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10.はーい、ダウトォ!
しおりを挟む殿下のエスコートで、入場からファーストダンス、お客様に一通りのご挨拶まで。流れるように恙なく。……ま、本当は問題ありまくりでしたが、わたくしが儚げに少しの悲しみをエッセンスにした微笑みをすると、皆さま「ああ…」と納得し、時には残念そうに、時には意地悪そうにニヤニヤ笑い、時には痛ましそうにわたくしを見ました。
これはこういう男なのだと喧伝しましょう。ええ、決して。『真実の愛』事件のリーゼロッテには瑕疵はなかったのだと。ああ、なんという喜劇。いえ、悲劇ですね。悲劇。
「お疲れ様でした、殿下」
「ああ」
給仕から桃色のワインを受け取り、殿下へと。『素直になれるお薬』はすぐに溶けてしまいましたわ。
「……む、甘いな、これは…」
「あら…どうされます?変えて頂きましょうか?」
「……いや、いい」
くいー!と一気に飲み干して
「ソワヨ、私はあちらに友人の姿が見えたので行ってくる。君も自由に歓談していてくれ」
「………はい、殿下」
はーい、ダウトォ!エスコートした婚約者を放置して『友人』のところに行く。いやー、サイテーですね!ほらほら、なんで気付かないかなあ?聞き耳立ててた皆さんはギョッとしてますよぉ?
「………」
静かに、悲しそうに俯く。今回の演技指導はなんとばあやです。ばあや、若い頃は男を手玉に取ってぶいぶい(?)言わせてたらしい。ぶいぶいってなに???きっと凄いやつ。
「無様ですわね、ソワヨ様」
「………シャーロット様…」
学園時代、何かとリーゼロッテと張り合っていた公爵家令嬢のシャーロット様が声をかけてきた。途端に周りのひそひそが消える。
だよねー?気難しいお家柄の、公爵家のご令嬢だもんねー?でもこのシャーロット様、ツンツンでデレなとても可愛らしいお方ですのよ?だって今も、きつい物言いをしながらもわたくしの前に出てきてくださいましたもの。一人きりだったら良い話のネタですわ。
「お気の毒ね。『王命』ですって?」
「ええ…」
「それなのに?この仕打ちですの?気付いてらっしゃる?あの方の『運命』が会場に来ておりますのよ?」
「え…」
知ってるけど。でも知らないよ、うん。
「……うふふ。2年前と同じですわね。あなたも婚約破棄されるのかしら?」
「……………」
「………ま、まあ…!おやめになって!そんなお顔は反則でしてよ…!良いではありませんか!あんな屑!女の敵ですわ!も…もし……そうね、もしもあなたが婚約破棄されたら、わたくしがあなたをもらって差し上げてもよろしくてよ!」
「………は?」
「え……い、いえ、その!行き遅れ同士…いいえ、わたくしはお慕いする方が居たから行かなかっただけでっ、その、あの……!!」
ファッツ???
頭の中が『???』でいっぱいになったその時でございました。
「ソワヨ!ソワヨ・ルナール!ここに来い!!」
なんだか最近聞き慣れた声がホールに響きました。
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