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8.5.【王太子視点】
しおりを挟むああ、苛々する。全く ーーー この世は思い通りにはならない。
思えば私は、国王である父の一粒種だというのにとても虐げられてきた。もちろん肉体的にではない。精神的に、だ。
10歳の時、人形のようにニコリともしない女と婚約させられた。愛想良くすればまあ愛でてやらぬこともない容姿であったが、子供のくせに乳母の婆あのようなことを言う、なんとも不気味な女だった。
その頃からやりたくもない勉強を詰め込まれ、護身術だと剣を持たされ、指南役に毎日毎日甚振られ。ああ、もうウンザリだと少しばかりの息抜きをすると目を吊り上げた母上に嗜められる。
学園に入る頃には婚約者のあの女はすっかりブヨブヨとした大人の女の体付きになってしまっていた。女は小さく、華奢な方がいい。さらに言うと幼く無垢な少女がいい。初雪のような純白の体に、私だけの足跡を残す瞬間がたまらない。あのように大きな胸は娼婦のようではしたないではないか!?
……はあ。こんな醜い女と子を成さねばならないのか。絶望しかない。
そんな時にアポリーヌに出会った。天真爛漫で、折れるように華奢なアポリーヌ。まるで妖精のように屈託無く笑うアポリーヌ。私や側近たちはすぐに彼女に夢中になった。
それなのに……
あの醜女は、婚約者は、アポリーヌを排除しようとした。私たちを嵌めて、引き裂いた。可哀想に。アポリーヌは修道院などに入れられ、私は『再教育』という名の責苦を受けた。何故だ!?私はこの国唯一の王子だぞ!?次期国王だぞ!何故このような扱いを受けねばならぬのか!!
婚約者だったあの女はさっさと次の男を見つけて子まで産んだ淫乱だというのに、何故未だにあの女を賞賛する声があるのだ!?
……次はうまくやる。そう。私はアポリーヌを添い遂げるのだ。
次に私の婚約者になったのは、あの憎っくきリーゼロッテの親友だという女だった。あの姦しい女と違って、こいつはいつも一歩下がってリーゼロッテに付き従っていた。私のやることに口を出さない女ならそれでよかった。この女もどうせこの歳まで売れ残っている年増女だ。私と結婚するというこの世界で最大級の幸運を手放したくないだろう。
予想通り、ソワヨは黙って俺の後を3歩下がって静かについてくるような女だった。悪くない。そのブヨブヨとした体でさえなければ子種をくれてやるものを。
この女には、アポリーヌと私の子供の義母になることを許してやろう。そして、私とアポリーヌの子が第一王子になる。ソワヨはきっと泣いて喜ぶだろう。悪くない。ソワヨもあの胸と、女にしては高い身長さえなければ抱いてやったものを。
……いや、最近はあの大きな胸も見慣れてきた。ま…まあ…その、胸があったとしても。アポリーヌが身重の時くらいは情けをやってもいい。あの豊穣を象徴するような麦穂色の髪と青空色の瞳は悪くない。派手でなく整っている顔も煩くなくていい。そうだ。女とはこうあるべきだ。この女がもう少し身長が低くて、胸も尻も華奢であれば。惜しくらむはソワヨが少女の時に出会えなかったことだ。さぞや美しい、空の妖精のような子供だっただろう。
…………そうか。ソワヨが子を孕めば、妖精のような子供が生まれるに違いない。
それはもう、宝箱に閉じ込めておきたいような美しい妖精が。
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