上 下
9 / 125
領地編1

母屋の改修と面倒な『親戚』

しおりを挟む


本格的にプレンダーガストの屋敷に手を入れることになった。

というか、大工に見せたら「こりゃあ修繕より取り壊して作り直した方が安くつきますぜ」……らしい。まあそうだよな。クソデカ屋敷の7割がたは使っていない空間だ。ガラスが割れた窓は木板を打ちつけ、床は腐って踏み抜いた跡がある。柱という柱に白蟻が巣食い、古い家具にも侵食。何故こんな貧乏領地にこんなにでかい屋敷を建てた、御先祖よ。そして何故ここまで放っておいた、歴代当主。普段使ってる執務室の壁を剥がしたら、ウゾッと赤茶色のアイツが出てきて悲鳴をあげたぞ。


 ーーー ということで。使用人棟にしている離れの別棟に、一時的に住まわせてもらうことになった。宿屋?ないない。だって金と、ここに通う時間がもったいない。あと異世界の宿屋は防犯面と衛生面がちょっとな…。

母屋の工事が始まったら、案の定『親戚』が突撃してくるようになった。娘や息子を連れて…。あー…釣書攻撃が全く効かないから現物で来やがったか。あと、本家が建て直すってことで偵察に来やがったな。「小父さんが子供の頃来た時は、屋敷に何があった~」とか、チラチラしながら言っているが、残念だな。金目の物はないぞ?父親クソが全部売っぱらって失踪しやがったからな。あと娘。甲高い声をずっと至近距離で垂れ流してて、すげえ五月蝿え。こちとら中身は四十路越えのオッサンなんだよ。モテ期が来たって喜ぶガキじゃねえっつーの。怖えよ、欲望まみれじゃねーか。屋敷の使用人たちの冷たい視線に気付け。見ろよ、ティグレなんか汚物を見る目をしてんぞ。無表情だからわかりにくいけど。


「オークウッド卿。申し訳ないが、私はこれから工房に行かねばならん(カエレ)」

「いやいや、気を使わなくて良いんだよリオくん!そうだ!私も工房について行ってあげよう!一度プレンダーガストガラスの工房を見学したかったのだよ!」


馬  鹿  か  こ  い  つ  は


生活圏には立ち入らせたくなかったから仕方なく庭で茶を振舞ったが、こっちは伯爵家でお前は男爵だろう!なんでアポ無しで突撃した挙句に伯爵家うちの使用人にあれこれ命令してんだ!?いつ俺が『リオくん』なんて馴れ馴れしく呼んで良いと言った!?工房に付いていく!?あそこはプレンダーガストのトップシークレットだぞ!?先日の間者騒ぎでキレた職人たちが誓約魔法と魔道具でガッチガチにセキュリティを固めた要塞だぞ!?なんで他人のお前が見学という名のスパイ活動できると思ってるのかなあ!?


「きゃあ!そうですわね!行きましょう!!ねえリオ様!わたくし、プレンダーガストレッドのピアスと指輪が欲しいですわ!」


なんでプレゼントされると思ってるかなぁ、この女も?頭湧いてんの!?『宝石をお強請りしないワタクシ可愛い!』とか思ってるかもだけど、なんで婚約者でも恋人でも、友達ですらないお前にプレゼントしなきゃいけないわけ!?

ちなみにプレンダーガストレッドの宝飾品は希少魔石と同じくらいの値段で取引されている。製造過程でできた欠片が勿体無くて、俺がティグレにピアスを作ってやったのが始まりだ。なんだかめちゃくちゃ気に入ったらしくて、それからずっとそのピアスはティグレの耳を飾っている。

ハアー、と大袈裟に溜息をいてみせる。


「オークウッド卿、プレンダーガストガラス工房はの立ち入りは固く禁じている。先日、間者騒ぎがあったばかりでな。技術を盗もうと目論んでいるわけではない、というのならば見学はご遠慮願おう。あとオークウッド男爵令嬢、私は宝飾品は贈ったりしない。しかも今日会ったばかりの、母の葬儀にも来なかった遠い親戚に?ご冗談を」

「なっ…!?」

「ま…まあ…!?」


心底軽蔑したように鼻で笑った後で、にっこりと。天使のようだと評判の笑顔を向ける。




「憲兵を呼ばれたくなかったら、さっさとお帰り願おうか。セバス!お客様がお帰りだ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...