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領地編1

閑話・俺はリオのもの

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(ティグレ視点)


今思えば、幼少期の俺は『虐待』されていたのだろう。リオが言うにはネグ…ネグ、なんとか、だ。要するに育児放棄。

物心ついた時から1人でいた。食事は母親の気が向いた時だけ。人間としてのルールもマナーも知らず、ただそこにあった。殴る蹴るはされなかった。きっと俺の体に傷が付くととでも思ったんだろう。

初めてを身につけたのはプレンダーガストの屋敷に初めて連れて行かれた時。その時、初めてリオを見た。

綺麗、という感情が初めて芽生えた瞬間だった。

髪も、目も、顔も。声さえ美しいリオは大人たちと難しい話をしていた。そして ーーー 置いて帰られた。


「お前の製造元と一緒に帰れ。金は払った。お前の母親は娼婦を辞めても食っていける」


なにを言われたかわからなかったが、ここに居てはいけないらしい。帰り道もわからない。帰る場所があるのかすら。数日迷って、やっと辿り着いた場所は燃えていた。

ああ…

力が抜けて座り込んだら大人が大きな声を出しながら道の端に連れて行かれた。「坊主、寒いだろう」そう言われて筵をもらった。ひどく痒くてチクチクしたが、それさえどうでもよかった。ぼんやりと。見上げた空が白み始めて、漠然と「ああ、死ぬんだな…」そう感じた。

それなのに ーーー 

それなのに、リオがもう一度現れた。何か叫んで、なぜか温かい湯で洗われた。……今考えると、いくら汚いっていっても道端で人間を洗うのはどうかと思う。俺がまともな頭をしていたら羞恥で死んでいたかも。


「うん、ティグレだ。お前はティグレにしよう」


なぜか背負われて、あの良い匂いのする屋敷に。「帰る」と言われたからそうなのだろう。リオは俺を「猫だ」と言った。……よく、わからない。けれど、リオがそう言うのならそうなのだ。


それから俺は『ティグレ』になった。『ちゃんとした』食事。『ちゃんとした』身だしなみ。『ちゃんとした』言葉。リオを育てたという女は、たくさんのことを教えてくれた。


「坊っちゃまにお仕えするなら『ちゃんと』しなさい!忘れないで。アンタの飼い主は坊っちゃまよ。多分、坊っちゃまはアンタを傍に置くわ。どこにでも連れて行く。だから、アンタは坊っちゃまのものなの。坊っちゃまの持ち物であるアンタが粗相をすれば、坊っちゃまが侮られるの。無様な姿は許さないわ」


そうか……俺は、リオのもの、なんだ…。





その言葉がストンと心に落ちてきた。





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