【完結】リオ・プレンダーガストはラスボスである

とうや

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王都編

閑話・女神の曾孫

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(メアリー視点)


ラド坊っちゃまがお約束通りにリオちゃまを連れていらっしゃった。小さな伯爵。『贈り人』。そして、ヘスティア様の曾孫様。北方貴族によくいる白に近い金の髪。宝石のような薄桃色の大きな瞳。リオちゃまは本当にヘスティア様に似ていた。

わたくしは王の血を引くとはいえ、平民の踊り子から生まれた王女であった。母は産褥の中で命を落とし、父王はわたくしに興味もなく、使と最低限の教育と養育を施した。王妃様や側妃様は平民の娘であるわたくしを疎んじた。いいえ、そんななまやさしい感情ではない。憎んでいた。ただの平民ならば愛玩動物ペットのように可愛がられたのかもしれない。けれど、だからこそ憎まれた。腹違いの兄や姉からも疎まれ、蔑まれた。体に傷を残さない苦しめ方などいくらでもあることをわたくしは知った。どうせ碌な場所に嫁ぐこともないだろうと、兄の手で純潔を散らされた。それを知った父王は、兄を諌めるどころか御自分も……

ああ、この王家は呪われている。獣にも劣る呪われた血族。

そんな地獄を終わらせてくださったのは兄の愛妾であるアガテ様。わたくしは兄の気まぐれでアガテ様の侍女になった。王女としてはとても屈辱だろうと言われたが、何時間も罵声を浴びせられたり、兄や父王の性欲の捌け口にされなくなっただけで、わたくしにとっては天国であった。


「実は……メアリー様をお助けする案は、ヘスティア様からお知恵をお借りしましたの」


お優しいアガテ様の口から、初めてヘスティア様のお名前を聞いた。


「そうだわ。3人だけでお茶会を致しましょう」


護衛も他の侍女たちも下がらせた、3人だけのお茶会。

ヘスティア様は四十を超えていると聞いたのに、老いによる衰えなど感じさせず、震えがくるような美女だった。もう、本当に皺一つない。女神かしら!?


は女は性欲を満たすとしか思っていない猿ですからね」


女神のようにお美しい唇から吐き出される辛辣な悪意。ヘスティア様も、北方諸国からプレンダーガスト伯爵に嫁いですぐに「妾にしてやる」と強引に迫られたらしい。


「夫が『否』と言わなければ腹の子を抱えて祖国じっかへ帰ろうと思いました。わたくしが父や兄に泣きつけば確実に戦争です」


ほほほ、とヘスティア様は優雅に笑った。ふぁあ!すき…!


お美しいヘスティア様。

わたくしはアガテ様と同じように、ヘスティア様のになってしまった。アガテ様がラド坊ちゃんを出産され、わたくしは侍女から乳母となった。その頃には兄も父王も、後宮の裏から出てこないわたくしを忘れたようだ。3人だけのお茶会は、ヘスティア様が流行り病に斃れるまで続いた。ヘスティア様をプレンダーガスト伯爵は、豊かな土地から不毛の土地へと領地替えされた。その貧しい土地では病が蔓延した。領民のために走り回っていたヘスティア様が倒れた時には手遅れで、翌日の早朝に亡くなったそうだ。

悲しくて。悲しくて。

流行り病はこの国に猛威をふるい、葬儀にも駆け付けることが出来なかった。

ヘスティア様のお墓に参れたのは5年後。多くの者がヘスティア様の墓に泣き縋って……何故かそこでへの興味をふつりと無くしている。


それから30年と少し…。

わたくしは『ラド坊っちゃまのお気に入り』が『リオ・プレンダーガスト』という名前なのを知った。

プレンダーガスト。

わたくしの脳裏に鮮やかに、艶やかに、あのお優しくてお美しいヘスティア様のお姿が蘇った。なぜ忘れていたんだろう。彼の方を。女神のようにお美しいヘスティア様を。

調べれば調べるほど、『リオ・プレンダーガスト』は規格外の子供だった。『贈り人』であることを考慮しても、おかしいほどの『例外』。そしてなにより、ヘスティア様によく似ているという。

わたくしは舞い上がった。

ラド坊っちゃまの愛する御方は子など孕めない。孕めたとしても、それはそれで大問題になる。孫は諦めた。けれど、孫が抱きたい!それがあのヘスティア様の曾孫だというのなら、たとえラド坊っちゃまの血を引いていなくても愛せる。いやもう愛してる。

密偵に調べさせた体の寸法で衣装を仕立てる。ヘスティア様のお色を纏った曾孫様ならきっと、薄い 薫衣草ラベンダー色のお色が似合う。あまり派手な色はダメだわ、お顔が浮いてしまうもの。真っ赤や金色を前面に出したお色は避けなければ。ふんわりしたお色で……ああ、でもラド坊っちゃまの瞳のお色である若草色も似合うと思うわ。ヘスティア様の愛したプレンダーガスト伯爵家の瞳のお色プレンダーガストブルーでも良いわ!ああ、ああ…どうしましょう!?迷ってしまうわ…いっそ数着仕立てて……


そのが目の前にいる。

髪結が傷んだ毛先を切り、侍女たちが爪を整え、乾いた唇にたっぷりと保湿剤を乗せる。今まで基本のお手入れしか知らなかったのだろう侍従は真剣に学び、メモを取っている。

ヘスティア様にそっくりのリオちゃまは、やんちゃで恥ずかしがり屋で優しい子。ラド坊っちゃまの子供は無理だけど、わたくしにはリオちゃまがいる。




ああ、孫がいる生活って素晴らしい…!













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