と共に吐き出して


「それにしても、首飾りはどうするんでしょうねぇ?」

「ああ、?うーん……領主様はんだって言ってたけど……もちろん川とかで魚を釣るわけないわよねえ」


領主様が新年会に出る直前に完成した首飾りは、「とにかくド派手で高価見えたほうがいい。あっ、素材はどこまで安価に作れるか実験してみてくれ」と無茶振りだった。……がんばった。頑張ったのだ。

大振りの宝石はアクセサリーにもならない薄い色の屑ガラスを寄せ集め、ちまちまちまちまと磨いて、川から雲母を取ってきて、それを全部樹脂でいい感じに固めた。お値段は樹脂代だけ。彫金師ちゃんも一緒に川で雲母を取った。手伝ってくれるのかと思ったら、彫金でも使うと大量に用意していた。

彫金師ちゃんは、土台を粘土で作っていた。……嘘でしょ!?流石に丸カンなどは無理だったらしいが、それでも細かすぎる。乾いて硬くなった粘土に、雲母を砕いて薄く糊で溶いたものを鬼気迫る顔で塗り重ねる。そこまでやるか!?結果、ギラッギラペカペカに光る趣味の悪い『偽物』が出来上がった。

あたしは負けじと、さらにギラギラ輝くように屑入り樹脂にダイアモンドカットを施す。どこからどうみても趣味悪い。まるで成金が好む質の悪い蛋白石オパールのようだ。プレンダーガストブルーの箱に、真っ赤な天鵞絨の中敷き。多分、箱の方が高い。何倍も。


領主様の『釣り』が成功したら、多分あのいけすかない小僧は二度とこのプレンダーガストに足を踏み入れることはできないだろう。……破滅してしまえ。領主様とティグレくんの恋路の邪魔をしたり、あたしの彫金師ちゃんを口説こうとしたエロガキは死ね。あたしたちの知らない遠いどこかで死んでくれ。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ
BL
俺の名はランスロット=アルバーニ。 そして双子の姉の名はエヴァンジェリン。 見目麗しい姉はここ聖フィオナーレ国の聖女として有名なのだけど、本当はその聖なる力は双子の弟である俺のものだった。 この力が顕現した日から家族から『元々その力はエヴァンジェリンのものだ!さっさと返せ』と言われ、『それができないなら聖輝石に力を込めろ!』と罵られた。 両親と長男である兄もエヴァンジェリンに激甘だから、俺が何を言っても聞く耳を持ってくれない。 そんな中、言われた言葉は────。 「ランスロット。私、王子にプロポーズされたの。だからもう貴方に頼る必要はなくなるわ。喜びなさい。お役御免、お払い箱よ」 その言葉にあまりにも腹が立ったから王都のタウンハウスを飛び出して、幼馴染に愚痴を聞いてもらいに彼の領地へと向かったのだけど…。 「ランスロットはどこへ行ったのよ?!」 「どうなっている?!お前は聖女じゃなかったのか?!」 俺がいなくなって家族は大慌て。 どうやら王子にもバレた様子。 大変だな?頑張って。 これは隣国で溺愛されて幸せ生活を送る俺と、自業自得な目に合う家族の話。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

処理中です...