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王都編
閑話・囲い込み
しおりを挟む(筆頭公爵家当主視点)
「彼のお方は囲い込むべきでしょう」
予言の聖女 ーーー 現王妃であるイヴリン妃が宣言した。非公式に集められた4大公爵家当主たち、宰相であり王兄でもあるラドルファス殿下、そして国王エーブラハム陛下。
王妃曰く、『予言の魔王はすでに魔王にあらず。異世界人の魂に浄化され、英雄か勇者相当の存在となっている』と。
悪と善が。闇と光がくるりと入れ替わる。歴史を見れば、さほど稀なことではない。虐げられた聖女が魔女に、愛された魔獣が聖獣に。
予言の聖女である王妃殿下がまだ『公爵令嬢』だった頃、この国は未曾有の大混乱が起こった。『破邪の乙女』の肉体に異世界の魂が入り込んだ。清らかなる乙女でなくてはならぬ『ひろいん』は両手に余る数の男たちと姦淫に耽り、その『魅了』で第三王子を籠絡、当時の国王陛下をも嵌めた。売国奴と堕ちた国王を討ったのは第一王子と筆頭公爵家令嬢……私の娘だ。
「わたくしは前世のあのお方をよく存じ上げております。善意には誠意を。好意には厚意を。そして、悪には鉄槌を下す、人の道に正しき英雄でございます。王国の、世界の害にならぬのなら、他の国へと逃さぬよう、真綿で包むように心地良く、囲われていると悟らせぬようある程度の自由を認め、万が一他所へ行ったとしても必ず帰ってくるように大切なもので周囲を固めてしまうのが適切かと」
「それは『繋ぐ』ということかね、妃殿下?」
「明確に繋いでしまえば彼の方は確実に反発します。いいえ、繋いで縛って監禁できたらどんなに萌えるか……あ、あら、違いますわ!監禁プレイではありませんのよ?えー…と……なんだったかしら…」
「「「「「「…………………」」」」」」
我が娘は……妃殿下は『贈り人』だ。時々、異世界の言葉を呟いて、寂しそうに、罰が悪そうに俯く。その妃殿下と同じ世界から渡ってきた『英雄の魂』。ひとりきりで孤独だった娘がようやく出会えた『同胞』。
「……我がマクファーレン公爵家は妃殿下の案を支持しよう」
「ふむ……良いでしょう。プリッドモア公爵家も、王妃殿下の案を受け入れます」
私の表明に、大聖女の父親であるプリッドモア公爵が追随した。大聖女アンティエーヌは披露目式で盛大に愛の告白をしてサラリと流されたのであったな。妃殿下の予言する次の『ひろいん』が正しき魂であった場合、アンティエーヌ嬢を還俗させ、リオ・プレンダーガストに嫁がせる思惑があるのだろう。
「グローヴス公爵家も賛成である!あの馬鹿孫の鼻っ柱をへし折ったのは見ものであったわ!」
ガハハハ、と現騎士団長の祖父であるグローヴス公爵が笑った。
「……シャーロック公爵?貴方はどうしますか?」
「概ね賛成です。では大勲位聖剣大綬章あたりでしょうか?本来なら『勇者』に与えられる権利と義務ですが、あの様子なら命じなくても鉄火場に放り込めば良い戦働きをするでしょう」
「決まりですね。リオ・プレンダーガストに大勲位聖剣大綬章を」
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