【7人の魔王1】転生したら悪役令嬢の父だったらしい

【エイリヒサ王太子視点】こんなはずじゃなかった

エネシアへの侵攻が始まった。

宣戦布告もなく、兵や軍人だけでなく、村も町も領民も……草木一本残さない侵略だった。親友だったユスティア様を失った父王の怒りは凄まじく、王族も、貴族も、平民も。あの国のものは一滴の血も残すなと仰った。

お陰で私が求婚しているイレーヌの立場は危ういものとなっている。

父上が憎む、ユスティア様を殺したエネシア王国の、姫。だがイレーヌは髪の色も瞳の色も。顔立ちすらユスティア様に良く似て生まれている。貴族たちは息を潜めて、父上がイレーヌをどう扱うのかを伺っている。父上のあまりの剣幕に、『王族貴族の首を教会に並べてイレーヌと結婚式を挙げよう』などと言う私の甘い考えは霞んでいる。



ユスティア様は私の初恋だ。

ユスティア様でないと交渉などしないという父上の我儘で、ユスティア様は度々我がエイリヒサを訪れていた。美しい隣国の王弟殿下。父上の隣で淡く微笑む美貌の公爵。

引き合わされた私は血迷って求婚した。当時7歳だ。周囲は絶句し、父上は笑い転げ、ユスティア様は困ったように笑っていた。


申し訳ない。私は男で、もう妻も子も居るのだ。


私の初恋は一瞬で終わった。

その後は散々だ。

婚約者候補としてどの令嬢と引き合わされても、どんなに可憐な令嬢であってもユスティア様と比べてしまう。ユスティア様はもっと美しかった。ユスティア様はもっと色々なことを知っていた。ユスティア様の瞳は、髪は、仕草は、声は、笑顔は………

ユスティア様に一目会いたくて。

エネシアの第一王子と友人になり、度々誕生パーティーなどに行ったり。

その時に、第二王子の婚約者であるイレーヌを知った。

人形のように可憐なイレーヌ。ユスティア様に良く似て生まれた娘。賢く、出しゃばらず、けれど自分の意思をしっかり持った少女。

第二王子のニコラスが彼女を疎んじていると知った時。


ああ、ならば私が頂いても良いだろう…と。


イレーヌは美しく、賢く、そして何よりユスティア様と彼女を比べてしまうことはない。第二王子は ーーー 王太子は知らないだろう。イレーヌは好きなものの話題になると目を輝かせ声のトーンが上がり、途端に饒舌になる。あのわざとらしく媚びを売る男爵令嬢などより余程愛らしい女性だ。暴漢を蹴り上げた時のあの脚線美。公爵令嬢らしからぬ、少々お転婆なところも可愛い。

そうだ、彼女が私の妻になれば、ユスティア様を我が国に招くことだって容易だ。エイリヒサはエネシアより立場は格段に上なのだから。

ユスティア様が私の義父になるかもしれない。

ユスティア様が大好きな父上もこれならば反対はしないだろう。いいや、それどころかこの計画に手を貸してくださるだろう。


私は計画する。


あの国の『呪い』を利用した、イレーヌとユスティア様を手に入れる計画を。


『悪役令嬢のと婚約破棄』の『呪い』。


あの男爵令嬢が垂れ流す魅了スキルを増幅させるネックレスを贈ったり。ユスティア・ヴァル・エネシア・ヴェルミア公爵が悪事を働いているという偽の証拠書類を作成したり。ユスティア様の幽閉先をエイリヒサとの国境近くにするよう誘導したり。





それなのに… ーーー ！！









何を血迷ったか、エネシア国王は実の弟を、ユスティア様を……魔王の生贄として『世界の裂け目クレバス』に突き落とした。



もう……ユスティア様は………………











ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。