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王都編
謁見……腹が減った。
しおりを挟む屋敷の探索も後回しで城に行くことになった。王家の紋付き馬車が迎えに来たからだ。
「おや、あの子は……耳が早い」
王兄殿下 ーーー ラドがくつくつと笑っているから想定内なんだろう。森を一直線に突っ切れば早いだろうに、馬車はわざわざ貴族街を抜けて城に到着する。それにしても腹が減った…。朝食直後に襲撃を受けたから昼飯も間食もとってない。もっと配慮しろゴラァ!こちとら育ち盛りボディぞ!?水分さえとってねえ!!ちなみにポチタマは同行せずに森を探索続行だ。クッソ!自由で良いなァ!
でもこういうのって大体控室で待たされるから、その間に何か摘むものを要求………できなかった。もう待ってた、王様。しかも不機嫌で。
「其方がリオ・プレンダーガストか」
おおう、重低音の美声。顔を見たいけどまだダメってリサに習った。リサは今でこそ田舎のプレンダーガストに馴染んで平民みたいな言葉遣いをするけれど、昔は侯爵家の次女だったらしい。まあ「学園でちょっとありまして…」と言葉を濁していたから追求はしなかったけど。
「面を上げよ」
ゆっくりと顔を上げると、そこかしこで息を呑む音がした。多分年配者だろう。嗄れた声で「ヘスティア様…」と呟いたのを耳が捉えた。あー、あれだ。ヘスティアって曾祖母様だ。そっかー、やっぱ似てるのか。ガラス産業のこと、領地のこと、いろいろつらつらと宰相であるラドが良く通る声で喋ってるけど……もう正直、腹が減りすぎて頭に入ってこない。
「して、黒衣の襲撃者を返り討ちにした、と言うが…」
おっと…聞いてなかった。えーあー…んんんー…
チラッとラドを見て、頷かれたので喋っていいんだろう。あー、腹減ったぁ!
「発言の許可を賜りたく」
「許そう」
「はっ。では失礼致します」
立ち上がり、靴を鳴らして足を揃え直立。顎を引き、前だけを見て。手を後ろに組むのはヒノモト国軍の直立不動の立ち方。あー、だってこれしか知らねえもん。背を丸め、手を前に組むのは卑屈、垂直に伸ばして棒立ちは奴隷。ヒノモト国軍は礼節を保ち、胸を張り前を向く。
「畏れながら申し上げます。あの場で、護衛騎士に任せたままの状態は非常に危ういと感じましたので、私が殺しました」
「「「「「!?!?!?」」」」」
ザワッとしたけどまあいっか。ラドが笑ってるし。
「正直、ピクニック気分で弛んでいる、とは思っていましたが、王都を目前にさらに気が緩んだのでしょう。私が馬車の窓から見た時はすでに半数以上が地に伏していました。明らかに劣勢。黒い襲撃者達にとって楽な仕事だったのでしょう。猫が獲物を甚振るように遊んでいました。だから隙をついた。彼らは私を戦力だと思っていなかった。護衛騎士の士気は下がり、これ以上減れば現場を放棄されかねない。なので私は護衛騎士の数が残っているうちに打って出ました」
「つっ…作り話だ!!王国騎士がそのような 」
「続けなさい」
「………っ」
真っ赤な鎧を着たオッサンが叫ぶけど、ラドが先を促した。いいの?OK?うん、よし、続行。
「襲撃者は9人。まず2人の足の腱を切り、もう1人を下から斬り上げました。向かってきた4人目は腹を裂き、5人目は袈裟斬り」
「け…ケサ……?」
「坊主の袈裟です。斜めにこう、ズパッと。この身長では首は狙えないので」
6、7、8、9人目までちゃんと報告していると、周りのオッサンどもの顔色がみるみる青くなっていく。……あー、お綺麗な場所しか生きられないお貴族様にはキツかったか?
「子供の妄想だ!!こんな子供に!辺境のガキに!あのリリアーナの子供に!!そんなことができるはずがないッ!!」
………………おん?
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