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王都編
閑話・天使だと思ったら化け物だった
しおりを挟む(護衛騎士視点)
楽な仕事だと思っていた。
田舎町に子供を迎えに行って戻ってくる。たった10日程度の、旅行のような、気楽な任務のはずだった。護衛対象はまだ子供といっていい、天使のように愛らしく可憐な少年。12歳だというが、年齢の割には幼い顔立ちをしていて、けれど少し話してみれば年齢以上の賢さを兼ね備えている。
我らが主人ラドルファス殿下が『気に入った』逸材だ。侍従も主人の世話をよく焼き、幼い主従は我々の手を煩わせることなく、のんびりと『旅』を終える ーーー はず、だった。
それは突然だった。
王都にあと1日…いや、半日もあれば到着する。そう、気が緩んだ瞬間に襲撃を受けた。黒装束の暗殺集団は王都の都市伝説だと思っていた。けれど、居たのだ。彼らは瞬く間に馬車を囲み、我ら護衛騎士たちを屠っていった。
初めて感じる『絶望』。
ああ、ここで私は終わるのだ。剣先を突きつけられて、幼い頃からの思い出が走馬灯となって駆け巡る。婚約者は泣くだろうか。両親は。兄弟たちは。殿下は ーーー 少しは私の命を惜しんでくれるだろうか。奥歯を噛み締める。
そんな私の目の前を、小さな影が過った。
血飛沫が、舞う。
「護衛ども!生きてるなら殺せ!生きたいなら殺せ!!」
威圧と共に叫ばれた言葉は、まだ子供といっていい少年の声だった。あの天使のような少年。
舞うように一歩。黒装束の臓物を撒き散らし、次の獲物を斜めに斬り伏せる。
笑っていた。
全身に返り血を浴びて、少年は、リオ・プレンダーガストは笑っていた。
あまりに鮮烈で、あまりに戦慄する光景。
「…ぅ……う、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
誰かが叫ぶ。その声が呼び水となり、護衛騎士たちは死に物狂いで剣を振る。騎士の剣も、作法も、誇りもない。ただ、生きたい。ただ、死にたくない。なんという無様な剣。
死にたくない。生きたい。生きて、生きて、生きて。
まだあの娘に触れていない。まだ父と母に感謝を伝えていない。まだ姉と喧嘩したままなんだ。行きつけの店のツケも返してない。頼む、頼む、頼む…!
死にたくない…っ!!
「てめぇら!殺しに来たなら殺される覚悟はあるんだろうなァ!!」
血塗れの、死の天使が笑う。
いや、あれは天使なんかじゃない。悪魔でもない。 ーーー 化け物…!化け物だ!!氷のように冷たい汗が全身から噴き出す。
殿下 ーーー !貴方は何を王都へ運ばせようとしているのですか…!?
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