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【柊視点】

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腹の底から揺さぶられるような音が響いた。ああ、地震か。それとも魔獣の襲撃だろうか。

ここ半月ほど、ずっとこんな感じだ。俺は魔王討伐のために雇われた冒険者だが、魔王倒す前に国が…いや、世界が終わるだろ、これ。


「何をボーッとしてるイーレクス!結界を張れ!!」

「へいへい…っと…」


なけなしの魔力で広域結界を展開。詰んだわー。終わったわー。もう俺の魔力すっからかんだわー。もう逃げようかな?でもどこに?逃げ場なんかねえだろコンチクショウ。こちとらただの補助魔法士バッファーだぞ?俺だってドッカンドッカン魔法とか撃ちたかったさ!勇者おまえみてえに大剣振り回したかったさ!クッソ、銃が欲しい。欲を言えば手榴弾とか地雷とか。そうしたら戦場を引っ掻き回すくらい訳なかったのになあ。

俺の嫌な予感ってのは当たる。よく当たる。そりゃもう、嫌ってくらいに。


視線を感じた。


遥か上空に、胡麻粒くらいの黒い点から。


アレが ーーー 魔王か!?マジか!大将自ら前線に出てくるのかよ!?


黒い点から魔力が膨れ上がり


「冗談、だろ……!!??」


光の矢が降り注ぐ。もういい。前金分はとうに働いた。展開した結界を縮小させ、強固なものにする。勇者が何かを叫んだが知ったことか!

耳をつん裂くような轟音と閃光。それでも耐えた俺を誰か褒めてくれ。ほめ……ああ、もう誰もいないのか。いるのは魔王、ただ一人。

ああ、気分が悪い。魔力枯渇どころか、今ので生命力も削った。誰だ、魔力の代わりに生命力を使う魔法考えたの。……俺だよコンチクショウ。

気力で踏ん張るけれど、それももう無理っぽい。目の前が赤いフィルターをかけられたみたいだ。いつの間に降りてきたのか、黒い服が目の前にあった。


「………は?柊?あんた、柊か?」

「……………………は???」


目を細めて『魔王』を見る。ああ、見えねえな……けど、なんだ?なんでこいつ……







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