上 下
11 / 21

8.5.【王太子視点】

しおりを挟む


ああ、苛々する。全く ーーー この世は思い通りにはならない。

思えば私は、国王である父の一粒種だというのにとても虐げられてきた。もちろん肉体的にではない。精神的に、だ。

10歳の時、人形のようにニコリともしない女と婚約。愛想良くすればまあ愛でてやらぬこともない容姿であったが、子供のくせに乳母の婆あのようなことを言う、なんとも不気味な女だった。

その頃から勉強を詰め込まれ、護身術だと剣を持たされ、指南役に毎日毎日甚振られ。ああ、もうウンザリだとと目を吊り上げた母上に嗜められる。

学園に入る頃には婚約者のあの女はすっかりの体付きになってしまっていた。女は小さく、華奢な方がいい。さらに言うといとけなく無垢な少女がいい。初雪のような純白の体に、私だけのを残す瞬間がたまらない。あのように大きな胸は娼婦のようではしたないではないか!?

……はあ。こんな女と子を成さねばならないのか。絶望しかない。

そんな時にアポリーヌに出会った。天真爛漫で、折れるように華奢なアポリーヌ。まるで妖精のように屈託無く笑うアポリーヌ。私や側近たちはすぐに彼女に夢中になった。


それなのに……


あの醜女は、婚約者は、アポリーヌを排除しようとした。私たちを嵌めて、引き裂いた。可哀想に。アポリーヌは修道院などに入れられ、私は『再教育』という名の責苦を受けた。何故だ!?私はこの国唯一の王子だぞ!?次期国王だぞ!何故このような扱いを受けねばならぬのか!!

婚約者あの女はさっさと次の男を見つけて子まで産んだ淫乱だというのに、何故未だにあの女を賞賛する声があるのだ!?


……次はうまくやる。そう。私はアポリーヌを添い遂げるのだ。


次に私の婚約者になったのは、あの憎っくきリーゼロッテの親友だという女だった。あの姦しい女と違って、こいつはいつも一歩下がってリーゼロッテに付き従っていた。私のやることに口を出さない女ならそれでよかった。この女もどうせこの歳まで年増女だ。私と結婚するというこの世界で最大級の幸運を手放したくないだろう。

予想通り、ソワヨは黙って俺の後を3歩下がって静かについてくるような女だった。悪くない。そのブヨブヨとした体でさえなければ子種をくれてやるものを。

この女には、アポリーヌと私の子供の義母になることを許してやろう。そして、私とアポリーヌの子が第一王子になる。ソワヨはきっと泣いて喜ぶだろう。悪くない。ソワヨもあの胸と、女にしては高い身長さえなければ抱いてやったものを。

……いや、最近はあの大きな胸も見慣れてきた。ま…まあ…その、胸があったとしても。アポリーヌが身重の時くらいはをやってもいい。あの豊穣を象徴するような麦穂色の髪と青空色の瞳は悪くない。派手でなく整っている顔も煩くなくていい。そうだ。女とはこうあるべきだ。この女がもう少し身長が低くて、胸も尻も華奢であれば。惜しくらむはソワヨが少女の時に出会えなかったことだ。さぞや美しい、空の妖精のような子供だっただろう。

…………そうか。ソワヨが子を孕めば、妖精のような子供が生まれるに違いない。





それはもう、宝箱に閉じ込めておきたいような美しい妖精が。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は森で静かに暮らします。

あみにあ
恋愛
辺り一面が真っ赤な炎に染まってき、熱風が渦巻き、黒煙が舞い上がる中、息苦しさに私はその場で蹲った。 動く事も出来ず、皮膚が炎に触れると、痛みと熱さに意識が次第に遠のいていく。 このまま死んでしまう……嫌だ!!! そう思った刹那、女性の声が頭に響いた。 「私の変わりになってくれないかしら?」 そうして今までとは全く違う正解で、私は新しい命を手に入れた。 だけど転生したのは、悪役の令嬢のような女性。 しかも18歳に愛する人に殺される悲惨な最後らしい。 これは何とか回避しないと……ッッ。 そんな運命から逃れる為悪戦苦闘するお話です。

続!悪役令嬢は森で静かに暮らします

あみにあ
恋愛
前世の記憶をもったまま、令嬢に転生したクレア、それが私。 前世はしがない研究員だったのに、不慮の事故で死亡。 その時目の前に現れた、いかにも悪役な令嬢のクレアに、人生をあげると言われたわ。 だけどその体は、18歳の誕生日に死ぬ運命だと告げられる。 そんな運命から逃れる為に、私は貴族社会を離れ、森の中でひっそりと暮らしていたの。 なのになのに、自給自足の生活を満喫してたのにー! 17歳になり死ぬまで後一年になって、なんで邪魔しに来るのよ! イライラしながらも、なんとか平穏な生活を保つために追い返したのに……また来るなんて……。 そんな彼女のお話です。 ************************ 以前短編で投稿しておりました、「悪役令嬢は森で静かに暮らします」の続編です。 読んでいなくてもわかるようになっております。 初見の方でも楽しめるので、ご安心下さい。 サクサクと読める短編です。 恋愛要素薄め、世界観を楽しんで頂ければ嬉しいです(*´▽`*) ※小説家になろうでも投稿しております。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

婚約破棄の茶番に巻き込まれました。

あみにあ
恋愛
一生懸命勉強してようやく手に入れた学園の合格通知。 それは平民である私が貴族と同じ学園へ通える権利。 合格通知を高々に掲げ、両親と共に飛び跳ねて喜んだ。 やったぁ!これで両親に恩返しできる! そう信じて疑わなかった。 けれどその夜、不思議な夢を見た。 別の私が別の世界で暮らしている不思議な夢。 だけどそれは酷くリアルでどこか懐かしかった。 窓から差し込む光に目を覚まし、おもむろにテーブルへ向かうと、私は引き出しを開けた。 切った封蝋を開きカードを取り出した刹那、鈍器で殴られたような強い衝撃が走った。 壮大な記憶が頭の中で巡り、私は膝をつくと、大きく目を見開いた。 嘘でしょ…。 思い出したその記憶は前世の者。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと気が付いたのだ。 そんな令嬢の学園生活をお楽しみください―――――。 短編:10話完結(毎日更新21時) 【2021年8月13日 21:00 本編完結+おまけ1話】

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...