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領地編1
次の一手といこうか
しおりを挟む借金はないが余裕もない。クソが。あのクズの借金さえなければ屋敷の修繕をしたのに…!廊下の隙間風が厳しい季節になってきたぜ。
ミルフォリガラスは模倣してくる工房が出始めた。まあパッと見りゃマネすることは玄人なら容易いだろう。
仕方がない。これはもう少し後にしようと思っていたんだが…。
ガラスペンをクルッと手で回してみる。そう。このガラスペンだ。この世界の現在の主流は羽根ペンか木炭だ。使いにくいったらありゃしねえ。せめて小筆…とも思ったが、こちらの筆は固くて穂先が割れやすく、質が悪い。油絵用だと言えばそうなんだが。
俺の愛用はこの目に優しい濃い緑色のガラスペン。この透明度の高い濃い緑を出すのに苦労したらしい。インクを吸い上げる溝以外にも、手に馴染むように持ち手に細かい溝を入れてもらった。この細かな細工ができるのは今現在、プレンダーガストのガラス職人しかいない。これをちょっとお高めの、『自慢できる宝飾品』に仕立てる。熱に強い天然石や金箔を入れても良いし、前世チートで希少な『発色のいい赤いガラス』を作ることだってできる。やり方は……仕方ない、俺がこっそり用意しよう。この『赤』こそプレンダーガストガラスの生命線になるだろうから。
「ティグレ、ガラス工房に行くぞ」
「はい」
ティグレを引き取って半年。栄養を『これでもか』と摂取したティグレはニョキニョキと身長を伸ばし、ついでに筋肉も付けつつある。最初は知恵遅れかと思った会話も所作も、リサの根気強い教育で『生まれた時から良いとこの子です』っぽくなっている。
俺が初期に買い取ったガラス工房は、前世でいうと『開発室』だ。
「ガラスペンを売り出そうと思う」
そう言うと、職人たちはキラキラと目を輝かせた。
「やっと…!やっと瓶作りから解放される!!」
「ペンだけですか!?もっとこう……難しいものでも作って見せます!」
職人たちは刺激に飢えていたようだ。
「ガラスペンだけでは弱い…か?ではワイングラスかな?」
「……へ?葡萄酒……ですか?」
この世界の貴族の食器は基本が銀だ。毒が入っていると銀が黒ずむからだ。だが銀が反応しない毒だって存在するし、個人的には飲み口の薄いワイングラスが欲しい。そこで吹きガラス+型形成だ。まあこの方法もいつかは模倣されるんだろうが、金儲けのネタはまだまだある。
新しい作品に沸き立つ工房に、さらに面白い素材を見せる。パトロンとして支援している錬金術師に作らせた酸化鉛だ。本来なら希硫酸で金属を溶かしたりしないといけないらしいが、なんとプレンダーガストで産出される重晶石から分離しやがった。異世界素晴らしい。
「現在のガラスにこの粉を混ぜてくれ。屈折率……輝きが違うはずだ。あと、金粉を少しずつ混ぜれば血のように赤いガラスになる ーーー と、思う。やってみないとわからないが」
ポカン…としていた職人たちの口元が、身体中がガクガクと震え始め……
「そんな貴重なモンこんなところで出しちゃダメだろ!!!」
……何故か叱られた。解せぬ…。
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