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変化
しおりを挟む転移25日目。
相変わらず飯の時間に陽咲が辛そうだ。味がしない、というのは想像以上に辛いことだろう。最初は平気そうに食べていたのに、今はめっきり食が細くなった。無理してたんだろうな…。
暁も小さくなってしまった体に苦戦している。歩幅も目線も何もかも違うし、子供の体は頭が重たいらしい。よくコケている。
紫苑は人の顔の部分が黒いクレヨンで塗り潰されたように見えるらしく、ヴァルハラで働く眷属たちを時折眉を顰めて見ている。そういえば初日に「気持ち悪い」とか言ってたな…。
碧海は時折咳をして辛そうだ。あいつは歌が好きだった。俺たちみんな、碧海の歌が好きだった。思わず鼻歌でも歌おうとしたんだろうか。歌おうとすると喉の奥が張り付くみたいになるらしい。クソ…なんの呪いだよ?!
『シロ』の目は相変わらず見えないらしい。「真っ暗な新月の夜みたい」。そう言う。仕方ないから俺が手を引いて歩く。何故か少し嬉しそうに、でもとても辛そうにする。
俺は相変わらず、『シロ』のことが思い出せない。思い出せないなりに、ここに来てからの短い間だけど『友達』くらいにはなれたんじゃないだろうか。『シロ』の本名は『白藤凛』と言うらしい。俺はなんとなく他の幼馴染みたちのように『シロ』と呼べず、『白藤』って呼ぶようになった。白藤も俺のことを『黒咲くん』って呼ぶ。……正直、違和感が拭えない。胸焼けするような、胃から迫り上がってくる焦燥感。でも仕方がないんだと思う。きっと白藤の言う『クロ』は今の俺じゃない。幼馴染みたちが話す『シロにべったりなクロ』はどこに行ってしまったんだろう…。
そして千早が。
『これから俺 これで話す』
空中に文字を書き始めた。……なんだこれ。なんでこんな…。
『俺の声 おかしいだろ 聞こえねえから 自分でも 何言ってるか わかんねえ』
ああ……
気付いてた。千早の言葉が、段々とおかしくなっていってるのが。声が大きくなって、抑揚がおかしくなった。発音もあやしくなって……でも、そんなのみんな気にしてないのに…!
どうしよう。どうしたらいい?だって俺、千早になんて言っていいかわからない。みんなが苦しんでる。それなのに、どうしていいかわかんねえ。なんで。どうして。涙が溢れる。
みっともなくしゃくりあげる俺を千早が抱きしめる。
「ダいじょうぶ、キニすんナよ。なきテェのはオれなのニさあ……ナんっでお前ガ泣いてンだ、ばーか」
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