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領地編1
父(クソ)の借金を振り分ける
しおりを挟む話は現在に戻る。
その腹上死したクソの死体を屋敷に持ってきた娼館の店主は、両手をにぎにぎしながら滞納したツケを請求した。プレンダーガストがガラスで儲けてるのを当てにして。娼館の主人の後ろには、ド派手なババアと貧相なガキがいた。
「伯爵様の内縁の妻と息子です」
「………はぁ…」
俺は気の抜けた返事しかできなかった。俺がショックを受けて対応できないと思ったらしい。うんうん、わかるよ。だって俺、めっちゃ可愛いもん。曾祖母譲りのホワイトゴールドの髪と、シャンパンピンクの大きな瞳。白い肌とふっくらした桃色のほっぺ。まつ毛なんかバサバサ。ドヤ?どこに出しても恥ずかしくない美少年であるぞ!
……うん、脱線した。その幼気な俺を丸め込もうとしているんだろう。だが残念!中身は俺だ。元ヒノモトの叩き上げ軍人舐めるなよ?
「……まず借金を支払おうか。借用書を」
「……は…!?え……えっ…」
「セバス、領の帳簿も持ってきてくれ。ああ、遊郭地区の税金関係だけでいい。確認をしよう」
「えっ…、えっ…え……」
「あのクズのこさえた借金の内訳を見せろと言っているんだ。聞こえないのか?日時、金額、サインの有無。それだけでもいい。早く出せ」
「は…ははっ……こ、これは驚いた………もしや、ぼっちゃまは帳簿が…」
「読めるし書ける。職務放棄をした伯爵代理が作った借金だ。信用ができない。払わないとは言わないが、確認はさせていただこう。……もしも虚偽であれば………まあ、その時に考えよう」
「………っ…」
すでに準備されていたらしい税収の原本をセバスがテーブルに置いた。「ほれ、早う出せ」と指で手振りすると、娼館の店主はおずおずと鞄から小汚い紙の束を出した。
「……ふむ。書式も日時もバラバラ。セバス、まずはクソのサインと日時のあるものだけを抜き出せ」
「はっ」
セバスが仕分けた借用書は、サインと日時がないものが半分以上。そこから日付順に並べていき、ざっと月に幾らの借金を作ったのか確認する。……しかしこの紙汚いな。なんだかネチョってするし、心なしか臭い。そう思って眉を僅かに顰めると、乳母であり侍女頭兼メイド統括のリサに手袋を装着された。素早…
「……この十三月の収支は大金貨1枚金貨89枚小金貨3枚銀貨62枚銅貨4枚鉄貨無し。なのにクソの借金が大金貨2枚?翌月の一月にも計上されていないな?売掛金にも記入されていない」
「そ…それは!その…!伯爵様の…領主様の借金ですので……」
「ねえ!ちょっと!まだなの!?アタシは今日からここの女主人なのよ!伯爵夫人の部屋に案内しなさいよ!!」
後ろに連れて来られていたババアが叫ぶ。ガキの方は静かなもんだ。いや、『無』か…。
パン!とひとつ手を叩く。
「黙れ阿婆擦れ。そして妓楼ベルフィーユ店主。ジョッシュ・プレンダーガストは伯爵代理であって伯爵ではない。しかも3年も前に代理の職務も放棄し、屋敷中の貴金属を売り飛ばして失踪。発見次第捕縛せよと領内の憲兵には命じている。私が伯爵位を継ぐまでの繋ぎの、いわば部下だ」
「そん…な!では借金は…!?」
「心配するな。一応は私の、生物学上の父親だ。適正金額なら支払ってやろうというのだ。手切れ金だ。貴族としての対面もある」
「はっ…は……はひっ…」
「それと阿婆擦れ。あのクソと番ったところでこのプレンダーガストの女主人になれる訳がなかろう。アレは顔だけで我が母に取り入った男爵家の三男だ。すなわち、お前がいくらアレと愛し合おうと、子を成そうと、プレンダーガストの女主人になどなれるはずがなかろう?……もしも、だ。もしもの話、あのクソが生きていて、お前とその小汚いガキを連れてこのプレンダーガストを乗っ取ろうと乗り込んできたのなら、敷居を跨ぐ前に斬り捨てている」
「なっ…なぁ……っ!?」
「命が惜しくば口を閉じろ。下郎めが」
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