【完結】リオ・プレンダーガストはラスボスである

とうや

文字の大きさ
上 下
5 / 160
領地編1

猫の子だと思って養う所存

しおりを挟む
 ゴトリとドアの向こうから音がした。嵯峨は誠にしゃべらないよう手で合図するとドアを開く。

 かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。

「盗み聞きとは感心しないねえ」 

 七人を見下ろして嵯峨が嘆く。

「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」 

「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」

「そうじゃねえ!」 

「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」 

「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」 

 かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。

「神前軍曹!これからもよろしく」 

「西園寺さん、曹長なんですが」 

「バーカ。知ってていってるんだ!」 

 かなめがニヤリと笑った。

「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」 

 嵯峨が頭を掻きながら言った。

「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
 
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」 

 愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。

「かなめちゃんなんか文句あるの?」 

 馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。

「別に」 

 かなめが頬を膨らましている。

 そこに島田が大き目の書類を持って現れた。

「神前います?」 

「ああ、そこに立ってる」 

 呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。

「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」 

 全員がその絵を覗き込む。

「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」 

 シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。

「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」 

 アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。

「駄目ですか?」 

 誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。

「神前。お前って奴は……痛いな」 

 かなめは呆れ半分でつぶやいた。

「それでこれが塗り替え後の完成予定図」 

 島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。

「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」 

「いいんじゃないのか?」 

 カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。

「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」 

 かなめが恐る恐る切り出す。

「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」 

 カウラは淡々と言う。

「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」 

 恐る恐る島田がかなめに尋ねた。

「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」 

 かなめは悲鳴にも近い声を上げる。

「じゃあ塗装作業に入りますんで」

 そういい終わると島田は大きなため息をつく。

「アタシももっと色々描こうかな……」 

 シャムがうらやましいというようにそう口にした。

「お願いだから止めてくれ」 

 いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。

「アタシはどうでもいいが」 

 続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。

「馬鹿がここにもいたのか」 

 いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。

「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
 
 嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。

「いいですよ!食堂で何か探しますから!」 

 島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。

「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」

「アイシャさん。僕がですか?」

「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」

 困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。

「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」

「アタシはココアだな」

「あそこは酒は置いてねえんだよな……」

 シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。

「じゃあ……行ってきます」

 今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。

 遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。

 そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
 
                                  了
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...