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30 お慕いして、おります
しおりを挟むがらんとした玉座の間にフィリップは居た。
青くなって逃げようとしたが、愛人 ーーー 《逸霊》に手を振り払われ、ただただ呆然とする。
さすが《逸霊》。変わってねえ。不完全だが美味そうだ。でも食べちゃダメ。我慢我慢。
断腸の思いで《逸霊》を見逃し、フィリップに笑いかける。
「よう、フィリップ殿下。久しぶり」
「レ…スト……」
ああ、そうそう。レスト。レストの件で来たんだ。忘れるとこだった。
「誰も居ねえの?目に痛い蛍光ペンみたいな頭の奴らとかさあ、ピンクとか」
「さ…先に、避難させた。お前の狙いは私だろう…」
「避難ねえ…?」
案外根性のない奴らだったのか。『レスト』なら何がなんでもこの場に残っただろうに。ま、そのレストに国落としされてんだけどな?
「狙いっていうか……んー、まあ、そうなんだけど。『レスト』がさあ、泣くんだ」
「………?」
「お前の名前が出る度に、ふとした拍子に思い出す度に。泣くんだ。俺の中で。まあ俺としては良いんだけど、流石にさあ、《久遠》に心配かけられないよな?」
殺してこい。
《久遠》はそう言った。
食ってこい、でも、壊してこい、でもなく。『殺してこい』と。
それは、俺の中の『レスト』を完全に『消せ』ってことだ。
まあな、良い気分じゃないよな?自分の恋人が、他の雄のこと考えてるんだもん。俺なら泣いて犯して暴れるね。
こうなることを予測していただろうか。一番最初にゲームを始めたオリジンは。
砕いて混ぜたかけらは、《ちいさきもの》の心までも吸い上げた。俺の中では今、《久遠》だけを愛している《桜座》と、涼音を好きな刹那、そしてフィリップを愛していたレストが犇めいている。
「………フィリップ殿下…」
俺は一時的に体を『レスト』に返す。
落とし前は、レストが付けなきゃいけない。こいつらの問題は、こいつらが解決しなくちゃいけない。
「お慕いしておりました、殿下。貴方様の御心が、たとえ私に無くとも。お慕いしておりました。貴方様だけを。お慕いして………」
「レ……レスト…?レスト、なのか?本当に?本当に、お前なのか?レスト?」
「お慕いして、おります、殿下」
「レ………」
フィリップの顔に剣が突き刺さった。きっと奴は自分が死んだことも知らない。倒れ込むフィリップに、レストは馬乗りになった。
レストがフィリップに剣を突き立てる。何度も。何度も。
笑っているのがわかる。無表情と言われたレストが。笑ってる。
「ああ、殿下……」
「これでもう、私だけのものだ、 ーーー フィリップ……」
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