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黒咲柊
しおりを挟む凛の張った結界を解除した瞬間。膨大で濃密な、1000年分の魔力が外へと流れ出した。三重の壁の一番内側にあった濃すぎる魔力は瞬く間に地を這い風に乗り、全てのものを急激に活性化させる。地表からは見たこともない太古の植物が大地を覆い、因子を持った動物たちは進化して魔獣になった。ニンゲンも例外じゃない。因子を持たないものは魔力に器が耐え切れずに破裂して、因子を持つものだって自我を失った。
正直『やっちまった』感が強い。
一重、二重の壁の中に入ることを許可していたのは転生者や因子持ちだ。それなのにこの結果。いかにアレクやエルンストたちが規格外だったか思い出す。辛うじて自我を失わずに進化した者たちは異形へと変化した。
「……ははっ…こりゃあ『魔王』って言われるの当たり前だな」
「すごいねえ。ね、椿。僕はヴァルハラのほう見てくるね?ベルゼアンをどうするか決めなくちゃ」
「ああ、わかった」
すうっと空気に溶け込むように凛が消える。今や『聖地』とも呼ばれるベルゼアン皇国。まさかあそこまでは魔力が流れていってないだろうけど、どうするのか最終確認だろう。人口2万人にも満たない小国。国教は『星辰教』。つまり俺たち魔王を讃える宗教。『コミックマーケット』とかいう自費出版即売会を開催する唯一の国。自費出版の本は他国に出すと異端審問官に火炙りにされるような内容が多いらしい。うん、色々間違ってると思うぞ。その自費出版、爺さんが面白がって保護してるから凛が心配することはないんだけど。
「さ、俺はこっちを掃除しておこうか」
第何次かは知らんが、魔王討伐軍の勇者サマたちが近くまで来てるらしい。魔物と交戦中らしいが、お前らそれ、元ニンゲンたちだからな?教えてやれよ、神サマ。
見るに堪えない惨状に、つい終わらせてやったら一人だけ踏ん張った奴がいた。鑑定するとそれは黒咲椿の伯父の黒咲柊の転生した姿だった。
………見なかったことにしたかったなあ…。
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